魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
それでもお話をかけているのは、月島さんのおかげ。
本日も晴天。そして平和だ。
というのも、新入部員勧誘週間を乗り越えることができ、風紀委員としての最初の大仕事が無事終了したからだ。
新入部員勧誘週間とその後の出来事は、おおよそ知識通りの流れだった。
初日に体育館で達也が剣道部と剣術部の衝突を止めて、魔法の不適正使用により剣術部二年の
その数日後に、達也は何者かに襲撃…というか嫌がらせ?を受けたそうだ。これは達也本人から聞いた。僕のほうにそういうことがなかったか確認をしてきたのだ。
あと、達也がカフェで女子の先輩を言葉攻め(意味深)にしていたのが目撃されている。
おそらくではあるが、ここまで原作通りなのであれば、裏でも原作通りに達也が反魔法国際政治団体ブランシュを調べたりしているのだろう。
…と、達也の周りでは色々とトラブルがあったわけだけど、僕はといえば新入部員勧誘週間中も大きな争いに巻き込まれたりもしなかったし、大変なことは無かった……
あっ、前に一回、中条先輩に会った時「なんでいきなりいなくなったんですか!?あの時、恥ずかしかったんですよ!?」と何故か怒られたが……それ以外は特に無かったんだけど……
―――――――――
「よし!私は準備はいいよ!」
僕の前にいるのは警棒を構えた千葉エリカ。そしてここは校内のとある演習室。でもって、他の「お兄様と愉快な仲間たち」は演習室の端で見学をしている。
「…いや、どうしてこうなったんだい?」
「どうしてって、前にも言ったじゃない。月島君の腕を見てみたいって」
「忘れた?」と首をかしげるエリカに僕はため息を吐いて首を振る。
「忘れてはいないさ。確か、勧誘週間の二日目だったかな」
そう、風紀委員の活動中にエリカに会って、その時に僕が武装一体型CADを使っていることを知ったエリカが僕の実力に興味を持ったのは知っていたし、その時「簡単な試合してみない?」って言われて断って逃げたのも覚えている。だけど…
「深雪さんに「ついて来てください」って言われた時は、てっきり生徒会の手伝いか何かで人手が足りないのかと思ってたんだけど…」
「そうでもしないと月島君が捕まらないじゃない?だから達也君たちにも協力してもらったの」
「今、放課後だけど部活は?」
「都合付けてきた」
見学している面々を見ても同じく頷いていたので、本当に問題は無いのだろう。
「演習室って勝手に使っていいものなのかい?」
「大丈夫だ。そのあたりの許可は取ってある。お前が心配するようなことは何も無いぞ、月島」
わぁ!さすがお兄様、用意周到、手を回していたんだ(白目
…もう、逃げ道は無いってことですね、わかります。
「しかし、なんでそこまで協力して……しかも、わざわざ見に来るんだい?」
「面白そうだったからな!」
「なんとなく、です」
「右に同じ」
「私はつきそいで…」
「お兄様がいますから」
レオ、美月、雫、ほのか、深雪がそれぞれの理由を述べる。そして、肝心の達也はと言えば……
「同じ風紀委員として、月島の実力を見ておきたかったからな」
いや、さすがの僕でもわかるよ?それが嘘だってことぐらい。
その眼でよく観察して、下校騒動の時に見せた高速移動が何だったのかを探ってるんだよね?
「はぁ…」
とはいっても、こうやってノコノコやって来てしまったんだから、もう腹をくくってしまうしかないだろう。……当然、能力を使う気はないが。
「それで、ルールはどうするんだい?」
「魔法あり。ただし、致命傷はもちろん極力怪我はさせないように…って感じ?」
「もしもの時は俺が止めに入る」
そこを買って出るあたり、達也もかなりこの試合に興味があってノッているようだ。
「…あんまり、期待はしないで欲しいんだけどなぁ」
誰にも聞こえないくらいで僕は呟き、腰にさげてあった発動状態の『ブック・オブ・ジ・エンド』を模した武装一体型CADを左手に持ち、構えた。
それにあわせるように、エリカも警棒(確かアレもCADなんだっけ?)を構え、そして……
「始め…!」
達也の合図で試合が開始された。
…………で、どうなるかって?そんなの決まってるよ。
僕だって我流とはいえ刀を使った接近戦を想定した訓練をしてきている。
だが、相手は「剣の魔法師」なんて呼ばれることもあるあの千葉家だ。剣技で敵うはずは無いし、それに『魔法』の点で見ても勝てる要素が無い。普通の打ち合いでも押し負けちゃうんだから、どうしようもないよ。
僕がCADを振るえば、エリカはそれを弾きその動き流れのまま僕に一撃を入れようとしてきて、僕がそれを避けて、その避けた先を見越して飛んでくるエリカの警棒を、今度は僕のCADで防ぐ。
……本当にどうしろって言うんだろう。
こういう『
そもそも、僕は『魔法』を入試等の試験用にしか練習をしていないのも問題だろう。おかげで戦闘時に使えるような魔法をロクに会得してないからなぁ…
そんなことを考えながら片手間でエリカの相手をしていたら、互いのCADを打ち合いながらも、エリカから声をかけられた。
「ねぇいい加減、魔法使わない?」
「少し悩んでてね…。エリカが見たいのが僕の「剣術の技量」なのか「魔法の技量」なのか、どっちなのかって」
「両方…かな!」
と言った次の瞬間、僕の目の前からエリカの姿が消えた。
「なん…だと…」
ついその言葉を発してしまった瞬間、『自己加速魔法』という言葉が頭に浮かんだのと同時に「マズイ!?」と思い、僕はとっさに僕が使える数少ない魔法のうちの
ガッ!
わき腹に思いきり強い衝撃を感じ、世界が回転した。
「ちょ、ウソぉ!?だいじょぅ……」
……エリカの声が聞こえた気がしたが、聞き取る前に意識が途切れてしまった…。
―――――――――
「ううん…」
…見たことの無い天井……じゃない。普通に演習室の天井だ。
僕はすぐに上体を起こした。
「あっ、起きた?」
「エリカ?…って、ああそうか、思い出した」
そういえば、戦ってたんだったなーっと納得して、身体の調子を確かめる。…うん、問題はなさそうだ。
「大丈夫ですか?」
「一応、達也さんが診てくれて、問題無いとは言ってたけど…」
心配そうに見てくるほのかと雫に手をヒラヒラと振った後、スウッと立ち上がってみせる。そして「大丈夫だよ」と言葉を返すと、取り敢えずは安心してくれたようだった。
……で、だ。
「その達也は?見当たらないけど…」
ついでと言ってはなんだが、深雪さんもいない。他の人は全員いるのだが、どうかしたのだろうか?
「いやな、月島がぶっ飛ばされたちょうどその後くらいにな、変な放送がデカデカと流れてさ。それで生徒会と風紀委員の司波兄妹はソッチに行ったんだよ」
レオからその事を聞いた瞬間、何のことかはわかった。
あれだ、一科生と二科生の差別の撤廃を求める運動を剣道部の二年
「そうか、生徒会と風紀委員……となると、もしかして?」
「はい、月島くんにもコールが鳴ってました…。おそらく二人が事情を説明してくれてるとは思うので大丈夫かと…」
そう美月は言ってくれたけど、正直嫌な予感しかしない。どうなるにせよ渡辺委員長に叱責させることになりそうだ。
「今からでも行ってしまおうか」と考えたちょうどその時、演習室に司波兄妹(妹のほうが機嫌が悪そうだった)が帰ってきた。
はぁ…過ぎてしまったことは仕方あるまい。ここは大人しく二人から話を聞いた方が良いだろう。
―――――――――
「…というわけだ」
僕らは、達也から今回の件と明後日のことを説明してもらった。
やはり原作通りのようだ。
そうなると、壬生紗耶香の集団の背後にいる連中…反魔法国際政治団体ブランシュが公開討論会当日にテロ行為を仕掛けてくるのもほぼ確実だろう。『ブック・オブ・ジ・エンド』を活用して事前に計画を潰すことも考えてみたが……ダメだ、どう考えても間違いなく僕も
さて…どうしたものか……?
「これで騒ぎについては終わりだ……話は変わるが、みんなはさっきの試合のことは話し終わったのか?」
そう達也が聞き、僕らは首を振る。僕がさっき起きたばかりなことを告げると「ならちょうど良かった」と返してきた。
「実は月島の戦い方で気になることがあってな」
「あっ、それは私も!」
「なら実際に戦ったエリカから、月島の実力がどうだったかも含めて話してくれないか?」
僕の意思は?と聞く間もなく、エリカが口を開いた。
「一撃は軽いけど私の動きについてこれるくらいには速いし、剣の素質は十分すぎるほどあると思うんだけど……剣道でもなく剣術でもない、なんだかただ振ってるって感じ。私を狙った時もただ「当てる」って感じで「倒そう」って意思が感じられなかったっていうか…」
「なんだそりゃ?なんか漠然とした言い方だな?」
「しょうがないでしょ、そう感じたんだから」
いつものようにエリカとレオがにらみ合い、その間に挟まれている美月がアワアワと慌てふためいている…。
まあ、おそらくエリカの言っていることは間違っていない。
僕がこれまでやってきた刀での戦闘練習は、あくまで『ブック・オブ・ジ・エンド』を使用することを想定した練習で、『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力を活用し生き残ることを目標としている。故に、相手に挟み込むための戦い方であり、切り捨ててしまおうとかは考えていないのだ。
それに、そもそも『完現術』の高速移動等を駆使した不意打ちが僕の本来の戦い方であり、今日のような正面から打ち合うのは得意とは言い難い。
「じゃあ、次は俺が言うがいいか?」
「うん、私から言えるのは剣の部分くらい。それに最後のほうは自分でもよくわかんなかったから」
そう言って、エリカから達也へとバトンタッチされた。
「俺は月島の魔法の扱いに違和感を覚えたんだ」
達也は僕の目を見ながら話しだした。
「…最後のほうで「自身の周囲の光の屈折に干渉して視覚を錯覚させる」タイプの幻影魔法を使おうとしたな?しかし、失敗…とまではいかないが発動が遅れ、幻影に紛れて避けるはずが間に合わず、そこに幻影に驚きながらも振るわれたエリカの警棒が当たった」
「そうだろ?」と視線で僕に問いかけてくるが、正直、自分でもあの時のことを把握しきれていなかった。…が、ノーリアクションと言うわけにもいかないので、軽く頷くことで達也に続きを
「だが、ここに戻る途中に深雪から聞いた話では、実技の授業中の月島はいたって問題無く魔法をつかえていたらしい」
「はい。その通りです、お兄様」
「うん、月島さんは別に実技は苦手そうでは…」
「むしろクラスの中でも好成績だと思うけど」
同じクラスの深雪さん、ほのか、雫がお互い顔を見合わせたりしながら頷いた。しかしその顔は「じゃあなんで?」と不思議そうにしている顔だった。
もちろん、別クラスであるレオ、エリカ、美月はさらに困惑の表情をしている。
「じゃあ、なんでさっきは上手くいかなかったんだ?」
みんなの気持ちを代弁する様にレオが俺のほうを向いて問いかけてきた。
「月島、そのCADを実際に使うのは初めてだろ?」
「「「「「「!?」」」」」」
レオの問いに答えたのは、僕ではなくて達也だった。そしてその回答にみんなは驚いていた。
「…達也は何でも御見通しなんだね」
「ついでに言うなら、CADや魔法を使った戦闘自体が初めてだろう?これまでは……そうだな、噂通りなら木刀のような剣のように使うものを使ってたか。だから、そのまま武装一体型のCADを選んだ…違うか?」
おおよそ合っているわけだし、そこまでバレていては仕方ない。僕は両手を軽く上げながら「降参だよ」と達也に言った。
「その通り。僕は実技に関してはここに入学するために必要な内容は何度も反復練習したりはしたけど、それ以外…CADを使った戦闘なんていうのは全く触れてなくてね。このCADに入れてある魔法も達也が言った幻影魔法ひとつだけなんだ」
しかも、その幻影魔法も「自分の近くの光の屈折に干渉し、外から見ると少し遅れて見えたり、蜃気楼のように揺らぐ」程度で、たいしたものじゃない。
「よくそんなんで風紀委員になったな!?」
「我ながら、荒事に巻き込まれなかったのは運が良かったと思うよ」
驚いているレオに苦笑いを浮かべながら言葉を返す。すると、今度は美月から質問が飛んできた。
「あの、CADに一種類しか魔法をインストールしていないのはどうしてですか?」
「僕が使える魔法でこのCADに合うだろう魔法が無かったって言うのが大きな理由かな?あとは、これまでは入試の勉強や理論のほうについていくのに手一杯で、僕が実戦用の魔法を身につける機会が中々無かったからだね」
質問を答えたら、また新たな質問。今度は雫からだった。
「月島さん、得意な系統の魔法は何?」
「収束・発散、その次に振動ってところかな。ついでに言うと苦手なのは吸収・放出、それと加速だよ」
僕がそこまで言うと、その場にいる僕以外のメンバーたちは顔を見合わせて頷き合い……特に深雪さんは達也に「お兄様、もしかして…」と何かを耳打ちし、達也はそれを「ああ」と肯定で返していた。
そして、一斉に頷いて全員が僕の方を見た。
その中で達也が代表するかのように口を開いた。
「月島。月島にはそのCAD、武装一体型CADは合っていない」
「知ってるよ?」
「「「「「「えっ」」」」」」
「見た目が僕好みだから使っているだけさ」
実際の理由は知っての通り違うのだが、これもあながち間違っていない。
僕の言葉に大半が口をポカンと開けて驚き、達也はため息を吐きながら首を振って呆れているようだった。
最初に復活したのはエリカで、ポンと手を叩き、何かを納得したように頷いていた。
「あっ、わかった。月島君ってレオとは別タイプの馬鹿だ」
「それはヒドイと思うよ、エリカ。それじゃあまるでレオが馬鹿みたいじゃないか」
「自分が馬鹿と言われたことは否定しないのですね…」
「みたいだな…」
そんな司波兄妹の会話に、他の人たちも頷いているようだった…。