全キャラクターに人生があると思ったので、ネトゲとは関係ないものの森子に大きな影響をもたらしたこの人の話は必要だと思って描いていました。
【この文章は池田関係のリアルシナリオの最終部分をテキスト化したものです。小説ではない為読みにくいですがよろしくお願いします。】
池田と桜井に気に入られている(と思われている)柳(新人ちゃん)が他の社員から冷ややかな視線を送られる。原因は「振られた」と飲み会で桜井がこぼしてから、桜井を狙う女性社員が増えている中での数少ない普通の会話をする社員だったから。
事態を知った桜井は自らが動いて問題を解決できないかと考える。
この件に関してはあなたは動かないほうが良いと池田が制する。
池田は「簡単な事ですよ」と言い、嫉妬している女性社員を狙ってわざと桜井へのお使いを頼む。
そのお使いを桜井はいつも通りに受け取り、いつも通りお礼を言って終わる。
そして柳には自分が抱えている仕事を少し多めに分けて机に座らせておき、少し可哀想に演出した。
後日、空き会議室で話す池田と桜井
「あなたと話すのは他所の部署だと難しいから、適当にたまに調整してあげれば収まるのよ。私を通せば用事を融通しやすいと勘違いするし、私の目があるから変な誘いもしにくいし。こういう時怯えられてると便利ね」
「池田さん…」
自分の印象を上手く使って助けてもらいながらも、自分のことを自虐的に評価する様子がひっかかる桜井。
その表情を見て少しだけ微笑む池田。
「このくらいが私にはちょうど良いし、多少は印象をうまく使う事を覚えただけよ。…しかし、あなたはモテている割に本当に女性の扱いが下手ですね。ご友人の小岩井さんを見習ってみては?…まぁ、私も説教出来るほどじゃないですけれど、相手の好意を多少うまく使ったってバチは当たらないでしょう」
「はは…自分があの人のようになるのはあまり想像出来ないですが…善処します」
以前よりだいぶ打ち解けて話せるようになった二人
桜井はそんな池田をみながら、森子がまだユキであった時に上司と折があわず、思い悩んでいた事を思い出す。そして、最近の池田の丁寧な対応の様子を思い浮かべる。
初対面の時より柔軟になったその態度と、後悔のにじむ言葉の数々。そうありながら普段の池田はまるで怖がられようとするように感情を出さず淡々と仕事をしている。
ジッと池田を眺める桜井に困惑する池田。
「…?どうしました、ぼーっとして」
「……あなたが今そうしているのは、盛岡さんの事が関係あったりしますか?」
言われて目を見開く池田
「なんで貴方が、その子を知ってるの」
<暗転/説明>
(ネトゲなどは伏せて、偶然知り合った程度の事に留める)
「そう、不思議な縁ね…」
言葉少なくつぶやく池田
「私は昔から…酷い人間だったし、彼女は紛れもなく被害者ね。でも、彼女が後輩と上手くいって後輩が長続きするなら良いんだと当時は思っていたわ」
「どういう、意味です?」
<過去回想>
女子トイレから出てくる吉田を遠くから見て気づく池田
吉田は気づかず同期の女子社員と会話している
「ほんっと池田怖くて嫌になっちゃう!それに比べて盛岡先輩は優しいわ~。雑用だってちょっとうるるっとお願いしたらそれ以来ずーっとやってくれるんだもん。お陰で仕事が捗っちゃう」
「えぇ~でもそれは申し訳なくない~?」
「でも雑用やってたら時間がもったいないし、先輩がやるって言ってるから大丈夫だよ~!あ、私だってたまーにフォローしてるんだから!」
「楽そ~。うらやまし~」
<過去回想終了>
「当時の新人が、そういう感覚でいる事を知っていたから、新人なら新人らしく弁えるように言ったこともあったけどその子は私の言葉を聞かなかったし、それまでの新人が会社を去ることが多かったから、盛岡さんは彼女をかばっていた。…だから、そうしたいならそうすれば良いと当時突き放したの」
「…彼女に新人教育を任せていたけれど、大人っぽく見えても大体の人より年下で優しい先輩だったから、中途で入った人や大卒新人のような年上の後輩とのパワーバランスは微妙だったわ」
「私は私で、当時は怒ることでしか新人を矯正出来ないと思ってて、それがうまく行かなかった」
「だから、私は育成を彼女に押し付けてしまったの。私なりに彼女の仕事は遠回しにサポートしてたけど、もう嫌われているのも分かっていたから、徹底的に"そう"あるように振る舞った。…私という共通敵でも作って、後輩とうまく行けばいいと自分の都合のいい期待を持ってね」
「でも、そんな事しちゃいけなかった。彼女は何だかんだ上手くやってたし、実際途中までうまく行ってたけど限界がきて、後は貴方も知っての通りなんじゃないかしら」
池田から見た過去を呆然と聞く桜井
(…この人を悪くない、とは言えない。でも悪いとは言えない。盛岡さんも頑なになっていたとしても、きっと当時それぞれがそう選択してしまう関係だったんだ。…どこかでお互いの見たものや現状を報告しあえる関係性があれば、まだ変わったのかもしれない。いやそれも、理想……結果論か…)
以前あったやり取りを思い浮かべている様子の池田
<78話新幹線で出張していた時の『それは』のシーンの小さな続き>
「もし、足りないものがあるとしたらそれは…頼れる人を見つけることなんじゃないですか」
「頼れる…」
「川島さん達はどうですか、池田さんの後輩の。長い付き合いでしょう?」
「…彼らは彼らの業務があるわ。それに川島は一回休職を挟んで病み上がりなのに良く働いてるわ。彼を頼るわけには…」
「でも彼らはあなたの仕事ぶりをずっと見ている。上手く使えば部署内にも働きかけが出来ると思いますよ。」
「…それは……」
言われた言葉で、桜井の『評価』の参照元を把握する。
(長い付き合いなのは確かだけど、私は私、彼らは彼らでずっとただ仕事をしてきただけ…)
(でもこの人は、残った社員をうまく使えと言いたいのね。…そんな事、出来たらとっくにやってるわよ)
桜井の言わんとすることを察して表情が暗くなる池田。
「どうですか、私とちゃんと協力しあいませんか?」
「え……」
思いがけない言葉に伏せていた目を上げ桜井を見る。
真剣ながら苦笑いまじりの表情の桜井。
「池田さんには池田さんの考えがきっとあるでしょう。私には私の考えがあるように。だから、手を組みませんか。私も他人に厳しいタイプですが、妥協の仕方を知っている。でもどうせならもっとうまくやりたいんです。その為には池田さんが必要なんです」
そう言いながら手を差し出す桜井。その手をジッと見る池田。
そのまま黙って手を出し握手する。
握手をすると桜井が優しそうにニコリと計算高そうな笑みを深める。
それを見て池田は思う。
(こんな言い方されたら、『頼らざる得ない』じゃない)
口元で小さく笑みを作る。
<過去シーン終わり>
「前に出張で、他の社員の事を話してくれたでしょう?今更そんな…って思ったけれど、私はあの日から一人じゃないと感じられた。……"頼れる人"、ね。」
「…あの子にも、それが必要だったのにね」
言われて桜井が少し目を見開く
「過去を振り返れば、盛岡さんに頼ってもいけなかった。あの子は元々別部署の子で、移動後ずっと一生懸命だったから。本当は私がもっと、フォローしてあげるべきだったし、もっと声をあげて協力を得ることは、あの頃の私でも出来たかもしれなかったのに」
「…やめられた当時は少しは、恨みもしたけどね。大変だったんだから」
自嘲気味に言う池田
その言葉を聞いて、複雑そうに眉を寄せる桜井
それを見て更に付け足す
「もちろん、すぐにそんな考えをやめたわ。自業自得だったから」
ため息をつきながら
「……あの頃の自分を思い返すと、身勝手だけれど仕方ないと思っている部分もある。だから、何回考えても後悔はするけれど、そうなるべき物事にも感じてた…。私に出来るのは、昔と違って手放さず、目を光らせフォローするだけ。育つのは、待てばいつか育つと思って…」
言い終わると桜井を見てやれやれといった顔をして声のトーンをきりかえる
「私ばっかり喋って疲れちゃったわ。あなたの聞きたい事はこれで満足できたかしら?あと…」
一瞬迷う池田
「あの子に、私のことを言わないようにね」
「…それは…」
「言ったでしょう、開ききった溝は埋まらないんだから。私が謝って、あの子の気が晴れるならそれもいいでしょう。でもあなたも分かるでしょう?あの子のこと。また色々考えるわよ」
「そうでしょうね…」
もし話をしたら、と想像する桜井
動揺し、無理に笑い、自分を責めて離れていく森子の姿。
「そういえば、もしかして、前の物思いの相手は盛岡さんなの?」
不安な想像から引き戻されつつ驚く桜井
「えっ!?…とぉ…まぁ……はい」
照れながらも正直に答える桜井にフ、と笑い、扉へ向かおうと顔を向ける
「その顔、ほかの女子社員が見たら泣いちゃうわね」
言いながら会議室から出ていこうとする池田。
その背中に声をかける桜井。
「…扉を出たら、いつもの俺になりますよ。でも池田さんはそのまま出た方がいいですよ。あなたが思っているより周りの評価はいいんですから」
振り返らず「そう、…参考にするわ」と言い扉を閉める。
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「まじで雑用を先輩にさせるなんて!!」みたいな事を正義感たっぷりに叫んでいた後輩・吉田。
いつか池田側からの話を書くときにバラそうバラそうと思っていた裏側です。
私特有の話を途中で切って別シーンに差し込んでくるやつのお陰でゴチャついてますすみません。
池田は森子の事を後悔しているし、ずっと振る舞ってきた態度を今更変えられない…と心がストップをかけていて無表情に働き続けてました。
(元々の始まりは当人の厳しさ故ですが…)
池田→桜井への信頼があがって、この人があの子についてるなら安心なのかも…の笑みも混じりつつです。
桜井は仕事中ほどんど「私」と言うのでどっちがどっちかわかりにくいかもすみません。雰囲気雰囲気!
(最後の「俺」は素のやつです)
本編内で池田と森子が和解することはないですが、いつか二人で関係を築き直す事があるかもしれない…
最低限入れる話としての池田編?はこれが最後です。