裏山に死体、揺れる壕… 93歳女性が語る「艦砲射撃」の記憶
毎日新聞 / 2023年7月13日 19時30分
太平洋戦争末期の1945年7月14日に岩手県釜石市であった「艦砲射撃」の体験談を聞く会が同市であった。当時15歳で看護師見習だった佐々木郁子さん(93)が、78年前の攻撃のすさまじさや負傷者の治療に奔走した日々を語った。佐々木さんは当時の釜石とロシア軍の侵攻を受けるウクライナを「全く同じ」と表現し「平和の大切さを勉強してほしい」と訴えた。
艦砲射撃は沿岸に接近した艦船から陸地に砲弾を撃ち込む攻撃で、米軍などが終戦直前の45年7~8月に太平洋岸の工業都市を標的とした。釜石では2回あり、製鉄所や市街地が攻撃され、判明分だけで計780人超が死亡した。地元では長く「艦砲」と呼び、記憶を語り継いでいる。
1929年生まれの佐々木さんは国民学校高等科(現在の中学校)卒業後の44年、釜石製鉄所病院に看護師(当時は看護婦)見習として入った。1回目の艦砲があった45年7月14日は早朝から入院患者を専用の防空壕(ごう)に避難させ、その後外来診療に追われていた。
正午前に釜石への敵機襲来が判明すると、病院職員用の防空壕に駆け込んだ。耳を塞いでいたため音は聞こえなかったが、砲弾の衝撃で壕の中が何度も大きく揺れた。艦砲が終わった後、一緒に避難した同僚が疲れ切っていたことを覚えている。釜石市が刊行した「釜石艦砲戦災誌」によると、この日の艦砲は計14隻が参加して午後2時20分ごろまで続き、砲弾2565発が発射された。
佐々木さんは艦砲が終わると、製鉄所の西側にあった高等女学校(現在の高校)に開設された救護所に向かった。先に到着していた先輩は負傷者の手当てに追われ、裏山には死体が散乱していた。夜間の巡回中に患者から「苦しい、助けてくれ」と治療を懇願する声が聞こえたが「どうすることもできなかった」。佐々木さんは声を詰まらせた。
8月9日の2回目の艦砲もくぐり抜けた佐々木さんは、同15日に高等女学校の校庭で終戦を知らせる「玉音放送」を聞いた。日本が無条件降伏したことに落胆した半面、敵機の攻撃を避けるため夜間電灯を覆って光が外に漏れないようにする「灯火管制」が終わる解放感も感じたという。
今回は艦砲を題材にした合唱組曲を歌う市民グループ「翳(かげ)った太陽を歌う会」(種市誓子会長)が、8月の発表前に戦争への理解を深めようと開いた勉強会で約20人を前に語った。佐々木さんはお礼の花束を手にした小学生と中学生に「勉強して、平和のために頑張ってね」と張りのある声で訴えた。【奥田伸一】
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