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吊り橋でピエロに会う話

2023年 07月19日 04:02 (水)

 吊り橋を歩いていると向こう側からピエロの集団がやって来た。玉乗りしてるやつとか竹馬に乗ったやつとかジャグリングしながら歩いてるやつとか、それらピエロが道いっぱいに広がってこっちに歩いてくる。やつらは吊り橋をわざとぐらぐら揺らしながら歩いている。通りでさっきからこの吊り橋は揺れるわけだ。ピエロらはこの揺れを楽しんでいるのだろうか。あの派手なメイクでどうにも素の表情が分からない。しかしなんとも不気味な集団に見えた。
 しかし困ってしまった。あれらの横を通り過ぎて向こう側に行けるほどこの吊り橋は大きくない。それにあんな不気味な連中の中に入っていく勇気もなかった。今いるのは吊り橋のちょうど真ん中だ。また同じ距離戻るのは負けた気がしていやだけど引き返そう。そう思い振り返るとそちらにも同じようなピエロの集団がいた。
 反対側の集団も同じく道いっぱいに広がってこちらに迫りくる。もはやピエロのサンドイッチだ。まごついているうちに二つのピエロ集団は吊り橋の真ん中で落ち合った。お互いに知り合いのようだが仲はすこぶる悪いようだ。「お前ら道を譲れ」「いや、お前らこそ道を譲れ」そんな感じで私を挟んで口論が始まった。
 口論はやがてヒートアップしジャグリングのボールを投げたり竹馬で小突いたりと手が出るようになってきた。幸いにも私は全く関係ないので小さくしゃがんで居れば喧嘩に巻き込まれることはなったがそれでこの状況がどうなるでもなかった。早くここから脱出したい。なんで関係ない私がこんな迷惑を被らなければならないのだ。
 やがて喧嘩はつかみ合いの乱闘になった。狭い吊り橋の上で殴る蹴る火を吹くの大混乱だ。吊り橋はゆらゆらと揺れまくって私は気が気ではなかった。高いところは苦手なのだ。でもピエロたちは綱渡りとか仕事でやってるから大して怖くもないのだろう。やはり私は無関係なので小さくなっていれば乱闘に巻き込まれることはなかったが、心の中は相当にイライラしていた。
 ピエロが投げた手投げナイフが地面に落ちていた。それを拾うと私は吊り橋のワイヤーをギコギコと切断し始めた。吊り橋を破壊してピエロをみんな谷底に落としてやりたかったのだ。怒りが自滅衝動にまで昇華していた。私がそんな行動を起こしていてもピエロたちは乱闘に夢中で気が付かない。ワイヤーは固くナイフ程度では歯が立たないがそれでも私の心はイラついていた。怒りに任せてギコギコと丁寧にワイヤーをぶち切っていった。
 やがて吊り橋は半壊した。左右片方の手綱が切れたのだ。吊り橋は90度回転してぶら下がったので乗っていた大半のピエロは谷底へ落ちていった。私と数人のピエロだけが橋の崩壊を予期して足場の板に縋りついたので助かった。助かったといっても可なり危機的な状況だ。混乱していたピエロたちはやがて私が犯人だと気づくや私に罵声を浴びせてきた。ここにきて喧嘩していたピエロたちは共通の敵を見出して一致団結したようだ。それは良い事のように思われた。だが私はそろそろ力尽きる。腕の力だけでぶら下がるのも5分が限界だった。結局私は谷底へ落ちていった。
 ピエロは私なんかより腕っぷしはあるだろう。だからあの状態でもなんとか移動して無事に生還できるかもしれない。あるいは共通の敵を失ってまた敵同士になり喧嘩してお互いを蹴落とすのかもしれない。最後まで見ていたかったけどそれは叶わないようだ。そろそろ私は谷底の岩に頭を砕いて死ぬからだ。

鏡を拾う話

2023年 07月18日 05:57 (火)

 道端に手鏡が落ちていた。誰かの落とし物かもしれないが単なるゴミかもしれない。表面は白くくぐもっていてまともに鏡の役割を果たしていないからだ。鏡の向こう側ははっきりしないがぼんやりとして何かを映している。交番に届けるにしてはゴミ然としている。持ち帰るには気味が悪い。とりあえず道の脇の方に置いてそのまま帰ることにした。
 家に帰って洗面所で手を洗う時に洗面台の鏡が妙に白くくぐもっていることに気が付いた。タオルで磨いても一向に綺麗にならないしなんだか異様に明るく光っているように見えた。顔を近づけてよーく見てみると鏡は私の顔を映してなどいなかった。くぐもってはっきりとはしないが青空を明るく映しているのだ。ここは部屋の中だというのに妙な光景だった。ふと思い立ったことには先ほど見かけて道の脇に置き去りにしたあの鏡だ。あの鏡も白くくぐもっていて空を見上げていた。もしかして、どういうわけか分からないがこの鏡とあの手鏡は繋がっているのではないか。
 急いでさっきの場所に引き返す。手鏡は依然としてそこに置かれていた。さっきより注意深く手鏡の中を覗き込む。確かにそうだ。くぐもってはっきりしないけど確かに自分の家の中が映し出されている。気持ちの悪い感覚だった。このままでは私の家の中は丸ごと外に筒抜けだ。とりあえずこれを家に持ち帰る。
 手鏡と洗面台の鏡はお互いにカメラとモニターの関係のようだった。片方が見ているものが片方に映る。監視カメラの役割は果たしそうだった。しかしあまりに白くぼやけるのでそれでも大した役には立ちそうになかった。かといってそのまま捨てるのも憚られた。不透明とはいえ家の中が丸見えのこれを外に捨てに行く気にはなれなかった。
 珍しい不思議なアイテムだが、何の役にも立たないしむやみに捨てるわけにもいかない。厄介な物だ。いっそのこと叩き割ってしまえば良いだろうと勢いよく地面に向かって叩きつけた。そしたらそれに連動してか洗面台の鏡も触れてもいないのに勢いよく砕け散った。全く持って損害でしかない。珍しいだけで価値なんてない。それともそれを使う側にこそ使うセンスが問われるものなのだろうか。

樋口一葉に話しかけられる話

2023年 07月17日 09:45 (月)

 財布の整理をしていると五千円札に違和感を持った。樋口一葉とはこんな顔だったか。なんだか見覚えのない人がそこには描かれている。これは偽札だろうか。いつの間にそんなものが財布に入り込んだのだろうか。それとも自分が覚えてなかっただけで元からこんな顔をしていたろうか。しげしげとそれを見ていると樋口一葉がこちらを向いているのに気が付いた。普通肖像画というのは顔を斜めに向けているものでなかろうか。よく見ると樋口一葉はにんまりと笑っていたが目は笑っていなかった。あっけにとられていると樋口一葉のようなそれは話しかけてきた。
「金は使う時にこそ価値が出る。溜めているばかりではなんの価値もない。」
 なんだか分かりきった格言めいたことを言ってくる。確かにそれはそうなのだけれど備蓄があるだけで心の平穏に繋がるのだ。だから溜めていることが無価値だとは思わない。しかしこの樋口一葉(?)にそんな議論を吹っ掛けたところで何がどうなるわけでもなし。紙切れと議論するほど終わってはない。だから私は否定するでもなく「はぁ、そうですか」と答えた。
「お前いつまで私をここに繋ぎとめておくつもりだ。早く出してくれないか。金は天下の回り物だぞ。ひとところに留まっていては淀むだけなのだ。」
 まあ樋口一葉(?)の言うことも分からんではない。だが五千円である。貧乏な私には無駄遣いしたくない額だ。そもそもそういうことは金持ちに是非言ってもらいたい。でも本人が私の財布から出ていきたいというのならそうさせてあげたいのは山々だ。来るもの拒まず去る者追わずの精神でいたいのだ。
「じゃあこうしましょう。5千円を電子マネーにチャージします。そうすれば良いでしょう。」
「お前人の話をちゃんと理解しているのか?それなら消費0で結局金が天下を回っていないではないか。」
 もっともなことだけれど財布から出るという目的は達しているではないか。そう反論しようとしたがやめておいた。議論したい気分ではない。私は黙ってコンビニに行き安い駄菓子を一個だけレジへ持って行って件の五千円札で支払った。
 口うるさい樋口一葉(?)は消えた。清々してお釣りの千円札4枚を眺めるとそこには野口英世によく似た見たことのない男が描かれていた。4枚共だ。4人は私と目が合うとにんまりと笑いかけたが目は笑っていなかった。口うるさいのが4人に増えてしまった。

昔に続く裏路地の話

2023年 07月16日 04:51 (日)

 住宅街を散歩。普段通らないような裏路地を曲がりあえて知らない道ばかり選んでみる。どうせ滅茶苦茶に進んだところで遠くに見える観覧車が目印になる。自分の家からでも見える大きな観覧車だ。知らない道で迷っても方向さえ合っていればいずれ知っている道に出るしその方向はあの観覧車が担保してくれる。とにかく暇を持て余していた。道に迷うくらいの非日常が欲しかったが本当に道に迷う度胸はなかった。そんな自分にはこの程度の冒険で十分だ。
 歩いているうちに本当に見知らぬ路地に出ていた。確かに観覧車はここからでも見えるから焦ることはない。しかしなんだか妙な場所だった。雰囲気が全体的に古臭いというか、昭和な感じがする。道行く人がスマホを持っていない。走る車が角ばっている。電信柱が木でできてる。なんだか場違いな感じがしてじろじろ人に見られてる感じがする。時代が遡っているのだ。そんな感じがした。確かにあの観覧車は依然としてそこにあるのだけれど、そもそもあれというのはいつからあそこにあるのだろうか。もしかしたら昭和の後期にはすでにあそこに立っていたのかもしれない。歩いているうちに時代が逆行しているのだとしたら、あそこに観覧車が見えているのは何の安心も生まなかった。位置的に迷子じゃなくても時代的に迷子なのだ。
 来た路地を戻ろうにもそれに意味はないような気がしていた。昭和後期の自分の住む家が建つであろう場所にたどり着くだけであってそこに自分の家はないのではないか。というかこの時代に一人取り残されて今後自分はどうしたらよいのか。頼れる人の一人もいない。そもそもなぜに自分は過去に飛んでしまったのか。
 それでもなお歩くのはやめなかった。とりあえず来た道を戻ったが予想した通りにそこには空き地が存在し「この時代は何も建っていなかったんだな」といらぬ発見をしただけだった。また路地を歩き続ける。狭い道はだんだんと舗装されない物になり砂利道になりけもの道になった。歩けば歩くほど時代を逆行しているようだったが後ろに進んでもそれは同じだった。だが止まるわけにはいかなかった。止まってどうにかなるとも思えなかったからだ。
 やがて道はごつごつした岩場ばかりになり溶岩が辺りを覆っている場所に出た。

砂漠を掘る話

2023年 07月15日 04:02 (土)

 砂漠を歩いていた。確かこの辺に小規模な村があったはずだ。久しぶりにそこへ訪れたつもりだったのだが見渡す限り何もない。砂山と青空のみ。行けども行けども建物一つ人一人すら見かけない。おかしいなぁ確かにこのあたりだったはずだが。時刻は正午。日は高く昇り短く影を落としていた。
 座り込んでぼんやりしていると不意にあたりが暗くなったような気がした。大きな影の下に入ったような感じで一瞬だけ涼しくもあった。反射的に空を見るがそこには何もない。何か大きなものが空を通ったわけでもなさそうだ。注意深くあたりを見渡すと地面に人の影だけがぽつりぽつりと表れては消えていく。またあっちの方には揺らめく木の影。こっちの方にはシャープな四角い影。多分建物の影だろう。影たちは一瞬表れてはすぐに消えていった。試しにその下を掘ってみると砂ばかりかと思われた地面の下には確かに何かがあるようだ。建物の影が見えた場所で出てきたのはコンクリートの塊。多分建物の一部だったものだろう。人影の見えたあたりでは人骨が出てきた。
 影の見えた所にそれに対応した何かが埋まっているらしい。私は一心不乱に掘り返していく。何日もかけて掘り返すうちに村の全体像がうかがい知れるくらいにはいろんなものが発掘できた。すでに崩壊した後とはいえ確かにこんな感じの村だったというのが思い起こされる。
 村の発掘ができたところで村が再建するわけでもないのだがなんだか懐かしくなって掘り返していた。しかし砂漠のど真ん中。何日もぶっ通しで働いているうちについに私は倒れてしまった。思えば水も食料も十分ではないし強烈な日差しを遮るものもないのだ。体の中で熱が暴走している。
 やがて私は死に体は腐って分解され白骨化するだろう。掘り返した遺物諸共も風の運んでくる砂に埋もれて地面の下だ。後には私が最初に着た時と同じように見渡す限りの砂山だけが残るだろう。その時はまた誰かが影を追って発掘してくれるのを待つだけだ。その時は自分も少し年代の新しい死体として発見されるだろう。

パンダを詰める話

2023年 07月14日 05:55 (金)

 住宅街を歩いていると向かい側からパンダが歩いてきたのでギョッとした。野生のパンダだろうか、どこかで飼われていたのが逃げ出してきたのだろうか。いずれにせよ首輪とかはつけていないようだ。さしあたって考えることは「パンダって肉食だっけ雑食だっけ」ということだ。見た目が可愛いとはいえ熊の一種に違いはない。だから襲われないとも限らない。あいにく周りを見渡しても逃げ道はないし誰一人としていない。パンダと自分とがあるのみだ。パンダもこちらに気づいてじっとこちらの様子をうかがっている。
 熊に会った時は背を向けて逃げてはいけないのだ。熊は本能的に逃げる獲物を追う習性があるらしい。だから目を離さないでじりじりと後ろに下がって距離を取って逃げるのが良いと聞く。今問題なのはそれが果たしてパンダにも有効かどうかということだ。
 にらみ合いが数分続いた後に私はふと鞄に空のビンを入れていたのに気が付いた。そんなに大きくはない。せいぜいカブトムシが5匹も入ればそれで一杯だ。これにパンダを押し込んでしまえば良いではないか。そう思い立ってビンを用意すると近寄ってパンダの体に押し付けた。パンダは抵抗したが次第にずるずるとビンの中に体が吸い込まれていった。私ももう片方の手でパンダの体をビンの中へ押し込んで終いにはビンにパンダの体まるまる一体を押し込むことに成功した。
 ビンは外から見ると白と黒にはっきり分かれた毛玉がみっちりと収納されていてそれはそれでオブジェとしては粋なものに見えた。さすがにパンダ一体分が入っているだけあってずっしりとした重厚感があり鞄に入れても持ち運びは大変であった。さてこれをどうしよう。こんなものもってても持て余すしとりあえず交番に遺失物として届けよう。一割くらいはもらえるかもしれない。
 後ろからひたひたと足音が聞こえた。さっきも聞いたような音だ。振り返るともう一体パンダがいた。目の前にパンダ。鞄の中のビンの中にもパンダ。私はパンダに挟まれている。しかし困った。もうビンは無いのだ。そうこうするうちにまた見つめあいが始まってしまった。今度こそパンダに襲われるかもしれない。あの鋭い爪で八つ裂きにされるかもしれない。
 その時ふと思い出した。鞄の中にはボールペンがある。あれを分解して中を空にすればまたパンダの一体くらい押し込めるはずだ。すぐに準備に取り掛かった。手早くボールペンを取り出して分解して中の芯を地面に捨てる。パンダに急接近して空にしたボールペンを押し付けもう一方の手でパンダの体をボールペンに押し込む。ずるずるとパンダはボールペンに吸い込まれていった。さっきより時間はかかったけどパンダはボールペンに収納された。白と黒の毛玉がみっちりと押し込まれていて見た目はふわふわしてそうで悪くない。ずっしりとした重みがあって多分世界一重いボールペンになっただろう。
 とにかく交番まで行って事情を説明した。警察官は半信半疑だったけど机にパンダの入ったビンを置かれるとようやく信じたようだった。奥から書類を持ってきて「とりあえずここに住所氏名電話番号書いてくれるかな」と言った。反射的にボールペンを出したのがいけなかった。そのペンにはインクは入っていない。入っているのはパンダだ。
 不用意にペンをノックしたがために糸状に細くなったふわふわの毛のパンダがボールペンから無尽蔵に出てくる事になった。もともとは一体分のパンダだったとはいえ糸状になってしまったとなるとその表面積は非常に大きくなる。ものすごい勢いで糸状のパンダが出てくるが留まるところを知らないのだ。全部出切った場合目算で考えてもこの狭い交番の一室なんかよりかは遥かに大きい。糸の塊に押されて私は出口の方向へ弾き飛ばされたが、警察官は机の向かい側に座っていたために今頃壁と糸状パンダに挟まれて圧死寸前かもしれない。
 これは大変なことになった。思えば机の上には瓶詰めとはいえもう一体パンダがいるのだ。あのビンが割れでもしたら交番内の密度と圧力はさらに増えることになる。圧死どころでは済まされない。死体も砕け散るかもしれない。私は慌てて糸状のパンダを交番の外へ引っ張り出すことにした。引っ張り出しても引っ張り出しても止めどもなくパンダは出てくる。そうこうするうちに野次馬が集まって来た。こんなことをしているのを人に見られるのはなんだか恥ずかしい。あぁなんで自分はこんなとこでこんなことしているのだろう。早く家に帰りたい。そう思いながら止めどもなくあふれるパンダを一心に掻き出すのだった。

クジラの死体の話

2023年 07月13日 06:00 (木)

 夏の海岸を散歩している。周りには誰もいなくて自分一人。広大な水平線をぼんやり眺めながら「家に引きこもってたらお目に掛かれない光景だ」と清々しく思う。すると海の向こうで潮が吹いているのが見えた。クジラかな。だんだんとそれは浜辺の方に近づいてきて巨大なクジラが姿を現した。
 どういうわけかクジラは自らの意思でずいずいと浜辺の方に上陸を始めた。肺呼吸だから息はできるだろう。しかし水の中にいなければ自重で体が潰れてしまうのではなかったか。そもそも陸の上では満足に動くことができない体なのだ。このクジラは一体何がしたいのだろうか。死にたいのだろうか。それならこのまま放っといてやるのが優しさというやつではなかろうか。クジラの目を見ても私には真意は分からなかった。早々に身動きの取れなくなったクジラの前で私は薪をして一晩明かすことにした。
 翌日クジラは息絶えていた。クジラの目を見ても生命の息吹は感じなかった。まだ死んで数時間しか経っていないからか腐敗は進んでいない。私はクジラの死体の周りを歩きながら考えた。確かクジラの死体は腐敗が進むと腹の中でガスが溜まっていずれ爆発するのだ。危ないのでそういう意味でクジラの死体には近づかない方が良いのだ。しかしこのクジラはまだ死にたてだ。
 クジラの口が半開きだったこともあって私はその中に入ってみることにした。ちょっと入ってすぐ出てくるだけだから大丈夫だ。ちょっとした冒険心。懐中電灯を片手に這いつくばって何とか口の中に入ってみた。しかしクジラの体があまりにも大きいからか、あるいは中に入るたびに私の体が小さくなるからか、口内に入るころには随分と大きな空間に出たのだった。外からの見た目に反して中は広々としている。生暖かくて生臭い。地面もぶにぶにとして変に弾力があるのが気持ちが悪かった。まるで肉の洞窟だ。喉の奥は一本道かと思いきや二手に分かれていたり三又に別れていた。迷路のようだった。クジラの中がこんなに複雑になっているとは思わなかった。
 一通り迷路を探索して満足した私は帰ることにした。しかし出口が分からない。ここにきてようやく私は焦り始めた。早くしないと腐敗が進む。腐敗が進めば爆発する。その前に酸欠で死ぬかもしれない。死体の中で死ぬのは笑えない。あちこち歩き回る内にみるみる腐敗は進んで壁や地面がどんどん薄黒く爛れていく。弾力のあった肉はもはやなく、力なく崩れる赤黒い生ごみで更生された洞窟と化していく。
 ようやく口の中まで戻ってこれた。半開きの口の向こうで消えた焚火が細く白い煙を上げている。助かったと思ったつかの間、クジラの口はがくんと閉じられた。そして地面が動き私は膝をついた。どうやらクジラの体全体が動いているようだ。このクジラ動いているのか?いやそんなはずはない確かに死体だったはずだ。それでもクジラは動くのをやめない。
 その内あることに気が付いたこと。外から聞こえる音が波の音から水の中のくぐもったごぽごぽいう音に変わっていたのだ。もしかしたらクジラよりももっと大きな生き物がこのクジラを咥えてえて海の中に引きづって行ったのではないか。いやむしろこのクジラはすでにその生き物に丸のみにされていてるのではないか。頭の中じゃそんな想像が表れては消えていく。このままじゃいけない。いずれにせよ消化されてじわじわ死んでしまう。あるいは酸欠でじわじわと死ぬ。それは嫌だった。
 思い立ったのがガス爆発だ。ここで火をつければ腐敗で溜まったガスに引火して爆発する。自分も死ぬけどじわじわ死ぬよりかはましだろう。ポケットには水にぬれて湿ったマッチが何本か入っていた。まず一本擦ってみる。不発。もう一回。不発。もう一回。不発。火が付いたところで自分は死ぬのだ。そうは分かっていても何としても火をつけなければならなかった。じわじわ死ぬくらいだったら自分をこんな目にあわせた巨大生物も道ずれにしたい気分なのだ。もう一回。不発。もう一回。不発。全部湿っているとはいえまだまだマッチは数がある。もう一回。不発。もう一回。不発。だんだんとマッチを擦る手が震え始めた。もう一回。不発。もう一回。不発。

暴れベッドの話

2023年 07月12日 04:31 (水)

 夏の昼に中学校で授業を受けている。退屈な授業で気温は暖かくとても眠い。眠たい雰囲気は教室全体を包み込んでいるようで先生の喋っている言葉も抑揚がなくお経のように聞こえる。生徒たちも真面目に黙って話を聞いているというよりかは半分くらいは寝ているのではないかというくらい大人しい。このままでは寝落ちしてしまう。なんとか気を紛らわせることはできないだろうか。ふと窓の外を見るとグラウンドでは別のクラスが体育をやっている。
 すると校門から一人の生徒が血相変えて走って来た。この位置からじゃよく見えないけど何かに追われているかのごとく全力疾走だ。何かが起こっている。もしかしたら野良犬でも乱入してきたのではなかろうか。唐突にそう思った。小学校の頃のあるあるの一つだ。グラウンドに入り込んだ野良犬はテンションが高い。犬を見てハイテンションになった生徒たちに呼応するようにテンションが高くなるのだろう。犬を追いかけたり追いかけられたりして体育の授業が一旦ストップしたものだ。校門の向こうからはキングサイズのベッドが乱入してきた。
 流石にキングサイズ、大きめだ。生徒なら3~4人は並んで寝てもまだ余裕はあるだろう。その大きめのベッドが荒れ狂いながらグラウンドに入って来たのだ。犬の時同様に荒れ狂うベッドで体育の授業はストップしているようだった。ベッドを追ったり追いかけられたり、何やら楽しそうだ。ベッドはマットレスだけが備え付けられている状態だが、あの上で眠れたら心地よいだろう。あぁ実は自分はもう寝落ちしていてこれは夢ではないか。あまりにも眠すぎてベッドの夢を見ているのではないか。
 生徒の一人がキングサイズベッドに飛び乗ってしがみついた。まるでロデオだ。暴れベッドはなんとか体を滅茶苦茶に動かして背中の人を振り落とそうとするけど、背中の人もそう簡単に振り落とされずにしがみついている。戦いは数分に渡って続いたが次第にキングサイズベッドは疲れたのか大人しくなってしまった。彼はベッドを手名付けたようだ。いいなぁ。自分の部屋にもベッドがほしい。自分の家は布団なのだ。しかし部屋が狭いからベッドは入らない。ましてキングサイズなど。それに彼のようにベッドを手名付けられる自信もなかった。ベッドを手名付けた人間だけがベッドで眠る権利があるのだ。
 ひと段落したと思ったら小さく地響きしているのに気が付いた。見ると校門の方からクイーンサイズのベッドの群れがグラウンドに押し寄せているのが見えた。近くのベッド牧場で柵でも決壊したのかもしれない。すごい数のクイーンサイズがまるで津波のように押し寄せる。見る見るうちに視界はベッドで埋め尽くされる。今いるのは三階なのだが窓の下は一面のベッドで覆われて、これなら窓から飛び降りてもベッドに落ちるだけだから大した怪我はしないだろうと思われる。それくらいの密度だ。
 ここにきて授業どころではなくなってきた。先生はなんとか生徒たちを非難させるのだが、一階はすでにベッドに占拠されている。今更どこへ逃げようというのか。そうこうするうちにベッドは階段を上がってこの三階まで来ているようだった。教室に一体のベッドが乱入してきて生徒たちはワーキャー言いながら教室を出て行った。今ここには自分とベッドのみだ。
 もしかしたら自分は寝落ちしていてこれは夢なのかもしれない。ここにきてもそんな思いが晴れなかった。だから目の前の暴れベッドと対峙しても恐怖心はあまりなかった。颯爽とベッドに飛び乗るとマットレスとベッドの間にもぐりこんだ。こうなるとロデオどころではない。ベッドがどう暴れようと一体化しているので自分が落ちることは絶対にない。結局ベッドはひとしきり暴れた後大人しくなり、自分はようやく熟睡するに至った。

交通事故を目撃する話

2023年 07月11日 05:04 (火)

 展望台に上った。360度見渡せる展望台で快晴で見晴らしが良い。100円入れるタイプの双眼鏡でその辺を眺めることにした。そこはちょっと田舎の地方都市といった場所で周りに高すぎる建物のない絶好の双眼鏡スポットだった。
 たまたま交差点で交通事故が起こるのを見た。自動車と自転車の正面衝突だ。遠すぎるので当然音が聞こえない無音状態。それに双眼鏡で見ているというのも、あまりにも望遠レンズでの画だったのでまるで切り紙で作られたようなのっぺりした光景だった。遠すぎるのもあって画面全体が白んで見える。それらが相まってこの交通事故はなんだかシュールな光景だった。自転車の人は倒れたまま動かず、自動車も止まったまま動かない。周りに通行人などおらずもしかしたらこの事故を目撃しているのは自分だけかもしれない。それでもまあ事故を起こした車の運転手は警察への報告義務があるはずだ。そう思って眺めているとなんと車は倒れている自転車の人をそのまま置き去りにして走り去ってしまった。ひき逃げだ!
 その瞬間「ガタン」と音がして目の前が真っ暗になった。お金を入れるタイプの双眼鏡は時間が来て見れなくなってしまったのだ。すぐさまもう一枚100円玉を入れる。さっき音にびっくりして双眼鏡の位置がズレてしまった。さっきの場所を見つけるのには少し時間がかかる。それにしてもひき逃げとは酷い。多分目撃者は自分しかいないのだから自分が警察に通報しなければならない。しかしこの町は初めてだ。あの交差点がなんという住所の場所なのか皆目見当がつかない。でも周りに特徴的な建物なりがあればそれを目印に通報はできるはずだ。少ししてさっきの交差点を見つけた。しかし状況はさっきと大きく違っていた。
 交差点の中は血でいっぱい、赤黒く染まっている。さっきまでこんなに血が出ていたろうか?こんな数秒目を離したすきに状況が変わりすぎている。とにかくその周りの特徴的な何かを見つけないといけない。近くに赤いポストがある。木でできた電信柱がある。田舎特有の看板が見える。こんなに田舎臭い場所だったろうか?まるで昭和だ。「ガタン」と音がしてまた目の前が真っ暗になった。さっきよりも見ていられる時間が短いような気がする。
 もう一度100円玉を入れる。今度は音に驚いて位置がズレるというようなことはなく再びさっきの場所を見つけることができた。しかし自転車の死体は二つに増えていた。目を離すたびに状況がガラガラと変わっていっている気がする。そんな馬鹿な。よく見えていなかっただけで自転車に乗っていたのは二人だったのか?とにかく通報に必要だから特徴的な何かを探す。近くには踏切があった。「踏切!?」そんな特徴的なものどうしてさっき気づかなかったのだろうか。真っ先に見つけてしかるべきものだろう。踏切には二車線レールが敷かれていて汽車が煙をもくもく立てながら走っていく。踏切には当然のように汽車の通過を待つ人々でごった返していた。皆和服を来ていて現代風の服を着ている人など一人もいない。おかしいこんな人通りの多い場所ではなかったはずだ。それに明らかにこの光景は昭和だ。自分は双眼鏡を通して昔の光景を見せられているのだろうか?「ガタン」
 気が付くと自分は血を流しながら例の交差点で倒れていた。どうやら事故にあったのは自分らしい。あまりの衝撃で意識だけが展望台に吹っ飛んでいったのだろうか。あまりの衝撃でその意識は時代まで吹っ飛んでいったのだろうか。今は確かに昭和の時代で自分は和服を着ていて、今まさに死ぬところだった。

ガン見される話

2023年 07月10日 05:06 (月)

 暑い夏の昼。特にすることもなく田舎の道を散歩していた。暑い日だからか他に歩いている人はほとんどいない。小学校の前まで来た。グラウンドでは2~3人の子供たちが野球をしているようだ。フェンス越しにぼんやりそれらを見ているとある事に気づいた。2~3人の子供たちはいつの間にか野球をやめて気を付けの状態で私の方をじっと見ているのだ。
 その子供達と私は知り合いでも何でもない。それにフェンス越しだから向こうからこちらははっきりと見えないはずだ。それなのに微動だにせずにまっすぐ私の方をガン見している。全員が直立不動だ。気温はとても暑いのにゾクリと背筋が凍るようだった。一体何なんだろう。私が何かしただろうか。とにかく通行人のふりをしてその場を後にすることにした。退散する時にちらりと子供たちを盗み見るが相変わらず直立不動の気を付けの状態で顔だけをこちらに向けてガン見している。
 不気味な感じがした。なんだかわからないけど怖かった。早く家に帰りたかった。家に帰る道すがら何人かにすれ違ったけど皆一様に気を付けの状態で私をガン見していた。なるべく目を合わせないように小走りで過ぎ去ったけど私が遠くまで離れたとしてもまだ気を付けの状態を崩さず私をガン見しているような気がした。
 家に帰ったが家族は誰もいなかった。夏休みということもあり家の中でも外でも私はやることがなく暇を持て余していた。とりあえずTVを点ける。甲子園をやっていて球場には満席に近い観客が入っていた。しかしシーンとしている。人の声一つしない。観客は皆席を立ち気を付けの状態で全員がカメラ目線だった。選手も同じくだ。気味が悪くなって別のチャンネルにした。ニュースをやっているようだがニュースキャスターは無言でカメラをガン見しているのみだった。一言もしゃべらない。また別のチャンネルに変えた。一日中映画を放映しているチャンネルだ。それにも関わらず同じ事だった。バストショットで俳優が無言でカメラ目線で突っ立っている。所々カメラが切り替わったりするけど画面に映る人間は例外なく気を付けをして無言でこっちを見つめている。
 また怖くなって友達に電話した。電話は繋がるけどこちらが何を言っても返答がなかった。ただかすかに息遣いが聞こえるからその場にいるのは確かなようだ。その内に電話の向こうの友達が気を付けの状態で私がいる方向をガン見しているような画が思い浮かんだ。怖くなって電話を切った。
 洗面所に向かって顔を洗った。訳が分からな過ぎて怖い。暑さで出た汗なのか冷や汗なのかわからないものを拭いながら洗面台の鏡を見た。そこには無言で私をガン見する私がいた。

モニターから物が出てくる話

2023年 07月09日 05:10 (日)

 電気屋の前を歩いている。TVモニターがたくさん展示してあってそのモニターのそれぞれで色々な映像が流れていた。その中の一つにモーターレースの番組があった。スーパーカーがけたたましい音を立ててサーキットを走っている。なんとなくそれを見ていると、モニターを透過してそのスーパーカーは画面のこちら側へやって来た。
 相変わらずけたたましい音を立てて店内を走り回るスーパーカー。幸いにも引きの画だったからか、実際よりも随分と小さなサイズのそれはどこへともなく走り去った。それと同時にモニターでは大勢の観客がモロモロと崩れ落ちるように画面からあふれかえっていた。モニターに映ったものがこちら側の世界に出てきているのだ。ふと見れば料理番組の食べ物やニュース番組のキャスターなんかも画面からデロリと垂れ下がってこちら側に侵食してきている。海中の動物ドキュメンタリーの番組がどこかでやっていたのか、どこかのモニターから海水が止めどもなくあふれてそのあたりが水浸しになりつつある。異変に気づいて道行く人々が野次馬的に集まりだしてきた。辺りはだんだんと騒がしくなっていった。
 カオスな状態だ。あまりにも騒がしく無秩序で私は一刻も早くその場を立ち去りたかった。しかしその場のカオスがそれを許さない。一進一退もできない混乱の中に自分はいるのだ。その時ふと思い立った。向こうからこちらに来れるということはこちらから向こうに行けるのではないか。そうとなれば行きたい世界を今ここで見極める必要がある。どこへ行ったって少なくとも今の私の環境よりかは幾分かマシであろう。レース場はどうか。料理番組のスタジオはどうか。ニューススタジオはどうか。海底はどうか。どれもピンとこなかったが一つだけ目を引くものがあった。囚人のドキュメンタリー番組だろうか牢屋の中を映しているモニターがあったのだ。
 「これだ。」と思った。牢屋の中の囚人は異変に気付いたのか、しきりにこちら側を見つめていたが意を決してこちら側に脱獄した所だった。「これは良い等価交換だ」そう思い私は入れ違いになる形でモニターに飛び込んだ。液晶画面にぶち当たることもなくそこは確かに空間が広がっており牢屋の中に続いていた。中から見てみるとモニター越しのさっきまでの世界が四角い窓のように覗ける。窓は右へ左へ動いたり消えてはまた表れたりを繰り返していたが終いには二度と出現することなく消えてしまった。
 牢屋の中はさっきの喧騒と比べると実に静かな落ち着いた場所であった。外に出ることはかなわないけど私は別に外に出たいとは思っていないのだ。私はそこにきてようやく落ち着いてどっかりと地面に寝転ぶのだった。

地下鉄から出る話

2023年 07月08日 06:04 (土)

 夜の地下鉄をさ迷っていた。明かりはついているが行きかう人は一人もいない。どうにか地上に出て家に帰りたいのだが出入り口は封鎖されていた。夜になると地下鉄の出入り口というのは封鎖されるものなのかなと思い別の出口に向かうがどこもかしこも封鎖されているようだった。
 このままでは家に帰れない。思い立って駅員室に向かった。ここを経由すれば別のエリアに出てそこから外に出られるかもしれない。駅員室をノックしても反応はなかったが鍵は開いているようだった。ドアを開けて中に入ろうとする。中には大量にゴリラが入っていた。まるで満員電車だ。
 ゴリラは開いたドアに反応してジロリとこちらを見た。獣臭い。そっと目をそらして中に入りドアを閉めた。もうここ以外で行く所はないのだ。それに危害を与えなければ、目を合わさなけれはゴリラはこちらを敵視しない。どこかで得た知識だ。何十頭のゴリラの中をスルリスルリとかき分けていく。ゴリラは自分の二倍は大きい体躯だった。それが詰まっているものだから体の小さい自分は意外にもその隙間を縫って反対側のドアまでたどり着くことができた。
 ドアを開け外に出る。そこは地面いっぱいにヒヨコが散乱している地下道だった。足の踏み場もない黄色い絨毯。ピヨピヨとうるさい。しかしその奥に地上への階段が見えた。なんとかヒヨコを踏みつぶさないようにソロリソロリと気を付けながら歩いていく。階段の先に夜空が見えた。真っ黒な空。ああ、ようやく家に帰れる。

森をさまよい木に登る話

2023年 07月07日 01:22 (金)

 森の中をさ迷っていた。街があるところまで行きたいが見渡す限り緑しかない。けもの道のようなものを頼りに歩き回るが一向に森を脱出できている気がしない。森の中は虫の音や鳥の音風の音が多くて思っている以上に静かではない所だった。色々考えながら歩いているけどそれらの音が頭の中をかき乱す。不思議と腹も減らずのども乾かず大して疲れもしなかった。
 もしかしたら同じところをぐるぐる回っているだけかもしれない。ちょっとでも高い場所に移動して周りを見渡すことにする。遠くに黒い塊が動いているのが見えて、それが大きな熊だというのが分かった。あまりに大きすぎて距離感がつかめないくらいデカい。幸いにもこちらに気づいておらず距離も大分離れているのでそこまで心配ではなかった。それより街に帰りたい。
 もっと高い場所まで登ればもっと遠くまで見渡すことができるかもしれない。巨大樹に登ることにした。あまりにもデカい樹だ。登る内にこの森の全体像が少しづつ見え始めた。あっちの方は背の低い木しか生えていない。あっちの方にははげ山がある。あっちの方には煙が上がっている。しかし街がありそうな方向はなかった。煙も人がいる証拠ではなくてただの火事かもしれない。もっと登ればもっと遠くまで見えるかもしれない。
 何日もかけて樹を登っている。巨大樹はあまりのデカさから枝の根元で寝袋を広げられるくらいデカかった。上に登るたびに色んなものが見えてくるけど結局どの方向が街の方向なのかは分からずじまいだった。
 ある日樹が揺れているのに気付いた。下を見るとあの巨大な熊が樹をよじ登っているのが見えた。このままでは追いつかれて熊に食われるかもしれない。あるいはそうでなくてもこの高さから落ちて死ぬかもしれない。こうなったら上にしか行けないがそうしたところで行き止まりしかない。絶望的だった。しかし上に逃げるしかなかった。熊はこちらに気づいているようでぐんぐんと距離を縮めてきた。もうこうなっては周りを見渡す余裕もなかった。必死で上に逃げる。
 気づけば雲の上まで登ってきていた。巨大樹は巨大だ。もはや見渡して街の方向を確認もできない。熊は相変わらず登ってきている。そしてついに樹の一番上まできてしまった。もうこれ以上逃げることもできない。ここから飛び降りで死ぬくらいだったら熊に食われて自然の一部になろう。そう思って気のてっぺんで目を瞑って熊を待っていた。
 熊は自分の首根っこに齧り付くとポーンと投げ飛ばした。どうやら熊の一部にも成れないようだ。このまま自分は地面に叩きつけられて死ぬだろう。そもそも首をやられたから体も動かせない。空から落ちながら意外にも自分は冷静だった。やがて雲の層より下に落ちて森を最も見渡せる高い位置に来た。せめてどっちの方向に街があったのかを確認してから死のう。この辺りを登っていたときは熊から逃げるのに必死で全然見ていなかったからな。
 景色はどこまでもどこまでも緑で、そもそもどこにも街なんてなかった。

ホテルに閉じ込められる話

2023年 07月06日 05:37 (木)

 ビジネスホテルの一室で目を覚ました。見覚えのないホテル。綺麗に片付いた部屋だが荷物の一つもなく自分は何も持たずベッドで寝ていたようだ。自分がなぜどうやってここに来たのかは思い出せない。部屋は建物の10階くらいの所にあるようで窓の向こうには都会の風景が広がっている。しかし人影一つない。廊下の向こう側も物音一つなく、この街に自分一人しか存在していないかのような静けさだった。
 外に出たいが扉は外から鍵が掛かっているのだろうか、開かなかった。窓は数センチだけ開くがそれっきり。何とか部屋中を物色するが出口らしいものはない。どうやら閉じ込められているようだ。どうにか外に出たいと思った。
 部屋に備え付けられているイスを窓ガラスにぶち当てて窓を割ることはできた。しかしそこは10階ほどの高さでそのまま出たら落ちて死ぬだけだ。ベランダがあるでもなし、壁沿いに歩いて他の部屋に入ることもできそうになかった。風の音しか聞こえない部屋でどうしようかと思案に暮れていた。
 やがて日が傾き夕暮れになった。その間自分はずっと割れた窓の部屋の中でぼんやりしていた。ふと気が付くと風の音に交じって祭り太鼓の音が聞こえ始めた。ホテルの前には大きな通りがあるがそのはるか先で何かが動いていた。どうやら祭りのパレードのようなものが通りに沿ってこちらに向かって動いてきているようだ。時間が経つにつれてだんだん大きく見えてくる。ねぶた祭りのような巨大な人型のバルーンが見える。いくつもの風船が浮かんでいるのも見える。紙吹雪も見える。大勢の人間も見える。街の人全員がこのパレードに参加しているから今ここには誰もいないのだろうか。
 やがてパレードはホテルの前まで来て通り過ぎるようだった。巨大なバルーンは建物9階くらいの大きさまである。このバルーンに飛び乗ればそれがクッションになって安全に下まで下りられるのではないか。そんなことをしたらきっとパレードは一時中止してしまうだろう。一番の大物であるバルーンも壊れれば祭りもただでは済まないだろう。しかし今の自分にはそれしかなかった。
 良いタイミングで自分はバルーンに向かって跳んだ。バルーンは想像していたのと違ってあまり柔らかくはなかった。細い木の枠でかたどられたもので中にはぎっしりと木枠が何重にも組み合わさっていた。自分はその中をバキバキと音を立てながら落ちていった。体中に木枠が擦れ突き刺さり血まみれになる、しかし怪我はすれども死ぬことはないだろう。バルーンも上から見たら穴が開いている程度で大した破損でもないだろう。
 やがて地面まで降り立つと傷を負ったとはいえ無事生還できた。祭りもこの騒ぎで一時中止はするがすぐに再開されるだろう。世はすべて事もなし。

さまようロボットの話

2023年 07月05日 02:50 (水)

 地面に巨大な穴が開いていた。よく見ると地面というよりそれは巨大な建物であって穴はその建物の吹き抜けであった。建物は朽ち果てており中には誰もいない。人間はとうの昔に絶滅したのかもしれない。穴は深く、そこに物を落としても底に落ちる音を聞くことはかなわなかった。
 その建物に一つだけ動くものがあった。建物を修理するロボットだ。何百年も手入れされておらず動きにはガタが来ているし、すでに建物を直す力はない。ロボットはただただ建物の中をさまよって「この場所が壊れている」とか「この箇所が修理が必要だ」といった情報を集めるだけの存在となっていた。
 大きな鳥が空を舞っていた。食べる物がなくてだいぶやせ細っている。遠くから食べ物を求めてここまで来たらしいがあいにくこのあたりに食べ物もなければそもそも生き物もいやしない。しかし地面に開いた巨大な穴の側面に鳥は動くものを捉えた。先ほどのロボットだ。鳥はそれが食べられるものなのかどうなのかの判断もなくただそれにぶつかった。
 急に空からぶつかって来た鳥により、元々壊れかけていたロボットはいよいよバランスを保つこともできないほど壊れてしまった。自分で立つ足もおぼつかず結局ロボットは大穴に転落していった。
 落ちながらもロボットは冷静だった。落ちながら穴の側面を観察していた。どこもかしこも朽ち果てて修理が必要な箇所ばかり。そしてどこもかしこも誰もいない廃墟であった。長い時間落ち続けたが底に付くことはなく日の光も当たらなくなった。しかしロボットには暗視カメラがついているので暗闇でもあたりを見回すことができた。周りは相変わらず廃墟が続いていた。
 しばらくするとあちこちに火の手が見えた。火事が起こっているわけではない。焚火のようだ。どうやら人間が暮らしているようだ。人間は落っこちている自分に気が付いているようだった。ロボットは思い出した。そうだ、自分はこの生き物たちのために働いていたのだった。よく見ると自分と同じ型のロボットが動いているのも見えた。上の廃墟とは違いここの建物は整備が行き届いている。そうだ、自分が本来いるべき場所はここだったのだ。ここの人間に自分を修理してもらえればまた元のように働くことができる。無意味に見て回るだけの修理ではなく本当の意味での修理ができる。
 次の瞬間ロボットはようやく穴の底に着いた。だがロボットはものすごい勢いで地面に叩きつけられたので修復不可能なくらいに粉みじんにぶっ壊れた。

2018年 02月17日 01:46 (土)

2226生存

5月の生存確認

2016年 05月26日 18:19 (木)

2225PC不調時のもの

 win10にしたらネットは遅くなるしDVDは見れなくなるしスキャナが消える(?)しと不具合多い。そんなわけでいろいろとソフトを入れかえ差し替えるのに再起動しまくってて長い待ち時間が発生していた。PC目の前にしているのにネットも使えないこの状況はPC中毒の私にはいささか耐えられるものではなく、気を紛れさせるためにらくがきしていた。これがその絵。2月27日以来のお絵かき、構図からしていつもどおりですね。

 win10あんまり好きじゃないし良い噂も聞かないけどエクスプローラのデザインは気に入ってます。

生存確認

2016年 02月27日 18:56 (土)

2224半年ぶり

 2月27日、何かの日だったような気がする…と思い立ってこのブログのことに気づいた。今日で7周年だった。廃墟状態だからあまり意味がない記念だけど。
 別名義で活動し始めてすっかりこちらのことを忘れていた。気が向いたら戻るかもしれないが望み薄だろう。8ヶ月ぶりにペンを持ったがやはり絵を描くより動画編集の方が楽しいと思い知ったゆえだ。

目玉魚

2015年 05月30日 16:03 (土)

2223目玉魚

目玉魚

2015年 05月30日 16:02 (土)

2222目玉魚

ナース

2015年 05月30日 16:02 (土)

2221ナース

ドクター

2015年 05月30日 16:02 (土)

2220ドクター

かがむ

2015年 05月30日 16:01 (土)

2219かがむ

アルド

2015年 05月30日 16:01 (土)

2218アルド

ドクター

2015年 05月30日 16:00 (土)

2217ドクター

いいい

2015年 05月30日 16:00 (土)

2216いいい

ぞくぞく

2015年 05月30日 15:59 (土)

2215ぞくぞく

後頭部から出る2

2015年 05月27日 05:53 (水)

2214後頭部から出る2

後頭部から出る

2015年 05月27日 05:53 (水)

2213後頭部から出る

水死体に居つく

2015年 05月27日 05:52 (水)

2212水死体に居つく