外務省を知るためのイベント

開催の概要報告

平成25年9月8日
討論,観戦風景
受賞後,審査委員との記念撮影

1 はじめに

 外務省は,9月8日(日曜日),めぐろパーシモンホール(小ホール)にて「大学生国際問題討論会 2013」を開催しました。本年度の論題は「日本政府は,日・ASEAN関係強化のために,ASEAN各国から積極的に労働者を受け入れるべきである」でした。全国各地から44チームの参加登録があり,そのうちの37チームから提出された立論書の事前選考を経て,本選出場権を得た4チームによって白熱した議論が展開されました。当日は120名を超える傍聴者が参加し,極めてレベルの高い論戦が戦わされた結果,「聖心女子大学」チームが優勝しました。表彰式において3名の審査委員からそれぞれ講評をいただいた後,審査委員と出場者との間で和やかな雰囲気の中で有意義な意見交換会も行われました。
 今回,本事業の広報活動にご協力頂きました各大学,大学院等教育機関の教職員の皆様,ディベート団体,弁論サークル等の関連団体の皆様には厚く御礼申し上げます。

外務大臣賞:聖心女子大学チーム
優秀賞:早稲田大学河野ゼミチーム

2 受賞チーム(お名前は順不同です。)

外務大臣賞:聖心女子大学チーム

征矢しおりさん 聖心女子大学文学部
横川真衣子さん 聖心女子大学文学部

優秀賞:早稲田大学河野ゼミチーム

尾花怜さん 早稲田大学法学部
植木奈津子さん 早稲田大学法学部

奨励賞:AGU日本外交政策研究会

本田希帆さん 青山学院大学法学部
炭元宗一郎さん 青山学院大学国際政治経済学部

奨励賞:白桃組

山本蒼さん 岡山大学法学部
小川未由季さん 岡山大学法学部
奨励賞:AGU日本外交政策研究会
奨励賞:白桃組
道傳愛子審査委員<br>(日本放送協会解説委員)

3.審査委員による講評

(1)道傳愛子審査委員 (日本放送協会解説委員)

 今日は皆様大変にお疲れ様でございました。そして受賞された皆様,おめでとうございます。大変に今日は感激しました。日本の若い方達は内向きであるとか,男性は元気が無いなど言われますけれども,全くそんなことはないという確信を持ちました。大変に皆様すがすがしく,きちんと発表なさったことをとても嬉しく思いました。
 ディベートでは,皆さんの人柄やどれほど勉強していらっしゃるか,物の考え方が隠しようもなく出てしまいます。それは私が担当している放送の仕事とも通じることです。緊張感の中での発表であったことと思います。
 そして今日惜しくも選考に落ちた方々の立論書を全部,何度も読ませて頂き,心に留めたことが3つあります。1つ目は今年が「日・アセアン友好40周年」ということです。この節目に皆さんが何をおっしゃるのかに注目をしました。2つ目はアジアへの視点です。私自身,東南アジアに特派員として駐在した経験があります。日本は先進国ですが,気をつけないとちょっと上から目線になってしまうことがあります。見られた側はそれを忘れることはありません。皆さんはどういうアジアへの視点をもっていらっしゃるのかという点に注目しました。そろばん勘定だけで日・アセアンとの関係が成り立つものではありません。そのことに注目しました。
 そして3つ目は学生らしい視点。上手に理論をまとめられたということだけではなく,学生としての皆さんならではの視点,他の人は決して言う事が出来ないだろう,そういう視点があるかという点に注目して聞かせて頂きました。
最後に思いましたのは,ちょっと欲張りかもしれませんけれど,このようなことを日本語だけじゃなくて英語や他の言語でも発表ができたならもっとすばらしい,そうすると日本がたとえばもう一度オリンピックをめざすような時に,皆さんのような方々がきっと活躍なさるのではないかなと思いました。
 どの場面でも共通しているのは,準備出来ることと,準備できないことがあるということです。そういう時でも存分に今日のような能力を発揮して頂きたいと思いました。これから社会人になった時に,おそらくそういう局面にたたされることがあると思いますが,今日のことを思い出してこれから益々ご活躍頂きたいと思います。皆様おめでとうございました。

安里和晃審査委員<br>(京都大学大学院文学研究科特定准教授)

(2) 安里和晃審査委員 (京都大学大学院文学研究科特定准教授)

 今日の白熱したディベートのように第一反駁,第二の反駁がありそうですが,「建設的」な提案を幾つか試みたいと思います。今日の皆さんのディベートは手堅くまとめた感があります。そして既存の制度枠組みから逸れない形で,与えられた課題についてディベートが行われたと感じました。既存の制度枠組みを超えて,もっと自由な発想があってもいいのではないか,というように個人的には思いました。
 その原因のひとつとして,ビジョンやグランドデザインが十分に見えなかったということがあります。今回のテーマでは人の移動に関する政策を立案するわけですが,政策は何らかのビジョンに基づきその手段として位置付けられます。ところがこうしたグランドデザインに乏しかったように思えます。みなさんは,これからの日本をつくり,日本とアセアン,アジアの関係をつくっていく当事者ですから,例えばアジアの社会経済統合など2030年の姿を描いてみる必要があります。ビジョンに基づいて政策を立案すると,もっと違った政策が見えてくるのではないかと思います。
 2つ目に,思考の単位,考えるユニットが,暗黙裡に国家を前提にしていたのではないかと思います。日本では一般的にアジアといった場合,“exclusive we”で語ってきたと思います。これは私たちがアジアの一員ではないのではないかという暗黙の了解があったと思います。ところが今後の日本とアジア,アセアンの関係は,そういったexclusive weでいいのだろうか。国家の単位を超えた範囲で物事を思考するということも考えていいのではないでしょうか。というのも,アセアン自体が環境,人の移動,衛生など,国家を超えた課題の解決のために動いています。日本がアセアンから学べることは何なのだろうか,そのあたりも今回のディベートに組み込めたかもしれません。
 3つ目に,人の移動の問題は難しい点がいくつもあります。財やサービスの移動とはかなり異なります。労働力を抽出しようと思っても,人は恋もするし結婚もする。子供も産み,子どもは成長していく。その過程で様々な制度矛盾が発生します。今回の論文においてはアジアの地政学的な観点から政治の手段として人を受け入れる論旨がいくつかありましたが,これは実際にはうまく機能しないでしょう。こういう人材が必要だから,という出発点だとまだいいのですが,東アジアの地政学的状況からアセアンから人材を導入した方がいいとなると,目的と手段を取り違えることになります。
 人の移動の場合には,資本の論理と人権の論理,国民主権の論理,外交の論理など,いくつかの論理が重なったところで制度が構築されます。とくにこの人権の論理をどうするかについては,新しいアイディアの創出よりも,意外にも既存の例を踏襲する論文が多くみられました。資本の論理と人権の論理のバランスをどうとるかについてはまだまだ日本国内でのコンセンサスが十分ではありません。その分,ぜひ若い方々に勉強していただいて,新しいアイディアで今後の日本をどうつくっていくか考えてほしいものです。
 幾つかの論文では少子高齢化が取り上げられました。これは日本だけの問題ではありません。アセアンでも少子高齢化が急速に進んでいます。それ以外にも経済,人の移動,サービスの移動,人権,環境,保健衛生,資源,安全保障など超国家的な課題に対し,アセアンは地域で取り組むといった視点があります。日本は超国家的な課題に対してどのような枠組みでどのように解決すればいいのでしょうか。人の国際移動に限らず,今後の日本,アジアをつくっていくという視点で日本・アセアン関係について関心を持ち続けてほしいと思います。

山影進審査委員長<br> (青山学院大学国際政治経済学部教授)

(3)山影 進審査委員長 (青山学院大学国際政治経済学部教授)

 いくつか申し上げたいことがあります。
 一つはこの討論会,エントリーは44チームあって,実際に立論書を提出されたのは37チーム,その中で本日の4チームが本選出場です。いってみれば10倍の激しい競争の中,審査を勝ち抜いてきた,非常に優秀な4チームということです。ですから今日は一勝もしていない,準決勝で惜しくも敗れた2チームも当然,表彰の対象になります。そういう表彰に値する非常に優秀な,事前の調査を行ってきたチームだということです。
 たまたまですが,決勝では肯定側と否定側の立場が逆転することとなり,個人的には非常に 楽しみにしていました。どちらのチーム(聖心女子大学チーム,早稲田大学・河野ゼミチーム)も調べてきた材料,準決勝の時にはそれぞれ肯定,否定の立場で使った材料を,決勝では逆の立場で使うという難しいことを成し遂げ,将来,弁護士になったときには手ごわい人になるな,ということをひしひしと感じました。そういう意味では,きちんと調べたことを,いってみれば臨機応変に使って,自分の主張のサポートにするということはひとつの重要なテクニックでありますし,今後ともそういう技術を活用してもらいたいと思います。
 本日のテーマである日・アセアンの関係の強化とか労働力の受け入れというのは日本にとって非常に重要な問題であります。いってみれば立論の方法というか技術でありますけれども,書類選考の段階で,日本の社会の将来という立場からアセアンからの労働者の受け入れというのを論じたのが多かったのですが,勝ち残った4チームはいずれも,アセアンという東アジアのこれからの非常に広い地域的な制度を作っていく重要なパートナーですが,そのアセアンとの関係の中での労働者の受け入れ,広い意味では人の移動というのをどう考えるのか,という観点で思索されていました。討論会が終わったのでこのテーマも忘れる,ということではなく,非常に重要なテーマですので今後とも引き続き考えて下されば,私も東南アジアに関わった人間として大変うれしく思います。
 国際交流には,金,物,情報等いろいろありますが,人の移動というのはもっとも制度化が遅れている部分です。ご存じかも知れませんが,ヨーロッパではシェンゲン協定というものを策定して,人の移動を原則自由にしましたけれど,そういう事例は例外的であります。そういう中で,アセアンは今,着々と域内のそういうものを進めようとしています。
 私が最初にアセアンに行ったのは,聖心女子大チームが最後に触れておられました1977年の福田ドクトリン,その年に偶然,はじめて東南アジア,これもたまたまですけれど,当時のアセアン5カ国全部をぐるりと回って来まして,それから30年余り経過しています。その間,日本とアセアンの関係は大きく変わりました。そして,ちょうど10年前も日・アセアン交流年だったわけですけれど,10年前と比べても今日の日本とアセアンの関係というのは,はるかに深まっています。ということは今後10年ではどうなるか。その時には若い皆様がその中で責任のある立場,あるいは実際に日・アセアン関係を推し進める立場に就いておられるかもしれません。あるいは日本社会の中で,あるいは日本社会にいないかもしれませんけれど,グローバルコミニティの一員として,こういう国際問題を,言ってみれば友好と平和にどうやって繋げていくのか,というようなことを毎日考えるわけではないにしても,時々考える材料として,今日の討論会を思い出してくだされば嬉しいと思います。
 出場されたチームの皆さん,おめでとうございます。会場の皆様,お疲れ様でした。

4 意見交換会

 討論会の終了後,会場内にて審査委員と出場者の意見交換会を行いました。討論内容につい質疑,議論をはじめ,出場チーム同士での交歓など,終始和やかに有意義な意見交換ができました。

  
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