うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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秋川葉月です♡ よろしくお願いしますします♡

 

 

 マジで危うく圧死する寸前まで追い詰められたものの、なんとか正気を取り戻したドーベルに解放された俺は、眠ったマックイーンをベッドに寝かせてからソファへと戻り、改めて二人で話し合うことになった。

 

 なんとか死ぬ前に彼女の尻尾に手が届いたからこそ無事に済んだわけだが……まったく俺を困らせるほどの愛情表現には忸怩たる思いだよ。こ、恋人になってください……っ!

 

「……えっ。ツッキー、まだ記憶が全部戻ったわけじゃないの?」

「あぁ」

 

 めっちゃデカパイに吸い込まれそうになる視線を全力で堪えて少女の目を見つつ、改めて自分の現状を詳らかにした。

 

「思い出したのはあくまで断片的なものだけなんだ。自分が“秋川葉月”だって実感もほとんどない。こう……脳裏に浮かんだ欠片をなんとか手繰り寄せてる段階でな」

「そ、そっか。……じゃあアタシとの思い出も、まだ……」

 

 なにベルちゃんとの思い出って。もしかして本当に俺たち恋人だった? ガチで気になってきた。

 

「な、なぁ、ドーベル」

「うん?」

「……その、秋川葉(オレ)月って付き合ってる相手とか……いた?」

「えっ──」

 

 んなもん知るかボケ、と返されてもなんら不思議ではない質問になってしまったが、あまりにもこの部分が気がかりで我慢できなかった。

 

 まず少なくともこのショタが秋川葉月だと判明した時点で爆乳ハグをかましてきたドーベルの反応からして、彼女と元の俺が付き合いの深い友人だということだけは確定している。

 なので多少プライベートな内容だとしても、恋人の有無くらいであればドーベルなら知っているのではないか、と考えたわけだ。

 

 では、なぜ恋人の存在をいま知りたくなったのか。

 それは──もし居たとしたら、現状とんでもない心労と不安を抱かせてしまっているのではないか、と俺自身が慄いてしまったからである。

 

 冷静に顧みて、ショタ化しなければならないほどヤベー奴らと闘っていた元の俺は、仮に交際している相手が居たとしたら、その相手には普段からめちゃくちゃ──それこそ呆れるくらい心配をかけさせている可能性がとても高い。

 

 で、俺はなぜか中央のウマ娘たちと交流がある。

 というか……ちょっと踏み込みすぎと言えるレベルで、彼女たちと繋がっている。

 なんせライスシャワーからは『好きな人』だとか『とても大切な人』だなんて明確に言及されているのだ。

 

 そしていま、手元にある情報だけで考えれば『俺はライスシャワーと付き合っている』というのが最もあり得る可能性として浮上してくるわけだ。

 それなら少なくとも彼女の友人であるウオッカやマックイーンが捜索を手伝う理由としては納得できる。

 

 ──まぁ仮にそうだとすると、ドーベルに“ツッキー”というあだ名で呼ばれていることが少し不可解だが。

 つい先ほどめっちゃ熱々♡ なハグもしてきたし、友人の恋人に対してそんな距離感で接することなどあるのだろうか、と疑問に思うところではある。

 

 とにかく、まずは恋人の有無が知りたい。

 いろいろと謎なことは置いといて、とりあえずここまでで出会った中の誰かと付き合っているのなら、これほど心配されている状況にも多少は納得できる。

 

 なにより家族以外であれば、記憶を思い出すなら一番繋がりが深いはずの恋人のもとを訪ねるのが最も手っ取り早いのだ。さぁ、果たして──

 

「うぅん……とりあえず、正式に付き合ってる()はいなかったよ」

 

 めっちゃ杞憂でした。顔が爆裂するほど恥ずかしい。身の程を弁えよ! そうだね、身の程を弁えよう。

 

「そ、そうすか……」

「……でも、女の子の知り合いはたくさんいたよ?」

「っ!?」

 

 え~ウソ♡ 俺ってそんなカスみたいな遊び人だったの。秋川葉月とタマモクロスが腹を切ってお詫びいたします。

 

「……オレ、どういう人間だったんだ……?」

 

 二度と自分を疑わないとは決めたが、さすがに一考の余地が出てきちゃった。おぉ下品すぎる本性、謝れ。

 ライスシャワーからは少なくとも異性として好かれていて、そんな状態で他の多数の女子とも交流してたってなんだそりゃ。古代の王?

 

「……普通の男の子だよ」

 

 うそでしょ。世界仰天ニュース。

 

「困ってる誰かを見過ごせなくて……友達の為なら無茶なことだってしちゃうような……そんな、普通の優しい男の子だった」

 

 そう語るドーベルは儚いヒロイン指数がかなり高めな微笑を浮かべていて、その表情から今の彼女の評価の真相が『言いたい事はたくさんあるが、あえて一言で表すならこう』だという事が何となく理解できた。

 

 特にこれといって付き合っている相手はいないが、明確に好意を持ってくれている相手がいて、尚且つ美少女の知り合いもたくさんいる男──なるほど。

 

 ……エロゲの主人公? いや本質はそのお下劣すぎる本性だ。

 

 デカ乳拝みたい交尾したい種付けしたい孕ませたい、とかそんなこと考えて動いていたに違いない。俺は俺だ。なので分かる。

 たぶんどっかの主人公みたいに鋼の意思とか発動して真摯に振る舞っていたわけではなく、なんやかんや上手いこと噛み合ったからこそ、彼女たちとの関係性を構築することができたのだろう。

 だからドーベルの言った『優しさ』の評価には甘えず、もう暫くはおっかなびっくりでも思考をやめずに進んでいこう。油断は禁物。

 

「……アタシ個人からすれば……義理堅い人、かな」

「義理堅い……?」

「ふふっ。実はツッキーとはあんまり良くないファーストコンタクトだったんだ、アタシ」

 

 あっそのニヒヒって感じの小さな笑顔かわいい。

 

「それでも友達としてずっと一緒にいてくれて……だから惹かれちゃったのかも」

 

 この美乳でかわいすぎ少女と知り合っておいて“友達”のままなんだ、元の俺。早々に娶ればよいのに。

 ……というか今しっかり『惹かれた』と口にしていたが、もしや無意識な発言だったのか? 結婚したいのであればそう申せばよいのに。

 

「あはは、本人の前でする話じゃないか。てか全然具体的な内容じゃないよね、ごめん」

「……いや助かったよ。今のも何かヒントになるかもしれないし……出来ればもっとオレのことを教え──」

 

 現状だとドーベルから記憶を辿るのが復活への一番の近道、ということで矢継ぎ早に質問を繰り出そうとした、その瞬間。

 

「マックイーンっ! ちょお、ホンマにライスが暴れすぎとるからそろそろ手ぇ貸して!!」

 

 ドアの向こう側からタマモクロスの声が響いてきたため、俺の言葉は喉の奥へと引っ込んでいった。

 いまかなり良い流れだったのだが──まぁ、そもそもここへ至れたのは他でもない彼女たちの協力のおかげだ。無視するわけにはいくまい。

 

「……ドーベル。現状のオレはかなり荒唐無稽な立場だから、本当のことはまだみんなには秘密にしておいてもらえるか?」

「う、うん。とりあえず先にエントランスでの騒ぎを止めよ……っ!」

 

 自分のことばかり考えるのは一旦やめにして、今はアルコールの脅威に振り回されている協力者の少女たちの介抱に当たる事となった。今日はボクが臨時ドクターとして診察していきますよ。ちょっと興奮気味かな? えっちだね。

 

 

 

 

「ハズキくーん。お風呂入るで~」

「あ、うん」

「──ッ゛!!?!?」

 

 ライスシャワー狂乱騒動が一旦幕引きとなり、みんなもアルコールが抜けてひと段落した頃。

 夕食の前に入浴という事で、他のウマ娘たちが大浴場へ向かったあと、着替えを用意して部屋に戻ってきたタマモクロスに声をかけられて、反射的に返事をしたのだが──今のはヤバかったかもしれない。驚いたドーベルがソファから転げ落ちてしまった。あっ、ぱ、パンツ見えそう……。

 

「たっ、たまっ、タマモクロス先輩!? いいい今のどういう……ッ!?」

「っ? どうもこうも……そろそろいい時間やしシャワー浴びてサッパリせんと」

「この子も一緒に、ですか……?」

「そらそうやろ。このお屋敷ん浴場、アホみたいにデカい言うとったしハズキ君一人やと心配や」

「は、はわわ……」

 

 タマモクロスからすれば先日と同じように、預かっている男の子を風呂に入れるという当たり前の行動を取ろうとしているだけなのだが、俺の正体が義務教育修了済み違法ショタであることを知っているベルたんは狼狽するばかりだ。

 

「あの、ドーベルさん。これは……」

 

 このままだと子供化にかこつけてセクハラを楽しんでいるカスになってしまうと考え、誤解を解こうと咄嗟にドーベルに弁明しようとしたところ──

 

「……ま、待って。……うん、わかってる」

「えっ?」

「あの、タマモクロス先輩。ハズキくんにここのお風呂の使い方を教えたいんで、アタシも一緒に入ります」

「そう? ありがと、助かるわ」

 

 彼女はそれ以上追及するのをやめ、隣にいた俺の手を握って立ち上がり、先行するタマモクロスの後をついていく。

 

(ツッキー、大丈夫。いまは子供の身体だからそういう振る舞いをしなきゃなんだよね……?)

 

 それから小声でそう呟いてくれたため、俺としても彼女と認識をすり合わせることができて安堵した。さすが俺のことよく分かってますね。葉月理解度検定準一級取得。

 

(すまん)

(ううん、気にしないで。……というかツッキーの事だから、どうせお風呂に入る時は『相手の身体を見ないように』って、目を閉じて何とかしようと考えてたんでしょ)

 

 マジで何でもお見通しで驚嘆の一言に尽きる。お付き合いする準備は万全ということかよ。

 

(もし転んだりとかしたら危ないから、アタシがそばでお手伝いするね)

(お、おう。……お願いします)

 

 それってつまり、直接的に姿を見られることがないとはいえ、一糸まとわぬ姿で一緒にお風呂に入るということなのですが。流石に嫁ぐ覚悟が決まりすぎている。そうやって好意見せつけてハングリーなイキ精神お見事ですが……。

 

「お。もうマックイーンたちも入っとるな」

 

 更衣室へ到着すると、半透明の扉を隔てた向こう側から少女たちの声が聞こえてきた。

 カゴの中にもそれぞれ脱いだ衣服があることから、その種類の数で浴場の中に何人いるのかが把握できる。

 あの黒髪ウマ娘二人とマックちゃん、それからアルコール入りチョコ食べすぎプリティー人妻も入浴中らしい。マジで不安になってきた。俺は生きて帰れるのだろうか。

 

(ドーベル。俺はもうここを出るまで絶対に瞼を開けないから、あとは頼む)

(う、うんっ)

 

 小声で協力者に耳打ちし、まるで瞑想するかの如く一切の煩悩を心から断ち切り、静かに視界をシャットアウトした。

 

「お風呂でのハズキ君のことは任せてええか、ドーベル?」

「は、はい」

「ありがと。ほな先に入っとるで~」

 

 どうやらタマモクロス先輩は先行した様子。

 これでようやっと安心できる。ドーベルには早めに終わらせてもらうように伝えて、最低限の入浴を済ませたらさっさと退室してしまおう。

 

「よしっ、じゃあえっと……脱がすね?」

「あぁ」

「シャツから脱がすから、バンザイして」

「──」

 

 あっ、盲点だった。わずかにイク。

 視界が無い分めちゃくちゃ敏感に感じるわ。ほぉ゛っ♡ 

 このままでは当たり前のようにバベルの塔が建設不可避だ。脱衣を全てドーベルに任せたら俺のハズキくんだけ子供から大人にハイパー大変身を遂げてしまう。

 

「まっ、ドーベル……ッ!」

「どうしたの?」

「その、タオルを俺の手に持たせてくれないか。下を脱いだらそのまま腰に巻くから」

「ツッキー、見えない状態のまま自分で脱ぐつもり? それは危ないよ……」

「なら一瞬だけ目を開けるから、反対を向いててくれ。すぐ終わらす」

「う、うん……タオルはこれね」

 

 なんとかドーベルを説得し、爆速で全裸になり腰にタオルを巻いて人権を得た。危うく着替えにかこつけて股間を見せつけるガチ変質者になるところだったぜ。間一髪と言ったところか。

 

「今のうちにアタシも脱いじゃお……」

 

 わぁ。きゃあ。静謐かつ猥褻なしっとりとした衣擦れサウンドえっちすぎ♡ 音のソノリティ。

 

「ツッキー、準備できた? じゃあ入ろっか」

「すまんドーベル、目ぇ閉じたから手を……」

「そだね。転ばないよう手を握らなきゃ……あっ、まってツッキー、そこはちが──んんっ♡」

「……???」

 

 まちがえて尻尾を鷲掴みしてしまいました。本当に真剣に腹を切ってお詫びいたします。

 

「示談で……!! 示談でどうか……ッ!!!」

「ちょ、ちょっとツッキー落ち着いて。ぜんぜん大丈夫だから……」

 

 そんなこんなで土下座やらなにやらひと悶着ありつつ、一糸まとわぬウマ娘たちが闊歩する大浴場で大欲情しないよう気を付けながら、至って健全に体を温めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ドキッ! 美人ウマ娘だらけの大浴場ハーレム~ポロリもあるかも~を無事に終えてから少々の時間が経過して。

 それぞれが寝室で就寝に入ろうとする中、俺はタマモクロスと二人でメジロ屋敷の外へ繰り出し、付近のコンビニへと向かっていた。

 風邪を引かないよう二人して厚着の恰好で、青白い街灯の下を歩いていく。

 

「……というわけで、明日はオレの関係者がお屋敷にくるみたい」

「なるほどなぁ。……当初はどうなるもんかと心配しとったけど、なんや府中に戻ってきてからトントン拍子に進んでよかったわ」

 

 ホッと胸を撫で下ろしつつ、彼女はしっかりと俺の手を握ったままでいてくれている。うほ~たまんねぇ~。しっとり吸い付いて癖になるぜ。

 これは俺がタマモクロスと二人きりで現状を整理するために生み出した状況だ。本当はコンビニへ行ったところで買いたいものなど特にはない。

 

「まぁ多少は強引やったかもしれんけど、ドーベルに会いに行って正解だったっちゅーことやな」

「うん……そうだね」

 

 ──どうやらドーベルは今回の事態においてかなりの中心人物であったらしく、実は彼女を通してこの騒動は収束に向かいつつあるのが現状だ。

 

 ドーベル経由で様々な人物へ連絡が届き、明日は『樫本理子』という中央のトレーナーに加え『駿川たづな』というトレセン理事長の秘書を務める女性が、メジロ家の屋敷まで迎えに来てくれるらしい。迎えに来てくれる人物が大物すぎることに関しては一旦もう気にしないことにした。

 

「んでもまさかホンマにトレセンの大人たちとも知り合いやったとは驚きや。ハズキ君、実は結構スゴい子なのかも……?」

「ど、どうだろう……」

 

 秋川やよいという少女と、他複数名とはまだ連絡がついていないものの、どうやら樫本理子トレーナーがドーベルと同じく裏の事情を把握してくれている人物だったようで、これからは彼女の保護下で記憶探しを行っていくことになる。

 詳しい過去の内容も、明日以降ドーベルを交えて正確に調べていく予定だ。

 

「ま、そんならウチももうお役御免かな。なんにせよハズキ君を無事に保護者ん人たちに届けられて何よりや」

「……うん。ありがとう、おねえちゃん」

 

 正式な保護者が見つかった、ということはつまり、タマモクロスがこの面倒なショタのお世話から解放されるという事でもある。

 ……本当に一生かかっても返せないレベルで、この芦毛の少女には世話になった。

 様々な手助けはもちろんだが、何よりも比喩抜きに彼女は俺の()()()()だ。

 

「……ほんと、ありがとうね」

 

 だからこそ少しだけ考えてしまう。

 このまま、ハイお世話になりましたで済ませていいのだろうか、と。

 きっとこの世界のどこを探しても、こんな得体の知れない子供を助けるだけではなく、荒唐無稽な話をも信じて親身に寄り添い支えてくれる聖女のような優しく強い心の持ち主なんて、そうそう居やしないだろう。

 

 この隣にいるタマモクロスというウマ娘に対して、ただの感謝で終わらせてはいけない、と改めて強く思う。

 仮にすべての記憶が戻ったとして、俺はこの少女に何を返すことができるのだろうか。

 

「……んっ? なんや、あれ……?」

 

 ほんの少し逡巡して俯いている最中、唐突に聞こえてきたタマモクロスの怪訝な声に釣られてつい顔を上げた。

 そこには──

 

 

「だっ、ダメよカフェさん! もう走らないで……っ!」

「……いえ。そういうわけにはいきません」

 

 

 コンビニ付近の路地にて、明らかにズタボロな服装をした黒い髪の少女を、どこか見覚えのある栗毛のウマ娘が後ろから引き留めている光景が見えた。

 

「あれは……サイレンススズカ?」

「せやな。話をしとんのは……カフェ、か?」

 

 お姉ちゃんが言ったカフェという名前には心当たりがあった。

 というかあの長い黒髪と、特徴的な()()()からして、あそこにいるのは間違いなくイヴに開催されたレースで上位入賞を果たしたマンハッタンカフェで間違いないだろう。

 

「ドーベルさんはまだ分かりませんが……私と同じくスズカさんも夢の案内人から……夢を通して伝えられたはずです。彼が、生きていると」

「それは、そうだけど……」

「であれば闘わない理由はありません。あの子と彼がこの街へ帰ってくるのなら……二人の居場所は私が護る。ただそれだけの話ですから」

 

 こっそり近づいて電柱の陰から覗いて見ているが、なんか二人ともだいぶシリアスな表情をしていらっしゃる。いったい何の話をしているのだろうか。とりあえず表情筋をほぐすマッサージをしてあげたい。

 

「でもっ、それでカフェさんが倒れてしまったら元も子もないでしょう……? まともに休憩しないまま、もう三体以上の怪異と連続でレースをしてる……」

「何も問題はありません。……ここを縄張りにしていたカラスが彼に負けて弱体化し、休息している影響で……他の場所を漂っていた怪異が府中に目を付け、他の怪異たちの力の残滓を吸収し……活性化して暴れまわっています。どのみち放っておくことはできません」

 

 よく分からない専門用語満載で二人は話している。内容についていけなくて忸怩たる思いだよ。

 冷静に考えれば分かることなのかもしれないが、時間帯がそろそろ深夜に差し掛かる頃であるため、このショタっ子の身体は肉体も脳も活動限界に近く、ほとんど事態に追いつけていない。

 

「ならせめて私も一緒に──」

「……いけません。スズカさんにはスズカさんの為すべきことがあるはずです。それに有以降、あなたの脚の状態は万全ではない。今無理に走ったら取り返しのつかないことになるかもしれません……だから私が彼の分まで走ります」

 

 心配する様子のサイレンススズカを突っぱねて、傷ついた勝負服を纏った黒髪の少女は踵を返す。

 その目線の先には、なにやら靄のようなものが集まり、次第に人型に形成されていっている。突然のファンタジー! 日本の未来を憂うわ。

 

「──また怪異が現れたようです」

「っ! カフェさん待って!」

「……ふふっ。安心してくださいスズカさん。どうやらあと二体だけのようですし、この程度ならなんて事はありません」

「でも……っ」

「……ゴールドシップさんから聞きましたが、あの日の葉月さんはもっと大勢の怪異と単独で闘ったそうです。私だって……頑張らなきゃ。……それでは──」

 

 マンハッタンカフェは言うだけ言って会話を打ち切り、そのまま駆け出して夜の街へと消えていった。

 あ〜〜アレは完全に無理して浮かべた笑顔でしたね。それで友達を騙せているつもりなら片腹痛いわ。もっとアヘってよろしくてよ♡

 

「おーいスズカ!」

 

 先ほどの二人の口論を見ていて痺れを切らしたのか、タマモクロスは電柱の陰から飛び出してサイレンススズカの元へと駆け出した。手を繋いでいるので自然と俺も連行されていく。はわわ。

 

「……タマモクロス先輩?」

「さっきのカフェはどないしたんや! 明らかに街中で出したらアカン速度出とったけど!」

 

 自らの経緯を喋るよりもまず状況確認。タマモクロスはRTA走者の鑑と言えるかもしれない。だからドーベルたちを置いてこっそり出かける必要があったんですね。

 

「……私では止められなかったんです」

「う、うん?」

「結局いつも……傍観者でしかない。世間では有を制した今年最強の……だとか言われているけれど、私だけ肝心な時に誰も助けられない。私だけ……何もできてない……」

「……え、えらいシリアスやな……」

 

同感だ。さっきから暗すぎるのでちょっと一旦笑顔になってほしい。はーい笑って♡ オラッ天高くいななけ。

 

「……? タマモクロス先輩、その男の子は……」

 

 俯いたことでサイレンススズカの視界に俺が入ったらしい。こんばんは。愛してます。

 

「あ、あぁ……この子はハズキ君言うてな。いろいろあって今はウチが預かっとる」

「……は、づき……?」

 

 膝を折って俺と目線を合わせたサイレンススズカは、その名前を聞いた途端に目を見開いて硬直した。

 あっ、これライスシャワーで一回やったな。一度体験したシチュエーションならショートカットが開通済みなので、ここは思い切って行動に起こしてしまおう。たぶんこれが一番早いと思います。

 

「──サイレンス」

「っ……!?」

 

 俺がそう呼ぶと予想通り彼女は驚嘆してくれた。やっぱりな。おじさん分かるんだよエスパーだから。

 まぁ別に何かを思い出したわけではないが、もし俺が彼女と同年代で友人の関係にあるのであれば『俺ならこう呼ぶ』と思ったのでサイレンスと口にした次第だ。す、スズカちゃんだと距離感が近すぎると思って……♡ 間違っていたら各方面に謝罪。

 

「もし、かして……」

「サイレンス、一つだけ教えてほしい」

「……?」

「は、ハズキ君……?」

 

 突然様子の変わった俺を前にして、サイレンススズカだけではなくウチのお姉ちゃんも慄いていらっしゃる。本当のマゾ、真実のマゾ。

 もう完全にショタムーブを無視してしまっているが、どのみちタマモクロスとは記憶が戻ったあとも正面から向き合わなければならないのだ。正体バレが時間の問題なら、ここは事態を進展させるために動こう。

 

「サイレンスにとって、秋川葉月との一番思い出深いことって、なんだ?」

「……葉月くんとの、一番の思い出……」

 

 まだ多少は狼狽しているもののタマモクロスは()()()()()()()を感じ取り、疑問を堪えて押し黙ってくれた。えっ嬉しいお姉ちゃん! 枯山水。

 

「それなら……これ、かしら」

「っ!」

 

 てっきり何か過去を語ってくれるのかと思いきや、サイレンスが取った行動は俺の手を握るというものであった。めっちゃ普通にビックリ。

 

「私は葉月くんと……いえ。()()()とこうするのが……好きだった」

 

 そう言いながらあからさまな恋人繋ぎで正面から俺の手をにぎにぎ。

 わあ。

 きゃあ。

 どどどどうするのコレ。

 本当にこんなのが思い出なのか──

 

 

「────あっ」

 

 

 シリアスっぽい雰囲気に合わせたポーカーフェイスが照れで崩壊しようとした、その直前のことだった。

 脳裏に過った。

 

『……代わりに、いま。秋川くんだけの、握手会……』

 

 どこかの公園で。

 いつかの夕方に。

 俺は彼女と、こうしてスケベな手合わせを行なった。

 

 そうしてターニングポイントを思い出したその瞬間に、過去の記憶が()()()()

 

『コレを見せられる男子なんてアンタくらいしかいないんだから! いいから感想を述べよッ!』

『私も手を洗いたかったし、ちょうどいい……でしょう?』

『敬語は結構です……同い年ですから』

 

 あぁ、これは──そうだ。

 紛れもなく、思い出だ。

 俺と彼女たちの、存りし日の大切な軌跡だ。

 

『……腹筋、硬いですね。男らしくてカッコいいと思います』

『そ、その、後で感想を聞かせてよ。男の子ってこういう時、どう思うのか……』

『秋川くん……あまーいのちゅるちゅる終わったら、おねんねしましょうねぇ……』

 

 ──うん。この上なく大切な記憶たち……。

 

『な、なんかちょっと、そこはかとな~くいけない事をしてる気分になるでしょ。コレ、そういう事……』

『クラスメイトで親友とは、いささかズルい立場ですね。こればかりは……妬いてしまいます』

『…………あの、ズボンのファスナー、開いてたから……閉めた……』

 

 ……うん?

 

『だから……ね? いきましょ、二人きりで。──いい? 葉月くん』

『……あ、葉月さん。こちらへ……どうぞ。今夜は一段と冷えますから……私たちで葉月さんを温めさせてください……』

『ねぇ。このヘルメット、そういえばアタシの為に買ってくれたんだっけ。えへへっ♡ 嬉しい……好きっ♡♡』

 

 …………なんか美しい友情というより美少女たちとのスケベイベントばっか先んじて想起されている気がする。"生粋"。トレセン学園には真のマゾ女が多いとの噂は真実だったのだな。

 こんなはずじゃ……もっとこう、健全で綺麗な思い出は……?

 

「──思い、出した」

「っ!!」

 

 マジで完全に全ての記憶が復活したものの、なんかシリアスでカッコいい感じの復活劇をロールプレイしようと思ったが無理みたい♡ もういい! 淫猥な過去も俺たちの思い出だ。美少女ウマ娘たちとの猥褻な触れ合い最高だ……これが絆……!

 

 


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