アメリカの上空に2023年2月、中国の偵察気球が飛来したことは全米に衝撃を走らせるとともに、SNS上では気球を目撃した投稿も相次ぎ、関連して「#UFO」も急上昇ワードにもなるなど大きな話題となった。

米軍が上空から撮影した”偵察気球”の画像を公開(提供:米・国防総省)
米軍が上空から撮影した”偵察気球”の画像を公開(提供:米・国防総省)
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こうした中で注目を集めているのが、国防総省の「全領域異常解決局」の動向だ。

アメリカではUFO(未確認飛行物体)は、UAP(未確認航空現象)との名称に包括され、異常な飛行などを行う全ての航空現象について、国が科学的な分析を行っている。これまでに「UFO」とされた現象が、実際には他国のスパイ活動だった点も判明している。

米軍は中国の偵察気球を撃墜し残骸を回収した
米軍は中国の偵察気球を撃墜し残骸を回収した

さらにアメリカメディアでは、今回の中国の偵察気球を判別するために、この「全領域異常解決局」の働きがあった点も報道されている。

公聴会には一般の人の姿も見られた。「UFOを研究している」と話しかけて来る人もいた
公聴会には一般の人の姿も見られた。「UFOを研究している」と話しかけて来る人もいた

そんな中、4月19日には2度目となる公聴会が連邦議会上院で開催された。新たな映像も公開され、一般人も傍聴に訪れるなど注目を集めた。

「UFO報告は650件以上」

アメリカ議会上院は4月19日、UFOの調査を専門に行う国防総省の担当者を呼び、公聴会を開催した。UFOの公聴会は2022年に約50年ぶりに開かれて注目集めたが、今回はその2回目の会合となるものだ。

米議会乗員軍事小委員会で開催された公聴会の様子
米議会乗員軍事小委員会で開催された公聴会の様子

「今週の時点で650件以上の飛行物体を追跡している」

出席した議員から最新のUFO関連の報告を求められた、国防総省の全領域異常解決局の責任者であるカークパトリック氏はこのように述べた上で、「異常で興味深い価値があると判断した」とし、優先度を上げて分析を行っていると明らかにした。

全領域異常解決局の責任者 カークパトリック氏
全領域異常解決局の責任者 カークパトリック氏

一方でカークパトリック氏は「報告された未確認物体の大半は、気球やドローン、自然現象やその他の容易に説明できる空間といったありふれた特徴を示している」とし、3件の映像なども公開されたが、過去にUFOの可能性が指摘された映像を画像などや科学的に分析した結果、航空機や影であったことが判明したことも強調した。

新たに公開された映像(提供:国防総省)
新たに公開された映像(提供:国防総省)

ただ、中東で撮影された物体については、ドローンで撮影された球体のような物体が上空を疾走する様子が映し出されているが、現時点でも分析は終了していないという。

中東で撮影されたドローン映像には高速で移動する物体が映っていた(提供:国防総省)
中東で撮影されたドローン映像には高速で移動する物体が映っていた(提供:国防総省)
報告された情報を分類したデータも公開された
報告された情報を分類したデータも公開された

偵察への懸念に「中国には新たな能力が存在」

カークパトリック氏はUFOと報告される事案を完全に解決するための重要な欠点として、データの不足も指摘していた。

「現在、地球外生命体による活動の信頼できる証拠を発見していない」

カークパトリック氏は、「宇宙人」についてこのように述べたが、地球外の技術は「現在の物理の法則を無視するもの」であり、十分な科学的データが得られない限りはその判別は難しい点も強調していた。さらに、アメリカ国民の注目も高い「他国からの偵察・監視」について議員から話を聞かれると、次のようにも指摘した。

「多くの場合、ロシアや中国、特に中国は、ある分野では私たちと同等か、あるいは先行しているような、新たな能力が存在しています」

アメリカ上空を飛行する中国の偵察気球
アメリカ上空を飛行する中国の偵察気球

カークパトリック氏は、高度な技術的特徴を示しているケースは「全体の数パーセントに過ぎない」と述べつつも、「あるものは外国の能力に関連している」と明らかにし、現在分析中のUFO報告の中には外国の関与によるものである可能性も示唆した。

出席議員からは中国の偵察気球の対応を巡り、バイデン政権に厳しい意見も出た
出席議員からは中国の偵察気球の対応を巡り、バイデン政権に厳しい意見も出た

出席した議員からは、中国の偵察気球をめぐる政府の対応への批判や、ミサイルの撃墜という判断とのそのコストが見合っていない点なども指摘された。カークパトリック氏はあくまでも全領域異常解決局は科学的にUFOのような現象を分析し、国家を守っていくことに繋げる点を強調していた。

専門家「宇宙人はいると信じている」

“宇宙人の乗り物”としてのイメージが強いUFOではあるが、アメリカでもその関心は非常に高く、日々UFO関連のニュースが出されている。

実際に地球外の生命体を発見するべく、約100人の科学者が集まって活動している「地球外知的生命体探査研究所(SETI)」のセス・ショスタック博士にUFOと宇宙人について話を聞いた。

「地球外知的生命体探査研究所(SETI)」のホームページ
「地球外知的生命体探査研究所(SETI)」のホームページ

――あなたたちの活動について教えてください。

セス・ショスタック博士:
主に宇宙生物学と呼ばれる研究をしています。例えば、火星に生命は存在したのか、まだ生命が存在するのだろうか。私たちは知的な宇宙人を探そうとしています。ニューメキシコ州にある27基のアンテナで信号を探しています。

インタビューに答えてくれたセス・ショスタック博士
インタビューに答えてくれたセス・ショスタック博士

――宇宙やUFOについて最新の情報はないか?

ショスタック博士:
それはかなり頻繁に質問されるが、SETI研究所はUFOの研究はしていません。正直なところ、UAPやUFOが実際に他の星系からの訪問者だと考えている科学者を私は知りません。アメリカ軍の映像に見られるような説明も含めて、今、見られるものには他にも沢山の説明があるからです。宇宙人である必要はありません。

博士はUFOの存在は否定し、以前に国防総省がUFOの可能性があるとして発表し、物議を醸した動画についても「個人的には、はっきりしておらず平凡なものに見えます。遠く離れた民間航空機に見えます」と一刀両断した。ただ、UFOとは別に宇宙人の存在について話が及ぶと、一転してその存在を明言した。

――アメリカでは宇宙人への関心が高まっていると思うか?

ショスタック博士:
調査によると、アメリカ人の3人に1人が、地球には宇宙人が訪れていて、彼らは空を飛び回り、郊外に住む人々を楽しませていると信じているのは事実ですからね。それはすごいことです。3人に1人ということは、1億人のアメリカ人が信じているということですから。

――宇宙人の存在をあなたは信じているか?

ショスタック博士:
私は宇宙人の存在を信じています。宇宙は広すぎて、他の思考を持った生物が存在しないわけがないんです。私たちの銀河系だけで、100万個の惑星があり、その上には何億もの他の銀河が見えます。地球が特別な存在でない限り、宇宙に可能性は非常に高いのです。つまり、500年前の江戸の時代とか、そういう時代に自問自答してみてもいいんじゃないでしょうかね。日本だけに社会があると思いますか?

博士は、UFOが宇宙人の乗り物であるとするならば、すでに地球上で発見されていないはずはないと強調しつつも、広大な宇宙空間には人間以外の生命体が必ず存在すると繰り返していた。

未だ解明がされていないUFO報告は今後どのような分析結果が出されていくのか。新たな映像の報告はあるのか。UFOは他国による偵察活動によるものなのか。はたまた、勘違いやフェイクニュースなのか。それとも本当に未知の文明を持った地球外の生命体による乗り物なのか――。
大きな期待とともに、アメリカ国民の多くが関心を持つというUFO関連の動きは引き続き注視していきたい。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

フジテレビ 報道局 政治部 与党担当キャップ・ニュース制作部を経て、現在FNNワシントン支局