現実的にはあり得ないウクライナのNATOへの加盟
ウクライナの反転攻勢開始から1か月。NATO各国やウクライナが期待したような成果は得られていません。実際には目立った成果はなく、最近、アメリカのWar Instituteや英国の王立研究所などが出した分析では、現時点までのNATOによる支援内容が続いても、このままではウクライナは大きな成果は得られないと考えられるという内容です。
では大きな成果を実現するために、NATOは対ウクライナ支援を拡大し、アップグレードするかと言えば、恐らくNOでしょう。
今後、オランダやポーランドなどの協力を得てF16の飛行・操縦訓練が急ピッチで進められることになっていますが、戦局を有利に進めるレベルまでの熟練度に達するには半年から2年かかると言われており、正直、あまり大きな期待は持てません。
ただ、準備が出来たものから試験的に投入し、ロシア空軍が誇るSu57やSu75をおびき出すことには貢献できるかもしれませんが、決定的な制空権の確保には至らないものと考えられます。
そうすると、ゼレンスキー大統領が掲げる「クリミア半島を含むウクライナ領をすべて取り戻す」という目標を叶えるためには、今後、NATOによる支援が強化され、かつ勝利の日まで支援が続き、拡大されることがベースになったとしても、かなりの時間を要するか、ミッションインポッシブルと思われ、結果、ウクライナの戦意喪失という結果になるか、NATOの支援疲れの加速による脱落という結果が濃厚になります。
先のNATO首脳会議でも示されたように、停戦がウクライナのNATO加盟審査の大前提になるが、領土奪還目標にこだわると、停戦はしばらく望めず、その分NATO加盟の可能性も遠のくというジレンマに陥ることを意味します。そこから導き出せる結論は、つまり、現実的にウクライナのNATO加盟はないということになります。
ちなみに、そもそも欧州加盟国はウクライナを欧州とは見ていないし、NATOの精神をシェアしているとも見ておらず、それはロシアに侵攻された今も変わっていません。ゆえにEUへの加盟の方がハードルが低いとする専門家もいますが、それは“ウクライナの西部(ポーランド国境近くで、ポーランド系がマジョリティのカトリックエリア)のみ”を指すという意見もあり、Ukraine as a whole(ロシア色が強く、ロシア正教系の影響圏の東部や、キーウを含むウクライナ正教の影響圏も含む)では話が違うと考えられるため、ウクライナという国家の一体性を前面に押し出しての加盟申請であれば、トルコのケースのように、蛇の生殺しのようにnever ending processに陥ることになるでしょう。
ロシアからの圧力と恐怖に対峙し、ウクライナ国家を取り戻すために考えうるいろいろな可能性の門が順々に閉じていく中、いつまでウクライナ国内でゼレンスキー大統領の方針が支持され続けるかは不透明です。2014年以降高まるウクライナ国内のナショナリスト勢力の影響も無視できないですし、親ロシア派もまだ根強く存在していますし、そしてウクライナの3分割を主張する勢力も支持を伸ばしてきています。
このような非常にデリケートな力のバランスの上に成り立っているゼレンスキー政権に見切りをつける動きが出てきたとき、ウクライナは分裂または消滅の危機に瀕することになるかもしれません。
そうなると、昨年2月24日のウクライナ侵攻当初にプーチン大統領が主張していた“特別軍事作戦”が掲げた目的──ゼレンスキー大統領の追放と親ロシア派の政権の確立が、実現されるようなことになるかもしれません。
そして詳しくは書きませんが、プーチン大統領とその周辺の表現では、今回のウクライナ侵攻は今でも“特別軍事作戦”のままであり、これが“戦争”に名称変更された場合、そのロシアの刃はウクライナに留まらず、周辺国にも広がっていくことになる恐れがあります。
それをNATOとその仲間たちはどこまで本気に防ぐ気があるのか。
今一度、この問いを投げかけておきたいと思います。
以上、国際情勢の裏側でした。
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