韓国産では見向きもされない…韓国の若者が「日本産ウイスキーでのハイボール」に夢中となっているワケ
プレジデントオンライン / 2023年7月15日 10時15分
■「ノージャパン」から「角ハイ最高!」へ
いま、韓国で日本文化が大人気になっている。アニメ、J-POP、小説などのコンテンツが若者を中心に支持されるだけでなく、日本の半導体品目輸出規制に端を発して2019年から3年間続いた「ノージャパン運動」のターゲットとなっていた日本製品も人気を回復しつつある。ユニクロは昨年8000億ウォン超(約809億円)を売り上げ、SPAブランドとしてシェア1位を獲得した。今年1〜3月の日本車の販売台数は前年同期比60.8%増を記録している。
日本産アルコール飲料類も目を見張る勢いで復権している。なかでも、売れすぎて1年以上品薄状態になっているのが日本産ウイスキーだ。この背景には、若年層を中心に巻き起こっている空前のハイボールブームがある。
ソウル江南区道谷洞の居酒屋「タボクダン」。テーブル10個余りのこじんまりした店内は、平日午後7時から若い女性客でいっぱいだった。職場の同僚たちと訪れたイ・ウンギョンさん(32歳)は、ハイボールの魅力をこう語る。
「カクテルより安くてビールよりおいしく、見た目もおしゃれです。たくさん飲んでも二日酔いにならないのも良い。最近では一般的な焼肉屋さんでも飲めるくらい大衆化してます」
■角瓶も山崎も響も…サントリーウイスキーの品薄続く
学校の友達と夕食を兼ねてここを訪れた女子大生のキム・アジョンさん(21歳)によると、大学生の間でもハイボールが断然人気のお酒だという。
「学校の団体合宿でも打ち上げで飲むのはハイボール。全国どこへ行ってもコンビニでウイスキーや、氷、炭酸水などの材料が手に入ります。家や旅先でも自分で簡単に作って飲める楽しさも魅力です。ビールやワインと違って、飲んでも太らないといいますしね」
タボクダンでは日本酒やアサヒ生ビールをはじめ、日本産の酒をドリンクメニューのメインとして扱っている。その中で最も人気があるのはやはりハイボールだ。1杯9000ウォン(約1000円)で、店員によると平日は一晩で70杯余り、週末だと100杯以上も注文が入るという。
ただ、最近は日本産ウイスキーの品薄現象で材料調達が困難になっているそうだ。
「当店の代表メニューは『角ハイボール』ですが、もう数週間もサントリーウイスキーが入ってきません。角瓶だけでなく、響や山崎なども手に入らなくなっています。ウイスキーだけはイギリス産かアメリカ産を扱うしかない状況なんです」
■日本で購入してくる「転売ヤー」も出現
京畿道で日本産酒類の輸入商を営んでいるキム・ジュンファンさんによると、この状況は1年以上続いているという。
「ノージャパンの頃は、スーパーやコンビニなどで日本産酒類を売り場から撤退させたり、注文もできない状態になっていたりして非常に厳しい状況が続きましたが、最近は人気がよみがえっています。なかでもウイスキーは供給が需要に追いついていない。角瓶が特に品薄で、御勅使(サン.フーズ)、あかし(江井ヶ嶋酒造)などの代替品を見つけるのにも苦心しています。日本産ウイスキーに韓国ウイスキーを抱き合わせで買わせる商法も幅を利かせているようです」
結果として、サントリーウイスキーの韓国内での販売価格は急騰している。角瓶は日本では1910円(希望小売価格/700ml)で販売されているが、韓国のスーパーで購入する場合は3万ウォン(約3000円)台だ。日本で1万円(同)で販売される山崎12年は30万ウォン(約3万円)程度。
それでも手に入らないため、日本まで行って購入して再販売する「リセール族」も登場した。日本でいうところの「転売ヤー」だ。韓国メディアによると、リセ一ル族が買ってきたウイスキーは闇の経路を通じて、山崎12年が40万ウォン(約4万円)、響17年が100万ウォン(約10万円)台で取引されているという。ウイスキーの転売で金を稼ぐことを意味する「酒テク」という新造語も登場したほどだ。
■コロナ禍で若者たちの一人家飲みが定着した
蔚山(ウルサン)濁酒のイ・ボムヒョン研究室長は、このブームの理由を次のように説明する。
「新型コロナウイルスのパンデミックにより、韓国の飲酒文化は大きく変わった。家で一人で酒を楽しむ習慣が定着し、『ホンスル(一人酒)』『ホームスル(HOME酒)』という言葉もはやり出した。ホームスルでは、保存性の高いウイスキーや、ウイスキーをベースにしたミクソロジー(Mixology=MixとTechnologyの合成語で、酒と好きな飲み物を混ぜ合わせたカクテルを指す)が人気を得ている。ハイボールはミクソロジーの中で最も手軽に作れて、若年層のウイスキーへの参入障壁を下げる役割を果たしている。
若年層が日本文化に親しんでいるのも一因だ。かつては日本式居酒屋でしか飲めなかったハイボールが、日本食や日本旅行のブームに乗ってどこでも飲める大衆的な酒になった。ハイボール発祥の地は欧州といわれているが、韓国ではすっかり日本の酒という認識が広がっている」
■シネコンに5種類のウイスキーを揃えた専門バーがオープン
ハイボールブームはマーケティングの面でも大いに役立っている。韓国最大の映画館チェーン「CGV」は、大型シネコンである新村アトレオン店内に角瓶など5種類のウイスキーと各種炭酸水を備えたハイボールバーを運営している。観客減少に苦戦する劇場街の集客施策のひとつだ。CGV関係者は「当社は主力店舗ごとに顧客層に合わせた体験型エンターテインメントを提供している。若い観客層が多い新村では、お客様が好みに合う1杯を選んで楽しめるハイボールバーをオープンすることになった」と明らかにした。
若年層が主な顧客であるコンビニも力を注ぐ。業界1位の「GS25」は17種のハイボール缶を、「セブン‐イレブン」が8種、「CU」が7種のハイボール缶のラインナップを構築し、「ハイボールデー」などの販促イベントを実施している。
さらに、大型スーパーやコンビニでは「ウイスキー限定販売」のマーケティングも盛況を呈している。ネット販売が不法な酒類はスーパーやコンビニの中核商品のひとつだが、なかでも品薄が続く人気ウイスキーを限定販売することで、酒類の代表チャンネルとしての地位を固めようとする戦略だ。人気銘柄の入庫状況をスマートフォンアプリを通じて告知することで、新規顧客やロイヤルカスタマーの確保を狙う動きもある。
■韓国のウイスキー輸入額は過去最高額になった
ブームはアルコール飲料市場における勢力図まで変えている。ビール輸入額は2019年から4年間下り坂をたどっている反面、ウイスキーは2007年以降15年ぶりに最大輸入額を記録した。
韓国関税庁の輸出入貿易統計によると、今年5月ベースのウイスキー輸入量は昨年同期(9065トン)より56.3%増加して1万4169トンとなった。これは関連統計がある2000年以降の5月基準で過去最高だ。輸入額も過去最高水準に達している。今年5月基準で1億955万ドル(約1392億ウォン/約155億円)規模のウイスキーが輸入され、昨年同期(9779万ドル)より12.0%増加。これは1億2163万ドル分が輸入された2008年以来、15年ぶりの最大値となる。
■「おじさんの酒」のイメージから脱却
過去、韓国に輸入されるウイスキーは高価なものがほとんどだった。その価格から主に営業や接待に利用される酒だったため、いわゆる「おじさんの酒」というイメージが強かった。それが最近のホームスルブームと若年層のハイボール人気によって「ヒップ」なイメージがかぶせられ、アルコール飲料市場の大勢として浮上したのだ。韓国の伝統酒メーカーはこの点に注目しているという。
「世界的にアルコール飲料市場はどんどん縮小している。ドイツでは多くのビール工場が閉鎖され、フランスではワインが余って処理に困る状況が続いている。新型コロナで飲酒文化が急変した韓国のアルコール飲料市場も危機に直面している。危機の打開策のひとつとして、伝統酒業界ではハイボールのように若年層の人気を得られる『ミクソロジー・レシピ』開発に力を入れている」(前出 イ・ボムヒョン室長)
ハイボールブームはいよいよ韓国の酒文化も変えつつあるようだ。
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フリージャーナリスト
韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て現職。著書に『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)、『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)。
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(フリージャーナリスト 金 敬哲)
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