15.商店街へ行こう
「ここが商店街ステージか」
うーん、納得いかん。
学校から出たら選択肢が出てきて自宅、商店街、裏山などいくつか選択肢が現れ、パーティー代表者がその一つを押すと、ステージがガラリと変わった。
ADVゲームかよ、と思わずツッコミしたくなる親切設計だ。
行きたいところにすぐ行けるのは良いけど、なんかちょっと現実味がなくこれはゲームだって感覚に引き戻されるなぁ。
いや、まぁ楽に移動できるから良いんだけどさ。
商店街ステージは青空の下、オープン型店舗の魚屋や八百屋が安いよ安いよーと客の呼び込みをしているのが見える。
昔の商店街を参考にして作ったようだ。なぜかシャッターが下りたままの場所もちらほら見える。
過疎化、進んでませんか?
「なんっつーか、寂れてんな」
「ゲームなのにその辺りまで反映させてるのねぇ」
俺達はどんな店があるかを見回しながら商店街を奥へと進む。
「お、文房具店まであんじゃねーか」
「路地裏もあるわね。この先はちょっとヤバそうよ」
『悪霊の溜まり場になってるから近づかない方がいいわよ?』
絶対いかねェ。即死案件じゃん。呪われたくないので路地裏には行かないようにしよう。
「あ、猫がいる」
青いポリバケツ型のゴミ箱の上に猫が一匹寝転んでいる。
「これってぶっ倒せば経験値貰えんのか?」
「あ、待って。この子飼い猫だわ。首輪あるもの」
「チッ、野良じゃねーのか」
危うく経験値にされかけた猫は、うにゃぁっと顔を腕で猫招き。そして再び夢の世界へと旅立った。
うん、癒されるけど放置の方がよさそうだ。
「つか、なんか買うものねーのかよ。折角商店街来たのに何も買わねぇのはどーなんだ?」
「コロッケ買う? でも私達金ないわよ?」
「そういやそうだった。このゲーム初期資金0円だったよな。不親切だろそこは」
「カツアゲしろってこったろ。あの中学生どうだ?」
やめたげて!?
「あ、そうだ。塩買おう」
「「「塩?」」」
「幽霊系に効くらしいんだ。夜中に学校行ってみようと思って」
あれ? そんなマジかこいつ。といったキチガイ見るような顔して?
「お前、知らねぇのか? 夜の学校とかマジやべぇぞ?」
「最低でもレベル10は無いと無理だって、攻略掲示板見て来なさい」
「昼もなんかそんなこと言ってたけど、死ぬだけだぞ? まぁ止めはしねぇけどよ」
『余程注意しとけば大丈夫よ、最初は私が戦ってあげるし。そこいらの浮遊霊なら雑魚も雑魚よ?』
レベル、40ですもんね。ボス戦以外はハナコさん無双になりそうだ。そしてパワーレベリングされる予感がひしひしします。
「そこいらでレベル上げするにも5位まであげたら後は数日掛けてちまちま経験値溜めるか森で兎や鹿仕留めて一気にレベル上げるか、するにしても夜の学校行くには十日は見とけっていうぞ?」
え、そんなにレベルって上がらないのか? 既に1レベル上がってるんだけど?
『おそらくだけど適正レベル帯の敵がいないのね。5辺りまでは野良イヌや野良ネコで上がるんでしょうけどそれ以上のレベル帯生息域が発見されてないんじゃないかしら? 森だと野生生物見付けるのも大変らしいわよ。タマモに聞いただけだけど』
実際森の中で兎見付けるのって大変らしい。
しかも下手するとイノシシやクマさんに出会って瞬殺されるらしい。
βテスターたちが空を飛ぶ動画とかのタイトルでイノシシに跳ね飛ばされたり、ベアクローで高く打ち上げられる動画をアップしていた。
「お、塩ってこれか? 意外と安い?」
「おう嬢ちゃん。そりゃ調味料系はかなり安いぞ。その代わりに大量に使用することが前提だけどよ」
成る程。これなら10個位買っても問題は無いな。
いや、瓶詰を買うよりこっちの袋か?
これだったら1袋でこの金額だし、3つ位買えるか。正直瓶詰めの2倍位の塩が手に入るな。
ああ、瓶詰めのは瓶の値段も入ってるせいか。
詰め替え用に2本程塩瓶を買って袋を2つ買っておこう。これで脛擦りを倒して得た資金は底を尽きた。
それからも、俺達は商店街を練り歩く。
そして余りにも金がなさすぎたので三人は結局NPCの一人を三人がかりでカツアゲすることに決めたようだ。
俺はそれには参加しない事にしてハナコさんと二人別行動。
彼らを見ないようにして八百屋さんの商品を見ながら今日はニンジンが安いんだー。へー。と棒読みで呟いていた。
そしてしばらく。
カツアゲを終えたらしい三人がホクホク顔でやってきた。
「おぅ、軍資金手に入ったからなんか買おーぜ」
お前ら本気で不良だよ。やべぇのと知り合っちゃった。
ただ、奢って貰ったコロッケはかなり美味しかった。
ごめんねカツアゲされた中学生の人。コロッケはとても美味しく頂きました。ありがとうございます。
心の中で、顔も分からぬ被害者に、俺は謝りながらコロッケを完食したのだった。