9.初登校
「えーっと、なんというか、これは緊張します」
俺の家に、女子が居る。
ヴァーチャル世界の家だけど、女子が居る。
女性ではなく幼い少女。現実世界なら事案確定だけど、今の俺は小学生。そして相手は人外さん。
お巡りさんは、やって来ない。
「へー、実際こういうところ来た事ないから他人の部屋って初めてなのよねー。こんな感じなんだ」
「AIってこの世界どういう風に見えてるんです? 俺らみたいにクオリティー高い街並みが見えてるのか、0と1の羅列が見えてるのか。ワイヤーフレームなんてことも?」
「普通に町並みだと思うわよ。確かにどう見えてるかは証明しづらいけど。それより、寝なくて大丈夫? そろそろ深夜みたいだけど?」
「まぁ現実世界ではこの世界って三日分ですから、とりあえず今日が過ぎるのが0:00になるんで、そこから丸一日分寝て8:00から始めれば明日から二日分ログイン出来るっしょ」
「成る程、つまりヒロキは三日に二日現れる訳ね」
「現れるって……まぁそんな感じかな。とりあえずもうすぐ夜明けだからログアウトしなきゃだよな。あー、折角ハナコさんが家に居るのに、何の話も出来ずにログアウトか」
「私としてもAIとしての活動があるから、明日は一人で自由行動させてもらうわ。こっちの世界じゃヒロキの傍からは離れられないんだけどね」
マスコットキャラなのでゲーム世界以外には自由に移動できるらしい。
イベントの報告などをブログに載せたりする時用の動画を撮ったりする仕事があるそうだ。
ボスやってる合間に本来は行う仕事で、ボスとしてやられた後は自由行動の予定だったハナコさんは、俺にテイムされたことで俺がログイン中はこの世界に固定されてしまうそうだ。
ログアウト中はその限りじゃ無いので俺が一日寝るのに使うということは彼女にとっても僥倖だったようだ。
名残惜しいが時間が来たのでログアウト。
夜中0時を回った現実世界で食事を取って風呂に入り、寝る準備を整えお休みなさい。
今日はいい夢が見れそうだ。
……
…………
………………
「良い朝だ。世界が変わって見える」
朝の陽ざし? を浴びて、俺は思わず遠い目をして空を見る。
額に手を当て煌めく世界におはよう。
ニヒルに微笑み、フッ息を洩らす。
ああ、なんてすばらしきかなこの世界。
ヴァーチャル世界共々俺、大好きだぜ?
ハナコさんを生み出した世界よ、栄光あれ!!
「えー、ということで、戻って来ました。おはようございます」
「ええ、おはよう。まさかのこっちで深夜0時に御帰宅とは、測ったの?」
「ただ正確なだけですよ。寝て起きて歯磨きして所用済ませてVRダイブ。あ、一応聞きますけど、動画取ってチューブ上げても大丈夫です?」
「ん? あー、私と過ごす日々を動画に上げるの?」
「と、いいますかプレイ動画上げてそのお金で生活しないと実生活が詰む感じっす」
「刹那的な生き方してるのね。働きなさいな」
「いやぁ、もうブラック企業はこりごりっす。チューバー系だと時間の都合を自分で決めれますしね。どうかオナシャス」
「ま、タマちゃんに聞いてみるわ。そこまで問題にならないと思うけど」
「あ、ちなみにハナコさんテイムの動画も既に撮ってあるんで上げてもいいか聞いてもらえます?」
「自分で運営に尋ねなさいよ。まぁついでだから聞くけども。次からは自分でしなさいよ?」
んもぅ、と困った顔をしながらスマホを取り出すハナコさん。幽霊なのにスマホを使うAIとは? なんかいろいろツッコミどころがあるけど、ハナコさんだからそれはそれでアリだな。
うん。ハナコさんがやる行動なら俺はなんでもスルーしよう。
ハナコさんなら問題無しだ。
「オッケーだって。ただし私がテイムされたってことが分かるとヒロキが現実世界で大炎上するんじゃないかって言われてるけど?」
「それは覚悟の上かな。既に進退極まってるし。ここでジャパニーズドリームを掴むめるかどうか、俺、ハナコさんと過ごすために頑張りますっ」
「お、おぅ? なんでそんなにやる気なのかは分かんないけど、頑張って?」
しばし話に華を咲かせていると、登校時間になった。
準備を整えハナコさんと家を出る。
うわー、なんだこの感覚。小学校の時に大好きな女の子と一緒に登校してる気分だ。めちゃくちゃ幸せじゃないか俺?
「あ、おはよー」
ハナコさん? そいつは自縛霊ですよ?
「おはよー。ええ。この人に憑いてるのよ」
ハナコさん、そのお爺さんも幽霊っす。
「はい、おはよー」
ハナコさん、通学路に居る浮遊霊や自縛霊に気さくに挨拶しまくってるせいで、僕にまで挨拶して来る幽霊たち。
これ、一応顔見知りってことでいいのか?
相手の声分かんないけどとりあえずハナコさんと一緒に挨拶しておく。
「おはよー。あら?」
あいつハナコさんの挨拶無視しやがった!? っていうか、ハナコさん、アレ幽霊じゃないっす。
小動物のような半透明のもふもふがこちらの挨拶でびくっとこちらを見て、ずんずんと近づいてきた。
「あれは、脛擦りね。幽霊じゃなく妖怪だったわ。低級妖怪は会話出来ないからヒロキも気を付けてね。会話不能だと思ったら戦うか逃げなさいよ、弱いんだから」
レベル1だからなぁ。
「鬼火、えいっ」
と、ハナコさんが掌を肩くらいに上げて告げる。するとぼぅっと青い火の玉が生まれ、ソレを「えいっ」と脛擦りに投げ飛ばす。
こちらに近づいて来ていた脛擦りに鬼火が激突し、燃え上がる。
おお、凄いっ!?
「脛擦りに纏わり付かれるとコケてダメージを負うわ。コケ方によってはそのまま死ぬし、歩くのに邪魔だから見付けたら積極的に倒しましょう。経験値になるし」
あ、レベル上がった。
ハナコさんが倒したのに俺にも経験値来るのか。
倒された脛擦りはその場にころんっと転がってぼふっと消え去った。
後には何かアイテムが残された。