#1 【AWO】初配信です、どうぞよしなに【ミドリ】
視界が渦のようにグルグルしてる。酔いそう。
「っ!」
突然安定した。毎回これなら慣れが必要だ。
真っ暗な空間に小さな
「いらっしゃーい。お客さーん」
出迎えてくれたのは、金髪の幼女。お人形さんみたいでかわいい。
「ここは……?」
「キャラメイクする場所だよー。さあさ、どうぞ」
配慮なのか、座り込んだままパネルの操作を勧めてくる。
決めるのは、外見、名前、初期スキル三つ、種族。下調べと変わったものはない。
名前は予め決めているのを入力。よし、被ってない。
次は見た目。顔は
いい感じ。
次は種族。ランダムがあるので、
――パンパカーン
『あなたの種族は見習い天使です』
軽快なファンファーレと同じようにヘンテコな種族だなー。見習いって。
「微妙なやつですかね?」
「いやいや、天使と悪魔は誰でも見習いからだから当たりだよー」
それならいいや。何やらゲーム内で転生機能もあるらしいから、いざとなれば転生すればいいし。
最後のスキルも、ランダムが一個だけできるらしいからやっぱり天に任せよう。
――パンパカパーン
『レアスキル:【天運】を獲得しました』
スキルのランクは、ユニーク、レア、ノーマルの順で良いから真ん中か。まあ良いんじゃないかな。
下調べしてきてよかった。いちいち聞くのは申し訳ないからね。
チラッと幼女さんの方を見ると、画面とにらめっこしている。忙しいのかな?
「貴方は運営の方なんですか?」
「え? うーん、そんな感じかなー? 管理AI
「いえ、私はミドリです。よろしくお願いします」
「よろしくー」
なるほど。語呂合わせで微妙な野菜を引いてるけど、可愛らしい名前。
他のスキル二つも選ぼ。方針なんて考えてないから、使い勝手の良さそうなやつを適当に。
これとこれかな。
「できました」
「ステータスオープンって言うと見えるからやってみてー」
「分かりました。ステータスオープン」
目の前に半透明の板みたいなものが現れる。触ってみるも、すり抜けてしまう。
「細かいパラメータ、攻撃力とか防御力とかはマスクデータになってるけど、他は色々見れるからこまめに確認してねー」
聞きながらステータスを眺める。
######
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:見習い天使
レベル:1
状態:正常
特性:天然・善良
HP:200
MP: 50
称号:異界人初の天使
スキル
R:神聖魔術1・飛翔1・天運
N:走術1・体捌き1
######
スキル
【神聖魔術】ランク:レア レベル:1
神聖なる力で回復から攻撃までこなす。
〖使用可能な魔術〗
・セイクリッドリカバリー
魔術
〖セイクリッドリカバリー〗
対象者の傷を癒す。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ」
消費MP:40
スキル
【飛翔】ランク:レア レベル:1
空中をレベルに応じたスピードで飛び回れる。
細かい操作もレベルで扱いやすくなる。
効果時間:スキルレベル×60秒
スキル
【天運】ランク:レア
運が顕著に表れる。効果はその日の運勢によって変わる。1日1回使用可能。24時にリセットされる。
スキル
【走術】ランク:ノーマル レベル:1
走り上手になる。走ることに補正がかかる。
アーツ:ダッシュ
アーツ
【ダッシュ】
高速で直進する。
CT:120秒
スキル
【体捌き】ランク:ノーマル レベル:1
体捌きが上手になる。
######
魔術が今のところ一度しか使えないけど、機動力だけは高そうだ。【天運】に関してはかなりのピーキー。
「聞きたいことあるー?」
「無いです」
先人も習うより慣れろと言ったことだし。
スキルは常時発動のパッシブ系と、任意発動のアクティブ系、それらが両方混ざったやつがあるのは把握している。
「じゃあ、頑張ってねー。応援してるよー」
視界が回転する。
目を開けると、汚れ一つ無さそうな白い神殿らしき場所だ。
立ち上がる。こうして自分の足で体重を感じたのは何年ぶりだろう?
「こわい」
歩くという行為が久しぶりで、歓喜と恐怖の感情が入り交じっている。
それでも、足を踏み出す。現実ではできなくても、ここではできる。
足を後ろに流す感覚も、出す足を入れ替える感覚も、何もかもが新鮮で心地良い。
建物から出ると、明るく賑やかな町が広がっている。
「いやーー!!」
誰かの悲鳴が響き渡る。人々がギョッとして見ている方向を向くと、小さな子が爪で引っかかれたような傷を負っている。
悲鳴はそばに居る親っぽい人が上げたのだろう。
傷を与えた原因は、すぐに分かった。
「キャオーーーーン!!!!」
狼が遠吠えを上げている。ここがどこかはハッキリしていないが、治安が悪いようだ。
町中に凶暴な獣が現れているのは警備とかがゆるゆるなのかな?
「【グランドスラッシュ】!」
筋肉ムキムキの大男が、その体躯に見合った大剣を振るうと、狼は為す術なく真っ二つに。血が大量に出て、見ていて気持ちいいものではない。
それより、怪我をした子は大丈夫かな?
「誰か! 助けてください!」
親が助けを求めている。そこに駆け寄っていく修道服の男性。
「見せてください! これは、もう…………」
「そんな!?」
よっぽど傷が深かったのか、治せないようだ。
流石にこの状況をスルーして、自分の世界で感傷に浸っている訳にもいかない。
人垣をかき分け、進む。
「どいてください」
「て、天使様!?」
修道服の男性が何か驚いているけど、無視。
傷は三本の裂傷で、かなりの深手。息をしてるのが不思議な程深い傷だ。
できるかは分からないが、やってみよう。
「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ〖セイクリッドリカバリー〗」
まだ覚えていないので、表示されているのを読み上げて発動させる。
子供の体が白く淡い光に包まれる。
光が消えると、服だけ破けた、綺麗な肌が見える。完璧に治せたみたい。よかったー。
「あわわわ、ありがとうございます! 天使様!」
親が深々とお辞儀をしてくる。子供はまだ眠っているようだけど、落ち着いた穏やかな寝息だから安心したのだろう。
「いえ、治せてよかったです」
「天使様! どうか、
宗教勧誘? こわ。
「すみません。用事があるので失礼します」
野次が増えて注目を浴びるのは嫌だから、退散する。
早足であの場から離れたけど、なぜかチラチラと視線を感じる。
「ん?」
視界の端に一瞬映ったのを二度見してしまった。自分の羽だ。こんなのを広げてたら、変な注目を浴びるのも当然。
元々無いはずの器官なのに、簡単に動かせるのは種族ごとのハンデを少なくするためかな。小さく畳んでおこう。
人通りの少ない住宅街に来てしまった。予定では冒険者ギルドとやらに行って冒険者登録をするはずだったのに。
地図も無いので当然迷子。困った。こういう時は落ち着いてできることからしよう。
運営からのメッセージがある。イベントのお知らせとかかな?
{貴方にライブ配信の権限が認められました。専用アプリからチャンネルを設立し、配信してもいいよー。配信の際の分からないことはヘルプを読んでねー}
途中からハクサイちゃんが書いたと分かるラフさになってる。でも配信ねー。確か運営からの許可でできるようになるやつで、あんまり多くなかったはず。
ん? どれだけ人が来るか分からないけど、冒険者ギルドの場所ぐらい教えてくれるのでは?
「やるかー」
近くの木箱に腰をかけ、メニューを出す。ストレージやらメッセージやらある欄の下に、専用アプリという欄があるのでそれを選ぶ。
アカウントを作るときにも使ったアプリだ。ゲームを持ってる人も、持ってない人も、これを入れて
パパっと諸々を入力し、設立完了。気が変わる前に配信開始ボタンを押す。
『ライブ配信が開始しました』
そういうアナウンスと同時に、カメラがついた球体が現れ、フワフワと浮く。
設定できるようなので、決めていく。
カメラワークはオートで、チャット欄は表示、投げ銭機能もONで、BGMは自動で、アーカイブは残す設定。
多分大丈夫だろう。
「聞こえてますか?」
視聴者数が0から一気に1000ぐらいまで増える。ゲーム内と外のラグっぽい。
[芋けんぴ::初見です]
[あ::初見]
[ピコピコさん::初見]
[らびゅー::聞こえてます!]
[天変地異::初見]
[ヲタクの友::初見です]
[お神::所見でふ]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::初見!]
聞こえているみたい。こんだけ集まれば一人ぐらい場所知ってる人いるだろう。
「私はミドリといいます。配信、ゲーム、ともに初心者ですが、どうぞよろしくお願いします」
[燻製肉::よろ^^]
[蜂蜜穏健派下っ端::美人さんだー]
[死体蹴りされたい::よろしく!]
[セナ::推します]
[隠された靴下::おぢさんが手取り足取り教えるおー]
[壁::かわいい!]
[らびゅー::顔のパーツが綺麗! 現実準拠?]
[芋けんぴ::自己紹介えらい]
[階段::堂々としててよき。]
見える範囲のコメントだけでも混沌としている。蜂蜜で過激派と穏健派に分かれているのは何かあったのかな?
下調べで動画は調べてないけど、供給が少ないのかもしれない。戦闘の対策とかされかねないし。
「皆さんには、道案内をして欲しいです。私を冒険者ギルドまで導いてください」
視聴者をあてにする配信者も混沌
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