11.考えることは皆同じ
「えー、もう終わり?」
ハナコさんが困った顔で告げる。
「だってしょうがないじゃないかー。俺ってば既に大学卒業しちゃったパンピーよ? 小学校時代はやり直ししてみたいけど、授業はさすがになぁ、知ってる事教わるってこんなに辛いことだったんだなって理解した」
二時間目。の授業をブッチして俺は廊下に脱出した。
先生と鉢合わせしないようにトイレに籠ってやり過ごし、授業開始と共に廊下を歩いて教室から距離を取る。
「まぁいいんだけど、これからどうするつもり?」
「何も考えず授業受けて放課後遊ぼう、と思ってたんだが、この学校だと別に出なくても卒業は出来るみたいだし、とりあえず今日は学校探索かな。ハナコさんはこの学校内部って全部行ったことあるの?」
「それはないわね。私が行った事があるのは霊障を起こせる女子トイレと体育館が管轄だから。他の場所は初めてかも。折角だし案内してくれる?」
俺も初めてなので案内できるか分からないんだけど。
でも、ハナコさんのお願いだし、まずは一階から探索しますか。
一応全体マップ使えばどんな教室があるかは分かるけど、折角だから左端から順に行こうか。
と、言う訳でハナコさんと共に左端にある購買から。
ここでは消しゴムから制服、武器に至るまで学生生活を送るのに必要な物が売られている。
基本購買の人に話しかけると選択画面が出てくるので欲しいアイテムを選んでお金を払うことで売買成立。お金がない時はアルバイトもできるらしい。小学生でも働けるのが意味不明だけどそこはゲームだからってことだろう。
「お金、持ってる?」
「えーっと脛擦り倒した分のお金が50円」
購買で買えそうなのはアンパンと牛乳くらいだろう。二つ買ったら所持金0円だ。
「一応現実世界よりは安い値段設定だな」
「そりゃあ弱い生物倒したりしてお金溜めないとだから必要品は安めに設定されてるわ。でもお金がないと買えないのは面倒ね。アルバイトする?」
「時給700円か。まぁ切羽詰まったら買いに来よう。幸い毎日食事しないと空腹で死ぬ、ってわけじゃなさそうだし」
「この世界でそれやったら凄く面倒でしょうね。クレームの嵐になりそうだから食事に関しては満腹メーターみたいなのは撤廃してるらしいわよ」
撤廃というか、付けてないってことだね。撤廃は一度付けて……付けたけど止めたってことか。それ、裏設定の話だから一般人には言っちゃダメなのでは?
「んで次は、美術室」
がらり、美術室のドアを開く。
三つの視線がこちらに一斉に向けられた。
ミロのビーナスを前に中腰で座っていたそいつらは三白眼でこちらを睨む。
「……失礼しました」
俺は美術室のドアを閉じて回れ右。次の教室に……
「オゥ、待てや兄ちゃん」
ガラリ、ドアが開かれ小学生三人が現れる。
一人はリーゼント頭で煙草を咥えたイカレた小学生。あ、違うこれココアなシガレットだ。一人はカラスマスクにツーブロックの小学生。木刀を肩に引っ提げている。そして鼻の上がソバカスだらけの赤髪ツインテールの三白眼少女。穴空きグローブ右手に填めて、持っているのはヨーヨー一つ。
せっかく近づかないでおこうとした俺の背後からやって来て肩を組んでくるリーゼント君。
『これ知ってる。不良に絡まれたって奴ね』
「アレだろオメェ、授業出てみたは良いけど余りにも幼稚すぎて出て来たクチだろこの不良野郎」
それはお前らだ。
「俺らもよぉ、ゲーム始めたは良いけどなんっつーかかったりーじゃん。もっとこう血沸き肉躍る学校生活したかったわけよ」
いや、わけよ、とか言われても……
「あーしもさぁ。小学校に戻って遊べたら、って思ったんだけどさー、やっぱ族やってた時期の感覚が抜けなくてさぁ、センコーの話聞いてらんなくてさぁ」
そ、それは大変でしたね。それじゃ―俺はこの辺で。
「同じ仲間じゃねーか。仲良くしよーぜぇ兄弟」
「あ、ちなみにさぁ、あーし、見た目女児プレイしてみたんだけど、やっぱ男として自分が女になるより男として女見る方がいいよな。あんたもそー思うっしょ」
ネカマプレイヤーかよ!?
「ちなみにあたしの方が女よォ」
カラスマスクでツーブロックな危険人物が女とか言われても!?
『アバターと性別逆なのね。へー、プレイヤーはそういうこともできるのか。楽しそうね』
「で、兄弟、今何してんだァ?」
「い、いやぁ、その、ただの学校見学っす。一通り見て回ろうかと思っただけでして、はい」
俺もレベル上がったとはいえ2しか無い。さすがにこの人数に絡まれたら……終わる。
「ひゃはは、そりゃあいい。丁度暇だったし俺らが案内してやんよー」
「はーい、一名様ご案なーい」
「え、いや、その……」
「アァン? 俺らの案内が嫌だってかァ?」
あ、これ断ったら消される奴ー。
『なんか面白そうだから一緒に回りましょっか』
違う、そうじゃない。助けてプリーズ、ヘルプミーっ。