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異世界帰り・オブ・ザ・デッド 作者:時をかけたい少女
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異世界にて12



次の日、仕事を終えてから街で情報収集を行った。


あくまでよそ者である異世界人の僕にとって情報を集める手段は限られている。

それでも魔王領最深部到達の情報は簡単に手に入った。


それだけ街中がその噂で持ちきりだったのだ。


曰く、到達したのはこの国が支援している勇者達で4人組のパーティ、強力なアビリタを行使して魔王軍に壊滅的な打撃を与えながら進んでいる、国のサポートも潤沢に行われ、他国も最早魔王はそのパーティが倒すだろうと目し、自国の勇者への援助を打ち切り始めたとのことだった。


情報を確認していく限り、恐らく最深部に到達したのは一番達だろう。

実際彼らのアビリタは強力だった。


魔王軍がどれほどのものかわからないが、無尽蔵のエネルギーを持つ殺戮兵器が投入されているようなものだ。

攻められる側としてはたまったものではないだろう。


街の人々は魔王討伐が秒読みということもあり、すでにお祭りのような雰囲気を見せていた。


実際魔王が討伐されたあかつきには討伐パーティを支援した国を主体とする祝祭が開かれ、盛大に勇者と国王が褒め称えられるらしい。


一番のお面とか作られるんだろうか、などと日本のお祭りを思い出して少し懐かしい気分になる。


しかし、魔王の討伐が近いとなれば、元の世界への帰還も近いということになる。


この世界に来てはや1年、特に世界への親しみは湧かないが、それなりに関係をもった人たちはいる。


特に隣町『レベリオー』の錬金術師、アッカーマンには薬の作り方を教えてもらったりと随分世話になった。

元の世界に帰るとなれば、その前に挨拶くらいはしておきたい。


思い立ったが吉日。

情報収集を切り上げ、墓守の家(というか小屋)に戻って隣町に行く支度と、ついでに家の整理を行った。


もはや使い慣れた皮の袋に水を溜め、買ってきた黒パンと一緒に指輪へ収納する。

他の収納道具に比べると不便と言われるこの指輪も、物をしまう時はいちいち起動時の手順をとらなくてよいのはありがたい。


簡単に支度を済ませ、家をあとにする。

東区を抜け、城に続く中央通りを横断してさらに西区の飲み屋街を通る。

ここはいつきても酒の臭いと豪快な笑い声の絶えない場所だが、世間の魔王討伐の熱気にあてられたのかいつもより盛り上がっているように見えた。


まだ昼過ぎだというのに路上で酔いつぶれている者もいる。


そんな醜態を横目にみつつ西門へと辿り着く。

軽く衛兵に会釈したが、彼は横目でチラリとこちらを確認しただけでそれ以上のアクションはなかった。



門を出て、草原に伸びる街道を歩く。

この世界に来た時初めて歩いた道だ。


当時は右も左もわからずに歩いていたが、今ではすっかり歩き慣れてしまった。


後で知ったことだが、レベリオーと王都を結ぶこの街道『ディサージオ街道』は、別名を『不要街道』と言うらしい。



理由は2つ、1つ目はその不便さにある。

草原を抜けるまではいいが、その先は『()らずの森』という魔物の巣窟を通り抜けなければならず、危険が伴うからだ。


そして2つ目、こちらが『不要街道』と言われる最大の理由だが、レベリオーは国から見捨てられた街なのだ。


詳しくは知らないが、どうやら前回の魔王征伐が行われた際に街として勇者に協力しなかっただの、邪魔をしただのと王都の人間から散々に言われていた。


当時の街の責任者は斬首にされたそうだが、そんな不名誉かつ縁起の悪い街に人が集まったり留まることはなく、今では世捨て人や盗人などの吹き溜まりとなっている。


そんな街の管理を国は諦め、警備も管理も行わない捨てられた街となっていた。


そんな街に繋がる街道なので人通りはいつも少ない。

街道自体の整備もされていないので、時が過ぎれば道自体風化していくかもしれない。


そうなったらアッカーマンはどうするんだろう。

流石に王都に拠点を移すことになるのか。

この道を行き来しなくて良くなるのは助かるな。

あ、でもその頃にはもうこの世界に僕はいないか。


長く続く単調な道に、浮かんでは消える考えを巡らせていると入らずの森の入り口が見えてきた。


草原から伸びる街道が真っ直ぐに森の中へと伸び、境目となる入り口は申し訳程度に伐採されている。

森自体が薄暗いこともあり、まるで口を開けて獲物を待つ化物のようだ。


そんな危険な森を特に躊躇することなくずんずん進んでいく。

不気味だが、ただそれだけだ。


街道は森の端を通り抜けているだけなので、変に分け入ったりしなければ大した危険は伴わない。


実際、これまでのところ森で何かに襲われるといった経験は一度もなかった。





「お、おお、大人しくしろ!!」



だからこれは貴重な1回目となる。



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