山上徹也の意図を追って
安倍が教団との関係を自ら、しかも大っぴらに明らかにするのは、このときが初めてだった。ビデオメッセージで安倍は教団最高権力者である韓鶴子総裁を最大限に礼賛していた。おそらく、そんな映像が公開されても、自分の政治生命には何の影響もないと高を括っていたのだろう。
しかし、その油断、慢心が凶弾を引き寄せることになった。安倍のビデオメッセージは『やや日』を含め一部のメディアが報じたが、山上はそれを見たのだろう。それ以前から安倍と教団の関係をつぶさにウォッチしてきた山上にとって、このビデオメッセージが最後のトリガーになったことは疑いようがない。
私はこれまで、事件現場に何度も足を運んできた。銃撃時の山上の視点と、安倍の最期の視点、あの時あの場で起こったこと、それらを体感しておきたいと思ったからだ。1~2ヵ月おきに事件現場を訪れ”定点観測”を行った。環境整備が進む大和西大寺駅前、銃撃現場にあったガードレールの囲いは撤去され、現在は安倍が斃れたすぐ脇の歩道の一角に花壇が設置されている。
山上の伯父や弁護人のもとにも通って取材を重ねた。弁護人を介して山上へ手紙を渡してもらい、本人から回答をもらうといったことを続けた。ただし、手紙の内容は事件の動機を直接尋ねるものではない。山上の足跡を辿る私の見立てが合致しているか尋ね、彼について書かれた書籍の感想について訊くなどしたものだ。
妹や弁護人以外からのすべての接見を断っている山上とは、間接的ではあるが一定のやり取りはできている。
なぜ事件が起こってしまったのか、どこかのタイミングで事件を止めることができなかったのか。その検証のために、彼が外部へ何らかのコンタクトを取ろうとした形跡を確かめたいと思っている。
後編記事『旧統一教会に出される「解散命令請求」と同団体を巡る日本の政治環境が「何一つ変わらないこと」の衝撃』では今後注目すべきポイントについて解説する。
「週刊現代」2023年7月15・22日合併号より