第二百二十八話「裏切り者に逃げられて」
ギース・ヌーカディア。
ヌカ族という種族の最後の生き残り。
苦手な事は戦闘。
得意なことはそれ以外。
剣も魔術も使えないにも関わらず、ずっと冒険者を続けており、現在のランクはS級。
それが、オルステッドの知るギースという人物だった。
『……ギースはこれまで、俺がどんな行動をしても、動きを変えた事はなかった。ゆえに、使徒ではないと思っていた』
オルステッド。
彼は自分の行動で世の中や人がどう動くかを知り、
そこから使徒やら何やらを見つけてきた。
自分の介入する歴史、しない歴史。
全てを知っている彼が通ってきたどのループの中でも、ギースの行動は一貫していたという。
冒険者として生き、冒険者として死んだ。
周囲で何が起きようとも、おかしな動きは一切しなかった。
オルステッドは、隠れたヒトガミの使徒を探すのは得意だ。
ギースのように、高い戦闘力を持たず、ヒトガミから龍神と戦っていると聞いている者の中には、オルステッドを見て黙秘しようとする者もいる。
彼らは表立っては動かず、影のように動いて、要所要所で別の使徒の手助けをする。
そうした使徒を、オルステッドは全て、殺してきた。
彼にはループがあったから、見つけて殺すのは、容易だった。
だが、ギースだけは違ったという。
ギースだけは、別段怪しい所は無く、使徒だった事も一度もなかったという。
何をしても、奴はヒトガミの使徒らしい行動を取らなかった。
例え、殺される寸前であっても、だ。
『だが、奴は全てのパターンにおいて使徒であり、それを隠し通していたわけだ』
これまでのループにおいて、
ギースが使徒を
疑い、殺したこともあるという。
でも、死にかけても、殺されかけても、最後までギースは口を割らなかったという。
『そして俺は、それを、歴史通りだと錯覚していた……勝てないわけだ……』
文章だけでやりとりすると、オルステッドがしょんぼりしているのがわかる。
彼は今まで、ギースが使徒だった可能性に気づいていなかった。
ヒトガミからすれば、笑いが止まらなかっただろう。
あいつ、まだギースに気づいてないよ、って。
まあ、最初は重要なコマとは思っていなかったかもしれないが。
『しかし、よくやった』
だが、そうした使徒が何人もいるとは思えない。
なにせ、オルステッドはループしており、ヒトガミはループしていないのだ。
似たような使徒を作りたいと思っても、そううまくいくはずもない。
『奴はヒトガミの切り札だ。次は、無い』
ゆえに、ギースがヒトガミの切り札、最後の砦、である可能性は、十分にあると思う。
ヒトガミが隠していた最後の使徒。
それがギース……というと、あまりピンとは来ないがね。
オルステッドは、これで勝ったと思っている。
そうだろう。
彼にはループがあるのだ。
もし今回で負けたとしても、次はギースを殺せばいい。
そうすれば、また一歩、勝利に近づく。
だが、俺には恐怖がある。
ギースが何をしてくるかわからない。
何でもしそうな奴だからこその、恐怖だ。
「俺はこのループで勝ちたい」
不安を胸に、そうは書いて送ると『奴に次の手は無い、という意味だ』という文面が返ってきた。
言い訳臭くて、ちょっと笑った。
---
ギースの使徒発覚から一ヶ月が経過した。
俺はあの後、ギースを探した。
騎士団を手配し、ミリス大陸中を探した。
ミリス教団も、ラトレイア家も、積極的に協力してくれており、
まだ捜索の手は伸ばしているが、恐らく、逃げ切られただろう。
無論、ミリスだけではない。
すぐにドルディア族へと連絡を取り、大森林でも指名手配してもらった。
アリエルにも通告し、アスラ王国でも指名手配をしてもらった。
ロキシーに頼み、ラノア王国への要請も回してもらった。
もっとも、それだけやっても捕まえられる気はしない。
中央大陸南部に、中央大陸北部の東方。
ベガリット大陸、魔大陸、天大陸。
俺の手の及ばない所は多く、世界は広い。
どっちに逃げたのかもわからない。
北か、西か。
せめて王竜王国にツテがあれば、魔大陸方面に逃げたと断定できたのだが……。
国王が死んで色々とゴタゴタしている王竜王国。
広く、魔族の目立たない魔大陸。
もし、ギースが俺の知らない転移魔法陣を使って移動したのなら、そのどちらでもない可能性もある。
ギースが野放し。
嫌な予感しかしない。
正直、このタイミングで捕まえておきたかった。
捕まえられない、と悟った時点で、俺は自衛を考えた。
ギースは手紙で、今度は正々堂々と言っていた。
俺に勝てる戦力をと。
信じられない話だ。
嘘とごまかしばかりのギースの言葉。どうして信じられる。
と、普段なら思う所だが……。
考えてみれば、ギースは今回、俺をあっさりと殺す事はできたはずだ。
俺はあいつを信用してたし、無防備に背中を見せた事もある。
でも、奴は手出ししなかった。
あくまで知略で俺を罠にハメようとした。
その罠が破られた後もそうだ。
ギースはアイシャを誘拐することだって出来たはずだ。
アイシャも剣術なり魔術なり人並みに出来るから、ムリだと判断したのかもしれないが。
それでも、チャンスはあったはずなのに、しなかった。
なら、あの手紙の内容を信じていいのではないか。
ヒトガミの指示とはいえ、あくまで堂々と、というのがギースのやり方なのかもしれない。
誰かを殺す時は、ちゃんと手段を選ばないと失敗する。
ジンクスだ。
もっとも、そう思わせておいて実際は逆。
ギースはクリフ邸の戸棚にでも隠れていて、俺が寝た後に毒ナイフでブスリ、なんて可能性もある。
こういう思考の迷路に陥らせ、何かに気づかせない事が目的なのかもしれない。
考えても仕方がない。
ひとまず、襲撃は無かった。
ギースが予め戦力を集めておいた、という事は無い。
今頃は、どこかで俺に勝てる戦力を集めているのだろう。
そう考えたいが、いつ襲われるか分からない、という気持ちが消えない。
怖い。
---
さて、俺がギースを探している間に、アイシャは順調に傭兵団支部を作りあげていた。
支部長の選定に、団員の募集、仕事の方向性の設定。
本来なら俺と相談しつつやらなければならない所だが、全てアイシャがやってくれた。
ラトレイア家がゼニスの面倒を見てくれていた、というのもあるだろうが、圧倒的な効率だ。
そんなアイシャが、気を利かせたのだろう。
ギース失踪から一ヶ月が経過した頃。
エリスがミリス神聖国へと派遣されてきたのだ。
転移魔法陣を通って、俺を守りに来てくれたのだ。
彼女は完全武装だった。
普段着ではなく、剣王が身に付けるコートに、剣を二本。
誰が見ても名うての剣士とわかる格好で、堂々とやってきた。
「私がきたからには、もう大丈夫よ! みんな真っ二つにしてやるわ!」
エリスは俺を元気づけるようにそう言った。
「ギースも馬鹿ね! ルーデウスに逆らうなんて! センパイにゃあ敵わねぇ、敵わねぇってあんなに言ってたのに!」
元気にそう言い放つエリスを見ていると、俺の恐怖も薄れた。
少なくとも、数日中に戦闘が起こり、殺される事はないだろう。
そう思えた。
「エリス……」
安心した俺は、エリスを抱きしめた。
そのまま胸を揉みしだき、殴り殺された。
薄れゆく意識の中、俺は、悟った。
これがギースの策略だったのだ、と。
- FIN -
冗談はさておき。
落ち着いた所で、整理してみる。
ひとまず、状況から『ギースが戦力を集めて、真正面から来る』というのを信じた場合、これからの俺の行動は三つだ。
1、ギースの捜索
2、魔導鎧(俺自身)の強化
3、対抗戦力のスカウト
並べてみると、今までとそうやることは変わりない。
80年後を見据えた戦力が、数年後ぐらいを見据えたものに変わるってだけだ。
ただ、ギースも普通の奴ではない。
正々堂々真正面からといっても、どういう形で来るかわからない。
数を集めてくるのか、質でくるのか。
オルステッド曰く、一式に搭乗した俺に勝てる者は少ないという。
だが、数の暴力ってのは、つい先日体験したばかりだ。
神殿騎士団のような戦い方が出来る、列強クラスの人材が数人。
そんなのが用意出来れば、俺に勝つぐらいは、容易だろう。
なんちゃって。
でも、そんな人材を集めるには、時間が掛かるはずだ。
そして、数もそう多くは無い。
一年か、二年。
最低でもそれぐらいの期間は掛かると見ていいだろう。
だが、集まってしまえば、負けると思う。
そんな数年も掛けて周到に用意された罠に捕まって、俺が負けないはずがない。
神殿騎士団だってあれだけやったのだ。
ヒトガミの使徒が、それ以上のことをできないとは思えない。
だから、事前に阻止しようと思う。
世界各国をめぐり、先んじて仲間に加えていくのだ。
すでに敵に回っているというのなら、各個撃破してもいい。
つまり、これからの仕事では、全て敵がいると想定して動く事になる。
少なくとも、ギースがいる可能性が高いのは、王竜王国と、魔大陸だ。
特に、魔大陸の確率が高そうだな。
アトーフェとか、俺を倒すと聞けば、喜んで力を貸しそうだしな。
魔大陸は最後にする予定だったが、早めに行かねばなるまい。
でも、優先順位としては、王竜王国が先でいいだろう。
あそこにいる死神ランドルフは、『二式改』に身を包んだ俺に勝利している。
確実な駒だ。
先んじて、抑えておきたい。
方向性は決まった。
傭兵団はまだ軌道には乗りきっていないが、ラトレイア家と教団の後援もある。
二つのお偉いさんから仕事をもらっているうちは、立ち行かなくなる事もあるまい。
最低限の事はできた。
一度、
そこで、改めて、今後の動きについて、オルステッドと詰めるのだ。
だが、その前に各所への挨拶はしておかなければなるまい。
---
ラトレイア家へと赴き、エリスを紹介すると同時に、帰還を告げた。
「そうですか」
クレアはあまり礼儀のなっていないエリスを見ても顔をしかめる事はなかった。
俺が言ったことを守ってくれているのだろう。
ただ彼女は、ただただ残念な顔をしていた。
「ゼニスは無論、連れて帰るのですね?」
「はい。俺が責任を持って、世話をします」
「わかりました」
ゼニスはこの一ヶ月、ラトレイア家で世話を受けていた。
ゼニスはあれ以来、忙しい俺とアイシャに代わり、ラトレイア家で世話をしてもらっていた。
彼女はラトレイア家が懐かしいのか、よく動いていたと言う。
屋敷内を散策したり、庭を見て回ったり。
事ある毎に、お手伝いさんを連れて、外に散歩にも出ていこうとしたり。
相変わらず、ボーっとしたままだったが、久しぶりの故郷を満喫していたのは、よくわかった。
そんな彼女を見て、ラトレイア家の紳士淑女の皆さんは、悲しそうな顔をしていたという。
長男のエドガーに、長女のアニス……ギースのせいで、彼らには挨拶もできなかった。
だが、一応「またくる時には必ず挨拶を」と、言伝を頼んでおいた。
「最後に、ノルンの顔を見れなかったのが、心残りですが」
「また来ますよ、今度はノルンや、俺の子供も連れてね」
紆余曲折あったが……。
クレアも悪い人間ではない。
嫌な人ではあるが、悪くはない。
妻や子供を顔見せするぐらいなら、何の問題もない。
今度こそ、挨拶だけで済ませるのだ。
「いいえ、恐らく、私の年齢から言って、これが今生の別れとなってもおかしくありません」
今生の別れ。
彼女の年齢は、すでに60を超えている。
この世界の平均寿命は知らないが、彼女はまだまだ頑健だ。
だが、シャリーアまでの往復の距離は約4年。
近い距離ではない。
行ってすぐ戻ってくるわけもなし、次に会うのは、軽く10年以上先。
その頃、クレアは70歳以上。
何があっても、おかしくない歳ではある。
と、考えているのだろう。
転移魔法陣の事を伝えてもいいんだが。
あんまり公に転移魔法陣を使いまくってます、って言うと、どこから圧力が掛かるかわからない。
一応、世界的に禁忌とされているものだしな。
アスラ王国でも、王竜王国でも、おそらくミリスの王家でも、万が一に備えて使われてはいるんだろうけど。
でも、世界三大国家たる彼らですら隠してるんだよなぁ。
「ルーデウス様。ゼニスを連れてきてくれて。本当にありがとうございました」
クレアはそう言って、頭を下げた。
彼女は先日、ゼニスと一緒に馬車に乗って、劇なんか見に行ったりしていたそうだ。
クレアはずっとしかめっ面のままだったが、お手伝いさん曰く、こんなに嬉しそうな大奥様を見るのは久しぶりだと言っていた。
「近いうちに、またきます」
気づけば、そんな言葉が出ていた。
「ですが……」
「必ず、来ます」
腹に力を込めて、強い力で言う。
すると、クレアはふっと顔をゆるめた。
「ゼニスは、本当に良い息子を持ちましたね」
クレアは、最後にそう言って笑った。
---
神子の所にも挨拶に行った。
おみやげは二つ。
俺の腕輪とよく似た装飾を持つ腕輪と、オルステッドから送られてきた守護魔獣召喚のスクロールだ。
この腕輪、アイシャがこの一ヶ月の間に、ミリスの職人に頼んで作っておいたものだ。
本来なら宝石がはめ込まれる台座には、石が埋め込まれている。
これは俺が土魔術で作った黒く光沢を持つ石で、龍神の紋章が刻まれている。
誰が見ても、龍神配下の証とわかるだろう。
そんなものを持って神子を呼び出してもらうと、取り巻き連中が出てきた。
中には、テレーズの姿もあった。
彼女は、左遷を免れた。
俺の名前が書かれた嘆願書が役に立ったらしい。
まあ、左遷の代わりに降格したらしく、隊長ではなかった。
新しく派遣されてきた隊長の下で、副隊長的な位置に落ち着いていた。
ちなみに、新隊長はあまり柔軟な人ではないようだった。
腕輪はともかく、教団内で怪しげな召喚魔術を使うなど言語道断と拒否された。
もっとも、「これなるは龍神オルステッド様が、
この隊長さん、こんなんじゃきっと出世できないな。
スクロールから出てきたのは、銀色の梟だった。
体長は1メートルぐらい。
レオに比べると小さいが、それでも存在感があり、金色の瞳には神々しさがあった。
ペルギウスの精霊シリーズは出てこなかった。
あれはウルトラレアだから、そうそう出てはこないだろう。
今回は神子専用ってことで、パックも違うだろうしな。
何にせよ、聖獣っぽいのが出てよかった。
これで黒光りするでっかいクモとか出てきたら、隊長さんの拒否を押し通せない所だったかもしれない
「大切にしますね!」
神子はその梟に目を輝かせていた。
手を伸ばして撫でると、気持ちよさそうに目を細める梟。
召喚された直後から自分になついている動物を、神子は大層お気にめしたようだ。
「いや、大切にされてください」
ペットじゃない。
だから、大人しく守られていてほしいものである。
「では、またいずれ」
「はい、ルーデウス様も、お達者で!」
最後に、テレーズ以下、『
彼らとも、また会うことがあるだろう。
---
最後に、クリフだ。
クリフはというと、こちらも滑り出しは順調であるようだった。
先日の一件で、クリフの名前が教皇派、枢機卿派の両方に知れ渡ったのだ。
「クリフ・グリモルが龍神の右腕ルーデウスを説き伏せ、神子様を救い出した」
「教皇、枢機卿の争う中で正義を語り、正道を通した」
「ミリス教徒の鑑。あっぱれな男」
なんて噂がまことしやかに流れている。
面白いのは噂の出処だ。
聞く所によると、神殿騎士団の大隊長、聖堂騎士団の副団長といった面々が噂を流したらしい。
ゆえに下っ端の騎士や神父たちは信憑性の高いものとして、教皇が何やら凄い懐刀を手に入れたのだ、と認識しているようだ。
そして、そんな噂に後押しされてか、クリフ自身、実際にお仕事の方も任されるようになったようだ。
偉い貴族の冠婚葬祭だな。
いくら政争があろうとも、坊さんの役目は変わらない。
そして、クリフはなんだかんだ言って、シャリーアで実務経験も積んできた。
新人とはいえできることは多く、現場でも極めて優秀な人材と見られているようだ。
そんな彼を煙たがっているやつもいるようだが……。
まあ、それは仕方ないだろう。
いきなり優秀なやつが入ってきて、しかもそれが教皇の孫。
嫉妬の炎を燃やすやつがいても、おかしくはない。
それをどうにかするのは、クリフの役目だ。
もっとも、あまり心配はしていない。
今のクリフなら。
あのクリフなら。
何かされたとしても、立派に乗り越えてみせるだろう。
ただ、一つだけ懸念がある。
「じゃあ、クリフ先輩。一旦帰ります」
「ああ……リーゼの事を頼む」
「もちろんですよ。浮気しないように言っときます」
クリフは、まだ結婚したことを誰にも打ち明けていないらしいのだ。
心に決めた相手がいる、と公言してはいるそうだが……。
クリフらしくないねぇ。
でも、エリナリーゼと結婚したってのを、公表しにくいのはわからんでもない。
このへんの冒険者にも、エリナリーゼ・ド・ビッチの噂は広まっている。
特に、現在ベテランとして活躍してる中には、ハヂメテを奪われちゃった子もいる。
そんなのと結婚したって話は……まだしないほうがいいだろう。
後ろ指を指されても大丈夫なぐらいビッグになったら公表する、って形でも悪くはあるまい。
いずれだ。
死ぬまで隠し通そうと思っているわけでもない。
でも、今後、もしかすると見合いの話なんかも出てくるかもしれない。
ウェンディだって、お手伝いさんで、夜になったら帰るとはいえ、若い男女が一つ屋根の下……。
いや、大丈夫だ。
クリフだもの。
俺じゃあるまいし。
あんな偉そうに説教した人が、浮気なんてするはずもない。
俺じゃあるまいしね。
……と、こうやって念を押しているとフラグになってしまうな。
ほんと、頑張ってくださいよ、クリフ先輩。
「クリフ先輩も、くれぐれも浮気しないように。ミリス様が見てますよ」
「僕がするわけないだろ。しばらく、そんな暇は無いさ」
クリフは最近忙しそうにしている。
仕事は順調で、さらに教皇の右腕としても認知され始めている。
相当な実力者と見て、クリフに近づいてくる貴族もいる。
「ホントですか? 先輩は最近モテモテですからねぇ。ウェンディちゃんあたりをコロッと押し倒したりしちゃったりして」
「ウェンディは妹みたいなもんだ。君じゃあるまいし、手出しするもんか」
俺だって妹には手出ししてません!
失礼しちゃうわね。
と、俺が憮然とした顔を作っていると、クリフがフッと視線を落とした。
「それにしても……本当に、自分の力だけでやりたかったんだけどな」
俺は笑いながら答えた。
「これがクリフ先輩の力じゃなかったら、一体なんなんですか」
「ははっ」
かっこいいこと言ったつもりだったが鼻で笑われた。
確かに、クリフが連れてきた俺が問題を起こして、クリフが解決する。
マッチポンプ的な形になった感じはある。
でも、クリフはそんな中で自分らしい行動をして、それが認められたのだ。
やっぱりクリフの力だよ。
「……何にせよ、お礼は言っとくよ。君のおかげで、少しは認められたと思う」
「こちらこそ、おかげでミリスと顔つなぎが出来ました。傭兵団の方も設置できましたしね」
ルイジェルド人形の販売は……ちょっとまだ難しそうだ。
現状で進めていけば販売までは行けるだろうが、買う人が少なそうだ。
傭兵団の方もまだ安定してないから問題も多そうだが……。
何、問題が起きたら、それをクリフの出世の足しにでもしてもらえばいい。
「ここから先は、僕一人でやるからな」
「ええ、頑張ってください」
予定とは少し違ったが、エリナリーゼとの約束も果たせただろう。
クリフは、もう大丈夫だ。
他の神父たちとどう接する形になるかはわからないが、
しかし、スタートはうまく決まったと言っても過言ではあるまい。
今度こそ、クリフに任せよう。
まだまだ教皇派と枢機卿派の戦いは続くだろう。
その中で、クリフが自分なりに頑張り、成果を上げて欲しい。
まぁ、ダメだったら、戻ってきてうちの社員になればいいだけだ。
気楽にやってほしいね。
「この一ヶ月、あまり手伝えなくて済まなかったな……」
「いいえ、気にしないでください」
俺には俺の戦いがあり、クリフにはクリフの戦いがある。
「でも、もしヒトガミの手先に何かされたら、すぐにでも石版でメッセージをください。すぐに駆けつけますから」
「もちろんだ」
クリフは力強く頷いてくれた。
手伝わないとは言っても、彼も仲間だ。
だが、俺が庇護しなきゃいけないほど、弱くもないだろう。
「じゃあ、クリフ先輩……お達者で……」
「ああ、君も達者でな」
「といっても、一年後ぐらいにまた顔を出すかもしれませんがね」
「その頃には、リーゼの事を堂々と紹介できるぐらいにはなってるよ」
そうそう、エリナリーゼの呪いの事もある。
長いことお別れってわけではない。
「……それから、君が先輩って呼ぶのもやめてくれるぐらいにもね」
「や、それはもうクセなんで、一生無理だと思いますよ」
そう言うと、クリフは肩をすくめて苦笑していた。
---
こうして、ミリスでの戦いは終わった。
ラトレイア家との衝突に、ミリス教団内部での抗争。
そしてギースの裏切り……。
色々あったが、お陰でまた一つ、目標が決まった。
次の敵は、ギースだ。
第21章 青年期 クリフ編 - 終 -