人生に追い詰められたうえでの凶行か。それとも、社会を変えることまで緻密に計算していたのか。事件に残された最大の謎である「山上徹也の動機」に、気鋭のジャーナリスト鈴木エイトが徹底取材で迫る。
事件9日前のやり取り
安倍晋三元首相(享年67)の暗殺という重大事件から1年が経った。だが、いまだに明らかになっていないことがある。それは、山上徹也被告(42歳)の動機、なぜ安倍元首相だったのかということだ。
安倍が狙われた理由については、一般的にはこう認識されているはずだ。
〈統一教会(世界平和統一家庭連合)の信者である母親が高額な献金などで破産、家庭を崩壊させられた恨みなどから、教団の悪質さを知らしめるために関係の深い政治家を銃撃した〉
彼の本当の目的は教祖一族の皆殺しであり、それが叶わないとみるや「最も影響力のある統一教会シンパ」である安倍をターゲットにしたとの見立てだ。
だがはたして、その捉え方でいいのか。
「事件を起こす前、山上はどんな”絵”を描いていたのだろうか」
私はそんな思いから、山上がネット上に残した痕跡や周辺取材によって知り得た情報を精査し、事件の検証を試みてきた。
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教団の二次被害者がやむにやまれず起こした事件なのか、それとも、綿密な計算のもと教団と深い関係を持つ政治家のなかで最も知名度のある人物を銃撃したのか。社会の様相をここまで変えてしまうことを目論んでいたのか。それとも、限界を悟ったうえでできることをやろうとしたのか。
山上の動機については、考え得る最大限の「振れ幅」で考察していくべきだろう。