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「ブツは西海岸に送った」中国企業が原料供給 米で麻薬死急増の背景

毎日新聞 / 2023年7月21日 6時0分

コカイン(左)とコカの葉=国連薬物犯罪事務所(UNODC)で2014年1月19日、会川晴之撮影

 麻薬による死者が米国で急増している。ケシの実やコカの葉から作る「ヘロイン」や「コカイン」など天然由来の麻薬に加え、化学物質で作る合成麻薬「フェンタニル」の流通量が急激に伸びているのが背景の一つだ。原料は中国が供給しており、対立が続く米中の火だねともなっている。麻薬の最新事情を報告する。

2ミリグラムであの世に「飛ぶ」

 「私は米国で(麻薬の)フェンタニルを製造している業者だ」

 米司法省の報道資料によると、米麻薬取締局(DEA)は2022年11月、おとり捜査に着手。ウェブサイトに堂々とフェンタニルの原料を製造・販売中と記す「湖北アバメル・バイオテック」に、捜査官が暗号付きのメッセージを送った。中国の湖北省武漢市に本社を置く化学メーカーだ。

 フェンタニルは1960年に開発された麻薬性鎮痛剤。手術時の麻酔など医療用に使われてきた。ヘロインより50倍も効き目が強く、価格は安い。12年ごろから麻薬として使われ始める。

 致死量は、塩ひとつまみ(0・5グラム)の250分の1にあたる2ミリグラム。誤って過剰に摂取すれば「気持ちよい」世界ではなく、確実にあの世に「飛ぶ」。米国での死者は、21年には年間約7万人に達した。

 DEAの捜査官は23年1月、手始めに中国企業に合成麻薬の原料約3キロを注文し、米国に取り寄せた。さらに捜査継続のためタイの首都バンコクでの会合を提案する。相手の歓心を買おうと手付金約5000ドル(約70万円)を仮想通貨(暗号資産)で前払いした。

 2カ月後の3月23日、両者はバンコクで初の密会を果たす。この会合で、中国企業は「1トンでも2トンでも供給が可能」と大型取引を働きかける。捜査官は米国に帰国後、210キロを注文、残りの代金約4万ドルを仮想通貨で支払った。

 「安全を期してブツは西海岸に送った」

 4月末、そんなメッセージが中国企業から届いた。米司法当局はこの直前、フェンタニルを米国で密売したメキシコの麻薬組織と、原料を提供した中国企業をニューヨークで摘発した。中国企業はこうした動きを警戒、「ブツ」の送り先をニューヨークからロサンゼルスに変更した。捜査官は5月5日、ロスの倉庫でブツを回収し分析に回す。予想通り、フェンタニルの原料が検出された。

 証拠はそろった。捜査官は中国企業に南太平洋のリゾート地・フィジーでの密会を打診する。エサは「1トンを超す大型取引」。引き寄せられるように中国企業のトップと部下の2人がフィジーに向かった。2人は現地当局に身柄を拘束された後、6月8日に米当局に引き渡された。

麻薬は「強力な大量破壊兵器」

 摘発された中国企業は、米国の人口を上回る3億5000万人分の致死量に相当するフェンタニルの原料3トンを「毎月供給できる」と捜査官に話した。ある意味、麻薬は化学兵器、それも強力な大量破壊兵器と言える。中国には、こんな危ないビジネスに手を染める会社が100社前後あると言われる。

 試しにネットで探すと簡単に見つかる。中国山西省太原市の化学企業のウェブサイトには、今回の事件で取引されたフェンタニルの原料「1-boc-4 piperidone」を販売中と宣伝、フェデックスやDHLなどの国際輸送サービスを使い、米国や欧州など「世界どこにでも届ける」とうたう。【専門編集委員・会川晴之】

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