田川氏らは今後、食虫植物が花粉媒介者を捕食することが、近くの花に不利な影響を与えているかどうかを調べる予定だという。
同じくモウセンゴケの食性を研究している英ラフバラ大学のジョニ・クック氏は、他の植物から獲物を盗むことで、モウセンゴケが栄養をより多く摂取しているかどうかに興味があると語る。もしそうであれば、モウセンゴケの生き残りは、異常気象や気温上昇に左右されているかもしれない。なぜならそうした変化によって、近くの植物が引き寄せる花粉媒介者が減ることがあるからだ。
「植物はそのような変化に適応する必要があります。さもなければ、局所的な絶滅につながる可能性がありますから」とクック氏は言う。(参考記事:「窒素汚染地の食虫植物は食欲不振?」)
触るだけで花が閉じる
モウセンゴケはしかし、生存戦略には長けているようだ。田川氏のチームは上記の他にも、一部の種の花が物理的な接触によって閉じることを発見した。
「接触に反応して花をこれほど素早く閉じる植物というのは、聞いたことがありません」と田川氏は言う。彼と共同研究者の愛知教育大学教授である渡邊幹男氏の2人がはじめてこの現象に気づいたのは、写真撮影の際に花の茎を支えていたときだという。
何かが接触して葉を閉じる植物は存在する。また、花を閉じる植物もあるが、それは気温の低下や湿度の上昇といった環境要因に反応してのことだ。雨や雪が降っても花が開いたままだと、花の内側の繊細な器官が傷つけられる可能性があるためだ。(参考記事:「花粉が運ぶ愛」)
モウセンゴケが花を閉じるのは、ガの仲間であるモウセンゴケトリバ(Buckleria paludum)の幼虫などの捕食者から身を守るためだと考えられる。科学誌「Plant Species Biology」に掲載された田川氏らの論文によると、トウカイコモウセンゴケ(Drosera tokaiensis)とコモウセンゴケ(Drosera spatulata)は、茎、がく、同じ茎の先に咲き終えて閉じてしまった他の花のいずれかをピンセットで触られると、2〜10分で花弁を閉じるという。
モウセンゴケトリバは通常、モウセンゴケの実を食べてから、さらに上に移動して花を食べることから、花の内部にある生殖器官への攻撃を防ぐために、花が素早く閉じるのだろうと田川氏は考えている。研究者らは今後、閉じる花の役割をさらに詳しく調べたいとしている。(参考記事:「花粉の運び屋を誘惑する花のおもしろ戦略集」)
「花を閉じることは、明らかな損失を伴います。花が閉じてしまえば、花粉媒介者が来なくなりますから」と田川氏は言う。しかし他の花から昆虫を盗む種と同じように、当該のモウセンゴケが自家受粉をするなら、この点は問題にはならないかもしれない。





















