長崎・被爆体験者「雨の記憶は間違いない」 国が体験記調査開始
毎日新聞 / 2023年7月18日 21時56分
長崎原爆で国の指定区域外にいたため被爆者と認められていない「被爆体験者」の救済を巡り、厚生労働省は18日、原爆投下後に放射性物質を含む雨や灰などが降った状況を検証するため、長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館が所蔵する約12万件の体験記の調査を始めた。毎日新聞が6月、体験記の一部を収容したデータベースを調べたところ、少なくとも計31件の雨や灰、燃えかすなどが降った記述を確認。広島原爆では「黒い雨」体験者に2022年から被爆者健康手帳の交付が始まっており、長崎の体験者の救済につながるか注目される。
長崎では1999年度に長崎市などの証言調査で集まった7025件のうち、雨について129件、灰などについて1874件の記述があった。これらを基に、長崎県の専門家会議は22年7月の報告書で「原爆投下後の長崎でも雨が降った」と結論付けたが、同省は「降雨の客観的な記録とは認められない」として被爆体験者を援護対象にしていない。
一方、広島原爆では、投下後の「黒い雨」体験者を巡って住民側の勝訴が確定した21年の広島高裁判決を受け、国は22年4月から被爆者手帳の交付を開始。同時期に国は広島の祈念館で所蔵する約15万件の体験記の調査結果を公表。雨の記述が約1600件、灰などの飛散物の記述が約300件あったとし、これを受け、長崎市と長崎県は長崎分も調査するよう国に求めていた。
国の調査着手を前に、毎日新聞が祈念館内のみで閲覧可能なデータベースで、被爆体験者の地域を調べたところ、爆心地から東側の旧矢上村(現長崎市)で4件、旧日見村(同)で1件の雨の記述が見つかった。灰や燃えかすの記述はいずれも東側の旧矢上村で16件、旧古賀村(同)で6件、旧日見村で3件、旧戸石村(同)で1件。15歳の時、爆心地から約9キロ離れた旧古賀村に住んでいた男性は95年の証言で「草やイモの葉などに島原の噴煙の灰みたいに積もっているのを見て恐ろしくなった」と記していた。
データベースに未収容の体験記も多く、今回の調査で全体を調べれば、雨や灰などの記述はさらに増えるとみられる。
同省は95、05、15年度に被爆者手帳所持者を対象に実施した被爆者実態調査で集めた体験記や、それ以外に祈念館に寄せられた個人の体験記なども調べ、完了まで1年程度とみている。
体験記調査の必要性を提言してきた大矢正人・長崎総合科学大名誉教授(物理学)は「被爆体験者の地域以外も含め救護活動などをした人の体験記を調べれば、更に多くの雨や灰などの記述が見つかるだろう。原爆の影響がどこまで広がったかの調査は、人類史的にも国が責任を持ってやらなければならない仕事だ」と指摘する。
降ってきた灰・雨 80歳男性、鮮明に
「被爆当時、私は矢上村で雨粒を浴びました」。長崎市の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館が所蔵する約12万件の被爆体験記に、こう表題を付けた一編がある。証言者は長崎の爆心地の東約8・3キロの旧矢上村(現長崎市)で原爆に遭った宮本真秀さん(80)。当時3歳だったが、降雨で近所の人たちが井戸端会議をやめて家に帰った記憶は鮮明だ。
当時いた集落は国が指定する援護区域外とされ、被爆者と認められない「被爆体験者」と扱われている。
1945年8月9日午前11時2分、外で遊んでいて異変を感じ、帰宅した。中庭の井戸の周りでは祖母や近所の大人たちが集まり、異様な雰囲気の空を見上げていた。宮本さんも一緒に見ていると、白っぽいものがパラパラと降ってきて、灰になりかけたリボンのような紙切れもくるくる舞いながら落ちてきた。
「あれー、こがんとの(こんなのが)降ってきた」。じっと見ていると、ポツポツと雨粒が落ちてきた。大人たちは「あら、雨まで降ってきた。家に入ろう」と言い、井戸端会議はお開きになった。三つ上の姉は後に、あの雨を「ザーッと降ってきた」と語った。
宮本さんは戦後、長崎大薬学部を卒業し、同学部助手を経て72年に長崎県職員に。県衛生公害研究所(現県環境保健研究センター)などでは、工場から排出されて呼吸器疾患の原因となる硫黄酸化物などの測定に従事した。その経験から「灰が降っていれば、住民は微細な放射性物質を吸入している。そもそも被爆者と認める要件を『雨』だけに限定するのはおかしい」と語る。
国が「降雨の客観的な記録がない」として長崎の被爆体験者を救済の対象外とする姿勢にも「(広島との)差別だ」と憤る。
学生時代の友人に勧められ2022年12月、体験した事実を残そうと祈念館で聞き取りに応じた。宮本さんは繰り返し強調した。「雨が降り出し、『ぬれんうちに』とみんな家に帰って行った。その記憶だけは間違いない」【樋口岳大】
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