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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第17章 青年期 王国編

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第百七十話「男子会」

 守護魔獣が召喚されてから、一週間が経過した。


 レオと名付けられたでかい犬には名前入りの本革の首輪と、大きな犬小屋が与えられた。


 そんなレオの我が家での役割は警備である。

 朝起きると、玄関の前に待機しており、トレーニングをする俺とエリスをお出迎え。

 そのまま、しばらく歩哨として玄関前に立ち続け、その後、散歩へと赴く。

 散歩から帰ってきた後は、家の中で家族を見守ってくれる。

 家の中の見まわり、異常が無いかを確認、何かがあれば解決に努めようとしてくれた。

 ルーシーが泣けばあやし、アイシャが買い物に行けば、護衛につく。

 頼めば魔法大学まで赴き、ノルンの送り迎えもしてくれた。

 まさに自宅警備員だ。


 レオはとても賢く、家族の言いつけはきちんと守った。

 トイレは決められた場所でする。

 芸は待て、伏せ、お手、チンチン、三べん回ってワンに至るまで。

 家族に対しては従順で、アイシャやノルンがおそるおそる頭をなでると、扇風機のように尻尾を振った。

 特にロキシーに対しては、忠誠高い騎士の如き振る舞いを見せた。

 聖獣レオのお気に入りは、ロキシーらしい。


 レオのロキシーに対する態度は、明らかに他とは違った。

 ロキシーが起きてくると、その周りを尻尾を振りながらグルグルと周り、股間に顔を突っ込もうとする。

 俺が「そこを舐めていいのは俺だけだ」と怒ると、しゅんとなってやめるも、翌日には繰り返した。


 また、ロキシーはアルマジロのジローに乗って学校へと登校しているのだが、そのジローに対し、レオがワンワンと何かを言いつけている光景が見られた。

 何を言いつけているのかも、ジローがそれを守っているのかどうかもわからないが。


 また、妊婦のロキシーが階段を昇降する時は、足を踏み外したりしないかと、心配そうに階段下で見上げている場面もあった。

 その過保護っぷりたるや、夫である俺が申し訳なくなるぐらいだ。

 なぜロキシーにだけここまで……と思うが、やはり犬だからだろう。

 この家で誰がもっとも偉大かを、鼻で嗅ぎとったのだ。


 ロキシーには下僕のような態度を見せるレオだが、エリスとは相性が悪かった。

 相性が悪いといっても、レオがエリスに対して、一方的な苦手意識を持っている感じだ。


 エリスは犬猫が好きである。

 その柔らかい毛並みに顔を埋めて力いっぱい抱きしめるのが好きだ。

 だからもしかすると、俺が見ていない間に、レオはエリスに思い切り毛並みを堪能されたりしたのかもしれない。

 狂剣王パワーで、きつく激しく。

 俺も経験があるが、エリスに思い切り抱きしめられるのは、熊にハグされるのと似たような感覚すら覚える。

 命の危険を感じるのだ。

 俺はそんなエリスに抱きしめられるのは嫌いじゃないが、レオがエリスを避ける理由はわからないでもない。


 レオがエリスに近づくのは、散歩の時間だけである。

 その時間だけは、なぜかエリスを遠ざける事なく、一緒に縄張りの確認に出かけていく。

 恐らく、それは体力的なものだろう。

 レオの散歩範囲は広い。

 町を一周するのではないかと思えるほどの範囲を見て回る。

 それを短時間で終わらせようと思うと非常に早いペースとなり、そのペースについていける体力の持ち主は、我が家では俺とエリスだけだ。

 ギリギリ、シルフィもいけるぐらいか。

 ともあれ、レオは散歩のパートナーには、エリスを選ぶ事が多かった。

 あるいは、レオにとってエリスは、同じ警備担当というカテゴリなのかもしれない。


 ちなみに、どうやら我が家の周囲1キロ程度はレオの縄張りとなったらしく、野良猫すら寄り付かなくなった。



 レオはしっかりと家族を守ってくれようとしている。

 守護魔獣というのは、なんだかんだ安心するものだ。

 やはり、犬はいいな。


 問題は、その犬が獣族の守り神って事だが……。

 エリスの様子を見に来たギレーヌがレオを見て驚きつつも、こんな事を言っていた。


「あたしは聖獣様の言葉はわからんが、聖獣様が自らの意思でここにいるように見える。ならば、ドルディア族も文句は言うまい」


 なので、大丈夫だろう。

 そろそろ、次のスケジュールに進もうと思う。



---



 と、思っていたある日の事。

 クリフが訪ねてきた。


「なぁルーデウス、今晩、暇だったらちょっと外で食事でもしないか? 僕と、お前と、ザノバの三人で」


 食事の誘いである。

 俺とクリフとザノバの三人。

 男だけで、となると初めてかもしれない。

 普段はシルフィやエリナリーゼ、その他諸々がついてくることが多いからな。

 となると、今回はちょっとピンク系のお店にでも行くのかもしれない。

 あるいはオナゴがいては話しにくい話題に花を咲かせるのか。


「わかった」


 どっちにしろ、俺は一も二もなく承諾した。

 断る理由も無いし、クリフには頼みたい事もあったし、渡りに船だ。



---



 夕日が落ち始めた頃。

 俺は言われるがまま待ち合わせ場所に行き、クリフ・ザノバと合流した。


 連れてこられたのは、いつもより高級な感じのする店だった。 


 入る時にちらりと店の看板を確認したが、『赤の大鷲亭』というらしい。

 魔法三大国では、鷲と名の付く店は料理を、隼と名の付く店は酒を、蝙蝠と名の付く店は女の子を、馬と名の付く店は宿を、それぞれ提供している事が多い。

 もっとも、あくまで「事が多い」という程度なので、必ずしもそうとは限らない。

 最初はうまい酒を提供する店だったのに、いつしか店主が料理上手になってしまったというパターンも多々ある。

 あくまで目安だ。


『赤の大鷲亭』はクリフが選びそうな、上品なお店だった。

 客層も下級貴族や、金を持っていそうな商人が中心。

 俺たちが通されたのも、高級そうな個室だった。

 店員の説明によると、この店で三番目にいい部屋らしい。

 ルーデウス様のご来店とわかれば、もっと良い部屋を用意したのですが、と謝られた。


 ていうか、ここは料亭だな。

 食事に行くなんて言われたから、いつもの宴会のノリだと思っていたが、文字通りちゃんとした「お食事」らしい。


 俺たちはそれぞれ四角いテーブルの一辺に座り、顔を突き合わせた。


「さて、ルーデウス。なんでこんな場を用意したかわかるか?」


 クリフは極めて真面目な顔で言った。

 なんか、怒ってる気がするな。

 心当たりはあるけど。


「今日はクリフ先輩の――誕生日でしたっけ?」

「僕の誕生日はもう過ぎた」


 クリフは面白くもなさげにそう言った。

 クリフって、今20歳だっけか、それとも21だっけか。

 こっちの世界では、もう立派な大人だ。

 人によっては2~3人の子供がいてもおかしくない。

 クリフは童顔なせいもあって15歳ぐらいに見えてしまうが。


「そうじゃない」

「はい」


 俺は居住まいをただした。

 真面目な話らしい。


「実は……」


 クリフの話。

 オルステッドとの事だろう。

 帰還報告をした時に、詳しいことは後で話すと言ってから、そのままだ。

 しびれを切らしたのだとしても、おかしくはない。


「エリナリーゼとの間の子供の名前を、男の子だったらクライブ、女の子だったらエレアクラリスにしようと思うんだが、どう思う?」


 ……名前?

 あれ、今日ってそういう話なのか?

 俺が勘違いしてただけ?


「つまり、男の子だったらミリス風に、女の子だったら長耳族風にするって事だ。ルーデウスはどう思う?」

「えっと……クライブは、とても賢くていい政治家になりそうだけど、

 でも、少し気難しそうな印象を与えてしまいそうですね。

 エレアクラリスは、悪くないと思います。語呂もいいし、綺麗な名前ですね。

 でも、大泥棒に大変なものを盗まれてしまうかも……」


 率直な意見を述べると、クリフは「やっぱりそうか」と天井を仰いだ。

 そして、顔をこちらに向けて、真顔で言った。


「…………というのは、冗談だ。名前はもう決めてあるんだ。君の意見を聞けたのは良かったが、今日の話はそれじゃない」


 ああ、冗談か。

 わかりにくいな。

 冗談なら、もっと笑おうぜ。

 さっきから、誰も笑ってないんだぜ?


「お前もわかってるんだろう、ルーデウス。

 ここ最近の、お前の行動についてだ」


 クリフが俺を指さすと、ザノバも頷いた。

 彼も若干、怒っている気がする。


「師匠。余は、師匠が何をしても、それについてゆくつもりであります。しかしながら、最近の師匠は秘密主義がすぎるのではありませんかな?」

「そうかな?」

「唐突に、あんなすさまじい鎧を作らせたと思ったら、途中からやけに詳しい技術をいくつも言い出し、挙句、何と戦うか最後まで秘密にしていると思ったら、あの七大……」


 ザノバが口に仕掛けた時、個室の扉が開いて、飲み物が運ばれてきた。

 ザノバは口を閉ざし、配膳が終わるのを待った。

 店員が出て行った後、ザノバは改めて口を開いた。

 一応、内密の話って事で、個室を選んだのだろう。


「相手はあの七大列強の龍神オルステッド。しかも、師匠が本気で戦ったせいか、森がひとつ、消滅していたではありませんか!」

「いや、残ってるよ。半分ぐらい」

「挙句、その軍門に下った……」

「そうするしか無かったもので」

「あの鎧を着て本気を出した師匠を殺さずに無力化するなど、化け物としか思えませんな」


 オルステッドは、まぁ、化け物の一種だろう。

 遠距離からの魔術は無効化され、接近戦では手も足も出なかった。

 俺は自分が強いとは思っていないが、それでもいけるつもりではいたのだ。


「師匠が悲壮的な顔をしていなかったゆえに、案外良い奴なのかと思っていましたが……奴は……」


 ザノバはワナワナと体を震わせ、俯いた。

 そして、バッと顔を上げて叫んだ。


「奴は……まさに悪魔ではありませんか! 先日、その姿をこの目で見ただけで、奴が敵であると確信しました!」


 ザノバはつい先週、オルステッドと相対して眠らされたんだったか。

 その時にオルステッドと出会い、呪いを受けたと……。


 ん?

 でも、それまでは、別に悪い奴だと思ってなかった?

 てことは、実際に会うまでは、呪いは発動しないのか。

 思い返せば、アイシャやノルンも、オルステッドに対して悪感情を抱いていないように思える。

 間接的なら、呪いも大丈夫なのだろうか。


「あんな者に仕えるなど、正気の沙汰とは思えません……」


 ザノバはワケがわからないとばかりに首を振った。

 見ただけの相手にここまで言わせるとは、呪いの効果って、すごいな。


「僕はオルステッドを実際に見ていないからわからない」


 と、そこで、クリフが追従するように口を開いた。


「けど、ザノバも、シルフィも、ロキシーも、みんなオルステッドを危険視している。彼等の意見が一致しているなら、悪しき人物なんだろう」


 他人の話を聞かないクリフとは思えない発言である。

 しかし、こう見比べてみると、やはりクリフは呪いの効果の外にいるように見える。


「そんな奴の下につくというのは、聡明なルーデウスとは思えない行動だ」


 俺は別に聡明でもなんでもないが。

 しかし、参ったな。

 こう、各方面からオルステッドの下につくことを反対されると、今後どうにも動きにくくなりそうだ。


「が……あの魔導鎧を直すと聞いて、ピンときた」


 クリフはわかったような口調で言った。

 そして、挑むような目つきで、俺を見た。


「もう一度、戦うんだろう? 龍神オルステッドと……」

「……え?」

「一度は下についたフリをして、隙を見て倒す。そういう作戦なんだろう?」

「いや、オルステッド様とは――」

「みなまで言わなくていい」


 クリフは手のひらを俺へと向けた。


「魔力の消費量を抑えるように改良してほしい……ってことは、僕らでも使えるようにって事だろう? つまり、いつか、僕らに一緒に戦ってくれと頼むつもりだった……」


 クリフは改心のドヤ顔でニヤリと笑った。


「違うか?」


 違うよ。


 と言いたい所だが、なんかもうそれでいい気がしてきたな。

 いつか戦うよー、これはそのための準備なんだよー、と言っといて、

 実はオルステッドが悪い奴ではなかったと、次第にわかっていく感じで。


「…………クリフ先輩」


 だが、ここまで親身になってくれている相手に、都合のいい嘘を塗り固めていくというのは、よくない事だ。

 信じないかもしれないが、せめて一度は、本当のことを言っておこう。


「なんだ?」

「実はオルステッドは、呪いを掛けられていて、そのせいで皆に嫌われている、と言ったら信じますか?」

「え? そうなのか?」

「俺はある悪神に騙されて、そんなオルステッドと戦うハメになったと言ったら、信じますか?」

「悪神? あの、パンツとか血のついた布を祭ってるやつか?」

「てめぇぶっ殺すぞ」

「あ、うぇ? す、すまん。あれは違うんだな、うん、わかった。続けてくれ」


 いかん、つい素で怒ってしまった。

 でも、他人の信仰にケチつけちゃいかんよ。

 それはさておき。


「オルステッドと出会った結果。

 その呪いが、なぜか俺にだけ効かず、オルステッドとは会話で和解。

 許してもらう代わりに、オルステッドと共にその悪神と戦う事になった。

 と、言ったら、信じてもらえますか?」

「うーん……」

「余は信じませんぞ」


 ザノバがメガネをキラリと光らせ、断言した。


「あのオルステッドが誰かと共に戦うなどという意見を出す男とは、到底思えませぬ」

「うーん、あのザノバがここまで言うとなるとな」


 ザノバが固執しているので、クリフも混乱している。

 腕を組み、悩んでいる。


「逆に考えてください。あのザノバが、人形にしか興味のないザノバが、他人に対してこうまで固執している。それがおかしいと思いませんか? これが呪いの効果ですよ」

「はっ、言われてみると……。いや、でもザノバはお前の事となると、ちゃんと考えてるし、あんまりおかしな相手だったら、そりゃ心配ぐらいするだろ」


 そうなんだろうか。

 心配してくだすってんのか。

 そりゃありがたいが……今回に限っては素直に喜べないな。


 確かに、オルステッドも、まだ俺に何か隠し事をしているし、完全に信用すべきではないのかもしれない。

 だとしても、オルステッドとヒトガミの間を行ったり来たりとコウモリみたいに立ちまわって、両方とも敵に回す愚は避けたい。


 仕方ない。

 嘘をつこう。


「わかった……じゃあ、クリフ先輩の説で行きましょう」

「僕の説って、どういう事だ?」


 コホンと一つ、咳払い。


「クリフ先輩のおっしゃる通りです。

 オルステッドはそのうち倒します。

 しかし、今は機が熟していません。

 なので、今は耐えて、彼の言いなりになります」

「……え? いいのか、それで? さっきの話はどうなったんだ?」

「さっきのは、そうだったらいいなという俺の願望です」


 クリフだって、実際にオルステッドを見たらザノバみたくなるのだろう。

 なら、そういう事にしておこう。


「その方向で、クリフ先輩とザノバには、以後も協力をお願いしたい」

「……お任せください師匠。次回までには、ジュリでも装備できるような鎧を作り上げてみせましょう」

「おう、頼んだぞ」


 さすがにジュリは戦わせないが、それぐらいの気概はもってもらった方がいい。


「で、クリフ先輩には、別にお願いしたい事があります」

「何だ?」


 と、ここで本日、頼もうと思っていたことを口に出す。

 頼み方は少し変えよう。

 ええと、どうするか……。


「実は、オルステッドは、ある結界に守られています」

「結界? 結界魔術的なものか?」

「いえ、呪い的なものですね」


 呪いと聞いて、クリフは顔をしかめた。


「オルステッドのその姿を見ると、誰もが体を萎縮させてしまい、本来の力が出せなくなってしまいます」

「そうなのか?」

「はい。俺も、そのせいで負けました。ザノバも、そうだよな?」

「余は何がなにやらわからないうちにやられた感じだったのですが、言われてみると、確かに体が動かなくなった気がしますぞ」


 それはまさに気のせいだろうが、言うまい。


「なるほど、その呪いは厄介だな……」

「ええ。それはもう厄介です。なので、クリフ先輩には、オルステッドの呪いをどうにかして欲しいんです」

「でも、僕の研究は、エリナリーゼ専用だ。オルステッドに通じるかどうか……」

「まあ、通じないなら通じないで、別の方法を探しましょう。

 ちょうどエリナリーゼさんも妊娠中で、研究は出来ないでしょうし。

 その間に、どうにか効果を弱められるかどうかぐらい、試してみてください」


 クリフは呪いの専門家。

 まだ完全ではないとはいえ、エリナリーゼの呪いを軽減することに成功している。

 その彼に、オルステッドの呪いを抑える研究をしてもらえば、あるいは、恐怖の呪いも和らぐのではないだろうか。

 という計画である。


「しかし、オルステッドがそんな研究に同意するか? どうやって騙すんだ?」

「オルステッドは戦いに飢えた狼のような男ですからね。実は、その呪いもすこしうっとおしく思っているんですよ」

「本当か? だって、そのお陰で、戦いを有利に進められるんだろう?」

「彼は言っていました。一度ぐらい、呪いで萎縮した相手ではなく、全力の相手と戦いたい、と」


 真っ赤な嘘である。

 けど、そのうち、クリフの前でも言ってもらうように頼んで置こう。

 理由は後付け。

 場風をつけて1飜だ。


「本当か……?」

「ええ、本当です。だからクリフ先輩も、心置きなく、オルステッドを研究したってください」

「うーん……わかった。人を騙すのは気が引けるが、お前がそう言うなら、やってみるか!」


 やった!

 クリフ先輩ステキ!

 エリナリーゼさん、彼を抱いてあげて!


 よし、この方向でシルフィたちも説得していくか。

 なに、呪いさえどうにかなってしまえばこっちのもんだ。


 …………はあ。

 なんか、罪悪感がすごい……。

 俺は、なんでこんな嘘ばっかりついてるんだろうか。

 嘘をつくのが悪いと言うつもりはない。

 時として、嘘はついた方がいい時もある。

 けど、クリフもザノバも、シルフィも、ロキシーも、エリスも。

 みんな真剣に俺を心配してくれているんだよな。


 そんな彼らに嘘をつくというのは、裏切っている気分だ。

 誰も傷つけるつもりはないし、陥れるつもりはないんだが……。

 いずれ、オルステッドの呪いが解呪できたら、この嘘を笑い話とすることはできるのだろうか……。


「そういうわけです。ザノバ、クリフ先輩……頼みます」

「うむ。師匠にしっかりとした考えがあって、安心しました」

「わかった。大役だな。任せてくれ」


 と、二人が頷いた所で、料理がきた。



---



 豪華な料理がテーブルに並び、酒盃が配られ、宴会の準備が整った。


 俺は酒の入った杯を持ち上げる。


「よし。大事な話は終わったな! 乾杯して、食おうか」

「そうですな」


 ザノバが杯を持った。


「何に乾杯するんだ?」


 クリフも杯を持ちつつ、疑問を口にする。


「今日は女っけもないし、男同士の友情に……って事で、どうだ」


 ちょっと臭いか?

 まあ、いいか。

 俺は知っている。

 クリフも、ザノバも、いざという時に、俺を裏切らない。

 例え自分の国を敵にまわしても、クリフは俺を手伝ってくれる。

 例え俺がクズになっても、ザノバは俺から離れない。

 かけがえのない、友人って奴だ。

 今回は嘘をついたが、俺も死ぬまでこいつらの味方でいたいと思う。


 そう考えると、少し涙が出てきそうになった。


 臭くてもいいや。

 俺はもう、体感年齢的には加齢臭の一つでも発していてもおかしくないんだ。

 年齢相応でいこうじゃないか。


「では我らの友情に」

「友情に」

「乾杯!」


 杯がカツンと当たり、酒が少しこぼれた。


「でも、男同士の友情か……こういう時ってどんな話するんだ」

「エロい話でもしますか?」

「エロって、あ、そういえばルーデウス。お前、また新しい妻を迎えたんだってな」

「ええ、エリスといって、一応、幼なじみになりますかね」

「エリス殿か、懐かしいですなぁ、あの狂犬と呼ばれていた方がどうなったのか……今度挨拶に伺いましょう」


 ザノバが懐かしそうに眼を細めた。

 シーローン王国では、ザノバとエリスはあまり会話もしていなかったが。

 まあ、それでも覚えているか。

 エリスという存在を、忘れるはずないもんな。


「……あれ? そういえばクリフ先輩、エリスの事、知ってましたよね? 昔、会ったんでしたっけ?」

「む、昔ちょっと知り合っただけだ。今は何とも思ってない」


 そうか、昔、ちょっとか。

 ……もしかすると、エリスはクリフの事を忘れているかもしれないな。

 エリスだし、しょうがないか。


「そんな事より、君の事だルーデウス。

 前にも言ったけど、女性はコレクションじゃないんだ。

 そうやって何人も侍らせるのは――――」


 その後、クリフ先輩の説教が続き。

 三人がいい具合によっぱらった所で、ザノバがエロ話をしはじめた。

 もっとも、ザノバが一度結婚した相手の話で、途中からホラーになり、最後には、女は人形を理解しないとか、そういう類の愚痴に変わった。


 その後、俺とクリフが話をした。

 エリスとエリナリーゼの、ベッドの上での野獣っぷりに意気投合。

 だが、二人で話していたらザノバがつまらなさそうだったので、魔導鎧の事に話を変更した。

 魔導鎧を着てオルステッドと戦った話をすると、二人は眼を輝かせた。

 巨大ロボットvs大怪獣の戦いは、やっぱり面白いらしい。



 その日は、三人でぐでんぐでんになるまで酔っぱらい、

 閉店を過ぎた後、酒だけを購入して近所の宿の一室を借りて、さらに飲んだ。


 三人だけの飲み会は、なんとも気分がいいものだった。

 また機会があったら、こうして三人で飲みたいものだ。

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