第三話
「うおー、本当に承諾書」
そう、この承諾書が無いと万が一事故が起きた場合同乗者に保険が下りない。それだけ特殊な乗り物なのだ。順一は感心する。
「では、これもお読みください。日本の上空は3500m以上飛ばせない場所もあります。お客様のご要望にお応えできない場合があります」
「なにこれ?」
足立啓介は
「『横田空域』って言うんだ。僕も空飛ぶドローンがマイカーになってから知って驚いた」
そう、日本の空の「戦後」は終わってなんかいない。
「まあ。ヘリはここ3500m以上まで上空を飛ぶことはめったにないがな」
父が捕捉する。
「えっ? これって日本人の民間飛行機は進入禁止って事?」
「そうだ。それとヘリではあまりないが本当は航空機って英語でのやりとりもある。だから東京湾に迂回することもあるから」
そう、ここが父の凄いところ。父は英語でもやり取りできる。本当はそんなんじゃ空飛ぶドローンなんて普及しないと思うけど。
★
「すげえ! 本当に空飛んでる!! 報道カメラマンみたい!」
足立啓介がはしゃぐ。本当は上空ではしゃぐのはNGなんだがまあ見逃そう。シートベルト付けてるし。
「だろ?」
土曜日の朝。二家族に手を振りながら地上にお別れする。
「本当に30分で静岡県からお台場に行くんだろうな?」
「行くよ。空に制限速度は、ないんだ」
そう、このドローン。新幹線並みに速い。というか遮るものが無いから直線距離で移動できる。しかも東海道新幹線は新横浜駅以降東京駅まで騒音規制によって減速運転を強いられるのでこちらの方が断然早いのだ。
そして空から見る日本は……本当に僕たちは小さい存在だったことを思い知らされる。山を抜けたとたん日本フイルムの工場群が見える。関東に入った証拠だ。海沿いに15両もつないで走る東海道線がミニチュアに見えるくらいに。15編成の電車をさっと追い抜くと相模川をまるで小川のように超える。すると父の勤務先も見えて来る。MM21だ。ここまでたったの20分。もうお台場のシルエットが見えて来る。
お台場のヘリポートに着地するとすぐに乗用車モードにチェンジする。ちなみに父の会社持ちでヘリポート着地使用料タダである。ここお台場と横浜本社のヘリポートに限り。正規料金でヘリを使おうものなら片道8万円する。そりゃこんな金額じゃヘリポートバスなんていくら驚愕の速さでもほとんどの人は使わないよな。在来線特急使うわ。
そして、本当に銀座に着いた。遠いはずの東京都。なのに都民感覚で車を走らせて銀座に着いた。パーキングに急速充電機を刺し込む。なんてお手軽なんだ。3人は家族で銀座のデパートのレストラン街で中華店を選んだ。
食事中、足立は意外なことを言った。
「実はさー、2年下の後輩に車いすの家庭が居るんだけど、その子を乗せることは出来ない?」
「出来るよ? 助手席は車いす対応だ。この車は福祉車両でもある。高齢者のためにも作られた。が、本当は高齢者用だ。それと心臓とか疾患は持ってないよな?」
うそ、父よ。そんなことまで出来るのか? ってか福祉車両って何だよ!? ってか足立よ。本当はその子のために試乗したのか? というかたまに車いすの子と登下校していたな。 まさかあの子?? 坂本さん?
そして本当に都民感覚でお台場で遊び帰りももちろん約30分で帰宅した。下手な23区在住民よりも都会生活可能である。
まあ、ヘリポート代を払えたなら。
「すげえ、本当に都民みたいな生活できるんだな」
「だろ?」
そう、もう静岡県民とは思えない生活だ。というか逆も出来るんじゃね? あ、ダメか。愛知県はオヤジの勤務先の最大のライバル三河自動車の本社と関連企業の巣なのだ。名古屋なんて口が裂けても言えない。忘れよう。
「本当に君、坂本さんとその家族を呼ぶの?」
「うん、会ってみたいって言ってる。体験談はちゃんと本人に話すぜ」
お台場で遊んだ後三人はヘリポートで静岡に向かう。本当に「テレポート」感覚で静岡に帰った。東京テレポートという地名にある意味嘘はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます