12月13日に最新作「カツベン!」の公開を控えている俳優の成田凌さんは、埼玉県出身。国道近くのベッドタウンで育ち、地元を離れた今も強い愛着を抱いておられます。特徴のない国道沿いの風景や、おしゃれなようでいておしゃれになりきれない、どこか隙がある街並み。そんな「埼玉らしさ」が愛おしく、心地よく感じられるのだとか。
多忙な日々でも、しょっちゅう地元に帰っているという成田さん。地元への思い、そして埼玉の魅力について伺いました。
なんでもない「国道沿いの風景」に郷愁を感じる
―― 成田さんの地元は埼玉県さいたま市。以前、地元について聞かれて「埼玉県はご当地感がない」とおっしゃっていましたね。
成田凌さん(以下、成田):ご当地感、ないですよね。日本で一番ないんじゃないですか。だからなのか、僕自身「埼玉出身です!」みたいな強い自負もありません。
埼玉って不思議ですよね。すごく田舎ってわけでもないし、ひと通り何でもそろっているのに「うちの地元、何もないんだよね」と、つい言ってしまう。でも、その何もなさが落ち着くんです。
―― では、あえて「思い出の風景」を挙げるとしたら?
成田:実家に向かう、国道沿いの風景ですね。ロードサイドにチェーン店や家電量販店の大型店舗、ゲーセンが並んでいるのを見ると、「帰ってきたなあ」と思います。他の人には、つまらない街並みに映るかもしれないけど、僕からすると“エモい風景”ってやつなんですよね。
―― ある意味、埼玉らしい風景の一つですね。
成田:だから、車で地元に帰るときは、わざと早めに高速道路を降りて、NACK5(※埼玉のFMラジオ局)を聴きながら国道沿いの風景を楽しんでいます。駐車場だけやたら大きい松屋とか見ると、落ち着くんですよ。
―― 地元にはよく帰られるんですか。
成田:もう、しょっちゅうですね。地元に年季の入った中華料理屋があって、帰るとそこの“スタカレー”がどうしても食べたくなるんです。でも、ご高齢の店主が店をたたんでしまったらもう食べられなくなっちゃうから、そうなる前に跡取りを見つけて、お店ごと買い取りたい。それくらい大好きなんですよ。
―― 「カレー」を名乗りつつ全然カレーじゃないスタカレーですね。おいしいですよね。
成田:そう、店は綺麗ではないんですけれど、おいしいんです。
―― そんな思い出の味が失われてしまうのは…辛いですね。
成田:はい。大人になって寂しいと感じるのは、思い出の風景や場所が失われていくこと。ふるさとが自然豊かな田舎だったら、子どものころに遊んだ山や川がずっと残っていると思うんですけど、僕らの遊び場だった「西友」や学生時代に通った飲食店はなくなってしまう可能性があるじゃないですか。それが怖いんです。
「埼玉みたいな女性」が好きです
―― 埼玉はいじりの対象にされることも多いですが、それについて何か思うことはありますか?
成田:特にないですね。「ださいたま」といじられて強く反論もできないし。
「ださくないわ!」とも断言しづらいから怒れないんですよ。でも、別に俺は地元が好きだし、それでいいかなって。
―― では、成田さんが思う埼玉の魅力って何でしょうか?
成田:「ちょっと隙があるところ」じゃないかと思います。最近、学生時代の先輩が地元で結婚式を挙げて、その式場がすごくおしゃれだったんです。でも、テラスから下を見ると、いつものローソンがあったりして、おしゃれになりきれていない。そういう、全部が洗練されていないところに安心感や心地よさを覚えます。
女性も普段は身ぎれいにしているのに、どこか隙がある、そんな埼玉みたいな人が好きですね(笑)。
大正期のスーパースター「活動弁士」を演じて
―― 12月13日公開の映画『カツベン!』(監督:周防正行)で、成田さんは活動弁士の染谷俊太郎を演じています。活弁シーンの撮影は、実際にかつて活動写真の上映も行われた芝居小屋で行われたそうですね。
成田:はい。福島市の旧廣瀬座というところです。館内へ入った瞬間に、先人たちのエネルギーみたいなものをガツンと感じた記憶があります。
ただ、試しにそこで喋ってみたら、声が木に吸われて返ってこない。音響という点では、今の映画館と比べものにならないくらい難しい環境なんですよね。こういう場所でしっかり奥まで声を届かせるんだから、昔の人は本当にすごいと思いました。
―― だからこそ、活動弁士の技量が問われるわけですよね。成田さんも、撮影前から相当な特訓を積まれたとお聞きしました。
成田:活弁の練習は延べ半年やりましたし、撮影が始まってからも並行してトレーニングを続けていました。それでも、初めて檀上に立って活弁をやるときはものすごく緊張感がありましたね。やはり、映画を観た人に「弁士ってすごいんだ!」と感じてもらえるレベルまでもっていかないといけませんから。
まずは僕に指導をしてくれた師匠の真似から始まって、自分の中に染みこますように何度も練習をする。慣れてくると自分の考え方や表現も反映できるようになって、だんだんと活弁自体を楽しめるようになっていったと思います。
―― 高良健吾さん演じるライバル弁士や先輩弁士の方々など、弁士によってしゃべり方が異なっていたのも印象的でした。
成田:そうなんですよ。高良さんには僕とは別の指導者が付いていて、教え方が全く違うんです。同じ弁士でも、色んな個性があるのが面白いなあと。映画でも、ぜひ注目してもらいたいポイントですね。
地方ロケでは「行きつけの店」をつくる
―― 今回の映画では、福島や京都、栃木、岐阜など全国各地でロケを行ったそうですね。
成田:はい。なかでも印象深かったのは、滋賀でのロケです。昼間に集中的に撮影して、夜は余裕があるスケジュールだったので、地元の居酒屋によく行きました。竹中直人さんや渡辺えりさん、周防組のみなさんが誘ってくださったりもしましたし、一人でも飲みに行って土地のものをたくさん食べましたね。
―― 地元の味で、特に思い出深いのは?
成田:鮒ずしのインパクトは強烈でした。居酒屋の常連のお客さんに「奢ってあげるから食べてみな」って勧められたんですけど、次の日まで臭かったです。ロケに支障が出るくらい(笑)。
―― すごい地元の洗礼ですね。そうやって、常連さんとも交流をされるんですね。
成田:しますね。地元の方々と交流するのが好きなんです。だから、知らない街のスナックにも一人で行きます。適当に選んだ店に、ふらっと入ったりしますよ。
―― 大胆ですね! 怖くないですか?
成田:そこは賭けですよね。スナックって外から店内が見えないから、よし!と気合を入れて飛び込んでみるしかない。でも、だいたい気に入って、滞在中ずっと通うことが多いです。
そうやって、ロケで地方に長期滞在するときは“行きつけの店”をつくるんです。滋賀でもすごくいい居酒屋があって、そこに通っていました。
―― 撮影でさまざまな土地を訪れてきた成田さんですが、仕事の都合を考えず、どこでも好きな場所に住んでいいといわれたら、どの街を選びますか?
成田:どこだろう……でも、結局は地元がいいです。やっぱり、僕は埼玉が好きなんですよね。いつか、NACK5に出るのが夢ですから。
だから、将来もし家を買うとしたら、愛着のある地元に建てたいです。国道の近くに(笑)。
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『カツベン!』について
映画にまだ音がなかった時代、登場する人物のせりふに声をあて、物語を説明したのが活動弁士。成田凌さん演じる染谷俊太郎は幼少期から活動弁士に憧れ、やがて小さな町の映画館「靑木館」から夢の第一歩を踏み出す。しかし、曲者だらけの人間関係に翻弄され、凶悪な泥棒からは命を狙われ、過去の行いが仇となって警察にも追われ……。アクションあり、笑いあり、涙ありのエンタテインメントとなっている。俊太郎の活弁シーンや、本作のために新しく撮影されたオリジナル無声映画、個性的なキャラクターなど、見どころも満載だ。監督は周防正行。『舞妓はレディ』以来、5年ぶりの最新作となる。令和元年12月13日(金)から全国の映画館にて公開。
お話を伺った人:成田凌(なりた・りょう)
聞き手:榎並紀行(やじろべえ)
編集者・ライター。水道橋の編集プロダクション「やじろべえ」代表。「SUUMO」をはじめとする住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けます。