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異世界帰り・オブ・ザ・デッド 作者:時をかけたい少女
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異世界にて8



「……先ほど能力の強弱で差別することに反対したところですが?」


一番の声には傍で聞いていてわかるくらいに怒りが込められている。

しかし、そんな一番に対してティアラは冷静に続けた。


「いえいえ、差別するわけではありません。むしろ特別に扱わせていただこうというお話です」


「……どういうことですか?」



「先ほどカードで確認したのはあくまでアビリタの素質のみです。この世界にはアビリタだけでなく魔法という特殊技術があり、それは召喚された方々でも修練次第で習得可能なのです。……もちろん向き不向きはありますが」

そう言ってティアラは全員の顔を見回す。


「……それと谷々が今僕達に同行できないことになんの関係があるんです?」

前置きの長いティアラに対し、一番ははっきりした言葉を引き出すため毅然と問いかける。



「早い話が……谷々様には特別講座を受けていただこうと言うのです。あなた方がこれから魔王との戦いに挑むにせよ、挑まないにせよ。この世界において魔法の知識は必須と言えます。……特にアビリタが強力でない場合は」

そう言うとティアラは遠慮がちに僕の方を向いた。


「通常、魔法を行使する場合はまず魔法を使える者から教わるというのが基本です。これは知識だけではなく、実際の経験が魔法の行使にとって重要だからです。……皆様が戦いに挑む場合、我々は王立魔法師団の全力を持って魔法習得の支援をいたします。それに、皆様のアビリタを強化するお手伝いも」


「……アビリタは強化できるんですか?」

それまで黙っていた四方田さんが問いかける。


「可能です。しかし、そのためには魔法以上に厳しい修練が必要になるケースがほとんどです」

四方田さんの方を向き直り、丁寧な口調で答えるティアラ。



「そして皆様が戦いに挑まない場合ですが……我々としてはあなた方に対して一切の支援を行うことはできません」


「え!?なんで!?」

ここにきて嵯峨さんがいの一番に声をあげた。



「それは……」


「当然であろう」

ティアラが少し困ったような顔で応えようとしたところ、横柄な態度の王が口をはさむ。



「勇者は魔王に挑むからこそ勇者でいられるのだ。挑むことすらしないただ飯ぐらいを城に置く意味も余裕もないのだ」


「そんな! 勝手に呼んだんじゃない!」

嵯峨さんの金切り声が広間に響く。



「……我々が呼んだのではない。それに、先ほど伝えた通り勇者はお前たちだけではないのだ。誰かが倒せばそれでよい」


「なによそれぇ……よもおぉおぉ」

打ちひしがれたように嗚咽を漏らし、嵯峨さんは四方田さんへとしなだれかかった。



「……残念ながらこういった理由により、戦いに挑まない場合は即刻城の外へ出ていただくことになります。そうなれば外で自活することになり、この世界の情報に疎い皆さんでは生きるだけでも大変苦労されるでしょう。……魔法が使えなくとも強力なアビリタがあれば死ぬことは無いと思いますが、谷々様の力では……」

そこで言葉を詰まらせたティアラがうつむく。

……大分話が見えてきた。



「ですので、皆様がどんな選択をしても困らないよう、谷々様には特別に魔法の知識やアビリタ成長のための修練を一足先に行わせていただきたいのです。基礎を知っているかどうかだけでも大きな違いとなりますからね」


「……言いたいことはよくわかりました。つまり僕たちがこの後戦いを選ぶのなら即戦力になれるよう谷々を先に鍛える。戦わないのなら即追い出すが、その時困らないよう谷々に知識を伝え、こういうことですね」


「えぇ、概ねその通りです。これが今我々にできる最大限の配慮です」



「……なんとも理不尽なお話ですね」

少しの間考えていた一番がおもむろに天井を仰ぎ、吐息のように漏らした。


……一番はわかっているのだろう。

ここまでの情報が真実なら、最早僕らに選択肢などあってないようなものだと。



「……谷々、どうする?」

最終確認のために僕を見た一番だが、その顔は随分と曇っている。



「そんな困った顔するなよ一番、僕なら大丈夫。先に食事済ませときなよ」

一番が困らないよう、気にしていないという顔を作り上げた。


そして思い出したかのように


「あ、メニューにゆで卵が出たら残しといてね」

好物なんだ、と付け加える。



そんなふざけた言葉が、この世界でクラスメイトと交わした最後の言葉になった。

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