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ダグラス・ジェネルベフトと7人の暗殺者 作者:cleemy desu wayo
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火曜日

 ダグラス・ジェネルベフトが姿を消して、7年が過ぎようとしている。


 7年前の自分は果たしてどんなだったろうと考えても、あまりはっきりと思い出せない。

 小学3年生だった私。

 ダグラス・ジェネルベフトの存在を、まだ知らないころの私。

 中学受験をするのかどうかも、まだ決めていなかったころの私。

 中学に入ってから、だりあや、だりあの作品たちと出会うことになるなんていうことを、まだ知らない私。


 だりあが漫画を描き始めたのは、小学3年生の時らしい。

 ということは、ダグラス・ジェネルベフトが姿を消したのと、ほぼ同時期。

 これは、ただの偶然であるとは私には到底とうてい思えない。


 でも、だりあ自身はおそらく、ダグラス・ジェネルベフトに関心を持っていない。

 私がだりあのことをジェネルベフト型の性格だと思っていることも、たぶん知らない。

 ジェネルベフト型性格という概念がいねん自体を知っているのかどうかも、分からない。


 クジラの件をすでに知っているのかも、分からない。

 また学校に来るつもりなのかどうかも、分からない。


 そして、今でも漫画を描いているのかどうか、といったことも。

 何も、何も分からない。


 だりあが私たち同級生の前から姿を消したのは、一年前になる。


 一年前のことなのであれば、それなりに鮮明せんめいに思い出せる。

 だりあが普通に登校した最後の日、それは中3の1学期の始業式。


 私が通学のために利用する電車をJRから阪急電鉄はんきゅうでんてつに変更し、新鮮な定期券を初めて使おうとしていた、あの日。


 朝の通学時に私は、まずは地下鉄に乗ることになる。でも、地下鉄だけでは学校の近くまで到達することはできない。乗り換えてからの最後の30分弱を、JRにするのか、それとも阪急にするのか。これは重要だ。

 私は一年前、これをJRから阪急に変更したのだ。


 うちの学校では、大阪方面からの通学で、自宅の最寄り駅が阪急でない場合には、ラストをJRにしておくのが無難ぶなんで標準的な選択となっている。

 特に、大阪市内で地下鉄に乗るものはほぼ全員、どこかでJRに乗り換えてから西に向かうことになる。

 ただし、例外もある。

 地下鉄堺筋(さかいすじ)線は、大阪の地下鉄では唯一、阪急との相互乗り入れが実現されている。

 うちの学年では一人だけ、入学時からずっと、地下鉄堺筋線から天六てんろくを経由してそのまま阪急淡路(あわじ)駅まで北上し、そこから阪急で西に向かう生徒がいる。

 こうすると途中で一度も改札を通過しなくてすむが、遠回りにはなる。

 なぜ遠回りするのか直接聞いてみたことがあるが、地下鉄御堂筋(みどうすじ)線に毎朝乗るくらいなら死んだほうがましだ、とのことだった。

 御堂筋線を避けたいのなら堺筋さかいすじ線の南森町みなみもりまち駅でJR東西線に乗り換えればいいではないか、と親から強く言われたそうだが、結局淡路(あわじ)経由ルートで押し通したらしい。


 私の学年で通学時にまず地下鉄に乗る生徒の中には、中2の1学期や2学期あたりで、JRから阪急に変更した者が何人かいる。

 そういう人たちが変更した理由というのは、よく分からない。


 逆に、阪急からJRに変更した者もいる。

 JRの場合、駅から学校までの距離が近いという分かりやすいメリットがある。


 うちの学年だけなのかもしれないが、JR組は電車の中で延々(えんえん)噂話うわさばなしに熱中するところがあった。

 私もそれに加わって噂話を楽しんでいたという側面はあったのだが、中2の夏あたりからは徐々に嫌気いやけがさしてきた。

 もちろん、変更の理由はそれだけではない。

 私の場合、最大の要因はやはり、まゆみが阪急組だったからということになるだろう。

 まゆみの家は阪急の駅からも地下鉄の駅からも徒歩2分のところにある。

 まゆみの場合も、まずは地下鉄に乗ってからJR、というルートも可能ではある。でもそのルートはまったく考えなかったのだという。

 まゆみによれば、昔は学校の近くにはJRの駅が存在しなかったため、うちの学校においては阪急こそが本物のスタンダードなのだ、とのことだった。


 中2の3学期には、登校時だけ何度かJRではなく阪急を利用したりして、感触かんしょくをたしかめたりもした。

 私はその新鮮な感覚に酔いしれた。


 こうして、中3の1学期からは、私とまゆみはともに阪急組となったわけである。

 JRよりも阪急のほうが、駅から学校まで歩く距離は長くなる。

 なんせ、倍近くもあるのだ。

 それでも、新鮮な気持ちで中3の1学期を迎えることができて、私は浮かれていた。

 まゆみとは、十三じゅうそう駅をつのが何時何分のこの電車に乗ろうなあ、と約束までしていたのに。

 それなのに私は、1学期の始業式の前日になって、風邪をひいたのだ。


 始業式当日、11:30ごろにまゆみから着信があったが、私はかけ直さなかった。


 正午ごろには、パソコンで使っているメールアドレスのほうに

「だりあと一緒。見舞い行こうか?」

 と1行だけのメールが来ていた。

 だが、私がこのメールを見たのは夕方だった。

 もし2人が来ていたら、私の家で3人がそろう初めての機会となっていた。


 まあ、これは感染うつす可能性があるから、来なくてよかったのだともいえる。


 今でもずっと気になっているのは、帰りではなく朝のほうだ。


 あとになって分かったことなのだが、だりあはあの始業式の日、朝早く起きて、乗る必要のない電車に乗って、まゆみと一緒に2人で梅田うめだ駅の改札で私を待っていたのだ。

 私はまゆみと十三じゅうそう駅のホームで待ち合わせしているつもりだった。

 でも当日、まず十三で早めにまゆみとだりあが合流した時、梅田に自分たち2人がいればより一層私が驚くだろうとまゆみが言い出し、だりあもそれは面白そうだ、と乗ってきたのだそうだ。

 私にとっては梅田駅は阪急の起点であり、十三駅の2つ手前の駅。

 まゆみにとって梅田駅はコースアウトした先の場所であり、十三からの追加の料金を払う必要のある場所。

 また、私が実際に当日どの改札口を利用するのかは分からないわけだが、私とまゆみが2人で阪急梅田駅を利用する時は3階の改札口をよく利用していたから、おそらく3階のほうだろうと踏んだのだという。


 あの日、だりあは初めて、学校が始まる前に電車に乗った。

 電車に乗らなくても学校に行ける距離に家がある、だりあが。

 私よりも極端な夜型である、あのだりあが。

 わざわざ、早起きをして。


 ただ、まゆみによれば、早起きしたのではなく寝ずにそのまま来たという可能性も40パーセントくらいはある、とのことだった。


 始業式の日以降については、私は中3の1学期の間ずっと一度も休まなかった。


 逆にだりあは、始業式だけ来たことになる。


 私は遅刻の回数が少し増えたが、あまりに遅刻の回数が増えるとまたJRに戻せと親に言われるかもしれないと考え、なんとか遅刻の回数を減らす工夫をした。

 早起きはあまりうまくいかなかったが、阪急に変更してよかったと思える日々が続いた。


 私はすぐにまた、だりあは来るものだと思っていた。

 そのうちまた、新作が読める時が来るのだと思っていた。

 学校に来ていないのは、単なる充電なのだと。そう信じていた。


 まゆみも、同じように考えていたはずだ。


 私はまゆみとは、一度も同じクラスになったことはない。

 私にとって、まゆみは。

 最初のうちは、「だりあが作品をおくる相手」という認識だった。


 中1の秋あたりだったかにまゆみは「絶対なーむは面白いと思うはずやで」と言って、私に大量の作品を見せてくれた。

 それは衝撃的な体験だった。

「あんな、これな。家にもっといっぱいあんねんけどな。捨てるわけにもいかんし」

 なんてこと言うんだ、捨てるなんてとんでもない、と思ったが、初めてまゆみの家に行った時には安心した。

 だりあの膨大ぼうだいな量の作品は、きちんと箱に入れられて保管されていた。

 この時点で、すでに簡単な分類もされていた。

 また、耐火性たいかせいの金庫などをネットで調べあげ、真剣に購入を検討していたことも分かった。


 中学に入ってからのだりあの漫画は、基本的にはすべて、まゆみへのプレゼントである。

 4コマ漫画という形式をとった手紙なのだという解釈も可能である。

 実際に、封筒に入れられて渡されたものもある。

 残念ながら封筒のほうは廃棄はいきされてしまっており、どのようなものに入っていたのかは今となっては分からなくなっている。


 中学に入ってからの約3700作にもなるだりあの作品については様々な分類方法があるが、私やまゆみが採用している方法だと90種類ほどに分類される。


 なお、すべての作品のうち2704作が、私やまゆみが「みずのと型」と呼んでいるものにあたる。

 2704作、つまり全体の約73パーセントを占める。

 「みずのと型」の作品は4コマともほとんど同じ内容なのだが、どこかの箇所が少しずつ異なっている。時には、セリフが違うこともある。

 そして、異様いようなシチュエーションを変なアングルでとらえたものがほとんどである。その変なアングルが、4コマ連続するのである。

 心象風景しんしょうふうけいのようなものと解釈かいしゃくするのが妥当だとうで、アングルもくそもないようなものも多い。

 必ず何らかの形でセリフがあるが、セリフは意味がよく分からない。その意味不明なセリフが、4回繰り返されるのである。

 なお、私がいつも持ち歩いている『ふぁむふぁむクンの二度目の夏』も「みずのと型」の一作である。


 だりあのことをよく知らない人は「みずのと型」の作品しか認識していない場合が多い。

 確かに「みずのと型」は、数が多い。傑作といえるものもある。だが全体の約27パーセントが「みずのと型」以外の作品であることも、忘れてはならない。

 この残りの約27パーセントというのが実に多種多様で、3コマのタイプや8コマのタイプもある。

 だりあは最初のうちは「みずのと型」の作品しか描いていなかった可能性が高いが、まゆみもそのあたりは記憶があやふやで、本当に最初は「みずのと型」しかなかったのかどうかということについては現在でも議論が続いている。


 なお、「みずのと型」というネーミングは、私の提案によるものである。

 「みずのと型」以外のタイプについては、そのほとんどが、まゆみが考案した名称である。


 「みずのと型」は珍しく、まゆみが絶賛したネーミングだ。


 そういえば、「みずのと型」と名付けることを思いついた日は、雨が降っていた。


 今日は雨は降っていないものの、雨がやんだばかり。


 私は湿った空気の中を、動く歩道で水平に移動する。

 水平移動が終わると、いつもの長い長い、エスカレーター。

 私はのぼりながらスマホを取り出す。


 クジラについて検索しようかと思ったが、先にダグラス・ジェネルベフト関連の話題をチェックすることにする。

 「ジェネルベフト」で検索してすぐに、何か重大な事件が起こったばかりであることが分かる。

 「撲殺ぼくさつ」という、ややショッキングなキーワードが踊る。

 何が起こったのか把握はあくできないまま、エスカレーターは終了する。

「予測していたより15分早かった」

 エスカレーターを昇りきったところで、まゆみが待ち構えていた。

 私はスマホをカバンに入れながら「予測の手法にもアップデートが求められている」とつぶやく。

「ふふっ」

 まゆみは嬉しそうにクルっとその場で回転し、歩き始める。

「そうやなあ。アップデートなあ」


 昨日より、少し早い電車。

 もっと早ければ、もっとすいている。

「なあなあまゆみって。ほんとにだりあの家に行ったことって、ないん?」

「ないでーー。一回も」

「そうなんや」

 だりあの家は、学校のすぐ近くにある。

 だが、私は一度もだりあの家に行ったことはない。

 同級生の中で、だりあの家に行ったことがある者がいるのかどうかも、分からない。

「なんでなん? だりあの家、行ってみたい?」

「うーん、そういうのとはちゃうねんけど」

「あっ分かった。だりあの家から、クジラの場所まで。どうやって行くか」

「えっあああ……うん……うん。それはちょっと気になる」

 そう。それはとても気になる。

 だりあも家で、クジラのニュースを知ったはず。

 学校まで徒歩で行けるということは、だりあの家からクジラの場所まで歩いていけそうだ、ということでもある。

 もうだりあはクジラの死体を見に行ったかもしれない。

 もしかして、だりあの家から、クジラの場所のあたりが見えたりするのかもしれない。

「まあ、場所は。知ってんねんけどな」

 まゆみは外をながめながらつぶやく。

山肌やまはだは見える。うん。でもたぶん、クジラのあるあたりは、見えへんのちゃうかなあ」

 まゆみは目を閉じて、

「ああちゃうわ、木ばっかり見える場合って。山肌、とは言わんのやったっけ」

 私は何も答えず、カバンからスマホを取り出す。

 ダグラス・ジェネルベフト関連のニュースをチェックしながら、話を続ける。

「あんな、なんかな。やっぱ思うねんけどな」

「うん」

「だりあってな。ジェネルベフト型の性格やなあと思うわけ」

「うんうん」

 まゆみもあまり、ダグラス・ジェネルベフトやジェネルベフト型性格の概念がいねんについて、強い関心は持っていない。

 でも一時期は、だりあの作品からジェネルベフト型らしさを抽出ちゅうしゅつするのを手伝ってくれたりもした。

「なんで? もうすでに、だりあがクジラを見に行ったのかどうか?」

 もちろんそれも気になる。まゆみに理解力があって助かる。

「うん。それもあるな」

 私はカバンからイヤホンも取り出して、ニュースの解説動画を見始める。


 撲殺されたのは、ジェネルベフト型の性格についてのセミナーを主催しゅさいする団体の代表。

 ニューヨークの本部事務所の前で襲撃しゅうげきされたということだった。

 ジェネルベフト型性格については、欧米での関心の高まりを背景に、非常に高額なセミナーを実施する悪質な団体が跋扈ばっこしている。

 だが、今回ニュースになっている団体は、セミナー自体はさほど高額ではなく、むしろ非営利に近いような存在だと認識されている。


 襲撃したのはYKDGというニューヨークを拠点きょてんにするグループで、ジェネルベフト型性格や関連する概念がいねんについて商用利用することに強く反対している。

 抗議活動の際には、

YOU(ユー) ()KILLED(キルド) ()DOUGLAS(ダグラス) ()GENELVEFT(ジェネルベフト)

 と大きく書かれた旗をかかげている。

 Tシャツやパーカーなども作られている。


 YKDG会長のブログは、更新されるとたいてい48時間以内に日本語訳が出回るので私もよく読んでいた。

 気になる内容の時は、誰かが翻訳する前に原文を読むこともある。

 英語の勉強になるかもしれない、という期待もあって読むのだが、スラングが多すぎるうえに、どこまで冗談で言っているのか分からずに混乱させられることが多い。


 それにしても、あのYKDGの会長が、撲殺を指示したというのか?

 あるいはもしかして、会長自らが直接手を下したというのだろうか?

 判明しているのは、YKDGのメンバーが複数で襲撃しゅうげきしたらしい、ということだった。


 動画の後半は、テレビ局の解説委員による解説だった。

「やはり気になるのは、ジェネルベフトさんは今のこの状況を、どのように考えておられるのか。ということですよね。身の危険を感じて、アメリカ以外の場所でひっそり暮らしているともいわれています。もし可能なのであれば、やはり何らかのメッセージを発してほしいとも、思いますね。ジェネルベフトさんは、アメリカ政府と対立していたとされていますが、ホワイトハウスは一貫して否定しています。そしてジェネルベフトさんは、日本で消息をったとも、いわれているんですよね。今の政権になってから日本政府は、政府として対応すべきことはない、と、こう。ずっとこの一点張りなんですよね。でも本当にそれでいいのかということは、我々も考えていかなくてはなりませんね」

「そういうのってさあ」

 まゆみが突然、話しかけてくる。

「えっ何? なんて?」

 私はイヤホンを外して聞き返す。

「そういうのってさあ。ほら。ファクト? ファクトチェック?」

「ああいや、これはテレビ局の公式チャンネルのやつやから。昨日の夜のニュースの一部が、こうやって公式チャンネルにアップされるわけ。だから普通に昨日の夜のニュース。テレビでやってたやつ」

「ああそうなんや。私最近全然、テレビとか見てへんから。そういうの全然、分からんわ」

 私はイヤホンの片方をまゆみに手渡す。

 そして、いま再生したばかりの動画を、もう一度はじめから再生する。

 まゆみは私のスマホをのぞきこむ。

 スマホを持つ私の手にまゆみの髪がかかって、少しくすぐったい。

 私も髪の毛、伸ばしてみようかな。

 私は動画の内容に集中しているふりをして、まゆみのシャンプーの匂いをチェックする。

 髪のれ具合やシャンプーの匂いの強さで、家を出たおおよその時間が推定できることがある。

 今日はおそらく、さほど時間が経っていない。

 まゆみはたまに、極端に早い時間帯の電車に乗って、一人でぶらぶらしていることがあるようなのである。

 でも今日は違うということだ。


 昨日はほぼすべての授業で、何らかの形でクジラへの言及げんきゅうがあった。

 どんな風にクジラについて語るかによって、先生の個性がそれぞれ出ているようにも思えた。

 でも今日は、まるでクジラなど存在していないかのように、退屈な授業が展開されていた。

 授業中は、たまにヘリコプターが上空を旋回せんかいしていた。

 これがまた、絶妙な音量なのである。

 このままずっと、授業を妨害ぼうがいし続けてくれればいいのに、と願う。

 帰りのホームルームでは、担任が

「えーー。インタビューなどで。下手なことを言ったりしちゃうと。永遠にその動画がネットに残り続けるわけですけれども」

 とだけ言う。

 どうやら、うちの学校の生徒を取材対象にしようと、テレビ局が来ているようだ。

 学校の外では、早速カメラの前でインタビューに応じている生徒がいる。

 おそらく中学の生徒。


 私は帰りの電車の中で、ニュースをチェックする。クジラではなく、YKDGによる襲撃しゅうげき事件。


 今度は、撲殺ぼくさつ誤報ごほう、というニュースが踊る。


 私が学校に行っている間に、YKDG会長が声明の動画を公表していたようだ。


 実際に起こったことは以下のようである。


 セミナー主催しゅさい団体の本部事務所前で5分間だけ抗議活動をするつもりでYKDGの若いメンバーが集まっていたところ、ちょうどセミナー主催団体の代表が用事で移動するタイミングになって鉢合はちあわせする事態に。

 そしてそれぞれの若いメンバーたちがもみ合いになった末にセミナー主催団体の代表が転倒し、後頭部を強打。

 血まみれの状態でしばらく意識があったものの数分後に意識を失い、その後病院に運ばれて約10時間後に死亡。

 転倒の直接の原因は誰かに押されたというわけではない。

 通行人がスマホで転倒の瞬間を撮影した動画が出回っており、すでにアメリカ国内のニュースでもこの動画が繰り返し流されているようである。

 その動画で転倒の瞬間を見てみると、確かに勝手に転んだように見える。

 もみ合っているのは若い男たちだけで、セミナー主催団体の代表は少し離れたところにおり、まるで自分の孫たちがふざけてはしゃぎ始めたのを迷惑そうに無視して歩き去ろうとするおじいちゃんのようでもあったが、周りに人がいないところで突然よろめき、なんとか体勢を立て直そうともがいたものの、そのまま後ろ向きに転倒した、というような感じだ。


 死亡したセミナー主催団体の代表は87歳という高齢で、何もないところで頻繁ひんぱんに転んでいたという団体の元職員の証言も繰り返し流されているようである。


 YKDG会長は声明の動画の中で、完全に事故であると何度も強調する。

 YKDGはこのセミナー主催団体を悪質性が高いとみなしていたわけではなく、本当に危険な団体はもっと他にある、とも強調する。

 また、死亡した団体代表は自分とは意見が違うところが多々あったものの「良き友人」でもあり、死亡したことに非常に衝撃を受けている、と語る。


 なお、今回の抗議行動では計画はされていたものの実行されなかった案として、セミナー主催団体の代表にパイ投げをする案などもあったのだと主張している。

 その証拠として、パイ投げをする際の詳細な計画についての手書きのメモなどが動画で紹介されている。


 私は家に帰ってから、パソコンでもう一度事件に関連した動画を再生する。

 液晶ディスプレイで見ても、内容は同じだ。


 クジラ関連のニュースについては、まだ本当にクジラなのかどうかの特定はできていないようだ。

 海抜かいばつ100メートル以上ある場所に巨大な物体をどうやって運んだのかについて、国内外で様々な仮説が立てられている。


 また、死体の中にメタンガスが蓄積ちくせきしすぎないようにガス抜き作業をするための準備が始まっているらしい。

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