17話 7歳 来ましたカンパノの森、錬金アイテムを盗まれる
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馬車の中からこんにちは、ヘルマンです。馬車旅も7日目、漸く今日中にランチ村に到着する。襲撃も3日目と4日目に3回ずつ、計6回の襲撃があったが、同乗者である女性冒険者3人組が簡単に倒していった。まあ、ゴブリンだけだったしね。星が1つでも勝てる魔物の代表格だしな。そんな訳で、彼女らの総取りにしているため出番が無かった僕だが、今日でこの馬車ともお別れだ。7日も馬車に乗ってると本当に疲れたよ。2回目の馬車旅だが好きにはなれそうもない。
そうこうしていると、ランチ村に到着した。時刻は正午過ぎ、テントを張って明日からの保存瓶を今日も生産しないとね。せっかく買ったんだから、保存瓶作成の魔道具も元を取るのは無理だけど、毎日でも使って保存瓶の枯渇なんてことがない様に頑張らないとね。いちいち買いに行く手間がないのはいいけど、魔力が使われるせいで、変に疲れるんだよね。で、これなんだけど、大体2,3秒で1個生産できるらしく、いいペースで生産ができる一方、魔力の消費もその分かかるのか、30分連続で使っていると若干だがふらっと来る。まあ30分間頑張れば600個以上もできるんだから十分なんだが。
さて、ここの教会前広場なんだが、何と冒険者がいない。霊地だぞ? 冒険者がいないとかあり得るのかよと思っていたが、予想以上に人気が無いんだなカンパノの森。まあ、毒キノコしかない上に、金にもならないのであれば人気が無いのも頷ける。食い詰め共は皆毒キノコが無い霊地に行っているのだろう。
そして、カンパノの森なんだが、予想していなかった外観だ。まず、木に葉っぱが一切ない。山火事でも、もう少し手加減くらいはしてくれるぞと言いたいくらいにつるっぱげだ。上手に焼きましたなんて状態とは思わんだろう。流石火属性の霊地、予想を超えてきたぜ。それでも枝の量が凄まじい為、日の光が殆ど地面に届いていない。明日からここに入って採取するのか。少し心配になって来たな。枯れ木の森とはね。本当には枯れてないんだろうけど。
さて、テントも張り終えたし、魔道具をテント内に出して保存瓶の作製だ。できるだけストックを作りたい。なるべく限界まで作ってみよう。…消音なのは有難いよな。ガシャガシャしているのも憧れるが、なんというかこれはポンッポンッって感じなんだけど、音が無いんだよな。魔道具は不思議が一杯だ。そんな訳で30分程、やはりこの辺りが限界の様だ。これ以上は意識が飛びそうな感じがする。まあ、1日に600本も使わないから、数日に一回で十分だな。この7日間作り続けてきたから1か月は十分持つだろう。
時刻は夕方になりました。井戸の周りにはテントが4つ。本当に僕と女冒険者3人だけなんだな。冒険者もちゃんと知識を付ければ儲かるのにな。勿体ない。この霊地がどのくらい儲かるのかどうか知らないが、毒がある分ヨルクの林より儲かると思うんだよなあ。ま、僕には関係ないので、素材を稼がせてもらおう。夕飯を食べて食器を洗い、寝る。おやすみなさい。
朝、いつも通り顔を洗って食事の準備だ。今日からカンパノの森の中に入る。しっかりと準備してきたからいつでも問題ないが、まずは朝飯。昼は食べないからね、この世界。貴族は知らんけど。でも、元貴族だって言ってた御者さんも昼ご飯を食べてなかったし、もしかしたら貴族も2食なのかもしれない。そんな訳で、いつもの朝食を食べて、指方魔石晶の首飾りの片割れをテントの中に置いておく。こうしないと帰ってこられないかもしれないからね。後は飛沫除け布を半分に折って三角にし、鼻からすっぽりと覆うようにして後ろでしっかりと結ぶ。これで完璧。
さて、今日から冬までずっとここで採取だ。保存瓶の補充も問題なし。食料も肉とキノコは限りがあるが、塩と麦は問題なし。町に買い出しに出かけてもいいけど、時間が勿体ないよな。そういう訳で、ずっと麦粥で我慢してくれ未来の僕。そんな訳で、早速採取に出かけよう。まずは浅瀬から探索だ。誰も森に入っていないなら、浅瀬でも十分な収穫が見込めるんじゃないかと思うんだよね。早速魔力茸発見。幸先いいんじゃない?
森の中に入って暫く、カンパノの森は森だけあって木の密度が凄い。森の中に入ったら直ぐに森の切れ目が判らなくなるくらいには木の密度が凄い。そして意外なのは暑くない事。火属性の森だから暑いんじゃないかと思っていたが、思ったよりも涼しい。まあ、別に木や何やらが燃えているわけじゃないもんね。そりゃそうか。でも涼しいのは朗報だよね。暑いと夏場が死ぬ。蒸し焼きになるのはごめんだ。採取物の方も順調に集まっている。高値であろう苔はまだ見つけていないが、キノコに草は沢山ある。本当に手付かずってな感じに凄いある。まあ、大抵は魔力茸なんだけどさ。それでも他のキノコも草もそこそこ集まるし、いい採取地だと思うよ。…ただ、深さが全然わからないんだよね。どのくらいの深さまで来たのかの目安が何もない。指方魔石晶の首飾りが無かったら迷子になるねここ。
そんな訳で、順調に採取を行いまして、時刻は夕方。ヨルクの林以上に太陽光が入ってこないせいで時間の感覚が全然わからない。持っててよかった魔械時計。昼も夕方も関係なく暗いからね。…暗視ができる眼鏡なんか無いかな。どっちにしろ夜の採取があるんだから絶対に必要だと思うんだよね。でも、眼鏡も特注品なんだろうな。度は要らないにしても、そもそも眼鏡が高級品だろうし。高い出費になるんだろうな。まあ、作るんだが。
そんなこんなでテントに戻ってきましたよ。…おや? 冒険者が珍しいのだろう。遠巻きに子供たちが見ているじゃないか。良い子は帰る時間だぞ、早くお帰り。放っておいたら勝手に帰っていくだろう。僕は僕で夕飯の準備をしないといけないんだ。サクサクと作業を終えて後はコトコト煮込むだけ。安定の簡単料理だ。村でも似たような食事だったけどな。基本麦粥と野菜。偶に肉と。僕が取ってきたキノコでさえごちそう扱いだったもんな、最初の方は。まあ、人間慣れって怖いもんで、僕のいたときはキノコ料理が普通になっていた。今はどうしているのかねえ。冬になったら村人が冒険者に交じってキノコ狩りしてたりしてな。おっとそろそろかな。…いただきます。うーむ、何とも言えないこの味わい。嫌ただ単に普通なだけなんだけどさ。そして、片付けの頃には、子供たちはちゃんと撤収していた。夕飯までに帰ってこないと普通に飯抜きにされるからな。村ってそんなもんよ。
朝、テント生活にも慣れたもんで、しっかり熟睡できております。いつも通り顔を洗い、朝飯の支度。今日も今日とて素材の採取だ。これから毎日素材採取に行こうぜ。その前に村長宅に寄っていくか。ちょっと催してきたからな。扉をノック。
「ごめんください。」
「はいはい、トイレですかな?」
「そうです、…何回も払うのも面倒なので、ここに暫くいる分これで一括で何とかなりませんかね?」
そう言って大銅貨5枚を渡すことに。一回一回小銅貨1枚払うのって面倒だし、大銅貨5枚なら500回分だ。そんなに行くかどうかのトントンくらいか払いすぎだと思うんだが、これで堪忍してもらいたい。
「ええ、家は構いませんよ。…でも、貰いすぎって事もないですか?」
「いえ、冬までいる予定なので、恐らくそれくらいは借りると思うんです。その金額でいいなら僕の方も嬉しいんですが。」
「ええ、十分いただいたと思います。分かりました。逐一の支払いは、あなたに限って免除しましょう。」
「ありがとうございます。面倒が省けて良かったです。」
いちいち払ってたら小銅貨の方が無くなっておつりをってなるからね。そんなことは避けたかったんだ。それにこれで遠慮なくトイレを借りられる。恐らく500回も行かないと思うが、そのくらいはここの素材で幾らでも相殺できる。トイレの確保はこれにてオッケー。それでは採取に行きましょうか。
ちょっと今日は深いところまで行ってみたい。…いや大体の方角しか解らないから、深いかどうかなんて解らないんだけどさ。グネグネ曲がった結果浅かったなんてこともあるかもしれないが、まあ大体1時間弱くらい歩いてみた。歩いた場所にあった目ぼしい素材は確保しておいたが、魔力茸は放置、その気になれば一杯採れるし、属性付きで無い物は沢山持っているからね。属性付きなのは確保しているよ。見落としもあるだろうけど。そんな訳でやってきました、比較的深部であろうここ。ここで今日は採取といきましょう。狙うは苔。油炭苔と狐藁火苔だ。油炭苔の方は黒灰色の苔。花が咲いていれば黄色い花が咲く。9ページ目にあったから高いはず。狐藁火苔の方は白灰色の苔。花の色は青色らしい。藁の燃え滓のような苔らしい。こっちが大本命。10ページ目のお宝素材のはず。今日は苔探しと言っても過言ではないぞ。気合を入れて探す。一度見つけないと、見た目がまだわからないし、見つけ方も解らない。図鑑だから絵も書いてあるけど、白黒だもんね。色とかが解らんのよ。
そんな訳で時間いっぱいまで探した結果、両方共の苔は発見できました。やっぱり奥の方が高い素材があるのかもしれない。…まだ瓶一杯には両方ともなってないけど、一度見つけられたらこっちのもんよ。見たことあるのと無いのとでは全然違うんでね。…まあ、後は行商人さんに売ってみて幾らなのか、正しい素材なのかを一度確認してみない事にはいけないけどね。ヨルクの林の時は、ジュディさんに教えて貰ってたからね。今後は自分で確認しないといけない。
…おや? 教会前広場じゃないところに出たぞ。おかしいな。指方魔石晶の首飾りの通りに帰って来たはずなんだが…。狂ったわけではあるまい。一応村には帰ってこれたんだし。となると、誰かがテントの中から盗み出したか? …子供であって欲しいな。流石に大人の犯行とかではないだろう。最悪、場合によっては切らないといけなくなるんだよね。盗みは重罪。子供なら情状酌量の余地ありで、げんこつ位は我慢してもらわないといけないが。一応教会前広場に行って首飾りの有無を確認しよう。…うん、無くなってる。こりゃ持ってかれたの確定だな。
首飾りの元をたどればこの家っぽいな。一応通り過ぎてみる。…うん、この家を向くな。さてさて下手人はどなたでしょうか。扉をノック。それくらいの常識は、普通の常識の範疇ですよ。冒険者でもそのくらいは心得に書いておかないでも常識であって欲しかった。書いてあったんだよなあ。他人の家にお邪魔する際の作法として。基本は村長宅だけなんだけどさ。扉の向こうから男の人がぬっと顔を出してきた。
「どちらさまで?」
「こちらの村に滞在している冒険者です。今日僕のテントから盗人がアイテムを持ち出したようなので、こちらに伺いました。ここの家の方なのは確定しています。下手人を出してください。」
「⁉ …因みに証拠は?」
「このアイテムがあなたのお宅の方向を指していました。これと同じものがこの家にあるはずです。」
「…ちょっと待っていてください。」
家の中から「おい、誰だ! 冒険者のテントから盗みを働いた奴は!」と大声で怒鳴っている。事と次第によっては死罪だからなあ、まあ、流石に死罪にはしないが。…奥方ではあるまいよ。きっと子供、それも男の子位がやりそうな事だもんな。なんの音沙汰もなく、再び男がぬっと扉から出てきた。
「すまねえが誰も名乗り出ねえ。…アイテムを貸してもらうことはできるか?」
「いいですよ。使い方は魔力を流すだけです。そのアイテムが指す方向に対になる物があるはずです。」
「かたじけねえ。」
もう一度中に入っていく男。「ほんとに誰だ! 名乗り出ねえと後が怖えぞ!」と男の声が響き渡る。そして暫くすると「あーーーー。」という子供の声。ほらやっぱりいたずら小僧だ。さて、脅す意味も込めて、レイピアでも出してあげていましょう。こういうことは、怖い目を見ないとまた繰り返すからな、子供ってやつは。さて、下手人が父親の手によって家から引きずり出されてきました。ぶすっとした顔をしていたが、剣を持っていることに気付くと顔を青ざめてしまいました。さて、それ以上に脅しておくとしましょう。父親もいい薬だと思っていそうだなこりゃ。流石に殺すとまでは思っていないらしい。
「こいつが下手人だ。好きにしてくれ。」
「はい。では、そうしますね。」
髪の毛が少し散るくらいにすれすれを水平にレイピアが走る。…大丈夫、当たった感触は無かったから。男の子は腰が抜けたようにそこに座り込んでしまった。いい薬になったでしょう。
「下手人への沙汰はこれで仕舞いにします。後の沙汰はお任せします。アイテムを返してください。」
「あ、ああ。この度は本当にすいませんでした。」
指方魔石晶の首飾りを返してもらって、一件落着。2人とも家に入ってから、「びぇえええええええええ」と大声で泣き声が響いたところを見ると、きちんと一発貰ったようで何より。大人になってからの窃盗は、本当に私刑が有りだから死罪もあり得るんだよ。冒険者の心得にも書いてある。前にヨルクの林の教会前広場で窃盗を理由に剣を抜いた奴がいたが、あれが許されるんだからな。まあ、あの時は明らかに言いがかりだったし、返り討ちにあったからまた違うんだが。ともかく、冒険者は私刑があり得る。品行方正が求められるんだよ。現実はともかくとして。
まあ、僕としてはアイテムが返って来たし、親父さんから天誅も喰らったみたいだし、これで良しとしようじゃないか。そんな訳で、少し遅くなった夕飯を食べて、火の処理、洗い物をして寝袋に入って寝るのだった。おやすみなさい。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。