学校・リビングデッド
瞬間、時間が止まったように全員が固まる。
あれ? 変なこと言ったかな?
口火を切った手前そのまま話を続ける。
「王都で噂話を聞いた限り、一番達が魔王を討伐するもんだと思ってたんだけどさ。アナウンスでは深谷一番て名前が流れたからあれ? って思ったんだよ。一番の苗字って
全員の視線が一番に集まる。
当の一番は急に感情が途切れたように表情が無い。
これまで付き合ってきて初めて見る顔だった。
「そうだ深谷一番! あいつ……!」
御法川が何事か思い出し、顔を怒りに歪ませる。
「おいあいつはなんなんだ一番! おまえ知り合いなんだろ!?」
そう問い詰める御法川の熱量は先ほど授業中に見たものと一緒だった。
どうやらさっき話していたのは『顔に黒いもや』のかかった男のことではなく、深谷一番という男についてだったらしい。
「あの時魔王とかいう奴は俺らだけで倒せたはずだったろ! それをいきなり現れたあいつが横からかっさらいやがって!」
「……」
一番は何も答えない。
先程は真顔のように表情を失っていたが、今は青ざめているかのようだ。
そんな一番の様子にはお構いなしで御法川が続ける。
「俺らのことは完全に無視してやがった癖に、お前にだけは親しげに話しかけてたじゃねぇか! なんなんだよあいつは!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ実里! 一番が困ってるじゃない。何か事情があるんじゃないの?」
詰め寄る御法川に対し、四方田さんがみかねて助け舟をだした。
「ねぇ、一番。……話せることだけでいいの。私も当事者として気になるところだしね。……実際私たちも驚いたんだよ。あの人が一番に親しげに話しかけてきたこともそうだけど、アナウンスで流れた名前が一番だったからさ。ほら、一番って結構珍しい名前じゃない?」
四方田さんは親しげに、ことさら明るい調子を保つように話しかける。
対する一番はうつむき、わなわなと震えながらようやく口を開いた。
「ち、違うんだ……。あいつは……あいつは一番じゃないんだよ……」
その口調は暗く、病んでいるかのような雰囲気だ。
目の焦点は定まっておらず、どころか何も見えていないかのように虚空を見つめている。
「なんだそりゃ、お前一体あいつとどういう……」
「ひぃいぃああぁ!! みんなぁ!! グ、グラウンド!! グラウンドを見てぇ!!!」
御法川の言葉が窓際にいた
尋常でないその様子に窓際にいた生徒たちが外を見る。
するとその生徒たちも一様に悲鳴をあげ、その場で嘔吐する者までいた。
流石に話を続けている場合ではないと判断し急いで窓際へと向かう。
そして眼下に広がるグラウンドを見渡すと
「小玉……先生……?」
誰かがつぶやいた。
ここからグラウンドまでは4.50mといったところ。
それだけの距離がありながらはっきりと見えた。
保健室の小玉先生が……4.5人の生徒に食われている。