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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第13章 青少年期 迷宮編

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第百十八話「状況確認」

前回までのあらすじ:ロキシーが『転移の迷宮』で行方不明になったと聞いて絶望に彩られるルーデウス。しかし、彼の手には、迷宮のほぼ全てが記述されている『転移の迷宮探索記』があった。

 ロキシーがピンチ。


 そう聞けば、今すぐにでも迷宮に飛び込みたい衝動に駆られる。

 場所は転移の迷宮だが、運よく攻略本は手元にある。

 転移魔法陣については俺も調べた。

 一つの魔法陣を観察する時間さえあれば、本に書いてある通りに迷宮を攻略できるだろう。


 だが、まずは状況を整理しよう。

 状況の整理は大事だ。

 ロキシーとゼニスは一刻を争うかもしれない。

 ほんの五分、救出が遅れただけで、ギリギリ間に合わなくなるかもしれない。


 しかし、だからこそ焦ってはいけない。

 状況を整理し、入念な準備をして、確実に救い出さなければならない。

 浮足立った状態では、何かを見落としてしまう。

 見落とし、失敗し、無駄足を踏んでしまう可能性も高くなる。

 その結果、五分どころか1日、あるいは2日、3日と無駄にするかもしれない。


 慎重にならなければならない。

 ここは失敗できない場面だ。

 失敗すれば、それは"後悔"につながるだろう。

 どんな形であれ、俺の失敗でロキシーやゼニスを救い出せなければ、大きな後悔として残るだろう。


「父さん。ここに、『転移の迷宮』に奥深くまで進入した冒険者の手記があります」


 まず、俺は本の存在を提示した。

 『転移の迷宮探索記』。

 かつて、シルフィことフィッツ先輩に教えてもらった本。

 禁忌とされる転移魔法陣の形状が事細かに載っている本だ。

 他の本では塗りつぶされた記述が載っている本。

 魔法大学の検閲を逃れたのは、単純に運が良かったからか、あるいはこれが冒険記であるからだろう。


 また、この本がフィクションであるという可能性もある。


 転移の迷宮は誰も踏破していない迷宮だ。

 そこを題材にした、架空の冒険記という可能性もある。


 その可能性は低いだろうとは思う。

 この本に書かれている転移魔法陣の形は実際のものと酷似している。

 俺も実際に転移魔法陣については調べたが、この本がもっとも正確、かつ精密に書かれている。

 他の文献とも照らしあわせた結果だ。間違いあるまい。


 だが別の(・・)『転移の迷宮』かもしれない。

 転移罠だらけの迷宮が、この世界に二つ以上存在しないとは言い切れない。

 攻略本のタイトルが同じでも、中身が違えば意味がない。


「もし、この手記の内容がこれから向かう迷宮と同じであるなら、

 この本は迷宮探索において、大いに役立つでしょう」


 そう言うと、パウロたちは目を丸くしていた。


「おいルディ……な、なんでこんなものを持ってんだ?」

「何かの役に立つかとおもって、魔法大学の図書館から持ってきました」

「そうか……」


 転移魔法陣の事については、今は伏せておく。

 今確認すべきは、この本の内容と、これから赴く迷宮の中身についてだ。


「確認をお願いします。そして、迷宮探索の参考になるようでしたら、活用していきましょう」


 パウロはそれを手に取ると、表紙をじっくりと眺めた後、すぐ脇にいたギースに手渡した。

 ギースは本を受け取ると、俺に聞いてくる。


「じゃあ、読ませてもらうぜ?」

「……お願いします」


 なぜギースが、そう思う所もあった。

 けれど、誰もが当然という顔をしていたため、俺も聞きはしない。


 パウロたちのパーティにおいては、ギースはそういう役回りなのだろう。

 何でも出来るがゆえ、何でもしていた、確か以前にそう聞いた覚えがある。

 例えば、迷宮探索における『マッピング』や『情報の整理』を行っているのも、彼なのだろう。


「父さん。ギースさんが読んでいる間、迷宮について聞かせてください」


 俺は真正面にいるパウロに対し、いくつか質問を投げかける事にする。

 全て、本に書いてあった事の確認だ。


「おう、いいぜ」


『魔物の種類・名前』。

『最深部までの階層数』。

『内部の様子や、魔法陣の色』など。

 パウロはスラスラと、教えてくれた。


 まず、魔物の数は五種類。

 パウロはまだ第三階層までしか足を踏み入れていないため、見たことのない魔物もいるそうだ。

 

朱凶蜘蛛タランチュラ・デスロード

 でかい毒蜘蛛。タランチュラのくせに糸を吐いてくる。初級解毒で治癒可能。B級。


・アイアンクロウラー。

 重戦車のような芋虫。固く、重い。B級。


・マッドスカル。

 ドロで覆われた人型の魔物。体の中心に人の頭蓋骨が埋め込まれており、そこが弱点。A級。

 見た目は間抜けだが、知能が高く、泥を飛ばす魔術を使う。


・アーマードウォリアー。

 四本の腕を持つ錆びた鎧。それぞれの手に切れ味のいい剣を持っている。A級。


・イートデビル。

 長い手足と鋭い爪牙を持っている魔物。壁や天井を這うように移動してくる。A級。



 最深部が何階層か。

 これはわからない。

 噂では、6階層か7階層と言われているが、最奥まで進入し、ガーディアンを見たものはいない。

 どこまでが一階層か、というのは難しい話だが、本によると蜘蛛が大量に巣を作っているのが一階層。

 芋虫と蜘蛛が大量にいるのが2階層。

 その両方がマッドスカルによって率いられているのが、3階層。

 4階層は蜘蛛と芋虫は見なくなり、マッドスカルとアーマードウォリアーだけとなる。

 そして、5階層からはマッドスカルも見なくなり、アーマードウォリアーとイートデビルのみとなる。

 6階層からはイートデビルのみだ。

 そこから先は本にも書いていない。


 内部の様子。

 1階層から3階層までの迷宮内の様子は『アリの巣』だ。

 ぐねぐねとうねる複雑な通路の行き止まりに部屋がある。

 そして、部屋の奥には必ず転移魔法陣が存在しているらしい。


 本によると、4階層あたりからは石造りの遺跡のような形に変貌するらしい。

 パウロたちはそこまで進入していない。

 ただ、魔物の情報や、3階層付近までの様子は、幾多の冒険者のトライアンドエラーにより、ある程度情報が出回っているらしい。


 転移魔法陣の造形。

 青白い光を放っており、複雑怪奇な模様が描かれている。

 細かく聞くと、何度か見てきた転移魔法陣と同じだと思う。


 パウロから聞いた話は、概ね俺が本で読んだ内容、見てきたものと合致する。


「こりゃすげえな……ハハッ! さすが先輩だ。すんげーもん持ってきやがったぜ!」


 説明を聴き終わった頃、ギースがやや興奮した声を上げながら本を閉じた。

 ひと通り読み終わったらしい。

 ずいぶんと速読だ。

 あるいはさわりの部分だけを読んだか。


 ギースの様子を見て、パウロが驚いたように声を上げる。


「おい、ギース。そんなにすげぇのか?」

「ああ、すげぇぜパウロ。これに書いてある事が本当なら、六階層までは攻略できたも同然だ」


 ギースが興奮した様子で、本をタルハンドに渡した。

 タルハンドが読み始めるのを尻目に、ギースは興奮を隠しきれない様子で、本に書いてあった内容をパウロに説明する。


「俺らがわかんなかったことが全部書いてやがる。

 どの魔法陣に乗ればいいのか、どの魔法陣がダメなのか。

 どの魔法陣に乗ると、どこに飛ばされて、どんな目にあうのかもな!」


 どうやら、ギースの見立てによると、この本は『本物』であるらしい。

 しかし、パウロは真顔でギースを睨みつけた。


「そうか、で、その本でロキシーやゼニスがどうなってんのかわかんのか?」

「そりゃ……わからねえけどよ」


 ギースは冷水を浴びせられたような顔になる。 


「ギース、あんまり浮かれんじゃねえ。もう次は失敗できないんだぞ」


 パウロは低い声でそう言った。

 慎重だ。

 慎重にならざるを得ないのだろう。

 本に書いてある事を盲信して、それで全滅したら目も当てられない。


「……言いたいことはわかるぜパウロ。でもな、本に加えて、頼りになる前衛と後衛が加わったんだ。まずは喜んどこうぜ、なあ?」


 ギースはそう言って、周囲の面々を見渡す。

 パウロも釣られて周囲を見て。

 そして、俺で目線を止めた。


「ああ……そうだな……悪かった。その通りだ」


 パウロの顔に、少し余裕の笑みが浮かんだ。

 どれだけ切羽詰まった状況でも、ある程度の余裕は必要だ。

 パウロも、それぐらいはわかっているだろう。


「よし、全員が読み終わったら、フォーメーションから決めていくか」


 気を取り直したような元気な声で、場の空気が少しだけ和らいだ。



---



 迷宮に潜るメンバーは五人。

 俺、パウロ、エリナリーゼ、ギース、タルハンドだ。

 俺とエリナリーゼがインした事で、ヴェラとシェラがアウトとなった。


 迷宮は狭いので、多人数で入っても互いの邪魔になるだけだそうだ。

 エリナリーゼはヴェラの、俺はシェラの上位互換になるため、仕事を完全に奪う形となる。



 タンクのエリナリーゼ。

 サブアタッカーのパウロ。

 アタッカー兼ヒーラーの俺。

 サブタンクにもサブアタッカーにもなれるタルハンド。

 戦闘面はその四人が担当する。


 タルハンドの役割が曖昧だ。

 彼は土魔術を中級まで使えるらしい。

 しかし魔法戦士として臨機応変に立ちまわるらしい。

 万能タイプなので、どこでも戦えるんだとか。

 不器用そうな見た目なのに、器用なことだ。

 いや、炭鉱族は皆器用だったか。


「よろしくな!」


 位置的に俺のすぐ前かすぐ後ろに立つらしく、気さくな感じで肩をポンと叩かれた。

 何故か背筋に寒気がした。


「ルディは基本的に魔術担当だ。戦闘が終わったら治癒も頼む事になる、出来るか?」

「問題ありません」


 攻撃に回復。

 初めての迷宮なのに地味に仕事が多そうだ。

 けれど、冒険者をしていた頃も俺の役割はそんなものだった。

 出来ない事はないだろう。



 この四人に、ギースが加わる。

 戦闘では役立たずの彼だが、それ以外の細かい事を全て高水準で行える。

 地図の確認に、進行方向の設定、食料の管理、素材の選別・剥ぎ取り、迷宮からの撤収の判断。

 司令塔兼雑用係だ。

 ディレクター、といった感じになるのだろうか。

 迷宮探索も戦闘だけでは無いので、当然こういった役割も必要となる。


 

 残った三人。

 ヴェラ、シェラ、リーリャは町や入り口で待機するサポート係となる。

 留守番と言い換える事もできるが、これはこれで重要な仕事であるらしい。

 大きなクランは、迷宮探索に赴く時に、留守番を設定すると聞くし。


 準備の大半はエリナリーゼやタルハンドといったプロに任せる。

 俺は迷宮探索については素人だ。

 生前の知識を生かしてあれこれ思いつく事はあるが、ひとまず置いておこう。

 まずはプロのやり方に従う。

 そして、必要な部分で思いついた事があったら提案していけばいい。

 提案だ。

 生前の知識、ローグライク系のゲームで得たようなものが通用するかどうかはわからないからな。



「まずは最初の目標だが、第三階層だ」


 フォーメーションを決めた後、パウロはそう宣言した。


「そこで、ロキシーの行方をハッキリさせる」


 ロキシーが生きているかどうかはわからない。

 だが生きていた場合は、彼女を保護し、一度迷宮から戻る。

 ロキシーの具合次第では、彼女にもパーティに加わってもらい、迷宮の奥へと足を踏み入れる。

 6人で未踏の4階層から先を探索するのだ。


 そこで最深部まで、まんべんなく探索していき、どこかにいると思われるゼニスを探す。

 何日かかるか分からない。

 腰を据えての探索となる。



---



 その夜。

 俺はパウロ、リーリャと同じ部屋で寝泊まりする事となった。

 家族水入らずの空間を作ろうという、(ギース)の粋なはからいだ。


 とはいえ、俺はリーリャとは家族でなかった時間の方が長い。

 生まれてから子供が産まれるまで、彼女はメイドだったから。

 どうしてもメイドとして見てしまう。


 パウロはリーリャを妻として見ているが、あくまで第二夫人としてだ。

 ゼニスが一番、リーリャが二番。

 三番目にノルンが来るだろう。

 アイシャが四位で、俺はその下かな。


「ルーデウス様と寝所を共にするのは初めてでしたね」

「そうですね」


 リーリャはというと、俺とパウロを自分の主人として見ているように思えるほどかしこまった雰囲気を漂わせている。

 俺もその雰囲気に釣られて、少々かしこまってしまう。


「旦那様のいびきがうるさかったら、遠慮なく申し付けください」


 しかし、リーリャの言葉の内容は軽く、ユーモアにあふれていた。


「あ、はい……」


 俺はそれに対してユーモアのあふれる返しをすることは出来なかった。

 何を話せばいいのか、よくわからなかった。

 リーリャと、前はどんな風に会話していたっけか。

 ブエナ村にいた頃は、かなりビジネスライクだったように思う。


「……」


 パウロは先ほどから俺を見ているだけで、何も言わない。

 なんだろう、変な顔だな。

 ニヤニヤという程ではないが、頬が緩みかけている、そんな顔だ。


「あの、ルーデウス様」

「はい、何でしょうか」

「アイシャは、きちんとやっていましたでしょうか」


 リーリャの問いに、俺は答えを見た。

 家族の話題。

 そうだ、俺達は家族なのだ。

 なら、家族の話をすればいい。


「はい。アイシャは頑張ってますよ」

「ルーデウス様のお手を煩わせるような事はございませんか?」

「ええ、何も。家事も全部してくれてますし、助かっています」

「そうですか、わがままを言ってなければいいんですが」

「もう少しぐらい、わがままを言ってくれた方が俺としては楽だったかもしれませんね」


 そういうと、リーリャは静かに笑った。

 ほっとしたような笑いだ。


「ノルンお嬢様とアイシャはどうですか。喧嘩などしていませんか?」

「そうですね……ギクシャクはしているようですけど、今のところ目立って対立するようなことは無いです。喧嘩も微笑ましいぐらいで」

「常にノルンお嬢様を立てろ、と言いつけてはいたのですが、どうしてあんな風になってしまったのか……」


 リーリャはそう言って、ため息をついた。


「仕方ありませんよ、アイシャもまだ子供ですし。

 親としては、平等に愛して上げる方が大事なんじゃないですか」

「そう……かもしれませんね。アイシャは私の子ですが、

 しかし旦那様の血もつながっているのですから……」

「血とかはどうでもいいでしょう。

 俺達は家族なんですから」

「……ありがとうございます」


 パウロは会話に入ってこない。

 俺とリーリャのやりとりを、先ほどと同じ表情で感慨深そうに聞いているだけだ。


「なんですか、父さん。さっきから、ニヤニヤと」

「いやぁ、なんか、いいなぁ、って思ってな」


 パウロは頭の後ろをぽりぽりと掻きつつ、照れたような顔を赤らめた。


「何がですか?」

「あのルディがよ。きちんと大人になって、リーリャと話してるって光景がさ」


 成人した息子と妻のやりとり。

 リーリャは俺の母親ではないが、しかしパウロにとっては両方とも家族だ。

 感慨深いのかもしれない。

 俺も、自分の子供が大きくなってみるとわかるのだろうか。


「そういや、ルディ。お前、結婚したんだったな」

「ええ。ちょうど半年ぐらい前でしょうか」

「そっかぁ、あのルディがなぁ、ついこの間会った時は、まだこんなちっちゃかったのになぁ」

「背丈はこの数年で随分伸びましたからね」


 俺の背丈は、いつのまにかパウロと同じぐらいだ。

 170センチ大といった所だろうか。

 パウロの方が少し高いが、まだ伸びるだろうし、いずれ追いつくと思う。


「帰ったら、みんなで盛大にお祝いしなきゃいけねえな」

「そうですね。なにせ父さん、初孫ですよ。パウロおじいちゃんですよ」

「よせよ、まだそんな歳じゃねえんだから」


 パウロはそう言いつつも、まんざらでもない顔をしていた。

 そして、ニヤっと笑った。


「子供が出来た、ってぇことは、ルディ。お前も『男』になったって事だよなぁ?」

「旦那様、あまり下品な事をお聞きになるのはどうかと思いますが……」


 ニヤニヤとオヤジっぽい笑みを浮かべるパウロを、リーリャが窘めた。


「いいじゃねえかよ、オレはな、ルディとこういう話を一度ぐらいはしてみたいと思ってたんだよ」

「しかし」

「お前だって興味あるだろ、ルディのこと」

「そういった言い方は卑怯かと思います」


「で、で、最初の相手は誰だったんだ? やっぱシルフィか? それともエリスか? 確か、別れたって言ってたけど、別れ際にそういう話になったりはしなかったか?」


 パウロは下品なボーイズトークがしたいらしい。

 こんな時に、そんな話をしていていいのかと思う部分もあるが……。

 まあ、分からないでもない。

 俺と久しぶりに会った事で、パウロも少しはしゃいでいるのだろう。

 皆がいる前ではそうした面は見せないようにしていただけで。

 俺も久しぶりにパウロに会えてウキウキしてる所がある。

 俺とパウロ、仲はいいからな。


 明後日からは迷宮入りし、そんな余裕もなくなる。

 今日ぐらいは、ハメを外してそういう話をしてもいいだろうさ。


「父さん、そっちの事に関してはちょっとばかし自信があるんだ。何でも聞けよ。こう見えても、父さん若いころは遊んでたからな」


 仕方ない、付き合ってやろうじゃないか。

 俺も、こういう赤裸々な話が堂々と出来る相手ってのは、なんとなくだが、ほしいと思っていたのだ。


「そうですね、じゃあいくつか聞きたい事があるんですが――」

「まったく、ルーデウス様まで……」

「リーリャもこうは言っちゃいるが、あっちの方となると激しくってなぁ」

「旦那様!」

「そういえば、いつかの時も、リーリャさんから誘ったって話でしたね。その時の様子を詳しくお願いします」

「ルーデウス様まで、やめてください! ……もう」


 リーリャはそんな俺達を見て、ため息混じりの声を出した。

 しかし、その顔は笑っていた。


 その後、俺たちは深夜まで、そんな話をし続けた。



---



 深夜。

 明かりを消して、ベッドに横になった。

 パウロとリーリャはもう寝ただろうか。

 隣のベッドからは、規則正しい寝息が聞こえてきている。

 俺が寝たのを確認してから二人でイチャイチャとかはしてないらしい。

 ゼニスが見つかるまでは禁欲するとパウロは言っていた。

 それをきちんと守っているのだろう。


 俺はパウロとの話で少々興奮したのか、寝付けないでいた。

 まさか、この俺に実体験を交えたエロトークが出来る日が来ようとは。

 人生、何が起こるかわからないものである。


 まあ、そのことは置いておこう。

 今回の事についてだ。



 俺はやはり、今回も人神の掌の上で踊らされているのかもしれない。

 そんな実感がある。


 思えば、あの本を手に入れることが出来たのは、魔法大学に行ったからだ。

 魔法大学に行き、転移事件の事を調べろと言われていなければ、

 俺はあの本には出会わず、何もない状態で転移の迷宮に挑戦するハメになっただろう。


 あの思わせぶりな人神の発言もそうだ。

 後悔するだの、リニア・プルセナに手を出せだの。

 俺が逆らいたくなるような物言いをしていたような気がする。


 人神に何も言われなければ、あるいは人神に『行け』と言われれば。

 俺は『残る』という選択肢を取った可能性は高い気がする。

 人神への反発心もあったし、シルフィとの事は同じぐらいの重さで天秤に掛かっていた。

 その場合は、もちろん無責任に放っておいたわけではないだろう。

 例えば、ルイジェルドやバーディガーディ、あるいはゾルダートらを派遣したかもしれない。


 人神は、その全てを見越した上での行動だったのだろうか。

 ゼニスを救出するために必要なものを、学校で取得させるために。


 人神、一体何者なのだろうか。

 本当に、俺に何をさせたいのだろうか。

 もしかして、本当に俺を見て楽しみたいだけなのだろうか。

 相変わらずそのへんが分からない。

 ただ、俺の味方である事は間違いあるまい。


 今夜あたり、また出るだろうか。

 いくらなんでもタイミングが良すぎるか。


 もしうまくいったら、お供え物の一つでもしてやろう。

 あいつの好きなものを知らないから、喜ぶかどうかはわからんが。



 なんて思いつつ、俺は眠りについた。

 夢に人神は出なかった。


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