逃げ出す夢主と追いかける悟
何もかも嫌になった夢主と逃げた夢主を追いかけてくる悟の話。悟の精神が小学生(好きな子に意地悪する、揶揄う、素直になれない)せいで拗れる話。
でも、悟は夢主のことすっごい好き。夢主はそんなんでもないけど。
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何もかも嫌になって逃げ出した夢主と追いかける悟の話
・社会人パロです。悟は相変わらずクズで小学生精神のままです。
・主の夢がたくさん詰まってます。合わない方はバックしてください
・誤字脱字は心で変換してください。
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物心ついた時から、私は誰かにはっきりものを伝えることが苦手だった。
誰からも嫌われたくなくて、人に合わせることに必死だった。
だから、会社の同僚に仕事を押し付けられても苦笑いして、行きたくもないランチに顔を合わせて。聞きたくもない上司の愚痴や同僚たちの悪口に「わかる〜」と口を合わせる。
全ては、嫌われないようにするため。
好きでもないブランドの服を身に纏って、毎朝早起きして髪をセットして、化粧を施して。
男性社員に軽いセクハラをされても、苦笑いでなんとか誤魔化して。
でも、それは女性からしたらよくは写らないみたいで曖昧な態度をとる私が悪と言われた。その度に、心がすり減っていくような気がした。
そんな私にも秘密がある。
誰にも言ってない、私だけの秘密。
「おかえり〜遅かったね〜お腹減ったんだけど」
「ただいま、すぐ作るね」
綺麗な白髪に、日本人離れしたモデルのような体格、今はサングラスに隠れてしまっているがその奥には蒼碧の綺麗な瞳が隠れていることを私は知っている。
五条悟、うちの会社の営業部でトップの成績を叩き出している営業部のエース。
その容姿や仕事ぶりから誰からも羨まれている。
その彼が私のうちにいる、彼は私の恋人だ。
誰も知らない、私たちだけの秘密。
この秘密があるだけで、私は幸せだし同僚たちのくだらない嫌がらせも一気にどうでも良くなる。
「ねぇ、夢主。」
料理していると、後ろから優しく彼の腕が伸びてくる。
耳元で囁かれる声は熱を含んでいて、少し低めの声に胸がトクンと音を立てる。
「今日さ、するよね?」
「………今日は、その、」
疲れたから休みたい、そう伝えたいけど。
前にそう言ってとても彼の機嫌が悪くなったことを思い出して、言葉が出てこなくなった。
「するよね?」
返事をしない私に少しだけイラッとしたのか、悟が再度同じことを聞いてきた。
「…うん、シたい…」
ぎこちなく笑えば、悟は「お前も好きだよね」と笑う。
そのまま彼の舌が私の首筋をツーっと舐めていく。
その感触にゾクッとした。
ねぇ悟。早く結婚したいよ。
そうしたら私はあの会社を辞められる、親からの執拗な結婚催促の電話を誤魔化さなくてよくなる。
同僚たちのSNSを見て羨むことも自分が呼ばれてないことに怯えることもない。
ねぇ悟、早く、早く、私にプロポーズして。
彼の誘いを断ることもできず、体が重いまま出社した私。
当たり前のように仕事を押し付けてくる同僚たちに嫌気が差しながらも、なんとか気持ちを抑えて仕事に打ち込む。
結局、仕事は終わらず残業する羽目になった。
真っ暗になったオフィスで黙々と仕事にうちこみ、終わった頃には9時を回っていた。
深くため息をついて、エレベーターを降りる。
すると、営業部に灯りがついていて人の話し声も聞こえてきた。
「(この声、悟もいる!)」
昨晩も聞いた彼の声に胸が高鳴るのを感じた。
慌ててトイレに駆け込み、鏡の前に立ち自分の身なりを確認する。
ただでさえ整った彼氏なのだ。
隣にいる私が見窄らしくてはいけない。
「よしっ」
髪を丁寧に梳かして、トイレから出る。
差し入れを持っていけば、怪しまれないだろうと思い缶コーヒーを何個か買い営業部の前に通りかかる。
彼らは私には気づいていないみたいで、会話に夢中になっていた。
「そーいや、五条さんあの最近付き合ってるとか言ってた子。どーなったんすか?」
私の話が出て、一瞬動揺した。
悟は何て答えるんだろうって鼓動が早くなっていくのを感じる。
「あいつ?あー…あいつね、セックスはうまいのよ。だからセフレって感じ」
心臓が止まったような気がした。
「マジすか、セフレいいな〜」
「俺もほしー、五条さん今度その人貸してくださいよ〜」
「バァカ貸すかよ」
そう言ってゲラゲラ笑っている悟。
視界が真っ暗になった。
唯一の支えだった、悟の存在。
でも悟にとって私は、ただのセフレ。結婚なんて一ミリも考えてはいなかった。
「はっ…はっあ…っ!!」
呼吸がうまくできない、吸って吐く考えなくてもできていたことが、今できなくなっている。
立っていることもできなくなり私は床に座り込む。
大丈夫ですか?と周りの人が集まってくる。
騒ぎを聞きつけた悟たちも集まってくる。
「(悟……っ)」
救いを求めるように彼を見たが、悟は。
めんどくさと言いだげな目で私を見下ろしていた。
その目を見た瞬間に、私の意識はぷつりと途切れた.
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目が覚めた瞬間に思ったのは、遅刻っ!だった。
でも、すぐに会社を辞めたことを思い出して、ほっと胸を撫で下ろした。
あの時私は過度の疲労で倒れてしまったということになった。
でも、心無い上司からは体調管理がしっかりしてないと叱責をうけ、同僚たちは同情するわけでもなく当たり前に仕事を押し付けてきた。
頼みの綱だった悟はあれから、出張だかでどっかに行った。
私が倒れて入院している間、私を心配してくれる連絡は一つもなかった。
その出来事は、私の心を折るには充分だった。
その日に私は会社を辞めて、スマホは電源を切って川に捨てた。
マンションも引き払い、荷物をまとめて私はこの街を出て行った。
ふらふらと宛てもなく彷徨っているうちに、雨まで降ってきた。
ずぶ濡れになりながら、なんとか雨宿りできるところを探したどり着いたのは人里離れたBARだった。
女性の店員は一瞬怪訝そうな顔で私を見たがすぐに私をなかに入れてくれた。
「ここ、私と店長しかいないから。」
そう言って店員、歌姫さんは暖かいレモンティーを出してくれた。
「…あんた、訳あり?」
聞いてあげるよ、そう言って店長さんはタバコに火をつけた。
ある程度話をすると、店長、家入硝子はタバコをフーッと吐き出した。
「クズばっかじゃん、あんたの周り。ウケる」
ひとしきり彼女は笑った後、寝床と仕事を提供してくれた。
「丁度人いなくて困ってたんだよね」
「でも、私キャバクラとか未経験で…」
「んなことさせないよ、どっちかてーと雑用」
宛てもなく、頼れる存在のいない私には願ったり叶ったりで。
硝子の言葉をありがたく受ける事にしたのだった。
数日して、優しい歌姫さんと店長の硝子さんに教わりながら慣れない仕事に悪戦苦闘しながらもなんとかこなしていたある日。
開店前の店の前を箒で履いていると。
「やっほー、ここにいたんだ〜。」
探しちゃったよ。後ろから聞こえてきた声に私は体が凍りつくのを感じた。
振り向いたらいけない。
振り買ってしまったら、そこには。
「無視すんなよ、夢主」
サングラスの奥に隠れてる蒼碧の瞳の彼に出会ってしまうから。