4話 勧誘
「ただいまー」
入学式が終わり、エリカやほのか達との喫茶店での交流も解散になり、董夜が自宅の玄関をくぐったのは時刻が午後六時を回って辺りが薄暗くなってきた頃だった。
「お帰りなさい董夜、ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」
「先風呂入るから、ご飯の準備しといて」
も〜、ノリ悪いな〜、と口を尖らせて怒り出す雛子を無視して、董夜は荷物を置きに行くために自分の部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
「董夜〜、部屋着ここに置いておくからね〜」
「おー、ありがと」
髪や体全体をきれいに洗い終わり、湯船に浸かっていた董夜に脱衣所の方から雛子の声が聞こえてくる。
「あ、お背中お流ししましょうかー?」
「…………………」
「な、なんか言ってくれてもいいじゃん!!!」
ーーーもお、いいよ!
と先ほどと同じように怒りながら脱衣所を出ていく雛子に、董夜は小さくため息をついた。
そして、湯船に入った時から考えていたことに、意識を向けた。
それは国立魔法大学付属第一高校という環境が、達也と深雪にどの様な影響を与えるか。良くも悪くも達也はトラブル体質なのだ。
「(平穏な学生生活とはいかないだろうな)」
達也や董夜自身たちが高校に通っている間、世間は大き変わるだろう。それどころか世界情勢すらも変わるかもしれない。と、そこまで考えた所で董夜は一度頭を振った。確かに先見の目は必要だが、あまりに先のことを見ても仕方がないと思ったのだ。
頭の中をリフレッシュさせた董夜は、直近のスケジュールを頭の中で確認し、ボソッと呟いた。
「明日は、七草か」
董夜は明日の夜、七草家に夕食の招待を受けていた。董夜は四葉として七草家に行き、言動に色々気を使わなくてはいけないのが面倒だったのだが、七草家の当主である
「董夜〜!まだー?」
「あ、あー!今上がる!」
リビングの方から聞こえてきた雛子の声に、董夜の思考が現実に引き戻され、ふと時計を見ると、湯船に入ってから既に三十分以上が経過しており、董夜は慌てて風呂場から出た。
◇ ◇ ◇
「………お、電話だ」
董夜と雛子が夕食を食べ終わり、リビングでコーヒーを飲んでいると、部屋に電話の着信を知らせる音が響いた。
余談だが、董夜の家にはテレビ通話をするための部屋が二箇所ある。そのうちの一つは友人や知り合いと特に隠す必要のない会話をする時に使う部屋。そしてもう一つは四葉本家からの電話や、達也たちと知られたくない内容を話すときに使う秘匿回線専用の部屋である。
「この音って事は…………本家から?」
「ん、多分母さんからだな」
そして、今回リビングに流れてきた音声は
秘匿回線専用の電話に着信が入ったことを知らせる音声である。
「んじゃあ、行ってくる」
「はーい、コーヒーのおかわり作っとくね」
重い腰を上げてリビングから出て行く董夜に、雛子が元気よく手を振った。
その元気を少しでも分けて欲しいと思う董夜であった。
◇ ◇ ◇
『夜遅くにごめんなさいね、董夜さん』
「いえ構いませんよ、それで明日の件でしょうか?」
董夜が部屋を移動し、真夜の個人番号からの着信に応じると、相変わらず年齢不詳の美貌を持つ母親、四葉真夜の顔が画面に表示された。その後ろには専属の執事である葉山が直立不動で控えている。
『ふふっ』
「……?」
そして、その真夜の表情が、董夜以外の人間と会話するときよりも柔らかいことに、董夜は気付いているだろうか。
『もう、せっかちに育ったわね。ですが、まぁ正解です。貴方のことだから大丈夫とは思うけれど、あの狸には気を付けなさい』
「はい、ご忠告ありがとうございます」
実は数ヶ月前、董夜は七草家のパーティーに参加した際に自分を取り込もうと近づいてきた七草弘一を軽く論破してあしらっており、その一件が各家に広まり、董夜の政治力の高さが広く認知されたのだった。
その事で真夜から忠告を受け、董夜はしばし頭を下げ、頭を上げた後は真夜の次の言葉を待った。
「……………」
『……………』
「……………えっ」
『……………えっ?』
董夜が真夜の次の言葉を待ち、真夜の方は何故か何も喋らない。そのまま四十秒ほど無言の時が過ぎた。
「あの………他には?」
『いえ、先ほどの要件で終わりよ』
「そうですか、それでは失礼します」
『えっ?』
「えっ?」
早くリビングに帰って、まったりしたい董夜が電話を切ろうとすると、真夜の戸惑った声がその手を止めた。
「あの、何かあるのなら言ってくれると助かるのですが」
『え、いや、何かあるというわけではないのだけれど』
中々要件を言い出さない真夜に董夜がもどかしさを感じ、多少敬語が雑になる。そして真夜の方は何故か下を向いてモジモジしている。本当に見た目は二十代といっても余裕で騙せるレベルである。
『えと…………学校はどうだった?』
「(………あぁ、そういうことか)」
ここでようやく董夜は真夜の様子がおかしい理由を察した。
真夜は今まで毎晩董夜と自室で談笑をしていた。しかし、今ではそれが無くなって寂しくなったのだろう。しかし、当主という立場から『寂しいから、お話しましょ☆』など言える筈もないのである。
「はい、達也も深雪も良き友人と知り合って、とても楽しそうでしたよ」
『そ、そう。それは良かったわ』
本当は達也や深雪のことではなく、真夜は董夜について聞きたいのだが。董夜はあえて自分から話題をそらした。
『達也さんと深雪さんもなのだけど』
「………? 他に誰か………あぁ、雛子ですか、今日も夕食を作ってくれましたよ」
『え、えぇ雛子さんもだけど』
珍しくモジモジしている真夜に、董夜の口が悪い笑みの形になる。自身の母親であり当主、つまり目上の人間である真夜を揶揄う事など滅多にできないのだ。その時を董夜が逃すはずもない………が、少し歯止めが効かなかったようだ。
「え? 具体的に言っていただかないと分かりませんよ」
『……………』
「………………あ」
『…………董夜』
「はい」
頬を赤く染めていた真夜の顔から表情がだんだん消えて行き、後ろに控えている葉山が段々と画面からフェードアウトして行くことに、董夜は気づくのが遅れてしまった。そして一切感情のこもっていない、極寒の視線と口撃に、董夜の背筋が伸びた。
『なにを椅子に座っているの、立ちなさい』
「は、はい」
『…………正座』
「はい」
楽しかった董夜の時間も十数秒で終わり、その後二時間もの間、優雅に紅茶を飲む真夜の前で、董夜は正座を続ける羽目になるのだった。
◇ ◇ ◇
董夜が真夜からの電話に出る数十分前、まだ夕食をとっていた時間とほぼ同時刻。
七草家のとある部屋で、当主の七草弘一と、その娘の真由美と泉美、香澄が夕飯を口にしていた。
今日もいつもと変わらず父の質問にあたり触りのない返事をしていた三人だったが、次の言葉で真由美と泉美の顔色が変わった。
「急ですまないが明日、真夜の息子を夕飯に招くことになっている」
「「………え!?」」
あまりにいきなりのことで董夜に気がある真由美と泉美は驚愕で顔が固まっていたが、そうではない香澄は驚きこそすれ直ぐに平常運転に戻り、弘一に質問を返した。
「夕飯ということは、もしかして泊まるのですか?」
「ああ、そうしてもらう予定だ」
「「……………………っ!?」」
せっかく平常運転に戻りかけていた真由美と泉美の頭がまた真っ白になり、声にならない叫びをあげる。
一方の香澄は董夜のことを恋愛の対象には見ていないものの、実際の兄以上に慕っているので嬉しそうだった。
「ん、真由美と泉美。急いでどこへ行くんだ?」
「いえ、ちょっと」
「勉強をしようかと」
「そうか、励みなさい」
その後、真由美と泉美は自分の部屋を徹底的に掃除し、明日の部屋着はいつもよりちゃんとした物を着よう、と決めたのだった。
◇ ◇ ◇
翌日、董夜が学校に行くためにコミューターに乗り込もうとすると、ちょっど深雪と達也が董夜の後ろから歩いてきた。何故か今日の深雪の顔は僅かにムッとしているが、とりあえずいつも通り董夜が声をかけた。
「おはよう二人とも」
「おはよう董夜」
「おはようございます董夜さん、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
四人用のコミュターに三人が乗り込み、発車すると達也が、未だにムッとしている深雪に視線を向けた後、董夜に『聞いてやってくれ』とアイコンタクトを送った。
「ところで深雪。何か機嫌悪いみたいだけど、どした?」
達也のアイコンタクトを正しい意味で受け取った董夜が指摘すると深雪は『よくぞ聞いてくれました!』と言わんばかりに身を乗り出して話し始めた。
「聞いてください董夜さん!昨日私のところには『あの人』から入学祝いの電話があったのに、お兄様にはなかったんですよ!!叔母上さまはお兄様にも電話をくださったのに!!」
深雪が興奮してきて段々周囲の温度が下がり始め、気温の低下を感知したコミューターの天井から暖房の風が流れてきた。
彼女の言う『あの人』とは、間違えようもなく、彼女が毛嫌いしている実の父親である「司波龍郎」の事だろう。
「まあまあ落ち着きなよ深雪。あの人がそういう性格だって知ってたろ?」
「それはそうですけど!」
董夜が深雪を何とかなだめていると深雪の隣に座っている達也がいつも通りの無表情ながら僅かに柔らかい顔で深雪に語りかけた。
「それに深雪、俺は気にしてないから大丈夫だよ」
「……………お兄様」
深雪は納得していない様子だったが、コミューターが学校の最寄駅に着いたので三人は会話を中断してコミューターから降りた。
もしかして達也は自分が言い終わったらコミュターが学校に着くようにタイミングを計ったのだろうか?と董夜が達也に感心していたのは本人しか知らない。
「あれ?深雪たちじゃない」
コミューターから降りると丁度降りてきたのかエリカとレオと美月が立っていた。
「すげぇ、朝のニュースで流れてた奴が目の前にいる」
「まぁ慣れてくれ、これからずっとこうだぞ」
「あはは」
◇ ◇ ◇
第一高校の最寄りで董夜たちがエリカたちに遭遇した数分後、まだ学校に向かう途中のこと。
「達也くんたちは七草会長と知り合いだったの?」
「いや、董夜はそうだったろうが俺は昨日が初対面だ」
通学路を歩いている途中、なぜエリカがそんなことを聞いたかというと、董夜たちの後ろから真由美が手を振り、走りながら駆け寄ってきたのだ。
「董夜く〜〜〜ん、達也く〜〜ん」
という決して小さくない声も含めて。
無視するわけにもいかない達也と董夜は立ち止まりそれと一緒に深雪達も止まって振り返った。
「董夜くんに達也くんオハヨー、深雪さんもおはようございます」
「「七草会長、おはようございます」」
「おはよう、真由美さん」
二人の雰囲気からして、どうやら真由美と深雪は昨日のことを水に流したようだ。そして、それを見た董夜が胸をなでおろした。
「七草会長は、お一人ですか?」
「ええ、この時間はいつも一人なの」
「寂しいですね」
「ナニカイッタカシラ?」
「いえ、なんでも」
達也が暗に『付いてくるのか』と聞くと真由美は肯定した。そして董夜がボソッと呟いた一言に、真由美は目の笑っていない笑みを向け。すぐに董夜が目だけでなく、顔全体を逸らした。
「それで、実は今日の昼休みに董夜くんと深雪さんと達也くんに生徒会室まで来てほしいのよ」
と、いうわけで達也と深雪と董夜の昼休みの予定は埋まったのだった。
ちなみに、エリカたちも誘われていたが断っていた。
◇ ◇ ◇
「何故俺と深雪が呼ばれるんだ?」
昼休み、生徒会室に向かっている時に達也がそうぼやいた。
その年の新入生総代を務めた生徒は、毎年生徒会に入っている。その事は達也達も承知の上だったため、総代である董夜以外の自分達が呼ばれるのか理解できていなかった。
「真由美さんに気に入られたんじゃない?…………ドンマイ」
「まぁまぁお兄様、いいじゃありませんか」
深雪としては達也と董夜と一緒にお昼を食べれるのが嬉しいようで少しだけ浮き足立っていた。そんなこんなで生徒会室前。
董夜が生徒会室のインターフォンに話しかける。
「一年A組の四葉です」
『どうぞ〜』
董夜が話しかけた数秒後に真由美の声がインターホンから聞こえ、ドアが解錠される音がした。
「改めまして、一年A組の四葉董夜です」
「同じく、司波深雪です」
「一年E組の司波達也です」
ドアを開けて中に入り、挨拶をした董夜に続いて達也と深雪も挨拶をする。深雪の完璧なまでのお辞儀に、室内にいた四人は少したじろいだが、いち早く真由美が回復した。
「ご飯は和食と洋食と精進があるけれど、どれがいい?」
◇ ◇ ◇
機械から料理が完成した事を知らせる音が部屋に響くと、一番近くの席にいたあずさが機械から料理を取り出した。しかしその手には二つの精進料理しか乗っておらずその二つは達也と深雪に配膳された。
当然『俺も精進料理をお願いします』と先程言ったにも関わらず、目の前に料理が運ばれてこないことに、董夜が少なからず動揺する。
「え、いや、あの、俺のは…?」
「あ、それなら大丈夫!私が作ってきたから!」
董夜の戸惑いを含んだ声に、真由美が顔いっぱいに笑みを浮かべて側にあったバスケットを取り出した。
「あ、どうも、いただきます」
「めしあがれ!」
ハートマークが付きそうな程上機嫌な真由美に、側にいた摩利と(服部を抜く)生徒会メンバーは『誰だこいつは』という表情を真由美に向けた。偽りの表情で異性と話すことはあっても、ここまで本心から話している顔はあまり見たことがないのだろう。
「………………」
「ひぁ……………!」
幸せそうな顔でバスケットを渡す真由美と、まだ少し戸惑いながらもそれを受け取る董夜。側から見たらお似合いの美男美女カップルのようだが。
しかし、董夜の隣の席、そこには董夜の持つバスケットを、無表情で見つめる深雪がいた。
そして、ふと深雪が真由美の方へ顔を向けた時、勝ち誇った表情の真由美と目があい、深雪の表情に殺気がこもった時、深雪の顔を見てしまったあずさが小さく悲鳴をあげた。
「七草会長、明日からは私が董夜さんのお弁当を作ってくることになってるので、持ってきていただかなくても結構ですよ」
そして満面の笑みのまま真由美に言った。当然この言葉に真由美の眉間がピクッと動く。
「あら、それは本当なの?董夜くん」
「あれ?そんな話あったっk「そうですよね?」…………ハイ、ソウデスネ」
その後部屋の気温が異常に下がったりなど、色々あったが話が進まなくなるので何とか董夜達によって丸く収められた。ちなみに董夜のお弁当は深雪が作ることになった。
その後は真由美による生徒会メンバーの紹介をし、話は董夜達の勧誘の話に移った。
「それでね、董夜くんと深雪さんには生徒会に入ってもらいたいの」
「はい、謹んでお受けいたします」
「わ、わたしもですか?」
真面目な顔で小さくお辞儀をして快諾した董夜の隣で、深雪が戸惑ったような表情をする。入試主席未満も生徒会に勧誘されるなど思わなかったからだろう。
「司波さんの成績は四葉くんにこそ劣るものの、例年のデータを見れば十分過ぎるほど優秀な成績です。それに『二人勧誘してはいけない』規則などありません」
真由美に変わって、深雪を勧誘することになった経緯を鈴音が説明する。しかし、当の深雪は浮かない顔である。
「………………皆様は、兄の成績をご存知ですか?」
「深雪っ!?」
「(あーあ)」
ここまでの話の流れからして、自分は関係ないとばかり思っていた達也は、急に深雪の口から自分の名前が出てきたことに驚いて深雪の方を見た。
となりの董夜は表情にこそ出さないものの、達也に同情の視線を向ける。
「ええ存じています。素晴らしい成績だと思います」
「生徒会では実技より事務作業が重視されます、お兄様も生徒会に入れていただくことはできませんか?」
董夜とともに生徒会に入れば、董夜と接していられる時間も長くなり、自身にとっての危険分子真由美から董夜を守ることができる。しかし、そんなチャンスを与えられても、兄を差し置くことなど、深雪にはできなかった。
「深雪、確か生徒会に2科生は入れなかったはずだ。ですよね市原先輩」
「え、なんでリンちゃん?」
「はい、確かに規則として存在しています」
「ねぇ董夜くん、なんで私じゃなくてリンちゃんに」
董夜の言葉に、鈴音が頷く。もはや空気となった真由美を置いて、深雪の生徒会入りが決定し。董夜は会計に、深雪は書記となった。
一方、達也は自分が面倒ごとから免れた事に心から安堵していた。しかし、董夜が黒い笑みを浮かべている事に気づけなかったのが、彼にとっての不幸だった。
「渡辺先輩、実は達也は構築途中の魔法式を読み取り、どんな魔法が使われたか分かるんですよ」
「なっ!?」
「それは本当か?」
完全に油断していた達也は董夜のカミングアウトを止めることなど出来ず、数瞬固まってしまった。一方、渡辺先輩は新しいオモチャでも見つけたかのような興味津々な顔をしている。
「ええ、つまり達也が風紀委員会に入れば今まで曖昧になっていた罪が明確になります」
「なるほど!……………よし、じゃあ達也くんを生徒会推薦枠で風紀委員会に入ってもらいましょうか」
「ちょ、ちょっとまってくだs「私も賛成です!!」………………深雪」
そこで昼休み終了五分前のチャイムがなった為、放課後にまた生徒会室に集まることになった。当然、生徒会室を出ると達也がものすごいドスの効いた声で董夜を睨みつけ、董夜は全力で教室まで逃げた。(校則違反)
◇ ◇ ◇
放課後、また生徒会室に向かう三人だが、達也の肩は昼休み以上に下がっていた。
実はつい先ほど、達也がA組の前で深雪と董夜を待っていると、2科生に対して差別的思考を持っている「森崎」という少年に絡まれたのだ。
その時は董夜が何とかしたが情報によると「森崎」が風紀委員に教師推薦枠として入るらしい。
そんなこんなで3人は生徒会室に入るとそこには昼休みにはいなかった影があった。
「生徒会にようこそ、司波さんに四葉くん。僕は副会長の服部だ」
明らかに達也を無視した挨拶に深雪がムッとするが、それよりも先に摩利が話し始めた。
「やぁ来たな。それでは達也くん、ついて来たまえ」
「ちょっと待ってください渡辺先輩、俺はそこの『ウィード』を風紀委員会に入れるのは反対です」
摩利が達也を風紀委員室まで案内しようとすると、服部がそれを遮った。その言動に摩利と深雪が眉をひそめる。
「ほう、風紀委員長である私の前でその言葉を発するとは、覚悟はいいか?」
「いまさら取り繕っても仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の一を摘発するつもりですか」
それだけ言うと服部は達也の方を振り返えった。その目は達也に何か恨みがあるかのような目つきである。
「風紀委員は違反した生徒を取り締まらなくてはならない、こんな雑草にそれが務まるわけがない」
「お兄様を侮辱!許せません」
兄を侮辱されたのが許し難かったのか、深雪の周りのサイオンが荒れ、生徒会室の気温が下がりテーブルに置いてあったコップとその中身が凍り始める。
「み、深雪さんはよっぽど自然干渉力が強いのね」
サイオンが暴走すると言うことは、まだ未熟だと言うことを証明している。しかし、それと同時に魔法力の高さも表す。
その魔法力に真由美を始めとした生徒会メンバーが驚いていると、今まで何もしゃべっていなかった董夜が突然右手の指を弾いた。
「なっ!?」
「えっ」
深雪の暴走した想子を、顔色一つ変えることなく弾き飛ばした董夜だが、その後も何か喋ることはせず、服部に話を続けるよう促す目線を送った。
深雪の魔法力もとんでもないものだが、それを簡単に抑えるほどの魔法力を持ち、尚且つそれを完全に制御している董夜に、もはや摩利たちは呆れていた。
「う、申し訳ありません」
「いや、いいよ」
深雪が自分の未熟さを恥じ、董夜にお礼を言う。すると董夜はいつまでたっても続きを喋らない服部に変わって話し始めた。
「それでは、『はんぞーくん』先輩。達也と模擬戦をしてみては?」
「模擬戦だと?…………………………というか誰が『はんぞーくん』だ!?」
「まぁまぁ、それよりはんぞーくん先輩は達也の実力が認められないのでしょう?それなら模擬戦が1番手っ取り早いはずですよ」
そういって董夜は真由美に視線を向けた。
服部はこの学校の中でも実力がある方である、そのことを知っている真由美にとって、董夜の意思は分からなかったが反対する理由も特に見つからなかったため首を縦に振った。
「それでは、今から30分後に第3演習室にて模擬戦を行います。達也くんは事務室に行ってCADを持って来てね」
「力の差を教えてやる」
自信満々なはんぞーくんに対し、達也はまた面倒ごとに巻き込まれたと董夜を軽く睨んでいた。