- ARTICLES
- Licaxxxに聞くアートと日常の接続点。空間に向き合い、衣食住から取り入れる / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」vol.2
SERIES
2022.05.13
Licaxxxに聞くアートと日常の接続点。空間に向き合い、衣食住から取り入れる / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」vol.2
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Wataru Suzuki
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品を当時のエピソードとともにご紹介いただきます。
今回お話を伺うのは、東京を拠点にDJやビートメイカー、ラジオパーソナリティなど多岐にわたる活動で才能を発揮するLicaxxxさん。大学で建築を学び、その後メディアアートなどを通して空間と時間、そして人にまつわるアートに興味を持つようになったという彼女は、日常的にどんなアート作品と触れ合っているのでしょうか。
音と人と空間を考えることは、インスタレーションでもある
──Licaxxxさんは、どんなきっかけでアートに興味を持つようになったのですか?
ちょっと遅くて高校生のとき、建築科へ進学しようと思ったタイミングだと思います。私は理系だったのですが、建築について美術の文脈でも勉強する必要があるなと。そこから絵画や映像作品など、作家の名前と何を作っているのかをちゃんと体系づけて調べるようになりました。
建築の構造的なところというよりは、どちらかというと「公共の場で建築作品がどう機能するのか?」みたいなところに興味があったんです。例えば彫刻やアートが美術館に置かれるのと、公共の場所に置かれるのとでは意味が変わってくるとか、そういうことを考えるのも好きなんですよね。
──大学ではそうした公共のアートも学ばれたんでしょうか?
大学の前半は建築を学び、後半はプログラミングの授業を受けていました。そこからメディアアートを作る研究科に入るなど、次第に建物自体を作ることよりも、公共のプロジェクトやインスタレーションにもハマっていった感じです。
──それってDJ的な発想にも通じるものがありそうですね。
「空間を考える」という意味では一貫しているかもしれないですね。音楽にしても建築にしても、空間と時間の関係性みたいなものをずっと考えている気がします。先ほど「公共の場で機能する建築作品」という話をしましたが、DJも「人が集まる場所」で流れる音楽をセレクトするわけですから、音楽と建築、まったく違う場所でやっていたつもりがいつの間にかつながった感じはあります。
──普段から美術館やギャラリーにも足を運んでいらっしゃいますか?
ちょっとした隙間時間があると、映画館や美術館へ行くことは多いですね。もちろん好きな作家の大きな展覧会があるときは、スケジュールをちゃんと立てて行くようにしています。でも初めて訪れる美術館だとまず建物に目がいっちゃいますね(笑)。ル・コルビュジエがデザインした西洋美術館のように、建物そのものが作品の場合はもちろんですが、作品の外側から鑑賞する癖があります。
──特に印象に残っている展覧会はありますか?
数年前に、タイの映像作家アピチャッポン・ウィーラセタクンが東京芸術劇場で試みた『フィーバー・ルーム』(2019年)は印象に残っています。スモークとレーザーを使ったインスタレーションは、まるで臨死体験のようでした。あと、横浜で3年おきに開催されている『横浜トリエンナーレ』と、冬にやっているパフォーマンスアートはなんとなくチェックしていますね。海外に行ったときは、有名な作品があるところは一度は見ておかなきゃなという気持ちになるし、マーク・ロスコとヨーゼフ・ボイスの作品がある美術館やギャラリーにはなるべく行くようにしています。
──マーク・ロスコといえば、DIC川村記念美術館にある「ロスコ・ルーム」も素晴らしいですよね。ロスコ・ルームにしてもアピチャッポンの『フィーバー・ルーム』にしても、やはり空間を感じさせる体感型のアートです。そういうものに惹かれる傾向にあるのでしょうか。
自分のやっていることにも近いというか。音と空間と人を意識すると、必然的にインスタレーションになっていくし、そういうものを作っているからこそ気になるのだと思います。「こんな作品もあるんだ、面白いな」と思うことが創作のモチベーションになっていますし。あとは単純に、職業柄アートに携わっていたり、写真を撮ったりしている友人が多いんですよ。そうすると、必然的にアートに触れる機会も多くなる。
──最近、気になった作家さんはいますか?
『WHYNOT. TOKYO』という、中目黒にあるコミュニティーアートギャラリーを経営している作家の高屋永遠さんが大学の同級生なんですよ。ロンドンと東京を行き来しながら制作をしていた方で、先日改めて作品を見に行ったのですが、それがすごくて。油絵の奥行きを体験させてもらいました。絵画も飾りたいと思うのですが、そのためにはもう少し大きな家に住まなければ……という気持ちもあるんです。やっぱり大きな壁に飾ったほうがいいなと思いますし。
「衣食住」に結びつくアートは、生活に取り入れやすい
──ご自身でアート作品を購入されることはありますか?
画集を集めたり、建築に関する書籍を買ったりすることは昔からありましたが、友人のアート作品などを実際に購入するようになったのは25歳を超えてからですかね。経済的に少しずつ余裕が出てくるようになって、個人的にハマったのは「お皿」です。日常でも使えるけど、作家さんが作った「作品」でもあるところがとっつきやすいというか。そういう意味では服や家具などを購入する感覚に近いかもしれない。
「作品」として意識して購入したのは、二階堂明弘さんのお皿が最初です。それも飲食店で拝見して、「素敵なお皿だな」と思ったのがきっかけでした。料理の見え方も全然違うし、これが家にあったらどうなるんだろう? と。もともと料理が好きで、つくっているうちにいいお皿が欲しいなという気持ちにもなっていましたし。それで徐々に沼にはまっていく感じでした(笑)。
Licaxxxさんが購入した器
──価格も手頃なところがいいですよね。
そうなんですよ。大きなお皿だと数万円するものもありますが、それでも絵画などを購入するよりはハードルも高くない。ちょっとしたお皿なら1万円しなくてもいいものがたくさんありますからね。その代わり、すぐに売り切れてしまうんです。お気に入りの作家さんが新作を出す情報などは、公式サイトなどでこまめにチェックするようにしています。
──お皿のどんなところに魅力を感じるのでしょうか。
自分がつくった大したことのない料理でも、本当に美味しそうに見えるんですよ(笑)。それはすごく大きいですね。コロナ禍で家にいる時間も長くなりましたが、いわゆるQOLが上がる感覚もあるし。ちゃんとした食器棚もそのために購入したのですが、そこにお気に入りのお皿が並んでいて、それがインテリアとしても機能しているところも個人的にはテンションが上がります。お皿にハマったのがコロナ禍になってからだったので、もう少し落ち着いたらいろんな作家さんのお皿めぐりをしたいです。
──額装されたアート作品を壁にかけて眺めるというよりは、服や家具と同じように使い込んでいくところがお皿の魅力なのかもしれないですね。
そう思います。きっと馴染みも深いのでしょうね。もちろん、壁にかかった絵がこちらを見ているような感覚も楽しいんですけど、それは家じゃなくて美術館で味わいたいです。家に絵画を飾ると、印象が強すぎる場合が多くて。どうやって生活の中にアートを馴染ませていけるか? を考えると、やっぱりお皿や洋服、家具などになっていくんです。
──これからアート作品を購入してみたいと思っている人にも、お皿はおすすめかもしれません。
そう思います。やっぱり「衣食住」に関連しているものは手に取りやすいんじゃないでしょうか。洋服のためのアートピースでもいいし、家具でもいいと思う。家具ってつい必要に駆られて購入してしまいがちですが、例えば有名な作家の椅子にするとか。陶器や花瓶なども、部屋に飾ればインテリアとしても機能する。壁に穴を開けて飾らなくてもいいわけですし。
違和感から「きっかけ」を生み出していきたい
──そうした作品と触れる中で、Licaxxxさんご自身はどんな作品を作っていきたいと考えるようになりましたか?
何か「きっかけ」になるような作品が作れたらいいなとはいつも考えています。例えばインスタレーションで「音」をメインに聴かせたいと思ったとき、それがとっつきにくいものである場合にはビジュアル面でキャッチーな要素を持ってくるとか。そのほうがSNSでも拡散しやすいですよね。
前に別のインタビューでもお話したのですが、私は「音楽の聴き方をナビゲートしたい」と思っているんです。一番伝えたいことを伝えるために、どういう枠組みにしたらいいのかということは常に考えています。そのために、まったく関係ないモチーフをあえて置いて「え?」と思わせることもありますし。そういう違和感みたいなものが人の印象に残ることってあるじゃないですか。それもある意味では鑑賞者とのコミュニケーションだと思うんですよ。
私も最初はノイズミュージックとか聴いても訳わからなかったけど、それが「音楽」として聞こえるようになるには、いろんな「きっかけ」があったわけです。そういう「きっかけ」が積み重なって今はさまざまなジャンルの音楽を好きになったり、そのことについて話したりしているので、自分もそういう「きっかけ」のひとつになりたいという気持ちはずっとありますね。
──最後に、今後の予定など教えてください。
ちょうど今、インスタレーションの制作に取り組んでいて、それがYCAM(山口情報芸術センター)で展示される予定なのですが、それは前半にお話ししたようなことを意識しながらつくっています。
あとは、これからもいろいろなアート作品を観ていきたいですね。国内の展示だけでも、大小関わらず面白いものはたくさんあるし、散歩くらいの気持ちで行って、何かを得て帰ってくるみたいな、そのくらいのテンションが私は好きです。「なんか、よくわからなかったな」でも全然いいですしね。そうやってアートが日常にどんどん馴染んでいくといいなと思います。
DOORS
Licaxxx
DJ、ビートメイカー
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー。 2016年に出演したBOILER ROOM TOKYOのYoutube再生回数が約50万回再生を記録。 DJとして国内外のビッグフェスやクラブに出演する他、世界各国のラジオにDJMIXを提供しメゾンブランドのコレクションやCM等、幅広い分野への楽曲提供を行う。 世界中のDJとの交流の場を目指しているビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。
新着記事 New articles
-
INTERVIEW
2023.07.21
渋谷SAUNASは美術館!? サウナもアートも、脳疲労を和らげ、五感を満たしてくれる
-
ESSAY
2023.07.21
デザイナー・阿部航太が“高知”に移住して出会ったアーティストたち / 連載「あの街のアートとカ…
-
NEWS
2023.07.19
大丸梅田店 ART GALLERY UMEDA にて大阪・泉佐野のアトリエ「YELLOW」のグループ…
-
SERIES
2023.07.14
「現代アートきほんのき」Vol.3 / ゲルハルト・リヒター
-
INTERVIEW
2023.07.14
関西アートシーンを盛り上げる、次世代のディレクターたちの本音 / 岡田慎平✕菰田寿允✕平丸…
-
SERIES
2023.07.14
山口晃が描く名所絵の現在を見に日本橋駅へ / 連載「街中アート探訪記」Vol.20