ラーメン二郎創設者、山田 拓美からのメッセージをお読み下さい。【前編】 | 以上、レポっす! ラーメン二郎

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昭和61年11月27日16時30分~17時30分
(質問者:齊藤滋久 回答者:二郎創設者 山田 拓美さん・奥さん)
ラーメン二郎にてインタビュー

じく:お名前からお願いします。
山田:山田です。

じく:いつごろこのお店を始められたんでしょう?
山田:もう、二十八くらいだったから、十五年くらいだな。でも前もやってたんだよ。

じく:ええ、都立大でやっていたと聞いていますけど。
山田:そうなんだ。都立大でやっていたんだけど、それが立退きになるんでさ。ほら、あそこに下宿しているじゃん、慶應の学生とかが。三田と日吉に便利だからさ。どうせやるならさ、日吉か三田に来いって言うんだけど、それで探しに来たんだよ。そうしたらちょうど運良く前の人がやめるって言うんでさ。だから最初は二つやってたんだよな。二つって言うか、向こうも立退きするんで。

じく:それで向こうを閉まって。
山田:それで向こうは立退きになっちゃってさ、探したんだけどなかなかなくてなあ。ある時はぱっとあるけどさ、いざ探してもなかなかないんだよ。

じく:じゃあ最初から慶應の学生とは縁が深かったというか。
山田:まあ、そうだな。

じく:では、ラーメン屋を始める前は何をやっていたんですか?
山田:日本料理の職人さん。

じく:じゃあ、どうしていきなりラーメンをやろうと?
山田:てっとり早く簡単にできると思ったんだよ。日本料理だと器買ったりと、何かと大変じゃない。都立大の最初の店な、おじさんが何か商売をやろうと思って借りたんだよ。そしたら二坪くらいしか無くて狭くてさ。でさ、俺にこんなところで何やったらいいか相談に来たから、俺がやるんだったら立ち食いのラーメン屋なんか駅の前だからいいんじゃないか?

じく:それでラーメン屋を。
山田:それでひょこっと言ったんだよ。そうしたら俺ラーメン作れないからやらねえって言うからさ、俺がやるよって。それでラーメン屋やっているんだよ。ラーメン屋なんて一回もやったことないからさ、それでラーメン屋やってさ、客が全然来ないわけだよ。ラーメン作ったことないんだからさ。食ったこともねえのにおまえ、あんなもの簡単にできると思ってさ。

じく:じゃあ、誰かに弟子入りしたとか教わったとかは無しで?
山田:それから店閉めてさ、しょうがないから。俺ラーメン作れないんだからさ。いくら始めたってさ客は来ないし。本当にしょうがねえから、駅の前だから夜やろうと思ってさ。それで昼間家賃くらいアルバイトで稼ごうと思ってさ、それで昼はラーメン屋へアルバイト行ったんだよ。ラーメン作り方習いにさ。

じく:習いっていうか盗みに?
山田:まあ、盗みにってこたあないけどな。それでさ三ヶ月くらいラーメン屋の見習いやっていたんだ。そこでラーメンの作り方覚えたからさ、それで普通のラーメン屋さんのラーメン始めたわけだよ。最初は見様見まねというか、俺職人だったから何でもできるじゃん、それで自己流でやったらさ、客が来ないんで、それでラーメン屋行って作り方教わってきて、そして普通のラーメン屋さんと同じラーメンを作ったわけだよ。そしたら客来ねえんだよ、相変わらず。それでやめちゃおうと思ってよ、だめだし。それで夜だから、十二時くらいから店閉めようと思ってさ、酒飲んでたんだよ。明日は店閉めちゃおうと思って。そしたらなんかあそこに雪印乳業の寮があったんだよな。なんていうか学生だけの、転勤があるからさ。

じく:社員寮というか?
山田:そうじゃなくて大学生だけの。

じく:あっ子供が、親が転勤で。
山田:そうそう。三十人くらいいたかな?そこの奴が麻雀終わって食べにきたんだな、駅前に。そしたらちょうど運良く流行っているラーメン屋が休みだったんだよ。それで俺んちに来たわけなんだよ。俺はもうラーメン作るの面倒くさいから、やだって言ったんだよ。もう閉めるんだから。そしたら俺達自分で作るって言うんだよ。だから俺も自分で作れって言って、そこに麺もスープもあるから自分で作って、おまえら北海道なんだからラーメンの専門家なんだから、俺よりうまいだろうから。自分で勝手に作って金置いていく気があったら置いてけって。俺あもう金なんかいらねえから、店閉めるんだから。そしたら雪印の奴等がラーメン作っているんだよ。それでこのスープはうまくねえだの、なんか文句たれてんだよ。ばかやろう、あはは、ふざけんじゃねえ、このやろうとか言ってさ。まあ、それでラーメン作ってさ、食ってさ、金払うって言うからさ、いいよ金なんか、どうせ俺が作ったんじゃないから。そしたらそんなこと悪いから払うって言うから、いいよ俺はそんなのいいよ、どうせ店閉めるんだから。まあ一杯飲んでけ、俺ももう飲んでるんだから。それで店で三時頃まで飲んでたんだよ。そしたら店やめるなよって言うんだよ。何でだって言うから、俺はもう客が来ねえから閉めるんだよって言ったら、そんなこと言うなよって言うんだよな。俺達が夜食いに来てやるからって、必ず雪印の寮には三十人くらいいるんだから学生がね。だから夜中の1時か2時くらいまでやれば、たいていどっかで麻雀やっているんだからさ、まずくても食いに来るよって言うんだよな。てめえら必ず来いよって言ったら、必ず来るって言うんだよ。それからなんだよ、雪印の奴等がきてさ・・・

じく:じゃあ今と全然味が違って。
山田:ちがう、ちがう。そこで雪印の奴が、おじさんラーメンうまくないよって言うんだよ、これじゃあ。もっと真面目にやれよって言うからさ、もういいんだよ店閉めんだからさって言ったら、そんなこと言うなよ、せっかくなんだから。それからだよ、俺が気合い入れて研究しだしたのは。はっはっはっはっ・・・

じく:それじゃあ、それまでは片手間にやっていたんですか?
山田:片手間って言うか、まあ、まだ二十四くらいだからな、欲もなかったじゃん。

じく:まあ、開けば客くらい来るだろうと、そのくらいに思っていたんですね。
山田:そうそうそう。駅の真ん前だったからな。そうだな、そう言われてみりゃあ駅の前でも流行んない店はあるわなあ。考えてみれば。
奥さん:うふふふ・・・

山田:それからだよ、練習してさ。雪印の奴が毎日食いに来てさ。もう俺は金いらねえって言ったんだよ。三ヶ月くらい俺も研究するから、おまえら実験材料だから金いらねえから毎日食いに来いって言ったらさ、そしたら毎日さ、雪印の奴等が食いに来るわけだよ。そして今日のスープはうまいだとか、まずいだとか能書き言うわけだよ。それからだな、研究してよ。それでさ、何か近所の年寄り夫婦のババアがさ、おそばのやっぱり配達しないんだよな。店売りだけで。店売りだけのラーメン屋がそばを売ってたんだよ。間口2間ぐらいでさ、なんか中華そばだけ売ってんだよな。それでそこのおそばがうまいんだよ、こういうそばでさ(二郎の麺を指して)。それで配達してくれるかって聞いたらさ、うちは配達はしないって言うんだよ。うちは店で作って売るだけでね、一日に三百なら三百作ってもう店閉めちゃうっていう、変な店だったんだよ。
奥さん:あはははは・・・

山田:それじゃ俺取りに来るからおばさん。これってさ高いんだよな。その頃でね、普通なら十二円位だったやつ、一個玉な。そのバアさんとこのは十五~六円したんだよ。高いんだよ、うまいかわりにな。それでうちはおそばがこれで、こう粉を使ってうまいけど高いから、あんた合わないからやめなさいって言われたけどさ。それでこのバアさんのそばを持ってきてやったら雪印の奴がさ、この麺はうまいって言うんだよ。この麺はうまいから少々高くても、一個につきおまえ、三円位だろ?だからまあ大きいもんなあ。十個売れば三十円で百個なら三百円になるもん。だけどうまいから麺はその人のにしたんだよ、高いけどな。毎日取りに行ってさ、五十なら五十、百なら百な、二百なら二百って、段々売れるようなったからな。そしたら向こうもな、愛情が出てくるからさ、そしたらラーメン屋のおじいちゃんがさ、普通のラーメン屋さんは塩入れるんだよ、醤油の中に。そしたらうちのおそばを使うんだったら塩入れるなって言うんだよ。俺も塩は入れねえ方がいいなって、今度塩抜いたんだよ醤油から。塩は全然入れなくしたの。で、やっぱり雪印の学生がうまいって言い出すのよ。そしたら今度は都立大の駅の真ん前でさヤクザがトウモロコシ売ってたんだよ。トウモロコシ売っているヤクザが、トウモロコシ売り切れるじゃん、でラーメン食いに来てたんだよ。それでヤー公がさ、このラーメンうまい、段々うまくなってきたって言うんだよ。で、俺が看板書いてきてやるよって、ヤー公が看板作ってきてくれたんだよ。ああゆう、ただのラーメンとかさ、大盛りとかさ(壁のメニューを指して)、ただのラーメンは安くてうまいとかなんとかって、こうやってやるんだよとか言ってさ。最初ラーメンってだけあったんだよ。そうしたら、看板ってのはダメなんだよ、ただのラーメンだけじゃあ。ただよりうまいラーメンとかね、そういうふうに書かなきゃダメなんだって言うからさ、そんな面倒くさいこと書かねえんだ、どうせ俺は店閉めるんだからって、ヤクザを脅かしてたんだよ俺は。どうせ店閉めるんだからどうでもいいんだって。そしたら、そんなこと言うなよ看板作ってきてやるからって。そうしてトウモロコシを売っているヤクザがさあ、全部作ってきてくれたんだ、ただのラーメンとかさ。

じく:これの原型ですね。(壁のメニューを見て)
山田:あと大盛りとかね。ラーメンだけ売ってたんじゃだめなんだって、卵をぽんと入れりゃあ卵入りになるんだから。その看板全部ヤー公が作ったんだよ、あの全部入りとか。
(注:当時は生卵入りの通称全部入りがありました)

じく:昔、僕が中等部の頃はここに張ってありましたが・・・(窓ガラスを指して)
山田:今は面倒くさいから、もう張らねえんだ。

じく:確か僕ちょうど十年前、中等部の頃食べたんですけど、あの頃確か失礼な言い方ですけど、流行っていなかったように思いますけど。
山田:まあ最初はしょうがねえよ!

じく:それが僕が塾高を経てしばらくして大学に戻ってくると、すごく混んでいるんですけど、あの頃とやっぱり味に決定的な差はあるんでしょうか?
山田:ないよ、同じだよ。

じく:同じですか?
山田:やっぱりなあ、で、うまいってことになればさ、これは絶対流行ると思っていたよ。あの頃だって自信はあったからな。それからスープにちょっとね変化を持たせて、で、こういうラーメンを作ったんだよ。そしたら今度はうまいって評判が出て。

じく:一度評判が立つと、
山田:うん、ほら、今はあんまり昼間だから来ないけど、昔はディックミネとか、東野英次郎とか、カルメンマキとか、あと坂本九とか、それからあのゲイボーイのはしりがいたわけだよ。あのなんだ?

じく:ピーターとか?
山田:ピーターの前で、まだねえ、。まあ、おかまちゃんのじゃなしにね、ゲイボーイのはしりが夜だから来たりなんかして、それでぱーっと口コミで宣伝してくれたわけだよ。あそこ夜やっているね、夜中やっている店が・・・

じく:ああ、その頃はまだ夜中やっていたわけですか?
山田:都立大の頃はな。で、口コミでぱーっと広がったわけだよ。そうしたらもう商売ってのは・・・。やっぱ今度忙しくなれば俺もいっしょうけんめいやるじゃん。ねっ、そうするともう流行っちゃうんだよ。そうしたらおばあちゃんとこのおそばを作っているおじいちゃんが死んじゃったんだよ。で、店閉めるって言うんだよな。店閉めるんだけど、二郎さんどうするって言うのよ。おそばさ、もうおじいちゃんが死んじゃったから、あたしゃ一人じゃできないから、店閉めるから、二郎ちゃんおそばの機械あげるって言うんだよ、俺に。うちにある機械だけどさ。おそばの機械あげるから、私がまだね身体が動くから、おそばの作り方教えてやるからって。

じく:じゃあ、ここの麺は自分で作っているんですか?
山田:うん、自分で作っているんだよ。で、ばあちゃんがさ、教えてくれたんだよ。あたしもね、どうせおじいさん死んじゃったしすぐ死ぬから、この世に何も残らないけど、せめて二郎さんがラーメン屋やってくれればね、うちのラーメンが残るから、教えてあげるからやんなさいって、機械くれたんだよ。そばの機械。

じく:なるほど。
山田:それでそばの機械くれてさ、粉屋も紹介してくれて。粉屋から全部紹介してくれたんだよ。それから俺は全然変えてないんだよ。儲かっても、儲かんなくてもさ。だから粉高えんだよ、俺っちの粉は。高いけどまあしょうがないもんな、今さらさ、安い粉使ってさ、儲けようと思ってもそうもいかねえだろ。これだけお客が並んじゃったらさあ。

じく:そうねんですよね。常連さんばっかりだから味を下手に変えられませんからねえ。
山田:だからね、この粉も違うんだよな。普通の粉っていうのはさ、混ぜるんだよ、三つぐらいな。いい粉を一としてさ、悪い粉を二ぐらいにして、どうしようもない粉を一とかさ。まあ、混ぜたほうがうまいって言う人もいるけどな。俺んちのは混ぜないからね。一番いいか悪いかは別にして、その粉だから。

じく:やっぱり鹹水(かんすい)は入れるんですか?
山田:入れるよ。でもそれだけだもん。鹹水だけだもん。あと防腐剤は入れねえし、夏はもたねえんだよ。だから俺んちのは売れ残っちゃうじゃない、売れ残っても混ぜて売るけどさ、捨てないけどやっぱり一晩あると違うもんなあ。酸化しちゃって、まあ悪くなったわけじゃないけどな。

じく:一度ここの麺がうまいから、探そうと思ったんですけど、どこ行ってもないんですよね。
山田:ないだろう!ないよ。だって俺しかねえって、自慢でも何でもないけど、そのばあちゃんに教わったの俺だけだもん。だからこの粉使ってさ、俺んちみたいに作ればよ、作れるけど。だって俺が教えてやらなけりゃ作れないじゃん。死んじゃったんだもん。

じく:うーん、なるほど。
山田:だから俺んちの機械なんてあれだよ、機械屋が、たまに機械が壊れるだろ一年に一ぺんぐらい。

じく:あはははは。
山田:機械屋が笑ってるもん。こんな機械無いって。すごい、よくこの機械・・・。

じく:よく動いていますねえって、感じですか?
山田:ラーメン作る機械なんてさ、そりゃ良いのはオートメーションでさ、もういくらでもあるけど。原理は同じなんだから。かき混ぜてローラーで巻くだけだからさ。あとなんていうの?機械がぐーっとやってくれるかの差でさ、人間がやるところがちょっと減るだけで、そんなにおまえ・・。粉を運んでくれて、ぱーっと入れて・・。

じく:自動になるか、ならないかの差で、基本的には変らないですよね。
山田:そう。水入れたり何かするのはさ、人間が入れるんだから。あとかき回してぽちんと、ぽんと落ちるとかさ、そんなところがね、良くなっただけでさ、基本的にローラーこう巻くのはよう、同じなんだから。俺はもう変えねえんだ、もう。

じく:なるほど。いやあ、吉祥寺に二郎ありますよねえ。
(注:当時吉祥寺二郎がオープンしたばかりでした。今と違ってまだまだ味の質も、評判も低くて、誰も並んでいませんでした。あくまで当時の話ですよ、成蹊大学の方ご免なさい)
山田:ありゃあ俺が教えてやったんだよ。

じく:でも決定的なのは、麺が違うんですよね。
山田:だからね、麺も同じ粉で、同じ作り方で教えてやったんだけど、あいつ粉変えたらしいよ。やっぱ、あわねえんだろうな。

じく:あそこ高いのに、麺がうまくないって。
山田:だからどうもねえ、ちょっとうちのお客が行って話したら、粉を変えましたって。何か混ぜてんじゃねえのか?いいのと、ちょっと落ちるやつを。

じく:やっぱりこの麺じゃないとうまくないんですよね。
山田:まあな、慣れてきたらな。

じく:慣れちゃうんですよね!
山田:はっはっはっはっ・・・

じく:慣れちゃうとこの麺じゃないとダメなんですよねえ。        
山田:慣れちゃうとな。なかなか無いからな。

じく:はい。
山田:ただ、俺んちが流行るってのはね、並ぶとね、みんな食ってみようと思うしね。わざわざお客が並んでるのを見ると、うまいみたいな感じがするんじゃないの?

じく:でも常連ばっかりじゃないですか?
山田:まあな!

じく:夏の暑い盛りでもちゃんと僕並びます。
山田:あはははは・・・。

じく:冬寒くても並んで食いたくなりますし。
山田:俺が食ってもまずいとは思わないけどな。うまいよな!

じく:やっぱり一日一回は食べるんですか?
山田:いや。一週間に一度はやっぱり必ず食べるな。やっぱり心配だから。

じく:じゃあ、今のラーメンブームについてどう思いますか?
山田:どうなんだろうなあ?

じく:ちょうど十年前に札幌ラーメンがブームになりましたよね。
山田:だめになっちゃったなあ。

じく:はい。あんなふうに去っちゃうんですかね?このブームも。
山田:そうだなあ?やっぱりそば自体も美味くなったからな。どうなんだろうなあ?

じく:まだちょっとわからないですか?
山田:でもちょっと無理があるよな、激辛とか何とかさ。

じく:あれは単なるブームだと思いますけど。
山田:だけどラーメンはラーメンだけで、俺んちみたいにばかみたいにやっているところはないよ!ギョウザでも何でもあるじゃん、今は。だって札幌ラーメンだって何でもあるだろう?

じく:でも、結構都内で流行っているラーメン屋さんを見ると、ラーメンだけなんですよね!
山田:なっ。

じく:はい。他をやると、こう、どうしても目が届かないというか・・・
山田:そうなんだろうな。

じく:ラーメンだけに集中しないと。
山田:だから、それは流行っているからだろう。まっ、流行っているからそれだけでやっているわけだよ。

じく:流行んなけりゃ、いろいろやらなければならない。
山田:流行んなければつまらないこと考えるわけだよ。だから吉祥寺もそのうちギョウザとか何とかやるんじゃないの?

じく:ははは、チャーハンとかですか?
山田:うん、そりゃあもうしょうがないもの。それが我慢できるかできないかは、自分の製品に自信があってさ、我慢できるかできないかだよ。俺がちゃんと教えたんだし、二郎はちゃんと流行っているんだから、それで成蹊大学があるんだからって、必ず来るから俺は二年頑張るって思ってさ、客が来なくても、うるせい俺んちのラーメンはうめえんだって、そういう気骨があれば来るんだよ、客なんか。でもそりゃあ無理だからなあ。俺は都立大でやった自信があるから、此処でねえ、客が来なくたっていずれは俺んちは流行るっていう気持ちがあったけど。都立大でさあ、朝のさあ、昼の十時だあ、夜中の十二時までやって十二個ぐらいしか売れなかったんだから。

じく:ああ、最初はですか?
山田:うん、それが半月くらい続いておまえ、我慢したんだから、悪いけど。それでやっぱり家賃が払えないんで昼間やめて、夜のほら、夜の四時くらいから昼間の店の家賃だけ稼いじゃえばさ、あとは残ったラーメンでさ、命はつながるからさ。
山田:終わっちゃったんだ、ごめーん。麺が無いんだスイマセーン!(客が入ってきて)
山田:俺はだから、今はもう此処立退きっていう話があるけど、どうってことないよ。立退いたって、どこへ行ったって。

じく:立退きって、ここですか?
山田:ここ道路が広くなるっていう話があるんだよ。大正何年から。

じく:昔からあって?
山田:それがまた最近ぶつぶつ言っているんだよな。俺はそのラーメンブームがどうなるかはわからないけど、俺はこの品物持っていけば、どこ行っても流行ると思うよ。

じく:そういう自信がある?
山田:それはな、あるよ。でもラーメンのブームがどうなるとかさ、そりゃわかんねえな!だって悪いけど。あそこの俵屋だってうめかねえぜー!

じく:ああ、元グリーンスポットのところですか?
(注:当時女子高や中等部生が使っていた喫茶店です。交番の先にありました)
山田:ああ、別に俺もさ、味を調べに行ったわけじゃないけどさ、食ってさ、びっくりするほどの味じゃねえもんなあ。

じく:結構山田さんは休日とか食べますか?
山田:食べねえ、食べねえ。前はな、まだ俺んち店が暇なころよ、ここが開店したばっかりの頃な。

じく:今はもうこのラーメンしかない、という自信があるから。
山田:自信があるっていうか、もうダメなりゃ、やめちゃえばいいんだからさ。

じく:じゃ、もう他のラーメンは食べたりはしないと。
山田:別に食いてえとも思わねえなあ。焼きそばは食いてえと思うけどなあ。

じく:ああ、なるほど。
山田:いや、俺んちのは美味いと思うよ!

じく:じゃあずばり、流行っている秘密は美味さと安さですか?
山田:あと、ブームって事だけど・・・

じく:まあ、ラーメンブームとなる前から流行ってますからね。
山田:うん。

じく:やっぱり、味と安さですかねえ。
山田:味しかねえだろうなあ!味が変わっているだろう?

じく:ええ、この味好きです。
山田:嫌いなやつはもうだめだもんな。

じく:そうなんですよね、一回食ってダメになるか。
山田:そうそう。

じく:病みつきになるか。
山田:ははは、だからそれはしょうがねえよな。来ないやつは絶対来ねえもんな。

じく:そうですね、来るやつは寒くても、暑くても並びますからね。
山田:だから、うちの場合はそうだよな。そんだけまあ極端な味なのかもしれないよな。だから普通のさあ、ラーメンやって、それじゃあ商売になんないと思うからみんな、ほら、美味いかまずいかわかんないような、ラーメン売っているわけだろう?

じく:はい、万人受けするような。
山田:ふーん。だけど俺んちのは、よくわからねえなあ。まあ安さが特徴だろうな。

じく:でも、五百円出しても皆食べに来ると思いますけどね。
山田:まあ、来ると思うな、俺も。今、小ダブルが三百五十円だろ、四百五十円、五百五十円でもバンバン売れるな、と思うよ。
(注:昭和61年当時はただのラーメンが二百五十円、大が二百八十円、豚が五十円増し、ダブルが百円増しでした。つまり小ダブルが三百五十円でした)

じく:と、僕も思います。
山田:しょうがねーよ。

じく:一日何食ぐらいでるんですか?
山田:今どれくらいだろうな?やっぱり三百ぐらい出るかな。

じく:三百ぐらいですか。
山田:うん、そうだろうな。二百円上げても来るだろうな。よく言うもんな、上げろって。なかなかそうはいかねーよ。

じく:はあ、今まで安かったですからね。いきなり上げられませんからね。
山田:まあ上げたってかまわねーけど。だけど、まあ、可哀想だからな。わかんねーな、あそこで、なんかホームランとか、なんとか軒とかいうのが、ハッピーじゃなしに・・・何だっけ?

じく:ホープ軒ですか?
山田:ホープ軒がうちのと同じで美味いって言ってたよ。
(注:当時は今のような九州豚骨ラーメンなんかはまだなくて、脂こってりのラーメンといえば通称環七ラーメンの土佐っ子か千駄ケ谷ホープ軒が有名でした。)

じく:いや、味全然違いますよ。
山田そうなの、脂濃くって・・なんか

じく:脂っこいのは同じですけど。味全然違います。
山田:あそこも美味いって言ってたよ。

じく:美味いことは美味いですけど。やっぱ、ここが一番だと僕は思いますよ。なんか知らないけど。
山田:あははは、だから、しょーがねーよな。

じく:なんかこう、病みつきになる味なんですよね。
山田:なんか、十年くらい前にさあ、交換留学生でさ、アメリカの夏休み来るじゃない、ほら。あれで、やっぱり、すぐそこの裏の寺のところでさ、下宿している学生のところへね、スタンフォード大学学生が、交換留学できたんだけど。おばあちゃんが病気かなんかで入院しちゃってさ。部屋を貸している奴が、田舎へ帰っちゃってさ、アメリカ人一人だけ残されちゃったわけだよ。その学生が俺んちのラーメンよく食いに来ててさ。で、来てたんだよ。で、夏でまだ暇だったから、まだ十何年前だから。と、おじさんこいつ頼むよ、俺田舎帰るけど、まだ一ヶ月ぐらい日本にいるからってさ。で、漢字は読めないけど、日本語しゃべれたんだよ。で、あっちこっち見て、夜になると来るんだよ。夕方五時ぐらいになるとさ。二郎さん、ラーメン作って、とか言ってさ。それで嫁さんもらって、子供ができなくってね、今来てるんだよ。新婚旅行でもないけど、子供作り旅行でさ。昨日、ひょこっと顔出してさ。明日一杯飲むんだけどな。ラーメン食ってさ、そいつも言ってたよ。日本旅行してさ、どこ行ってもラーメン食うんだって。でも二郎さんのラーメン日本一おいしいってさ。外人がさ、あはは、笑っちゃうよ。あと、変なのいたな。なんだ、サモア諸島のよ、なんか来てたんだよな、交換留学生で。顔の真っ黒いやつでよ、やっぱりうまいってな。どこのやつよりおいしいって。また、大使館で来たら食べに来るって言ってたな。だから、俺んちは麺も自分ちで作っているし、そういう事情でね、手抜きって言っちゃあ語弊があるけど、ほら、してないし、麺の量も多いだろう。

じく:はい、一番多いです。
山田:量も多いだろう。だから醤油にさ、塩入れてないの、全然。だから食べた後の口当たりがそんなに、まあ、日本料理の関係でな。塩入れるとどうしても食べた後に口ん中に塩辛さが残るけどさ。それがないんだよな。まあ、強いて言えばあと、スープは三百六十五日同じだからね。もう、夏は店三日休むときは、ずーっと煮詰めてさ、こっちのちっちゃいやつに入れてさ、冷蔵庫に入れとくんだからさ。朝来るとね、スープの中のね、骨とかごみとか全部出してね。まあ、汚くねーからな、手突っ込んでさ。きれいに掃除して、で、新しい骨とか焼き豚ぶち込んで。だからこれは三百六十五日同じスープよ。

じく:そうなんですか。
山田:だから新しくスープ作るってことは無いわけね。

じく:じゃあ、もう十年前のスープの一部が入っていることになるわけですね。
山田:そう、そうなるな。だからこれが、

じく:じゃあ、これ泥棒が入って盗まれちゃったら、困っちゃいますね。
山田:でも、まあ二日位かかればまた出来るからな。ちょっと二時間や三時間じゃ出来ないな。こんなわずかな量だけど。なんて言うのかな、コクって事はないんだろうけど。

じく:僕、結構ラーメン作るの好きなんで、よくうちでラーメン試すんですけど、なかなか、ここの味が出ないんですよね。
山田:なかなかな。そう簡単に出てもらっちゃよ。

じく:あと、タレも味が不思議なんですよね。
山田:麺だろうな、やっぱり。この前なんか、アーチェリーのやつが、女の子食べに来るのが恥ずかしいから、俺に焼き豚と全部作り方おじさん教えてって言うからさ。全部教えてやって、おそば貰っていいって言うからさ、そばやったんだよ。で、こういうふうに作って、こういうこういうふうに作って、で、焼き豚もやろうかって言ったら、焼き豚作ってみるって言うんだよ。そしたら食べちゃおいしいけど、やっぱり違うって言ってたよ。残ったやつを湯がいて焼きそばにしろって言ったの。何も入れなくていいから、胡椒と野菜ちょっと刻んでね、椎茸でもタマネギでも。それでソースと胡椒だけ入れれば焼きそばになるから。残ったらってね。そしたら焼きそばにしたら美味かったって言ってたよ。俺んちのそば、美味いよこれ。

じく:そうですね、ちょっとラーメンっぽくないんですよね。
山田:そうな、ちょっとな。

じく:なんかちょっと、一見太くてウドンっぽいっていうか。
山田:やっぱり、慶應の相撲部のやつがさ、味の素入って、味の素フェアっていうの?五反田の卸売センターでやったんだよ。で、その時なんかやるって言うんでさ、味の素のスープの素ってのが全然売れないんだってさ。今、味の素で全然。それを生かすためにおじさんちのラーメンの作り方教えてくれよ、俺やるからって言うから。どうするんだよって言ったら、俺もいろいろ食ったけど、おじさんとこのラーメン一番美味いから、作り方教えてくれって言うから、スープ持って来いって言ったの。スープの素を。で、スープの素持ってこさせてさ、そこで作ってさ、味の素のスープの素と混ぜて、ちょっと混ぜてな、鳥の骨と豚の骨を混ぜてさ。で、作ってこうやってやるんだって教えてやったんだよ。で、麺はどうするっていうから、スーパーで買うって言うから。じゃあスーパーの麺買ってこいって言ってさ、で、スーパーの麺と俺んちの麺と両方食わせたら、ダメだって言うんだよ、スーパーの麺じゃさ。で、しょうがなくてさ、一つの麺をさ、一人三分の一ぐらいの量にして。冷凍食品から何からいっぱいあるからさ、ラーメンだけで腹いっぱいになられたら困るじゃん。いろいろ食ってもらわなくちゃ。じゃあおじさん、このラーメンの麺をさ、一人三分の一ぐらいでやるからって言うからさ、じゃあ、俺作ってやるからって、一応数だけ百個作ってやるから。そしたら三百人前になるからね。三百人前になったらやめちゃえって。で、三百人前でスープが薄くなったら、なんか売ってるんだよなラードみたいなスープの素ってのさ。これを五十人前で一袋使って、だからそういうふうにやってみろって。やったらさ、すげえ好評なんだってさ。で、スープが好評なのかと思ったらさ、麺が美味い、麺が美味いってさ。