異世界にて2
「これより開始されます。転移者は目標の達成を目指してください。」
感情のない、まるで機械のような声だった。
それは遠くから呼びかけられたようでもなく、頭に直接響いたわけでもなく、まるで空から降ってきたような声に感じた。
周りを見ると、全員が空を見上げている。
どうやら自分にだけ聞こえた声というわけではないらしい。
「なんだ?いまの…?」
御法川が誰にともなくつぶやいた。
「人の声…だよね?」
四方田さんが周りの顔を見ながら問いかける。
「開始…転移者…目標…」
沢田石が
「これはいよいよゲームじみてきたね、、。みんな、自分の右手の人差し指を見てみて。」
一番の言葉に全員が自分の指を見ると、そこには銀色のリングに、紅い小さな宝石のはまった指輪がはめられていた。
もちろん、こんなものをしていた覚えはない。
そして恐ろしいことに
「ひっ、、!」
と小さなうめき声、そして直後に
「もう嫌…いやぁああぁ気持ち悪いよぉおおぉ、四方ぉおぉお」
それまでうつむいて四方田さんにしがみつくだけだった嵯峨さんが、自らの指にはまった指輪をみて嗚咽し始めた。
目には大粒の涙が溢れ、小刻みに体を震わせながら四方田さんの顔を見つめる。
「だ、大丈夫だよ、、
四方田さんが自分でもなにが大丈夫なのだろうと疑問の顔で嵯峨さんを慰めている。
泣き出したいのは自分も同じだろうに、嵯峨さんの手前気丈に振る舞っているのだろう。
「またかよ…るっせぇーなぁ」
御法川のイラついたつぶやきが聞こえる。
それを聞いた途端、嵯峨さんの泣き声は過呼吸のようなひきつりに変わり、その場にしゃがみこんでしまった。
「ちょっと実里!結花、ゆっくり深呼吸して、落ち着こう。大丈夫、そばにいるからね。」
四方田さんはそんな嵯峨さんの肩を抱いてゆっくり語りかける。
それに呼応するように「ひっ、ひはっ、ひっ」とどこかわざとらしい嵯峨さんの呼吸の乱れが徐々に収まっていく。
それを確認した一番が
「とりあえず場所を移そう。こんな草原のど真ん中でいつまでも話し込んでいるわけにもいかないしね。近くに家や街、せめて落ち着いて話せるような場所があると良いんだけど」
と場の空気を変えるように話し始める。
「…そうね」
嵯峨さんの背中をさする四方田さんが不安そうな顔で応えた。
「ってもこんなだだっぴろいところで落ち着くったってなぁ。おい沢田石、なんかこういう時に使える知識とかねぇのかよ?」
御法川が視線を向ける。
だが、さっきまでそこにあった沢田石の姿が見当たらない。
「あれ?あいつどこいった?」
御法川の言葉に全員があたりを見渡す。
しかし、いつのまにか沢田石の姿はどこにも見当たらなくなってしまっていた。