1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

北海道の蒸気噴出、特産米に風評被害も…体調不良者訴える人が増加

読売新聞 / 2023年7月19日 8時17分

 北海道蘭越町湯里の地熱発電調査現場から蒸気が噴出している問題が長期化している。事業者の三井石油開発(東京)は18日の連絡会議で、8月中旬には噴出を抑えるとの方針を明らかにしたが、時間の経過とともに体調不良を訴える人は増加。町の特産米に対する風評被害も出始めるなど、発生から20日がたった今も事態の収束は見通せていない。(片岡正人)

鎮圧時期前倒し

 同町山村開発センターで開かれた会議には、国や道、町、研究機関など15団体から約60人が出席した。同社は、蒸気の抑止や蒸気に交じって出る濁水の処理について説明。蒸気の鎮圧時期については、必要な資材や機材の調達を前倒しすることで、今月10日の住民説明会で示した8月下旬から中旬を目指すと修正した。

 同社によると、蒸気の噴出は調査用の井戸を掘り始めて5日目となる6月29日午前11時半頃に発生した。深さ約200メートルの地点で見つかった亀裂が原因とみられる。井戸は約3000メートルの深さまで掘削する計画だった。噴出に備えた安全装置は700メートルまで掘った時点で設置する予定だったといい、同社は「この浅さでの噴出は想定外だった」と見通しの甘さを認めた。

 噴出によって周辺の森林は一部が変色したほか、河川も白濁、現場で採取した水からは飲料水の基準の2700倍のヒ素が検出された。道立総合研究機構の高橋徹哉・専門研究員は「200メートルというのは極めてまれなケースだが、地熱発電は住民の理解と協力がないと成立しない。今回の問題はその信頼関係を損ねてしまった可能性がある」と指摘する。

情報発信に遅れ

 住民の不信感を招いた一因は、三井石油開発の情報発信に対する消極的な姿勢や対応がある。

 発生当日、弁当配達で現場を訪れた女性が硫化水素中毒と診断されながら「住民不安をあおる」としてすぐに公表しなかった。また、現場で出たヒ素が含まれた濁水を観光名所「大湯沼」方面に放出。農業用水にも利用されているニセコアンベツ川への流入を防ぐため「現場にためておけず、やむを得ない措置」と釈明し反発を招いた。

 放出が判明した後の今月7日、金秀行町長は同社の担当者を呼んで抗議し、道も温泉法に基づいて放出を止める措置を取るよう要請。同社は17日、別の井戸にパイプラインを通じた移送を始めた。18日の連絡会議でも、金町長は「現場の状況と発表される情報が異なっている場合がある」と広報体制に注文を付けた。

取引量「半分に」

 発生から間もなく3週間となる中で、影響は広がっている。中でも深刻なのは、特産ブランド米として知られる「らんこし米」の栽培農家や取扱店だ。米穀店「丸石石田商店」の石田壮一社長(67)は「取引業者から約束していた量の半分は出荷を待ってほしいと言われた。昨年収穫した米なのに『らんこし米は危ない』というイメージが消費者に広がっているようだ」と肩を落とす。コメ農家の男性(50)も「関係ない地区もひっくるめて危ないと思われている」と憤った。

 これまでに体調不良を訴えた人は15人。同社は最初に訴えた女性について、因果関係を認めて補償する。同社の原田英典社長は18日の会議後、体調不良者や農作物への影響などの補償について具体的な基準を策定する考えを表明した。

 企業の危機管理対応に詳しい浅見隆行弁護士(第二東京弁護士会)は「後から体調不良者の情報が出てきたため、地元が不安を抱く結果につながってしまった。今後は住民に寄り添って情報を発信し、補償も含めて誠実に向き合っていくことが求められる」と話している。

CCPA Notice
あなたにオススメ

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む