狂気の産物   作:ピト

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第7話

------司波家

 

 司波家に到着してから時計の長い針が一周したぐらいに、三人は揃って食卓につく。

 

 「尽夜さん、簡単なものですみません。今度いらしていただいたときはもっと腕によりをかけて作りますからね」

 

 深雪が作ったのは、(さわら)の照り焼きがメインの和食だった。

 深雪は簡単なものと謙遜しているが、見た目は鮮やかで、炊かれた米は柔らかいが程よく硬く、味噌汁は短い調理時間ながらしっかりとした出汁の味わいが感じられるものであった。料理を日常的に作り、更に作るという行為に満足するのではなく己の研鑽(けんさん)を怠ることのない人物のみが辿り着けるほどの味わい。

 外食が勿体無く感じられる程深雪の腕は申し分ない。

 

 「いや、この食事も十分美味しいよ。深雪以外の作る料理が霞んでしまうよ」

 

 お世辞抜きに言う尽夜の言葉に、『ほんとうにそうなればいいのに…』と望み、更に研鑽を決意する。

 

 「尽夜。それで今日来たのは?」

 

 達也が二人の会話を見計らって、本題を促した。

 

 「九校戦にちょっかい掛けてくるかもしれない奴らについて知りたいかと思ってな」

 

 達也は警戒のレベルを一気に最大限まで引き上げた。

 

 「情報は確かなのか?」

 「昼はああ言ったけど実際はほぼ確実」

 「本家からか?」

 「そうだよ」

 「なぜ十師族の2人に話さなかった?」

 「さあ?なんでだろうね?」

 

 『知らない』と言葉には出すが顔は薄ら笑みを浮かべているため、とても信じられるものではなかった。

 

 「なぜ俺には話すんだ?」

 「ん〜もし何かあったら達也と片付ける方が早いし、知らせた方が確実に深雪を守れると思うからな。それに国防軍は恐らく掴んでいるからその動向も知りたいのが理由かな?」

 

 もっともらしい理由をつらつらと並べる尽夜。彼があまりにも自然的に話すことが遂には達也に奥底の本当の理由については見抜くことは叶わなかった。

 達也がしばらく口を閉ざす。

 無音の音楽が空間に緊張をもたらしていた。

 

 「『無頭竜(ノーヘッドドラゴン)』だよ」

 

 尽夜が口を開く。そして1つのある組織の名前を口にする。

 

 「なに!?国際犯罪シンジゲートか!?」

 

 たかが高校生の対抗戦に手を出すのか?と疑った達也だがその考えはすぐに改めた。高校生といえども魔法師の卵、それにその大会にはその世代のトップクラスが集結するのだ。テロを仕掛ければこの国の人材面は大きく打撃を受けることになるだろう。

 

 「そいつらは九校戦で友好的な犯罪シンジゲートと賭けをしてるそうだ。だから何かしらの外的工作が入るかもしれない」

 

 「この事は叔母上は?」

 

 達也は真夜が今現在、どのような判断を下しているかが気になった。ここまで掴んでいるなら九校戦前に片付けることも容易なのではないかと考えたのだ。

 

 「一任された」

 

 達也はその一言に驚く。

 四葉家にとって真夜の判断は四葉全体の判断となる。当主という以上その判断にはおぞましい程の重圧がかかる。時には四葉のすべてがかかってくるのだ。それを目の前の男、尽夜に一任したということは、彼の判断によってよって四葉が動くということに他ならない。いわば当主代理のような存在。

 

 (叔母上はやはり、尽夜を据えられるおつもりなのか)

 

 達也は深読みせずにはいられなかった。

 しかし不自然に会話を途切れさす訳にはいかない。

 

 「どうするつもりなんだ?」

 

 気持ちを切り替え、話を達也が促す。

 

 「手を出してくるなら対処するけど、たかが賭け事如きで手を出す必要はないと思う。だから、その時に判断するよ」

 「そうか…」

 

 呆気なく、その話題はそこで切れた。

 再び沈黙が訪れる部屋で今まで心配そうに二人を黙って見守っていた深雪が空気を変えようとする。

 

 「お兄様、尽夜さん。そろそろ一息入れませんか?」

 

 横からの助け舟に二人も緊張が解けて、それに乗る。後は何気ない日常の会話に戻った。

 

 「尽夜さん、今日はこのまま泊まっていかれますか?」

 

 気づけば時計の針は2つとも真上に揃おうとしていた。

 

 「いや、申し訳ないから帰るよ」

 

 深雪の提案に尽夜はやんわりと断りを入れる。

 

 「いや、今日は泊まっていってくれ」

 

 だが意外にも尽夜を引き留めたのは達也だった。その事に驚き、この兄妹でなければ気づかないほどの所作で動揺した。

 

 「お前に見せたいものがある。1時間ほどしたら深雪と一緒に地下室に来てくれ」

 

 達也は言うがいなや食卓を後にした。

 達也が部屋を出て、少しフリーズしていた彼に深雪は話しかける。

 

 「尽夜さん、お風呂が既に湧いてるので入っていらして下さい」

 

 深雪の声に硬直は消えて、対応する。

 

 「いや、深雪が先に入ってくれ」

 「いえ、尽夜さんはお客様なのです。私はその間にお召し物とお布団をご用意しますから」

 

 言い放って深雪もそそくさと部屋を出てしまう。

 一人残された尽夜は風呂に入る以外することが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------地下室

 

 尽夜と深雪が予定通りの時間に地下室へ入ると、そこには宙に浮いて瞑想(めいそう)する達也の姿があった。

 入って来た2人は、文字通り目を見開き、言葉が出なかった。

 

 「今日は二人にもこのデバイスを試して欲しい」

 

 抑揚のない口調でしゃべる達也の声が現実に引き戻す。

 

 「………飛行術式……常駐型重力制御魔法が完成したのですね!」

 

 深雪が達也に駆け寄り、完成を上げる。

 

 「おめでとうございます!お兄様!」

 

 加速・加重系統によって現代魔法が確立してまだ間もない頃から重力制御魔法が論理的には可能とされていたが、長年可能にできる者は出てこなかった。

 今日までは。

 

 「お兄様はまたしても不可能を可能にされました!深雪は歴史的快挙の証人になれたことを誇りに思います!」

 「深雪、ありがとう」

 

 興奮冷めやらぬ深雪に達也はテストを提案する。

 デバイスを受け取った彼女は、喜々として広い空間へと躍り出て行った。

 

 「達也、おめでとう」

 

 深雪に遅れて尽夜も達也を褒め称えた。

 

 「流石は天下のトーラス・シルバー様だな」

 「ありがとう。お前も後で試してくれよ」

 「もちろんだ。明日は寝不足が確定している」

 

 尽夜の冗談を境に2人は、楽しそうに宙を舞う深雪を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------四葉本家

 

 旧長野県と旧山梨県の県境に位置する盆地の中の小さな村。

 山々に囲まれたこの村は日本国国土地理院作製の地図にも乗っておらず、軍や高官にも認識できている者は極僅かである。

 ある一軒の住宅の一室で妖艶な雰囲気を纏う女性が外を眺めながら紅茶を嗜んでいた。

 

 後ろに控える初老に見える男性は、空気の如く佇み、無言のまま女性に目を向けている。

 

 「葉山さん。今回の判断はどう思われるかしら?」

 

 優雅にティーカップを口に運びながら、この部屋の主、四葉真夜は後ろに向かずに声を掛ける。

 

 「この老いぼれが愚考いたしますには、分家の御当主の方々にはより一層次期当主が尽夜様なのだと思わせる材料になったかと存じます」

 

 真夜は椅子に先程よりも深く腰掛け、はぁっと息を吐く。

 

 「……………そうね」

 

 意味ありげな首肯に葉山は疑問を持つが真夜の醸し出す雰囲気から尋ねる愚行は避けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----8月1日

 

 九校戦出発日。

 大会を前々日に控えたこの日、東京の西外れにある第一高校では選手、作戦スタッフとエンジニアを乗せた3台のバスが出発の準備を整えていた。

 バスの脇には男女が一組立っている。

 

 「渡辺先輩は中にいていいんですよ?」

 

 尽夜は日傘の下にいる摩利に乗車を勧めた。

 

 「いいんだ。後輩を一人ぼっちで待機させておくのは忍びないだろう?」

 

 摩利は、顔を申し訳なさそうに拒否した。

 現在、出発の準備は整っているのだが真由美が今朝に急な用事が入ったために遅れているのだ。

 十師族、七草家の長女である彼女は家の用事を(ないがし)ろにはできない。跡取りではないものの一族の直系としてどうしてもやらなければいけない事はでてくる。

 真由美は先に行ってもらうことを提案したが3年生が待つことを選択したため今に至っている。

 

 「先程までは達也がいましたが?」

 

 尽夜は達也がいる作戦スタッフとエンジニアがいる車両に目を向ける。

 

 「30分以上前の話だろう?」

 

 事実、達也はこの場に自分と同じで点呼の役目を担っていたが、技術スタッフとして移動中にしたい事がある的な事を話題に出してしまい尽夜が車両に説得して行かせたのだ。

 

 「ごめんなさ〜い!」

 

 遅れること1時間20分、リストに最後のチェックをいれる。

 

 「遅いぞ真由美」

 「ごめんごめん」

 

 真由美と摩利は言葉をかわしながらバスへと乗り込んで行く。

 尽夜はそれを見ていると真由美が振り返った。申し訳なさそうに真由美が話しかける。

 

 「尽夜君、私一人のためにごめんなさいね」

 「いえ、事情はお聞きしてますので」

 「暑かったでしょう?」

 「朝の内ですし問題ありません」

 

 2、3言話すと真由美は向日葵(ひまわり)のような笑顔を浮かべ、申し訳なさを消した。

 

 「ところで、どうかな?」

 

 彼女は尽夜に良く見えるように気取ったポーズをした。

 彼女が着ているのはサマードレス。尋ねているのはこの事だ。尽夜は履き違えたりも誤答をする事もない。表情を変えずに最適解を出す。

 

 「とてもよくお似合いですよ」

 

 抑揚のない言葉に真由美は尽夜の予想と違いムスッとした。

 

 「もうちょっと感情を込めてくれてもいいじゃない…」

 

 両手を絡め、上目遣いで彼にすり寄る。

 

 「それはまたの機会にしましょう」

 

 尽夜の逃げと思える選択に更にムッとなる。

 

 「どうして?」

 「見渡してください」

 「???」

 

 不思議に思い、真由美があたりを見渡すとバスの乗員全員がこちらを見ていた。深雪の周りの女子達はブランケットを体に巻きつけてブルブルしている。

 認識した真由美はカァ〜っと顔を赤くし、しずしずと乗車して行く。

 

 尽夜が最後に乗車すると深雪の隣に座った。座席はひんやりしており、炎天下の中待ち続けた彼は心地よく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----道中

 

 始めのうちは心地良く感じた冷気もずっと続けばそうではなくなる。それは彼をピンポイントに当てていた。

 

 「深雪、いつまでかな??」

 

 流石に我慢がしんどくなってきた尽夜は出発してから隣に座っているのに一言も喋らない深雪に声をかけた。

 

 「ご自分の胸にお聞きください」

 

 彼女はプイッと可愛らしく顔を背けた。

 しかし尽夜には今回に関しては心当たりが無かった。

 

 「ごめんよ、深雪。なにかやらかしてしまったか?どうすれば許してくれる?」

 

 結局直接聞くしか方法はなかった。

 

 「でしたら肩を「危ない!」…え?」

 

 会話の途中で叫び声があがった。

 その声に全員がその方向へと向く。そこには対向車線から傾いた大型トラックが徐々にこちら側へと倒れてくる。

 前方にいた車輌に激突し、炎を上げる。

 次々と車両がぶつかる中でバスは急停止し、全員がつんのめる。

 しかし、トラックは止まる気配がない。

 

 「吹っ飛べ!」

 「止まって!」

 「消えろ!」

 

 パニック状態にならなかったのは褒められるべきだが、大人数が魔法を使用したために事象の混乱が起こり発動しない。

 これにいち早く気づいた摩利は、叫んだ。

 

 「辞めろ!」

 

 次の瞬間、事象の混乱がすべて吹き飛んだ。

 目を丸くする生徒たちに1人新たに喋るものが出てきた。

 

 「十文字先輩、トラックを。深雪は火を消してくれ」

 

 尽夜がそれぞれに指示を出す。指示を出された生徒以外は見守ることしかできなかった。

 結果トラックは一高のバスにぶつかる事なく止まった。

 

 「みんな無事?」

 

 真由美は全体を見渡し、確認を取る。

 全員が無事だったことを分かった後は、それぞれに声をかけた。

 

 「十文字君、深雪さん、ありがとう。尽夜君もね」

 

 尽夜のした事は指示を出した事と事象の混乱を沈めたことだ。この車内の人ではこれを成し得たのは彼のみである。

 彼が混乱を(しず)めた方法は実に簡単で、力技だった。事象の混乱になる原因の情報体を全て整地するだけの干渉力でその場を整理するという事のみ。圧倒的な想子量(サイオンりょう)がなければ成功しない手であった。

 

 「会長。一人忘れてますよ」

 

 尽夜は真由美がまだ影の功労者に気付いていなかったので、助言する。

 

 「えっ?」

 「市原先輩ですよ。バスが停止する時に今の場所までに止めるのを手助けしたのは」

 

 バッと鈴音の方を見る。

 

 「そうなの?リンちゃん?」

 

 すると鈴音が恥ずかしそうに目を逸らす。

 

 「リンちゃんもありがとう!」

 

 今にも鈴音に抱き着かんばりの勢いで礼を述べた真由美は、尽夜に近づいて小声で問いかけた。

 

 「これって本当に事故だと思う?」

 「いえ、事故とは考えないほうがいいでしょう。ですが証拠はない。これが本当にそうだったならば、注意しなければなりません」

 「分かったわ。なるべく注意を呼びかけるようにするわ」

 

 真由美が尽夜から離れ3年生が固まっているところに向かっていく。

 入れ替わり達也が近づいて来た。

 

 「尽夜」

 「達也か………どうだった?」

 「魔法の痕跡を確認した。まだ無頭竜(ノーヘッドドラゴン)と決まった訳ではないが、恐らくは、いや確実になにか仕掛けてくるだろう」

 「だろうね…………」

 

 厳しい顔つきで事故の現場を見つめる尽夜の目には焦りは一切感じられなかった。

 その後警察が到着し、質疑などを行ったため、会場に着いたのは夕方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----懇親会会場

 

 前々日のこの日に会場入りした最も大きな理由は夕方から催される懇親会である。

 これから競技を行う彼らにとって、その催しはプレ開会式のようであって、和やかさというよりむしろ緊張感の方が目につく。

 

 「これだから本当は出たくないのよね…」

 

 午前中に着くはずではあったが行きの事故のおかげで会場に着いてからまだ少ししか経っておらず一高生は若干の疲労もあり、この雰囲気に嫌気が差した。

 

 九校戦の参加者は360名。裏方を合わせると400名を超える。

 ホテルの会場は必然的に大きくなり、スタッフの数もそれなりに多い。ホテルの専従スタッフでは間に合わなかったのか、明らかにアルバイトと思わしき人もチラホラ見かける。

 

 「四葉君、飲み物どう?」

 

 尽夜は深雪を伴って会場の隅の方で立っていた時に、近づいて来た少女がドリンクを薦めてくる。

 

 「確か………千葉エリカさんだったな?ありがたく頂戴するよ」

 

 達也と仲良くしているこの生徒は名前を呼ばれたのが意外だったのか目を見開いていた。飲み物を受け取った後に口を開いた。

 

 「意外…知ってたんだ?」

 「達也と深雪の話によく出てくるからね。改めて四葉尽夜だ。仲良くしてくれ」

 「エリカでいいわよ」

 「わかった。なら俺も好きに呼んでくれて構わないよ」

 「じゃあ、尽夜君って呼ばせてもらうわ」

 「エリカ、可愛い格好ね。でも仕事を疎かにしていいのかしら?」

 

 横にいた深雪が忠告するように言う。

 

 「深雪…ちょっとくらいいいじゃない?尽夜君は褒めてくれないの?」

 

 少し遠慮気味にだが友人の間で聞いてくる。尽夜もそれに答えようとすると、

 

 「尽夜さんにそういうことを求めても無駄よ。尽夜さんは私達の内面を見てくださるのだから」

 

 深雪が間髪を入れずに割り込んだ。その顔は笑顔だが目は笑っていない。

 

 「ふ〜ん、達也くんみたいね」

 

 そういうとそそくさとエリカはドリンクを絶妙なバランスを保ちながら人の合間を縫うように歩いていった。

 

 「深雪、ここにいたの」

 「達也さんはどうしたんですか?」

 

 今度は一高のエンブレムが付いた女子生徒2名がやって来た。

 

 「お兄様なら技術スタッフの方々の所におられるわ。尽夜さん、存じているとは思いますが北山雫さん、光井ほのかさんです」

 

 同じクラスだが同学年で深雪と達也以外とは関わりの無かった尽夜は彼女達と初めて面と向かう。

 

 「四葉尽夜だ。尽夜と気軽に呼んで、仲良くしてもらえると嬉しい」

 「北山雫です。雫って呼んで」

 「分かったよ、雫」

 「み、光井ほのかです。ほのかでいいです」

 「了解、ほのか」

 

 それぞれが自己紹介する。ほのかは四葉という名前にまだアワアワしているが、気配は好意的なため別段気にしなかった。

 

 「雫、わざわざ探しに来てくれたの?」

 

 雫は頷くことで答えた。

 

 「他のみんなは?」

 「あっち」

 

 雫が指を指した方向を見ると、男子生徒の集団が慌てて目を逸らしていた。1年女子も同じところに固まっていた。

 

 「深雪に近づきたくても尽夜さんがいるから近づけないんだよ」

 「俺は番犬か……」

 

 雫の推測にせせら笑う尽夜。

 

 「違いますよ、尽夜さん。私が尽夜さんの番犬です」

 

 深雪がこの返しをした事に疑問を持った彼はあたりを見渡した。すると先程の男子生徒集団と同じように目を逸らす女子生徒の集団がいくつも見受けられた。

 尽夜の頭の上には疑問符が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尽夜達から離れている達也はエリカを見つけ声をかけた。

 

 「関係者ってこういう事だったんだな」

 「達也君、そうよ。ところで深雪と尽夜君のところに行かなくていいの?」

 「あの二人は1年の代表だからな。忙しいだろうし、遠慮するよ。それより、いつの間に尽夜と知り合ったんだ?」

 「ついさっき。尽夜君が手持ち無沙汰にしてたから私から声をかけたの。四葉って言うからどんな人かと思ったら意外にもフレンドリーなのね」

 「4月のいざこざを止めたのもあいつだし、1科や2科の差別意識は元々あいつは持ち合わせていないよ。入学式の朝はあいつから話しかけて来たくらいだ。まあ、名前のせいで友達は俺か深雪しかできなかったらしいがな」

 「持ってる雰囲気もその一因だと思うわよ。なんていうか初めては近寄り難いのよね」

 「まあ、良い奴だから仲良くしてやってくれ」

 「言われなくてもそうするわ」

 

 もう一度尽夜に目を向けると彼は生徒会の面々と他校へ挨拶周りしているところだった。

 

 

 

 

 総勢400名の立食パーティーとなれば1つの大きなテーブルでは賄いきれるはずもなく、会場には9つのテーブルが用意され、若く食欲旺盛な彼らに随時料理を補充していく。

 それぞれのテーブルに各校の生徒が集まるのは例年のことだが、生徒会役員ともなれば各校へ挨拶、もとい腹の探り合いに行かなければならない。

 今、真由美たちは今大会最大のライバル校と目される第三高校の生徒会長と話していた。

 その背後では第三高校の1年男子がこっそりと囁き合っていた。

 

 「なあ、一条。あの子、超カワイクねぇ?」

 「なにサカってるんだよ。…………無駄無駄。あんな美少女、高嶺の花も良いところだろ。お前じゃ相手にされないって」

 「うっせーな。んなことわかってんだよ。でも一条ならいけるかもしんねぇだろなんせ一条は顔良し腕良し頭良し、そのうえ十師族の跡取りだ。もしかしたら俺にもチャンスが来るかも知れないだろ?」

 「ないない。天地がひっくり返っても有り得ないよ」

 

 実に男子高校生らしい会話がなされている傍ら、引き合いに出された輪の中の中心にいる生徒は、答えるでもなくじっと話題の生徒の方へ向いていた。

 

 「将輝、どうしたんだい?」

 

 小柄だがよく鍛えられた体の吉祥寺真紅郎が、甘いマスクというよりむしろ凛々しい、若武者風の美男子、一条将暉に話しかけた。

 だが、一条が答えることはなかった。

 

 「………………将輝?」

 

 訝しげな視線を吉祥寺は向ける。

 

 「………ジョージ。あの子のことを知ってるか?」

 「え?あ、ああ、制服で分かると思うけど一高の生徒だよ。名前は司波深雪、出場種目はピラーズ・ブレイクとフェアリー・ダンス。一高1年女子のエースらしい」

 「げっ?才色兼備ってやつか」

 

 大げさに仰け反る男子生徒を尻目に一条は呟いた。

 

 「司波深雪か………」

 

 その呟きに吉祥寺とその友人達は意外感と好奇心をブレンドされた視線を向けた。

 

 「珍しいね。将輝が女の子に興味を示すなんて」

 「そういやそうだな」

 「こいつの場合女からやって来るからな。けっ、贅沢な野郎だ」

 

 一条はその会話に応えることはない。

 ただその件の女子生徒に露骨にならない程度に目線を向けるだけであった。

 

 しかし、彼の目にどうしても気になる事ができた。彼女の横に立つ自分と同じくらいの身長で男らしい体、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している男子生徒にその彼女が楽しそうに話しかけていたのだ。

 

 「ジョージ。彼は?」

 

 吉祥寺は一条の視線の先にいる男子生徒に目を向けると驚き、少したじろいだ。

 横の女性に皆が目を集めるため、その存在に気付かないでいた。

 

 「…………」

 「……ジョージ?」

 「彼だよ」

 「はあ?」

 

 一条は吉祥寺の言葉が理解できずに間抜けな声を出す。

 

 「………四葉尽夜だよ」

 

 その名前を聞いた瞬間、その場がざわついた。全ての生徒がバッとその方へ向く。

 

 「あいつが、……四葉尽夜」

 

 全員の目には恐怖が映る。

 『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』の異名はその場の雰囲気を一色に染め上げるのは容易であった。

 

 「………あいつの出場種目は?」

 

 まだ動揺が取れない将暉が気丈に問いかける。

 

 「彼はなぜか、将暉、君と同じピラーズ・ブレイクにしか出場しない」

 「なんでだ?」

 

 あの四葉が1種目にしか参加しない。疑問を持つのは当然だった。

 

 「分からない。ただ実力は申し分ないだろう。情報部から手に入れたのによれば彼は入学式総代ではないらしいが入試の実技が満点。さらに定期試験では首席らしい」

 「一条以外にもそんな奴がいんのかよ」

 

 一条は素性を理解し、目を向けるその視線には女子生徒に向けるものとは別の感情があった。




 今後は、ストックの関係により遅れる、もしくはその日は更新しない時があるかと存じますが、なるべく頑張って皆様に読んでいただけるように頑張る所存です。
 ご感想やご意見等御座いましたらお気軽にどうぞ。
 それが作者の元気、もとい執筆スピードに拍車をかけますので…。
 では、今回もお読みいただきありがとうございました。

四葉家次期当主について

  • 尽夜
  • 深雪

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