第一話

「マジかよ、本当に普通の車として機能してるんだね」


「そうだ、驚いたか?」


想像していた以上にコックピットにボタン類が少ない。そして本当に普通の車のAT車だ。どこにでもあるシフトレバー。電動パーキング。


そして家に戻って来てモードチェンジボタンを押した。


すると4枚のブレードがせり出した。

ボタンを押すとブレード回る。


「じゃ、アウトレットモール行きまーす。シートベルト着用お願いします」


(いきまーす、じゃねえよ)


意外なことにすっと空に飛んだ。本当に静かだ。ハンドルは操縦かんとなった。


「どうだ、いつも地上を見てる光景とは違うだろ。明日からお父さんリモートワーク以外はこのドローンで通勤だ」


いつも渋滞するモールに通じる道。だがドローンには無関係だ。ご丁寧にもアウトレットモールにも『H』マークがついていた。なんとたったの5分で着いた。僕たちはここでも報道陣に囲まれた。父は急速充電機にプラグインする。


「どうですか!? 乗りこごちは?」


「なかなかですね。SUVタイプとしては大衆車と同じ感覚です」


「ぼく、飛行は楽しかった?」


(やべっ、来たっ!)


マイクを向けられる自分。もちろん、TVカメラに新聞社のカメラも、だ。


「はい、楽しかったです」


嘘をついてしまった。


「今後のこの車の使い道はいかがでしょうか?」


「今後普通自動車2種免許と事業用操縦士免許、ドローン免許の3種を持っていればドロンタクシーとして使えますし、今後私はこの富士山市から横浜市まで30分の通勤と世界が変わります。実に4分1の通勤時間となります。たった今この瞬間……新しいモータリゼーションの時代がやって来たのです」


「今後の課題は?」


「強風対策とこの電線だらけの光景ですね。ゆえに一般の住宅地では電線が邪魔して降りられません」


気が気でなかった。明日の学校で僕はなんて言われてしまうのだろうか……。僕の顔はこうして全国ネットで放映されてしまった。


「では我が家は買い物に行きますので」


父の言葉と共に店長は「はい、取材はここまでです。お客様を追わないようにお願いします」と宣言する。さすがに店内には追いかけてこないようだ。


「お父さん、僕たち日常取り戻せるの?」


「大丈夫だ。今の日本が遅れてると思いなさい。非常識はいつか常識になる」


「いじめられたら、即で学校から逃げなさい。個別指導塾代なら払ってあげる。だってあなたを巻き込んでるんだもん」


母さん……。


「お前には一杯迷惑をかけていることは自覚している。だから親としての愛を全面的に出す。だから受け止めてくれ。お金だけでも義務でもねえぞ。あと……仕事だから、じゃねえぞ。お前にはどうしても「空」を見せたかった」


空……。


「僕たちは自由になりたいんだ。いろんな意味でな」


自由……ね。


「それとお前もサインしたけどドローン兼用乗用車とはいえ法律上は「ヘリ」だ。ヘリである以上めったにないが墜落事故もある。だが……そんなことは絶対にさせない。だけど飛んでる時に危険を感じたらすぐ言えよ? 機械に絶対はない。パラシュートで脱出するんだし」


「保険代、滅茶苦茶かかるらしいわ。会社持ちとは言え」


そう、それだけリスクのある乗り物だという事だ。ヘリ並みに。


僕らの生活は空飛ぶドローンで一変してしまった。

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