社労士とFPの違いとダブルライセンスのメリット
- 2020.12.19
社労士とFP(ファイナンシャルプランナー)の違いは何でしょうか?
この2つの資格はともに良く聞くと思いますが、違いとなると分からないことも多いと思います。
そこで、このコラムでは
・社労士とFPの違い
・社労士とFPの難易度の違い
・ダブルライセンスのメリット
・ダブルライセンスを目指す場合の理想の取り方
を解説します。
このコラムを見て、ぜひ自分にあった資格取得を目指しましょう。
目次
社労士、FP(ファイナンシャルプランナー)の違い
社労士とFPでは専門分野及び取り扱う仕事が異なります。
違い | 社労士 | FP |
---|---|---|
どんな分野の専門家 | 労働問題のエキスパート | 資産運用のエキスパート |
主な仕事 | ・行政機関へ提出する書類の作成、申請の代行 ・労働の帳簿の作成 ・労働に関する相談、アドバイス | ・ライフプランの計画立案 ・家計収支の改善の提案 ・教育資金の積み立て ・住宅ローン及び保険の見直しに関するアドバイス |
以下で詳しく見ていきましょう。
社労士の専門分野と主な仕事
社労士は労働問題のエキスパートです。
そのため、社労士の仕事は労働に関する様々な分野を手がけることになります。
社労士の業務は大きく分けて3つに分かれています。
そして、それぞれの業務の内容に応じて「1号業務」「2号業務」「3号業務」という3つの言い方をされます。
大まかにそれぞれの業務を説明すると、
- 1号業務は保険などの書類の作成など
- 2号業務は帳簿の作成
- 3号業務は労働関係の相談や指導
となっています。
FPの専門分野と主な仕事
ファイナンシャルプランナーとは、資産活用に関するエキスパートです。
そのため、仕事は主にお金に関する相談などを行います。
具体的な仕事としては、ライフプランの計画立案、家計収支の改善の提案、教育資金の積み立て、住宅ローン及び保険の見直しなどです。
これら相談者の抱える様々な課題や目標に応じ、現状の把握、評価をした上で、収支予測を計算し、実現が可能な資産設計や資金計画を提案することです。
例えば、「老後の生活が不安だ」という相談があるとしましょう。
この場合、今の資産状況、今後どのくらいの収入や支出があるかを考えたうえで、投資などの資産を増加させる方法を提案し、資金計画を立てて相談者の課題を解決へと導くことになります。
FPのお仕事は社労士と違い、独占業務はありません。
しかし、お金に関する問題は様々な方が抱えていることが多いので、広い活躍の場がFPにはあります。
そして、企業の相談もありますが、多くは色々な問題を持った個人であるため、個人が得意先となることが多いです。
仕事の違いとFPの望ましい取得レベル
このように、社労士は書類の作成が主な仕事で企業が得意先となることが多いです。
一方、FPはコンサルティング業務が主な仕事で個人が得意先となることが多いです。
なお、FPは3級から取得できますが、社会で役に立つレベルとなると2級以上が望ましいです。
2級は3級より実践的で詳しい内容が出題範囲となるうえ、法人の資産運用も試験の出題範囲とされます。
2級以上になると、より具体的な資金計画を行うことができ、法人に関するお金の相談という活躍の場が広がるため、FPとして仕事を行う場合には2級以上が望ましいといえます。
それぞれの資格の難易度をチェック
社労士とFP2級、1級の資格の難易度はどうなっているのでしょうか。
詳しく見ていくことにしましょう。
社労士
①受験資格
社労士試験には受験資格があります。
以下の3つの内1つを満たす必要があります。
- 大学や短大などを卒業や特定の単位数を取得しているなど(学歴)
- 労働事務所での3年以上の勤務があるなど(実務経歴)
- 司法書士試験など厚生労働省の認めた国家資格に合格している(他の資格試験合格)
社労士試験は誰でも受験できるわけではないので注意が必要です。
また、受験資格は学歴や実務経歴などが必要なので受験のハードルは高めといえます。
②試験内容
社労士は労働問題のエキスパートです。そのため、労働に関する分野から数多く出題されます。
具体的には、労働基準法、労働災害補償法、雇用保険法をはじめ、国民年金法及び厚生年金法のような分野からも出題されます。
また、傾向としてはこれらの法律の理論部分を深く聞いてくるという傾向があります。
試験形式は択一式及び選択式となっています。
③合格率
社労士試験は毎年1回となっています。社労士試験の過去の合格率は以下の通りです。
年度 | 回数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
2022年(令和4年度) | 第54回 | 40,633 | 2,134 | 5.3% |
2021年(令和3年度) | 第53回 | 37,306 | 2,937 | 7.9% |
2020年(令和2年度) | 第52回 | 34,845 | 2,237 | 6.4% |
2019年(令和元年度) | 第51回 | 38,428 | 2,525 | 6.6% |
非常に合格率の低い試験となっていることが分かります。
④合格までの勉強時間
一般に、社労士試験の合格までに必要とされる勉強時間は、1000時間程度となっており、かなりの勉強時間を要することが分かります。
特に働きながら合格するには勉強時間を削り出し、腰を据えて勉強する必要があるといえるでしょう。
FP2級
①受検資格
FP2級でも受検資格が設けられています。以下の4つのうち1つを満たす必要があります。
・FP3級検定合格(試験合格)
・FP業務に2年以上従事(実務経験)
・AFP認定研修の修了者
・厚生労働省認定金融渉外技能審査3級合格者
社労士と同様に受検資格が設けられています。また実務経験、研修の修了などがない場合、FP2級以上を目指す場合にも3級をまず受験しなければいけません。
②試験内容
FP2級は学科試験と実技試験が実施され、合否判定もそれぞれの試験により行われます。
そして、両方に合格すれば、FP2級検定合格となります。
また、仮に片方が不合格であった場合でも、次の試験では合格した方の試験は免除されるので、不合格の試験に集中できます。
学科試験の出題は以下の通りです。
・ライフプランニングと資金計画
・リスク管理
・金融資産運用
・タックスプランニング
・不動産
・相続及び事業承継
また、実技試験は資産設計提案業務となり、このように幅広い分野の知識が必要となります。
また実技試験では、資産設計提案業務という実務をこなす実践的な内容が出題されます。
③合格率
FP2級試験は毎年5月、9月、1月の3回行われます。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023年1月学科試験 | 36,713 | 10,676 | 29.07% |
2023年1月実技試験 | 23,913 | 8,404 | 35.14% |
2022年9月学科試験 | 34,872 | 5,495 | 15.75% |
2022年9月実技試験 | 23,392 | 8,901 | 38.05% |
2022年5月学科試験 | 36,863 | 8,152 | 22.11% |
2022年5月実技試験 | 23,272 | 7,634 | 32.80% |
これを見ると学科試験の合格率は20%台、実技試験の合格率は30%台、となっており、半分以上が不合格になることから、合格率は高いとは言えません。
決して簡単な試験ではないことが分かります。
④合格まで勉強時間
一般に、FP2級試験に合格するには150から300時間が必要とされています。ある程度の勉強時間が必要な試験といえるでしょう。
FP2級を社労士試験と比較すると、FP2級は年3回と合格の機会が多く、片方の試験に合格すればその試験は免除されること、合格率が高く、勉強時間も短いことから、社労士試験の方が難易度が高いといえるでしょう。
FP1級
①受検資格
FP1級も受験資格が設けられており、以下の3つの内1つを満たす必要があります。
- FP2級検定合格者で、FP業務に関して1年以上の実務経験
- FP業務に関して5年以上の実務経験
- 厚生労働省認定金融渉外技能審査2級合格者で1年以上の実務経験
このように、FP2級試験に合格したからといってすぐに1級を受検できるわけではなく、実務経験を得る必要があります。
そのため、受検に対するハードルは高いといえるでしょう。
②試験内容
FP1級も2級と同様に学科試験と実技試験から構成され、両方の試験に合格しなければなりません。
また、片方の試験に合格すれば、片方が不合格でも次の試験では合格した試験を免除される点も同様です。
FP2級では学科試験と実技試験の試験日が同日であるのに対し、FP1級では学科試験と実技試験の試験日が異なります。
試験内容は、学科試験・実技試験ともに2級の試験範囲と同様ですが、2級より深く、広範になります。
特にFP1級試験では新しい法改正の出題に比重が置かれており、市販のテキストや過去問のみならず法改正も勉強する必要があります。
そのため、勉強すべき範囲が2級よりかなり広くなります。
③合格率
FP1級試験も学科試験が5月、9月、1月で実技試験は6月、10月、2月になります。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2023年1月学科試験 | 6,192 | 582 | 9.39% |
2023年2月実技試験 | 754 | 649 | 86.07% |
2022年9月学科試験 | 5,347 | 657 | 12.28% |
2022年10月実技試験 | 474 | 401 | 84.59% |
2022年5月学科試験 | 6,192 | 582 | 9.39% |
2022年6月実技試験 | 742 | 638 | 85.98% |
これをみると学科試験の合格率は10%程度、実技試験の合格率は80%程度です。
学科試験の合格率がFP2級の時より30%も下落しているのに対し、実技試験の合格率は20%以上上昇していることが分かります。
学科試験は非常に難しくなっている一方、実技試験では実務経験を積めば比較的容易な問題になっています。
学科試験はしっかり勉強する必要があるといえます。
④合格までの勉強時間
一般に、FP1級試験合格には400から500時間が必要とされています。FP2級と合わせると大体600時間から800時間が目安となるでしょう。
以上を踏まえて社労士と比較すると、受検資格は実務経験を必ず必要とする点で、社労士よりFP1級が高いです。
しかし、FP1級試験は年3回あり、合格の機会が多いこと、合格率は学科試験でも10%を下回ることはないこと、勉強時間は社労士の方が長いことから、社労士試験の方が難易度が高い試験といえるでしょう。
【目的別】どちらの資格を取得したらいいのか?
このように、社労士とFPの資格はその業務内容や試験の難易度、出題される内容が異なります。
そこで、目指したい目的に合わせて区別していきます。
社労士を取得した方がいいのはこんな人
・労働に興味がある人、文章を書くのが好きな人
社労士のお仕事は労働分野に関するお仕事となっています。
そのため、この分野に興味があれば勉強のモチベーションを維持することができるので、より合格に近づくことができオススメです。
・主に企業を相手に仕事をしたい人
社労士の独占業務は会社の運営と密接に関係するため、社労士の仕事の多くは企業が関わってくることになるでしょう。
そのため、社労士の仕事相手は主に企業となります。
企業を支え、発展に尽力していきたいと考える方におすすめです。
・独立開業を目指す人
社労士多くは、事務所や企業で実務を経験した後独立開業します。
そのため、誰かの指揮命令に服することなく、自分の実力を十分に発揮して働きたいという方におすすめです。
・勉強時間が確保できる人
社労士試験の合格には大量の勉強が必要です。
そのためしっかり勉強時間を確保できるという方にもおすすめです。
FPを取得した方がいいのはこんな人
・お金に興味がある人、数字に強い人
FPは資産運用のスペシャリストです。
お金に関する相談やライフプランニングを行うので、この分野に興味があれば具体的なイメージがわきやすく、勉強の助けになるでしょう。
・主に個人を相手に仕事をしたい人
相談やライフプランニングを行うため、FPの仕事相手は主に個人です。
FPは相談に来た人の課題を解決するので、個人に寄り添っていきたい方におすすめです。
・会社に入って自分の知識を生かしたい人
FPの資格を持っている方の多くは企業で活動されています。
そのため、企業で自分のスキルを生かして働きたいという方におすすめです。
・保険業界で働く人
保険業界で働く人は自分が販売している商品などの知識を得ることができます。そのため、説得的に自分の商品を紹介できるようになるでしょう。
ダブルライセンスを目指すメリット
以上を見ると、社労士とFPは全く別の分野で目指す人も違うと思うかもしれません。
しかし、両者を取得し、ダブルライセンスを得ることで相乗効果が生じ、メリットが生まれます。
それは、①試験範囲が重なる部分がある、②他の社労士・FPとの差別化、③顧客の開拓ができる、です。
①試験範囲が重なる部分がある
試験では、社労士とFPは試験内容の「ライフプランニングと資金計画」分野で共通する部分があります。
そのため、試験範囲が全く重ならない試験を新たに勉強する場合より勉強する範囲が狭くなり、合格が比較的容易になりやすいです。
②他の社労士・FPとの差別化
また、ダブルライセンスを持つと、「社会保険に強いFP」或いは「資産運用に詳しい社労士」として専門分野を持つことができ、他のFPや社労士と差別化を図ることができます。
③顧客の開拓ができる
例えば、社労士は企業を相手に仕事をすることが多いため、相手は経営者が多いです。
そして、その経営者と親しくなる中で、経営者の息子に会社を継がせるという話が出てきたとしましょう。
その場合、FPで勉強した事業承継を生かすことができます。
このように、社労士とFPは主な顧客が異なるため、それぞれの分野から顧客を開拓し、新たな顧客を得ることも可能となります。
ダブルライセンスを目指す場合の理想の取り方
ダブルライセンスを目指す場合には、社労士とFPのどちらを先に取得すべきかが気になるでしょう。
結論としては、社労士を先に取得すべきといえます。
社労士とFPの試験内容では、「ライフプランニングと資金計画分野」で重なります。
社労士の「国民年金法、厚生年金法」分野の勉強は、FPより深い知識を要求されるので、社労士の勉強をすれば、ライフプランニング分野の一部をマスターできます。
FPの勉強から始めると、再び社労士で年金の深い部分を学びなおす必要があります。
そのため、社労士の勉強でFPの勉強をカバーできるといえるので、社労士を先に取得すべきでしょう。
※関連コラム:社労士におすすめのダブルライセンス8選!取得するメリットを簡単に解説
まとめ
以上から、社労士とFPには違いがあることが分かったのではないでしょうか?
まとめると、
・社労士は労働問題のエキスパートで主に書類作成業務、FPは資産運用のエキスパートで主にアドバイザー業務
・試験の難易度は社労士試験、FP1級、FP2級の順に難しい
・社労士とFPを両方取得するダブルライセンスによる相乗効果が期待できる
・ダブルライセンスを取得するなら、まずは社労士の勉強をすべき
となります。
社労士とFPはその資格だけを取得する場合、専門性を生かした仕事をすることができるという魅力があります。
もっとも、他の資格と比較して、ダブルライセンスの相乗効果も強いので、両方の資格を目指すのもおすすめです。
これを見て自分が目指すべき資格を決め、合格に向かって頑張ってみましょう。