生成AIが破壊するゲーム制作の常識、開発人員や期間は半分に短縮も
望月崇、Jane Zhang-
イラストや音楽など作成、最初から最後までAIで作るゲームも登場
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小規模開発会社にチャンスとの指摘の一方、失職リスクを恐れる声も
生成人工知能(AI)の登場で、あらゆる産業の秩序が破壊されるのではないかと企業経営者や政治家が懸念を深めているが、市場規模2000億ドル(約28兆円)のゲーム業界では既に変革が始まりつつある。
変革の担い手の一人が大ヒットしたソニーのスマートフォンゲーム「Fate/Grand Order」でプロデューサーを務めた塩川洋介氏だ。塩川氏が2年前に設立した「ファーレンハイト213」では既に生成AIをゲーム制作の一部に活用し始めている。
ゲームソフトの開発費用は膨張の一途をたどってきた。たとえばソニーグループによる「ラストオブアス2」や「ホライゾン フォビドゥン ウェスト」など大作ゲームは制作に2億ドル(約280億円)を要し、数百人からなる開発部隊が何年もかけて完成させている。
AIはこれらを半分にし、巨大な予算を持つゲームが商業的に成功しやすいといった現在の業界構造を変えることが期待されている。これにより小規模ソフトウエア開発会社が大規模の競合相手に勝負を挑めるようになるかもしれない。
塩川氏によると、ゲームの宣伝用動画において以前では人数不足で諦めなければいけなかったような演出も入れることができるようになったという。
シナリオやキャラクターデザインからセリフ、音楽に至るまで生成AIは既にゲーム制作のあらゆる場面で使われ始めている。多少現実離れしたものが出力されたとしても、ゲームで遊ぶ分には問題が無いことが多いためだ。長い時間と多くの人数を要したプログラミングや不具合のチェックなどの工程も現在ではコンピューターでできるようになってきた。
わずか3カ月で完成
ゲームAI開発会社モリカトロン(東京都新宿区)は今月京都で行われたゲームの見本市で、最初から最後まで完全にAIで作られたゲーム「Red Ram」を発表した。プレイヤーは登場するキャラクターやアイテムなどの設定を自由に入力。それに基づき生成AIがゲームを生成する。このゲームをモリカトロンは4人の制作陣でわずか3カ月で完成させた。
香港に上場しているガラ・テクノロジー・ホールディングでは、画像生成AIを使って有名なサッカー選手のキャラクターモデルを作り始めた。それまでは20万元(約390万円)をかけて外部業者に頼っていた仕事だ。
「刀剣乱舞」元プロデューサーの花澤雄太氏が6月に設立したAIワークスは、AIによって描かれたキャラクターCGなどを販売している。既に開発中の数本のゲームタイトルに画像を提供したという。AIが出力した画像を人間のイラストレーターが手直しして納品するビジネスモデルだが、価格は業界水準の約半分だ。
ゲームソフト開発費は、ここ数十年増加の一途を辿ってきた。15年前には4000万円程度だったスマートフォンゲーム制作費は現在では最低でも5億円かかるようになり、その大きな要因の一つがイラストの外注費用の上昇だと花澤氏は指摘する。AIは人間より安価に、そして早く作品を作成することができ、それによりコストが下がり結果としてクリエイターの独創的な企画も世の中に出やすくなるはずだという。
だがそれは同時に、仕事が失われるということでもある。「AIは、人間であれば制作に数週間必要とする数のキャラクターを一瞬で描き出せる。物量をひたすらこなすだけの仕事は全てなくなるかもしれない」とゲームアナリストのセルカン・トト氏は分析する。
「驚異でしかない」
フランスのユービーアイソフト・エンターテインメントはキャラクターのセリフ生成ソフトを制作。ゲーム制作エンジンで有名なユニティ・ソフトウェアや、エピック・ゲームズといった大手でも生成AIツールへの対応が進んでいる。
声優の姫野つばさ氏は、若手が最初に担当する短いセリフの仕事がAIに置き換わることによって、キャリアが今後ますます築きにくくなるかもしれないと危惧する。既にAIは人間と比べ、噛まない、疲れない、喉がかれないなど、勝っている点が多くあり、「脅威でしかない」と話す。
慶應義塾大学の大澤博隆准教授はAIによって職業は失われるのではなく、新しいものに置き換えられるとみている。ゲーム業界は以前から最新技術などが実験的に使われてきた業界で、ゲーム制作者たちがAIとどう共存を図っていくかは先行事例として他の業界にも参考になるはずだとした。
一方、究極的には職業としてのゲーム制作者はいなくなるかもしれない、と話すのはサウンドノベル「428 ~封鎖された渋谷で~」の制作などで知られるイシイジロウ氏だ。音楽などでは既に消費者が自分好みのものをAIに作らせて消費することを楽しんでおり、同じことが何十年後にゲームで起きない可能性はないと話す。