14.初めてのラッキースケベ
「なぁヒロキ、あんたこれからどーすんの?」
「え? あー、夕方までは暇になるのか。かといって授業はさすがに受ける気ないし」
「だろうねぇ、んじゃ、あーしらと一緒に遊ぶ? なんならカツアゲ行っちゃう?」
「それは遠慮するっす。おいらは一般ピーポーなので不良っぽい遊びはできねぇっす」
「なんだそりゃ。まぁ無理に誘って運営に目ェ付けられてもアレか」
食事を終えてトレーを返した俺達は、さっさと教室を出る。
昼休憩はまだあるらしく、NPCたちも思い思いの休憩を始めている。
男子たちは集まってサッカーをしに校庭へ。あるいはバスケをしに体育館へ。
女子たちは教室で円陣組んで姦しく話をしたり、男子のスポーツ観戦に向ったりしているようだ。むしろプレイヤーの方が所在無げにしていらっしゃる。
「そういやさ、君たちは部活はしたりするのかな?」
と、二人で教室をでようとした俺達に輝君が話しかけてくる。
「部活?」
「あー、そういやそんなのがあったなぁ小学校ン時」
「あー。俺確か最初野球部入ったんだよな。でも基本一年って玉拾いとか道具の整備だろ。トンボ掛けとか一人でやらされてさすがに辞めたよ。んで次に入った部活が科学部だったんだけど、何をしたかって言うと殆ど幽霊部員で先輩居なくなったら俺一人しか部室に来なくてさ、さすがに帰宅部になったわ」
「うっわ悲惨過ぎ。あーしは部活自体出なかったなぁ、なんかそういうのに反抗したい年頃だったつーの? 基本コンビニとかで屯ってたし」
そして、俺とユウは視線を合わせて通じ合った。
「「うん、帰宅部でいっか」」
「えーっ。まぁでもとりあえず、興味があったらこれ、この学校の部活だから、仮入部でもいいから回ってみてねー」
なるほど、輝君がプレイヤーに部活やるよう促す係か。
他のプレイヤーたちにも部活表なる用紙を配り始める輝君。
NPCの中でも彼が一番目立つなぁ。他のNPCは個人としての思考が無いように見えるから彼がさらに目立つことになっている気がする。他のプレイヤーとしても彼が一番話しやすいから仲良くなるのも一番みたいだし。
『へー、部活かぁ。放課後から夕方まで暇だし回ってみる?』
ハナコさんがみたいなら回るよ?
『せっかくだから回ってみましょ。部活って何するか気になるし』
あー、ハナコさん夜の学校しか知らないから。
よし、今度こそハナコさんを案内するぞ。
決意を新たに廊下に出る。
丁度ドアの陰で見えなかった何かが前に現れ、俺は避けることもできずにぶつかった。
「うわっ」
「きゃぁ!?」
え、やべぇ女の……こ?
思わず手を付いたのはそいつの胸元だった。
ヤバいと思ったモノの、厚い胸板は揉みごたえ抜群の筋肉の塊だった。
いや、待って。今のきゃぁって声、野太かったような?
「やだヒロキったら、ダ・イ・タ・ン」
ぎゃぁぁぁヒバリっすわん!?
ラッキースケベが発動、アバターこそ男だがプレイヤーは女性のヒバリに向って倒れ込んだ俺は、彼? 彼女? の胸を思いっきり鷲掴んでしまったらしい。
でもこのゲーム内では男性同士でありフレンド同士、相手も拒絶してない、俺もエロい気持ちを持っていない、ということで警告はなかった。
近くに居た女性NPCたちがなぜか黄色い悲鳴を上げる。
「うわわ、すいませんっ」
「んもぅ、こっちじゃ男性同士だから問題無いわよ。でもぉ、ヒロキはそっちが趣味なの」
「違わいっ!?」
『なるほどぉ、プレイヤー同士でのラッキースケベはアバターじゃなくプレイヤーの異性で判定されるのねー』
ハナコさん、棒読みですが?
「またすげぇ体勢だったなぁオイ。もうお前ら付き合っちまえよ」
あんたそればっかかよ!?
ヨシキが呆れた顔で合流して来る。
ああ、なんかこいつ等の仲間として引きずり込まれてるなぁ。
逃げだすのは、ちょっと俺には無理そうだ。
「ユウ、これからどーする。美術室なら誰もいねぇぞ?」
「んー、あそこに集まったのってこれからどうするかの相談っしょ。とりあえずで決まった学校探検は昼前にやっちまったし、外、でるか?」
「街中の探索か。どうするヒバリ?」
「町に出るのはいいけど、野犬や猫との闘いがあるでしょ。ユウは問題無いだろうけど、ヨシキとヒロキは戦えるの? あ、もちろんあたしはこれでやれるわよ」
木刀ですね、わかります。
なんかもう見るからに特攻隊長って感じだしねぇ。
中学校上がったら絶対暴走族とかに入るでしょ。
「一応俺は蹴りスキル持ってるよ」
「お、俺だって拳スキル持ってっし!」
「とはいえ、あーしら全員レベル1だけどねー」
まだ実戦経験は無いらしい。
まぁ最悪ハナコさんにお願いするとして、街中探索してみるのもいいかな?
四人で固まってればそうそう絡まれることもないだろうし。
むしろこっちが絡む派? さすがにカツアゲしだしたら逃げよう。