これが日立の「学歴フィルター」だ!リクルーターは裏で何をしているのか――新卒採用20ケ月の全貌
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MARCH以上のみ「大学別」に卒業生をつけて特別扱いする日立のリクルーター制。これが「採用したい度合い」を表す。G(学習院)は「関東地区」に含む。 |
効率的な新卒採用の手法として、学生を大学名でふるいにかける「学歴フィルター」は、大企業・有名企業で一般的に運用されている。新卒一括採用がメインの昭和大企業(楽天のような新興系でも同じ)に入るには、大学の選択(入試・AO・推薦)が就職の一次選考と同じ意味を持つため、高校生やその進路指導者も知っておくべき内容である。日立製作所で実際に近年、リクルーターの1人として採用に関わった社員に、その運用実態を聞いた。
- Digest
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- 建前と実際:「面接」ではなく「面談」です
- 大学3年6月に「プレ期」スタート
- 3月~個別面談
- リクルーターが学生に話してはいけない「本音」事例一覧
- 2回ずつ会うくらい
- 半数が内定辞退し「見た目の給料が高い企業」へ
- 日東駒専まで可能性がある
- 理系は理科大や電通大もメジャー
- 高卒は支社採用で萩商業高校など
トヨタ・NTTと並び、国内最大級の雇用を支える日立グループ(連結で国内13万3762人=2023年3月期)。年収1億円超の役員数「20人」も国内トップだ。その頂点に君臨する日立製作所(社員2万8672人)本体の採用プロセスにおいては、大学名で、どのようにフィルタリングされるのか。全20か月のプロセスとともに、選考の流れをリポートする。
建前と実際:「面接」ではなく「面談」です
現行の就活ルール(2018年以降・政府要請)では、
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面接ではなく「面談」なのでOKという屁理屈が展開されている |
採用選考活動:6月
内定:10月 と定められているが、国策(行政の情報システムや原発)事業に深く関わり、経団連会長も輩出した日立製作所でさえ、これに従う気は毛頭ない。
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学生の就活中に、リクルーターは裏で何をしているのか。工程管理は、ディスコ(『キャリタス』運営)のリクルーターシステムを利用。 |
「本音と建て前」が別で、正直者がバカを見る日本社会の縮図となっている。
建て前上、面接ではなく「面談」という用語を使い、大学3年次の終わりにあたる3月には、堂々と選考を開始している。
実際には、以下のとおりである。
広報活動開始:大学3年6月エントリー促進:大学3年12月
採用選考活動:3月(春期早期選考)、5月(春期一般選考)、6月(夏期選考)
内定:6月上旬(春期早期選考)、6月中旬(春期一般選考)、7月下旬(夏期選考)
辞退防止活動:6月~9月
別途、海外組は「東京サマー」(6月下旬内定)と「ボスキャリ」(11月内定)のルートがある。※(下記スケジュール画像参照)
※卒業のタイミングが異なる海外大に通う留学組や日英バイリンガル向けの就活イベントとして、東京サマーキャリアフォーラム(6月に開催)と、ボストンキャリアフォーラム(10月に開催)がある。
大学3年6月に「プレ期」スタート
具体的には、広報活動は大学3年の夏(6月)に始まり、日立では、翌2月までの9か月間を「母集団形成」のための「プレ期」と位置付けている。PRセミナーを開いたり、職種別のイベントを開いたり、インターンシップを行い、参加者を募る。
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プレ期→PR期→選考期→内々定期の20か月全体スケジュール |
これらはもちろん、採用活動に直結する。参加する際に記入する個人情報が名簿化され、日立入社に興味を持つ母集団が形成されていく。この母集団を厚くするのが、この時期の目標である。
その後、「PR期」→「選考期」→「内々定期」と、重なりながら徐々に移っていく。全20か月の全体スケジュールは、入社2か月前の1月末まで続く(左記参照)。
リクルーターは、役割によって下記2種に分かれる。
フォロワー=入社5年未満の若手社員(研修員・S7)。エントリーを促進。学生に歳が近い利点を活かし、他社就活状況を聞き出してデータベースに登録する。
アトラクター=入社5年以上の中堅社員中心(S7~S4)。カジュアル面談を行い評価。相談に乗り、選考を最後まで見届ける。
研修員、S7~S4といったランクについては対価編記事「日立製作所のキャリアパスと報酬水準」参照→日立製作所「給与水準が17年前と一緒は寂しい」
プレ期とPR期には、フォロワーが「優秀層のエントリー促進」を担う。優秀層は、キャリア相談会や冬期インターンシップで見極められ、名簿にチェックが入っている。
人事が母集団名簿をみて、対象となる学生と年齢が近い、同じ大学を卒業した若手先輩社員をフォロワーとしてつける。フォロワー役のリクルーターは、日立の魅力を伝え、「エントリーしない?」と、卒業生の立場を利用して後輩を誘う。
3月~個別面談
エントリーすると、アトラクター役の中堅リクルーターがセットされ、「個別面談」を行う。こちらも、原則として同じ大学を卒業した先輩社員である。
「エントリーシートに800字書いて応募してくる学生を、人事部が書類選考で絞って、リクルーターをアサインし、まずは1:1で、会社の外のカフェなどで会って、カジュアルな面談をします。トラブルになるので、男子学生には男性社員が、女子学生には女性社員がつきます。リクルーター1人あたり、担当する学生は3人くらいです」(社員、以下同)
リクルーターは専任ではなく、本業の通常業務と並行してリクルーター業務をやらされるので、5人も10人も担当することはできない。このリクルーターによる「面談」は、選考にどう関係してくるのか。
「こちらから、採用プロセスを説明して、普通に志望動機などを聞いて、◎〇△×の4段階で人物評価をつけ、一次面接の前までに人事に提出します。基準は明確に示されておらず曖昧で、『採用の合否には影響しない』というのが人事による説明です。おそらく迷ったときに参考にするくらいの使われ方ではないかと思います」
※通常業務の合間に時間を割くリクルーターに選考まで判断させるのは荷が重いので、リクルーターによる評価は、この程度が一般的である。
「人事の人が言っていましたが、当落線上の人だけ、最後に見ることがある、という程度だそうです。迷ったときに使う、と」(三菱商事のリクルーター経験者)
――『新卒採用人気トップの三菱商事』より
この採用活動の工程管理には、株式会社ディスコ(『キャリタス』を運営)が企業向けに提供しているリクルーターシステムを使っており、「学生との面談記録」など、個人情報を共有している。
リクルーターが学生に話してはいけない「本音」事例一覧
面談時の注意事項として、「言ってはいけないネガティブな本音」リストが、リクルーター向けに配られている。これは実に面白い。ここにこそ、日立で働くことの真実が詰まっているからだ。
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リクルーターが学生に話してはいけない本音の事例※原文のまま |
会社として、言ってほしくないのはわかるが、OB・OGの自由な発言まで情報操作しようとする姿勢は、思想信条に踏み込んでおり、コンプライアンス上、なかなかブラックである。
そうまでして学生に隠したい日立の労働環境とは、どのようなものなのか。左記が、「実際に伝えていた実態」がある、と人事部が記している内容一覧である。
・海外業務研修は、「ゴルフと旅行をしただけの1年でした」
・日立に入って嫌だったことは「自分の周りに女性が少ない(いない)」
・日立市に配属されると、自然と工場しかない田舎で、休日も楽しくない
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文系枠の職種別採用
リクルーターの人数配分と大学別就職者数
2024年度日立製作所採用計画。事務系の約4割(40~50人)が職種別採用。技術系のうち約40人がデジタル人材採用コース(Lumada要員)、としている。
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ぶっちゃけそのフィルターで「有望な」人材かき集めても、あの体たらくなんだから、推して知るべし。まず車内の評価システムや意思決定システムを見直したらどうですかね?これはフィルターじゃなくて差別な。
私企業が勝手に選別してるんだし縁故枠でも何でも好きにさせてやれよ。別に許認可事業やってる特権階級でもなんでもないんだから。リクナビ様はFラン大学生も採用してほしいからメディア使って煽ってるんだろ
部門採用にして、必要なスキルと行動パターンを定義してそれに合う人を採用すればいいだけなのに、人事一括採用にこだわってわからないからって学歴でフィルターするって、馬鹿なの?バカなの?莫迦なの?
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