19.夜の逃走
「ちょ、待って、なんでこっち攻撃……け、ケケケケケケッ」
って、逃げた!?
「あ、こら、逃げるなテケテケーッ」
ハナコさんがテケテケ追ってった!?
そして鬼火が俺へと飛んでくる。
ぬ、おおおおおおおぉっ!!?
上体を反らしてぎりぎり回避。
顎先を掠めそうな程の低空を飛行して上半身ブリッジ状態の俺を飛び越え鬼火が壁を突き抜けていった。
あ、危なかった。
うぅ、腰が抜けて立てない。
状態異常か何かだろうか?
漫画とかでも腰が抜けて立てないとかあるけど、アレってどうやって直るんだろうか?
時間経過なのかな? 俺は初めてのことだからこれ、治るかどうかすら不明なんだけど!?
「……」
げっ!?
ゆ、幽霊来た。普通の雑魚幽霊来ちゃった!?
レベル8まで上がってるから多少の攻撃なら問題無く受けれそうだけど、このままだと呪い殺されるっ!?
「は、ハナコさん、ハナコさん助けてプリーズっ!? 俺が死んじゃう!?」
しかしハナコさんはテケテケに夢中だ。どこまで追っていく気なんだろうか?
「ハナコさーんっ。俺動けないっすー、助け……あ、冷たっ!? やめろおっさん、触れんな! 垢BANすっぞ! ぎゃあぁぁ悪霊退散――――ッ!!」
とっさにアイテムボックスから塩を取り出しぶっかける。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
お、おぉ、意外と効いた。
全身塩塗れになった幽霊が悶えながら距離を取る。
しかし消滅するほどじゃないらしい。
あ、動く、動くぞ。ちょっと鈍いし腰に違和感あるけど動けそうだ。
ゆっくりと立ち上がる。
その頃には怒り心頭の教頭先生っぽい幽霊が襲いかかって来る所だった。
「う、あぁぁっ!!」
無我夢中だった。
咄嗟に放った攻撃は、蹴り。
塩塗れの幽霊を思いっきり蹴りつけ……
「ギャアァ!?」
え? 効いた?
物理攻撃、効くのか!!
「は、はは……ひ、ヒャッハーッ!」
一方的に霊障されるだけかと怯えていた。どうやらその必要はないらしい。
蹴りが効くなら倒せるってことだ。
ならば、ならばっ、近づいてくるしか出来ない幽霊なんぞ何するものぞ。
蹴りを喰らえっ! オラオラオラァッ。
「や、やった……やったった!」
幽霊が消滅し、霊子の欠片がドロップする。
初めてハナコさんの助けなしで倒したぞ!
「オオォォォ」
また来たか!
だが、残念だったなァ! 幽霊は、蹴れる! 蹴れるなら、倒せるのだァ!
「力こそ全て! 良い時代になったものだ、なァ!!」
渾身の力を込めて、思いっきり放った中段蹴り。
すかっと幽霊を通りこして回転、足がもつれてそのまま倒れる。
「あ。れぇ!?」
近づいてきた幽霊から慌てて距離を取る。
え、あれ? 攻撃スカッた?
なんで? 幽霊は殴れるし蹴れるんじゃないの!?
幽霊殴った感触はんぺんだったぜ、じゃなかったの!? あの漫画みたいに殴り飛ばせるんじゃなかったの!?
「だぁぁ、効かねぇ!?」
その後も隙を見て何度か攻撃するも、全て霊体を突き抜ける。
あの先生型幽霊だけ特別だったのか?
いや、そんなはずはない。だったら何か要因があるはず。
あの時、やったのは……塩?
「まさか、だよな?」
半信半疑ながら塩を幽霊に投げつける。
とたん塩掛けられたナメクジみたいに暴れまわる幽霊。
「これで、どうだっ!」
そんな幽霊を蹴りつける。すると……
ダメージ通った!
マジかよ!? 塩塗れにしたら物理攻撃効くのか!?
「ネタが分かれば、幽霊ならなんとか」
っし、幽霊撃破!
塩か、これは常時持ち歩くようにしないとな。
しかし、さっきの戦闘でまたレベルが上がった。
既にレベル9だ。確かまだ開始一日だから今の攻略組もレベルは5が上限だろ。となると、現在レベルトップとかになってたり!?
お、俺、実は何気に凄い事してるのでは!?
動画に上げちゃって大丈夫か今の?
でも塩で幽霊殴れるとか多分新発見だよな。攻略サイトに書いてなかったし。
「ケケケケケケケケ」
「まちなさーいっ」
うっわ、まだ追いかけっこしてたのかハナコさん。
しかも逆方向から来たってことは階段登って別の階移動して戻って来たってことだよな。どんだけ追いまわしてんの!?
「ケケケケケケ。あーっ。キミどいてぇー」
「えぇぇ」
なんとテケテケは止まることすら出来ずに僕に向って突っ込んできた。
どんっとぶつかり吹っ飛ばされる。
ぐっほ、HP一気にレッドゾーン!?
そしてむにゅっとした柔らかい感触が俺の顔に乗っかる。
―― 警告:その……あ、ラッキースケベ持ちですね、じゃあいいや ――
何の警告っ!?
「あ、たた、もぅ、なんでハナコが追って来る……え? え? ええぇぇぇ!?」
はぅ、下半身にもなんか柔らかい感覚が……って、待って、これ、顔に乗せられてるの胸だよな、だったら、だったら下半身にあるのって……
「ひゃあぁ、ごめんなさいっ」
慌てて飛び退く長い髪の少女。ばっと離れる時に見えたのは、俺の下半身に乗っていた彼女の胴体、からはみ出た臓も……考えるの、やめとこう。正気度が減りそうな気がする。