御法川

アビリタ名:《親不知(マイ・マザー)》

自分の拳を使った攻撃の威力を等倍から100倍の範囲で指定することができる。

四方田さん

アビリタ名:《サイレンとナイト》

相手の強さを色で可視化し、相手と同程度の力を持ったナイトを召喚することができる。

嵯峨さん

アビリタ名:《黒(アットホーム)》

任意の範囲の重力を0.1倍から100倍までの倍率で操作することができる。

一番

アビリタ名:《正義漢(せいぎかん)》

一定時間状態異常を含むあらゆる攻撃によるダメージを受けない。

アビリタ名:《自己矛盾(マイフェアレディ)》

一定時間指定した相手1人の戦闘能力を自分と同程度にする。

アビリタカードを確認しそれぞれから自覚した能力を聞いた結果、みんなそれぞれに随分個性的な能力が発現しているとわかった。

正直聞いただけでは本当にそんなこと可能なのかと思う内容ばかりだが、僕を含め本人からするとなぜか自分のアビリタだけは出来て当たり前のように思えてしまう。

まるで初めて自転車に乗ることができた時のように、一度できるとわかればそれが当然のことのように思えてしまう。

……アビリタとはこういった感覚を含めての能力なのかもしれない。

「……谷々様、もう一度ご自身のアビリタを教えていただいてもよろしいでしょうか？」

不思議な感覚に物思いにふけっていると、ティアラから声がかかった。

「え？あぁ、僕のアビリタは《一激(いちげき)》です。能力は……」

話を聞くティアラの顔が険しいことに気づき、思わず話すのを戸惑ってしまう。

「一定時間自身の身体能力を2倍にできるようです」

聞き終えたティアラは伏目がちに思案し、先ほどカードを取り出した側近に何事かめくばせをした。

「……わかりました。谷々様、残念ですがこういったことは最初にハッキリ申し上げるべきかと思いますので、お伝えします。あなたの能力では戦いについていくことはできません」

どこか蔑むような意図を感じる声が広間に響く。

「……理由を聞いても？」

「単純なお話です。あなたの能力は弱すぎるのです」

「……弱すぎる……ですか」

「はい。身体強化系のアビリタは戦闘において有用ではありますが、効果範囲があなた自身のみ、そして倍率が2倍程度となると充分に鍛えた一兵士程度の力しか発揮できません」

「はぁ…」

「その程度の力では従軍しても戦力にならないどころか足手まといになる可能性が高いのです」

なるほど、さきほど蔑むような声色になった理由はそれか。

わざわざ連れてこさせた助っ人が、頼りにならないどころか足手まといだったとわかり失望したのだろう。

先ほど一番の能力を聞いて喜色満面だった広場の人間達が、僕の方を見てヒソヒソと会話しているのが聞こえる。

会話内容まではわからないが、その顔を見るにとても良い話だとは思えない。

「ちょっと待ってください！　能力が弱いからといってそんな言い方はあんまりではないですか！？」

ティアラの話を聞いていた一番が唐突に声をあげた。

「そもそもまだ僕たちは戦いに行くと決めたわけではありません。そんな中能力の強弱だけで人を値踏みするような発言を聞かされて、誰が喜んで協力するでしょう？」

「……ごもっともなお言葉です。谷々様、失礼いたしました。しかし、それほどまでこの世界におけるアビリタの重要度は高いのだとご理解いただければ幸いです」

ティアラは謝罪したが、その言葉に謝意は一切感じられない。

それは周りにいる人間たちも同じのようだ。

「まだ戦われるかどうか決めかねるというのもよくわかります。情報が足りない中、この場で決めろと言うのも性急なお話ですしね。よろしければこの後別の会場にてお食事でもしながらより詳しい情報をお伝えしたく存じます。皆さまこちらの世界に来て以降、何も口にされていませんよね？」

その場の雰囲気を変える明るい声、そして提案された食事という内容に対して、緊迫していた空気が少しだけ弛緩した。

「あー、そりゃぁいいな。これからどうするにしても腹が減ったまんまじゃ何も考えられねぇ」

「あんたはいつも何も考えてないでしょ」

「あぁ！？　今なんつった四方！？」

御法川、それに四方田さんがいつもの調子で話し出す。

「2人とも一旦落ち着いて。……なんにせよ考える時間をもらえるのはありがたい話です。お誘い感謝します」

それを制し、ティアラに向き合った一番が軽く頭を下げた。

「いえいえ、それでは皆さんこちらへどうぞ」

そう言うとティアラは先導しながら大広間の出口へと歩き始める。

しかし、歩き始めてすぐにこちらを振り返ると

「ただ、谷々様だけはご一緒いただけません」