研究の内容を教えてください。
ー 専攻は統計で主に高次元データに関して研究しています。データの関連を説明したいときに使用する要素を変数と呼びますが、変数に比べてデーがあまりに少ないと、信頼性の高い結果が抽出できません。
そこで編み出されたのがlasso(ラッソ)と言う手法です。これによって、いくつかの変数の係数を0にすることができるのです。つまり、これはその変数を無視できるということです。
ゲノムを例にとりましょう。がん患者特有のゲノムの特徴を知ろうとしても、急にがん患者を集めるのは難しいですから、あまりデータがとれません。一方、人の遺伝子の組み合わせは無限にありますから変数は圧倒的に多い状態です。この場合、ほんの一部のデータに基づいた特徴なので、信用度が低いと思われます。しかし、Lassoによって、最小二乗法や最尤法に対して、ペナルティ項を加えていく方法で、無視していいデータをlassoによって抽出できるのです。
優秀かつわかりやすい手法でありながらlassoは応用力が高く、ゲノム、金融から画像処理、さらにはインターネット等のデータ解析など幅広く用いられています。
Lassoは大変優秀な手法ですが、変数がデータに依存するようなモデルに対しては有効に働きません。また、結果の収束時間に問題があります。それを解消するために、条件を厳しくしたり、緩くしたしたりした場合における収束オーダーを算出しています。具体的には正規性であったり、データ同士が依存していたりといった、より現実に近い形での収束オーダーを出していき、そこでlassoが正確に機能するのかを確かめるということもしています。
また、より現実社会にフィットした条件においての収束の速さを上げることは、解析時間の圧縮と信憑性の高い結果を得られることとなります。様々な分野で注目されている新しい理論なので、未知の領域に踏み込んでいく楽しさもあります。これは昨今話題の「ビッグデータ」の分野にも応用できます。

意欲的なメンバーと、先生の厳しさが刺激に

学部時代には数学科で、研究室は応用数理管轄の谷口研究室に進まれたそうですね。
ー 高校時代から数学が得意だったので大学時代は数学科に進学しましたが、だんだん確率統計の面白さに惹かれていきました。幸い、大学院では数学科と応用数理学科は同じ専攻なので、私のように、進路変更する人も珍しくありませんでした。
実は初めから谷口研に所属していたのではなく、4年生の頃は鈴木研に所属していました。鈴木研でも統計を研究していましたが、鈴木先生がご退官なさるので、修士では別の研究室に移籍しないといけなくなってしまったのです。
いくつかの研究室を訪問したのですが、メンバーの意欲の高さ、谷口先生の熱心な指導に刺激され、気が付いた時には谷口研でメンバーと共に研究発表をしていました。鈴木研での研究も続けていたので、4年生のときには谷口研、鈴木研両方に参加していました。両方の予習を行うのは非常に大変でしたが、貴重な経験になりました。

よりよい大学、よりよい“きっかけ”

高校生にメッセージを
ー 高校時代から数学は大好きでしたが、英語は苦手でした。論文や発表、そして他国の方とのコミュニケーションには必ず英語が必要なので、英語は勉強したほうがいいと思います(笑)。
大学に行きたいと思うなら、特に、やりたいことが見つからない人こそ。私も進学当初、やりたいことが見つからず、数学に対する面白さも感じられず、大学に行かない時期がありました。友人たちはそんな自分に様々な情報を教えてくれました。それをきっかけに、統計という学問と尊敬できる先生に出合えました。
人生の目標は自分の意志だけでなく、“きっかけ”も必要です。良い大学には良い先生、良い学友など、多くの“きっかけ”が集っています。そして、基幹理工学部にはその全てが揃っていると、私は思います。
それから、論文や発表、そして外国人とのコミュニケーションには必ず英語が必要なので、特に勉強しておいたほうがいいと思いますね。