新型コロナウイルスの感染拡大で沖縄県内の医療現場が逼迫(ひっぱく)する一方、感染症法の位置付けが5類へ移行したことに伴う「疑問点」がインターネットなどで散見されている。感染症に詳しい県立中部病院の高山義浩医師に改めて聞いた。(社会部・下里潤)
ー5類に移行したので、感染対策や飲み会などの行動制限は必要ないのではないか。
新型コロナの流行で3年にわたって繰り返し行動制限などが強いられてきた。5類へ移行したことで法律上はインフルエンザと同じ扱いになり、パンデミック(世界的大流行)に対する社会的な節目と捉えることもできる。
本来、個人的にイベントを開催したり、好きな所へ旅行したりすることは憲法で保障された権利だ。法的根拠がない中で、行政が過度な制限を求めるべきではない。
ただし、発熱などの症状がある人がイベントに参加したり、公共交通機関を利用したりすることは、他人の健康を危険にさらすことになりかねない。個人の自由が尊重されるとしても、倫理的観点から避けるべきだと考える。やむを得ず外出するときは、人前では必ずマスク着用をお願いしたい。
ーコロナは単なる風邪と同じ。重症化しないので感染しても大丈夫ではないか。
5類に移行したとしてもウイルス自体が変化したわけではない。高齢者や基礎疾患のある人にとっては重症化する恐れがある。
感染した場合の長期的な影響は、まだ十分に明らかになっていないが、血栓など循環器系への影響や糖尿病になりやすくなるなどの報告もある。倦怠(けんたい)感や咳(せき)、息切れ、集中力の低下など、後遺症に苦しむ人も少なくない。
若い人でも「単なる風邪」と軽視するのは早過ぎだろう。新たな感染症については謙虚かつ慎重に見極めていく必要がある。
コロナの流行が急速に拡大すると、病床がいっぱいになって救急患者が入院できなくなる。スタッフの感染などで人材が不足し、手術などを延期せざるを得ないことも起きている。
県民が必要な医療が受けられなくなる状態のことを「医療崩壊」と呼ぶ。コロナだけでなく、心筋梗塞や交通事故など迅速に適切な医療が受けられなければ、文字通り命に関わりかねない問題だ。
健康な人は無関係と思いがちだが、病気や事故で救急搬送されることは誰でも起こり得る。医療崩壊はいかに深刻な問題なのか、理解してほしい。
ー感染拡大の理由が分からない。沖縄はワクチン接種や過去の流行で免疫が付いているのではないか。
昨年夏に沖縄は大きな流行を経験した一方、冬の流行は限定的で全国でも最低レベルだった。このため、自然感染から時間がたっている県民が多く、獲得免疫が低下している人が多いことも、全国と比べて感染者が多い理由の一つと考えられる。
麻疹や風疹のようにワクチンを接種することで、ほぼ生涯にわたって感染を予防できる感染症もある。しかし、新型コロナは変異の速さもあって感染予防効果は限定的だ。特に県内で流行している変異株は「XBB系統」が主流といわれ、ワクチンで免疫を獲得していても、すり抜けて感染する能力が高いとされる。
このため少なくとも現在流行している変異株に対しては、ワクチン接種による感染予防効果はあまり期待できなくなっている。ただし、入院予防効果については2カ月程度、重症化や死亡を予防する効果は6カ月程度、50%以上の効果を維持したという報告がある。
前回の接種から半年以上たっている高齢者や基礎疾患のある人は、追加接種を勧めたい。