最終回構想です。気に入っていただけるかわかりませんが、こういう雰囲気のもので行こうとしていたと思ってもらえれば…。
【この文章は最終回含む話の構想を簡単にテキスト化したものです。小説ではない為読みにくいですがよろしくお願いします。】
※池田編を読んでからお願いします。
色々あって、森子は藤本に頼んでコンビニバイトとかやってみたりするんですが、今の自分を変えるならやっぱり就職!と思っているタイミングからの話だと思ってください。(連載時リアル季節イベントに乗っかってしまいましたが、途中から多分時の流れをゆっくりにしたはずなので、藤本大学4年時と思ってください)
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新しいスーツが必要だと思い立って買いに行った出先、帰りの駅構内。
桜井と池田が仕事帰りに歩く姿をたまたま駅で見た森子。
和やかに話してる様子の二人を見て色々な意味でショックを受ける。
(なんで?どうして?どういう関係?知り合いなの?何を話しているの?)
スーツを着て並ぶ二人・小綺麗にしているけれどカジュアルな格好で新しく購入したスーツの入った袋を下げる森子。
放心しながら家に帰り、いつもの癖でPCに電源をいれ、いつも通り挨拶をする。
ギルメン一覧のリリィの文字はオフライン表示のまま。
ライラック・ヒメラルダと談笑をするも、画面の前の森子は少しも笑わない。
スーツの袋は中身を取り出されること無く部屋のテーブル横に立てかけられている。
リリィがログインする。いつも通りのやり取りが流れるゲーム内。
頭によぎる桜井と池田の姿。
リリィの姿を眺めながら、悲しい表情になっていく森子。
「林さん、お待たせしました!パーティーにお誘いしますね!」
いつも通りパーティー加入の招待が飛んできて、無言で受ける。
様子に気づかないリリィは林の横で狩り場にいく準備をしながら他愛ない日常を話し始める。
「今日、日帰りで朝から出張に行ってたんですけどそこで…」
仕事での事を話し出すリリィに目を見開く林。
その間もログは上がっていくけれど聞いておらず、不思議に思ったリリィが首を傾げる。
自分のログばかり埋まっているウインドウを見て「林さん?」と呼びかける。
(今日桜井さんを見ましたよ)(どなたかと歩いていましたね)(出張先の方ですか?それとも)
ただの相槌が浮かばず、素知らぬ顔をして聞くにはどうしたらいいのかと打っては消し打っては消しを繰り返す。
バックスペースを押すたびに、その事について質問をするのは止そう、様子を見ようと理性では考えていたものの、耐えきれず池田について聞いてしまう。
「……今日、駅で並んで歩いている姿を見ました」
え、と目を見開くリリィ、そして桜井。
見られた!?と駅を歩いていた時の周囲を思い出す。
動揺する桜井は何から説明したらいいか悩み、その間にまたログが上がる。
「……あの人は、なんて言っていましたか……」
困惑と悲しみが混じった疑惑の表情の林。
言葉が出ず、苦しげな表情で見つめ返すリリィ
なんと言っていたか、と言う前に説明が必要だと思った桜井は、まず自分の事から話す。
「……あの人は、俺の出向先の会社の…松風の、盛岡さんの所属していた課の現係長です。俺の務めている会社と合併する話が上がって、自分がその課の管理を担当する事になってそこからの縁で…」
「……いやっ、やっぱりいいです!すみません、変なことを言って!!」
「まってください!あの人は!」
リリィが止めようとするも、そのままログアウトする林。
桜井の画面に【パーティーが一人になった為解散しました】と出る。
スマホを取り出し、連絡帳を呼び出し森子の番号を表示させ電話をかけようとし、止める。
「いや…」と小さくつぶやきメールの画面を開き、自分の事、池田の事を入力していく。
入力をしながら、池田に言われた「あの子に、私のことを言わないようにね」「また色々考えるわよ」と言われた事を思い出す。
(最悪な形で伝える事になってしまった。俺が迂闊だったんだ。松風の会社の利用駅を盛岡さんが使う可能性だってあった。それに…)
手元のスマホを見下ろし、悲しく悔しげに顔を歪める桜井。
(俺は、盛岡さんを、傷つけてしまった…)
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<翌日>
<外は夕方近く>
一人で思考中毒に陥ってどんどん悪い方向に予想を立ててしまう森子は、桜井から送られてくる事情の説明をちゃんとしたい、と言うメールや心配をしている言葉も飲み込めなくなっていた。
ベッドに体をまるめながら横たわり、真っ暗なスマホを握っている
何もせずとも腹が減る自分に呆れながら、いつも曲がらない道を曲がる等して家から遠いコンビニに行き、帰り際に家の近所の公園のベンチに腰掛ける。(桜井と昔話した場所)
「藤本くんにも、迷惑かけちゃった…」
ぽつりとこぼし、藤本の『風邪は大丈夫ですか。シフトは心配しなくて良いからゆっくり休んでください。』という言葉の書かれたメールを思い浮かべる。
そしてその前後に重なる桜井から送られたメールの数々が視界に入る。
『池田さんが、申し訳なかったと…』
その文字を直視していられなくて目を強く閉じる森子
瞼の裏に浮かぶのは、恐ろしいと思っている時代の池田の顔や出来事のシーン
そして当時の森子が現れる。
(謝ったからって、何が変わるっていうの…!!)とスーツ姿の当時の森子が叫ぶ。
(私は忘れられない!仕事が上手く出来なかった時の言葉!意見が合わなかった時の蔑むような視線!)
(あなたは、私を守ってはくれなかったじゃない!!)
矢継ぎ早に飛び出してくる本音の叫びを言い終えると、当時の森子は顔を覆って泣き、消えていく。
現実の森子にもどり、閉じていた目をあけ、口を引き結んで涙を堪えるような表情。堪えるような顔をしているが、涙は出ていない。悔しさに近い顔。
もう一度桜井のくれたメールたちを開く。
どのメールのタイトルも「見れる時に見て欲しい」とついている。
その中の、池田について記載があって見るのをやめてしまったメールを開く。
『俺は盛岡さんが『林』さんである事を知る前から、盛岡さんの事を知っていました。盛岡さんの働いていた会社は、俺の働いている会社に吸収合併予定で、俺はあなたのいた部署の管理を任された立場の人間です。』
読みながらその様子を想像する森子
『あなたの頑張った証は、今も俺が管理しています。あなたの残してくれた数々のマニュアルや記録のお陰で、今自分は状況を把握する事が出来ています。』
「…私の作ったものが…」
スマホに指を滑らせて続きを読み進めていく。
『俺は、過去池田さんがあなたに言っただろう責めるような言葉や見放すような言葉を手放しに許せるとは思っていません。
そして盛岡さんがそれを許す必要はないと思っています。あなたの心を折ったのもまた、池田さんです。』
『ただ、あの人があなたのことを嫌っていた訳ではなく、余裕のなさや盛岡さんが知らないかもしれない事情含めてそうなっていた事と、今それを後悔しながら生きている事を、あなたが知っても良いと思いました』
『池田さんが、申し訳なかったと言っていました。』
ベンチに座りながらスマホを両手でもち小さく縮こまる森子。
昔倒れた時に血相を変えて駆けつけて来た池田を思い出す。
小さく聞こえてきた「ごめんなさい」の言葉
(ずっと思い出したくなかった。頑張っても上手く報われない日々。忙しさだけ増していって、心が軋む音を聞いても聞こえないように耳をふさいだ)
データ管理されていない書類の山のあるデスク。未処理のものとしてまとめられたファイルやトレーに囲まれて仕事をしている森子。
新人に付き合う時間分だけ作業が遅れ、連日の残業にただ追いかけられている。
時計が遅い時間を指しているのを見てため息をつく森子に声がかかる。
「まだやってるの?」と池田の声。
蔑んでいるのか、怒っているかのような不機嫌そうな顔をしながらデスクの上の半分を持って行く。
余裕の出来た机を見て、一瞬気が緩み安堵するも、元々池田が担当するはずだった業務と自分の業務をトレードしている事実に苛立ちがわいてしまう。
黙ってパソコンを打つ池田を盗み見ながら、(私じゃなかったら絶対辞めてるんだから…)と自分も手を動かす。
そんなシーンを思い出す森子。
「あの時、なんであんな時間に会社に居たんだろう…」
会社をやめる時、儀礼的な小さな送別会を開いてくれた。
これから頑張ってね、のメッセージカードに小さな花束。それを手渡される森子。
これが最後の愛想だからと、「ありがとうございます」と答える。
見送りの面々に池田の姿はない。だから、嫌われていると改めて確信した。
再びスマホに目を戻し、池田の謝罪のくだりを見る。
「申し訳、なかったのかな…」
目からポツリと涙が溢れる。
そしてリリィや桜井の顔を思い出す。
(桜井さんは、私のことを知る前も知った後も、ずっと優しかったな…)
眺めていたら新しくメールが届く、件名は他と同じように『見れる時に見て欲しい』とついている。
(たくさん謝っているメール、池田さんの事、……じゃあ、これは何があるの?他に…)
開くのを躊躇いながら、最後の一通をあける。
『会いたいです』
それだけ書かれたメールに、森子は切なげに目を見開く。
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<空はオレンジに染まっている>
一人で公園のベンチに座っている森子
「あれ、盛岡さん?」
公園の入り口の外の歩道から森子を見て立ち止まる藤本。(森子の代わりにシフトを入れて出勤しに行く途中の藤本)
横からかかった声にビクッと跳ねて、目の涙をさっと拭って立ち上がる森子。
駆け寄りながら「風邪…じゃーなさそうだな、サボりか~?」と冗談めかして言ってくる藤本。
弱々しく申し訳無さそうに頭を下げ、「……ごめんなさい……その…」と言い、なんて言おうか迷う森子。
それを見て、「別にいいよ、俺も時々シフト、他のやつに代わってもらうことあったりするし」と遮る。
藤本に言われて、森子は力なく笑う。
「桜井さんと何かあった?」と聞くと黙り込む森子。
その様子を見て「あー…」と把握したような様子で困った顔になる藤本
「なんていうか、言いたくないなら別に聞かないでおく事も出来るけどさ。そんな深刻?」
最近まで改善されていたはずのクマが、くっきりと浮かんでいるもりこの顔を見る。
言われて、右手に持っていたスマホをギュッと握りしめる。
「正直、よくわからなくなってます…」
自分の想定していた答えではない言葉に驚く藤本。
「喧嘩…じゃないんです。私の問題で…その…」
言いながら声が震えて、涙をぼろぼろと流す森子。
「…盛岡さん…」
「わたし、………っ」
嗚咽が漏れ、息がひきつって声がでない森子を抱きしめる藤本。背中を軽く叩き落ち着かせる。
「いいよ、無理して言わなくて…」
腕の中で驚く森子。
驚いて詰めた息が弱まり、ようやく小さく「ふ…ふじもとくん…?」と声を上げる。
「…俺は、盛岡さんが桜井さんの事結構好きだったのを分かってる。盛岡さんが頑張ってるのも知ってたし、桜井さんもあれはリリィだから、器用だけど不器用なヤツだって知ってる。」
「……あんたが劣等感を持って生きてるのも知ってる。だけど前向きだったじゃん、それじゃダメなのか?なんで急にこんな事になってるんだよ」
言いながら腕の力を込める
せつなそうな藤本の顔。
「俺だったらあんたを泣かせたりしないのに…」
抱きしめたまま言葉を続ける。
「なぁ、俺がアンタのこと好きって言ったら、信じるか?」
「えっ…」
驚きの声をあげる森子。
「桜井さんと、別に釣り合い取ろうとしなくていいじゃん。きっとあの人もそんなの気にしないだろうけど、俺相手の方がきっと気楽だぞ」
「あ、あの……藤本くん?」
「それとも年下だから嫌なのか?」
「そ、そういうことじゃ……」
涙がやや引っ込んで、顔を赤くしながら困った顔をする森子
「じょ…冗談はその…」
言われて腕をゆるめて体を離し、手を握り見つめる藤本
「冗談じゃないって言ったら?」
少し頬を赤くしながら、真剣な顔で言う。
顔を赤くしながら困った顔で、言葉を出せずにいる森子。
目を泳がせ、何かを考えるように目を伏せ、真剣に言葉を選ぼうとする。
頭に浮かぶのは桜井の顔。
「…ごめんなさい、私…」
「うん」
「私、好きな人がいて…」
「知ってる」
森子のか細い声に短く返事を繰り返す藤本。
先程までの真剣な顔から、困ったように微笑んでいる。
「「…………」」
沈黙を経て森子が少し落ち着いてやや困っている顔をしている。それを見てから、「っていう冗談!」と仕切り直すように声を上げ、繋いでいた手をパッと離す。
ぽかんとした顔で藤本を見つめる森子。
それを見て笑う藤本。
「俺は、桜井さんとアンタの間に何があったかなんて詳しく知らないし想像しかしてないけど、アンタがまだそれを言えるなら安心した。俺は『林』とも『リリィ』とも友達だと思ってるから、二人が仲直りしてくれるのが一番嬉しいと思ってる」
ネトゲ内の色々を思い出す。三人で笑いながら遊んでいる風景
リリィと林で座ったお気に入りの木の上
泣きそうな顔で、少し笑う森子。
「…うん。」
「ちゃんと話し合えよ」
「……本当、カンベさんって感じ……」
「そりゃ、俺がカンベだからな」
頭を下げて藤本と別れて帰路につく森子。
見送る藤本の耳が赤くなっている。
「慣れない冗談なんて、言うもんじゃないな…」
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<空がオレンジから紫に変わっていく>
歩きながらスマホを開き、桜井からのメールに返信をする。
『私も会いたいです』
勢いで返せるうちに返す森子。少し決意を固めたような顔。
返事を送るとすぐに電話がかかってくる。
すぐ話すことになるとは思っていなかった森子は着信にビビる。
(待って、どうしよう!出て何か喋れるの!?)
着信画面を見つめて迷うも、音はなり続ける。
桜井優太の文字を見て、覚悟を決めて出る。
「あの…」
「っ…盛岡さん!あの…本当に、すみませんでした」
「その、いえ、私こそ…。桜井さんは何も悪くなくて…」
「いや、俺が悪いんです」
(どうしたらこの気持ちを伝えられるんだろう)と、お互い電話口で眉を下げて悩む。
元気づけたい桜井、お礼を言いたい森子
言葉を出せない無言の間、一台だけ車が横を通りエンジンの音が鳴って通り過ぎる。
一人で座って泣いていた時の事が頭に浮かぶ。
(桜井さんは黙っていた、でもそれは私のためだった。桜井さんは何を聞いて、何を思ってこのメールをくれたんだろう…)
桜井との事を思い出していくうちに、雨宿りの時の会話を思い出す。
(『周り』もきっと評価してくれているはず、と言ってた。あの頃にはもう、『何か』を聞いていたんだ…。)
知りながら励ましてくれている桜井の事を考えて胸が苦しくなる。
「…桜井さんは、どうしてこんなに、優しいんですか…?」
スマホを耳に当てたまま立ち止まり、うつむく森子。
足元に涙の跡がポツポツとおちる。
見下ろした靴が涙で歪んでいく。
「私は桜井さんに助けられてばかりで、今もこんなに……」
「その度に、ホントは、ずっと…」
震える声を抑えられないままポツリポツリと言葉を漏らす。
「盛岡さん!」
電話口とリアルで同時に声がする。顔を上げるとスマホを耳に当てながら駆け寄り、息を切らしている桜井。
仕事帰りのスーツの格好でカバンも持っている。
「よ…よかった…見つけられて…なんとなく、こっちかなって…」
「さくらいさん…!?」
スマホをしまい、ほっとするように息を整える桜井。
驚く森子
「後ろで車の音が聞こえたから、外なんだってすぐ気づいて…」
「さ、桜井さん…どうして…」
そう言われて、少し泣きそうな顔で笑い答える桜井。
「すみません、返事がなくても…会いたいと思ってたから…。」
その言葉にリリィが重なって見え、再びぽろぽろと涙が流れる。
「…わたしも…」
かすれ声で答える森子の顔が泣き顔で大きく歪む。
それを見て桜井が抱きしめる。
ホッとしながら桜井が言う。
「……会えて、良かった……」
森子をぎゅうと抱きしめながら、頭を撫で、安堵する声を漏らす。
森子は桜井の胸の中で小さく「嫌いになるわけないです…」とつぶやく。
森子がまたポツリとこぼす。
「池田さんと、歩いてるのがショックだったんです」
「池田さんとの思い出も勿論あるけど、最初に思ったのは…どういう関係なの?って…」
抱きしめられながら頭を胸に預け、顔を赤くして、切ない顔をする森子。
頭に浮かぶのはスーツ姿の二人。
「すごく…お似合いで…、私、そんな風に横で歩けないって…」
「池田さんからきっと何か聞いてるはずで、私、嫌われちゃうんだって…」
「ちゃんと…メールの中身も読んだから、ちゃんと分かってるのに、桜井さんはずっと優しかったのに、優しいからこんな私に付き合ってくれてるだけで、本当はどう思ってたんだろうって気になっちゃって…」
抱きしめられながら桜井のシャツをぎゅっと握りしめる森子。
「…あの…」
おずおずとした様子の声が上から降ってくる。
見上げると困ったような表情で顔を真っ赤にした桜井。
「それは…嫉妬してしまった…って事ですか…?」
「し…っ…と…」
ぽかんと復唱した後一気に慌てる森子
「あの!!!その!!!!嫉妬というか!!!っていうか、あっ!!!その!!!…っこれ…っ」
掴んでしまっていた服を離して桜井から距離をあけようとする森子。
逃がすまいと腕に力を込める。
「さくらいさん!?」
慌てる森子を、赤面しつつ拗ねた表情で見つめる桜井。
「…いま逃したら、また友達にされそうな気がして……」
その言葉に「ひぇ…」とのぼせた悲鳴があがる。
「…盛岡さんは、俺の気持ちわからないんですか?」
「きも…ち…」
期待を薄くにじませた瞳で桜井を見る森子
「俺は、盛岡さんに良い友達でいようと言われた時、嬉しかったけど切なかったです」
「気持ちを自覚してから思い出す、社会人時代の盛岡さんと小岩井さんの話も、こんな事を言ってはいけないかもしれませんが羨ましかった。俺がその役になれたなら良かったのにって」
「最近は藤本くんまで、盛岡さんをバイトに誘って連れ出してた。…俺だって、盛岡さんの最初の一歩を手伝えるなら手伝いたかった」
「俺が堂々と居られる場所は、林さんの隣ばかりで、それも嬉しかったけど……」
「……盛岡さんの隣にいたかったから、皆が羨ましかった」
切なそうに目を細めて語る桜井。
それを聞いて顔を赤くしながら、どこか遠くの世界の話を聞いているような顔をする森子。
外の時間がゆっくりと流れているように静かだけれど心臓が高鳴っている。
「……私、桜井さんが、そんな風に思ってるだなんて……」
言いながら、また涙が流れてくる
涙を拭うために桜井が片手をあげる。片腕があがって回した腕も添えられるだけになっているけれど森子は動かず、その指が涙を拭うまでジッと桜井を見つめている。
「…俺は、盛岡さんが好きです。俺だけの盛岡さんになってくれませんか?」
心臓が大きく鳴り、桜井の言葉を受けて目を大きく開いていく森子。
まだユキとハースだった頃、そして今のゲームを始めた時。
相方になってくれないかと言われた日を思い出す。
『あの日からずっと恋していた。画面の向こうのあの人が居たから、私はネトゲが大好きだった。』
一番恋をしている顔で「…はい…っ」と返事をする。
聞いて再び、桜井が嬉しさでぎゅうぎゅう抱きしめる。
「盛岡さん、嘘じゃないんですか。これ俺の夢じゃないんですか?」
「う…嘘じゃないです、夢でもないと…思います…多分…」
胸元に顔を押し付けられながらもごもごと返事をする森子。
桜井の心臓がうるさく鳴っているのに気づいて、自分と同じなんだと気づく。
おずおずと森子からも背中に手を回し抱き返す。
そうすると桜井の心臓がまた大きく跳ね、気づいた森子は思わず「ふふ‥」と笑ってしまう。
「どうしよう…色々悩んでたのに、全部飛んじゃった…」
言われて腕を緩めて森子の顔を伺う。
「あ……す、すみません、盛岡さんが大変な時に俺、つい…」
顔を赤くしながら穏やかに笑う森子。少し落ち着きのない様子で眉を下げている桜井。
森子が顔を横にふる。
「いえ…桜井さんのお陰で、私ちゃんと頑張れそうです」
そう言いながら笑顔を作る森子。
それを見てやや破顔する桜井。
「!…盛岡さんには、俺がずっと付いてますから!」
一瞬安心し、くだけた空気になる。
桜井が周囲を一瞬見渡し、人が居ないのを確認する。
そしてジッと森子を見つめる。お互い少し熱っぽい顔。
「……あの、キス、してみても、いいですか……」
「え…ええ…!?!?」
突然の申し出にメチャクチャビビる森子。
それをみて「や、やっぱりいいです!すみません!なんか気持ちが溢れちゃって!!」と赤面しながら訂正する。
そんな桜井を見て驚きながら、自分でも周囲をチラ、チラ…と見る。人通りの少ないアパート側の道、誰も歩いていない。
遠くに面する大通りの光は明るいが、そこから車が入ってくることはない。
(…恥ずかしいけど、桜井さんがしたいなら…)
少し悩みながら、桜井の望みを叶えてあげたい森子が恥ずかしそうに桜井を見つめる。
「しま…す…?」
両手をギュッと胸の前で握って目を閉じる森子。
森子の頬に手を添える桜井。
緊張して両肩が上がるほどガチガチになっている森子を見て、桜井は困ったように笑う。
目を閉じている森子はいつかくるキスを、自分のうるさい心音を聞きながら待つ。
(待って!いつ来るの!わかんない!!いつくるの!!?なんか違うのかな!?)
すると額にキスが降りてきて驚く。
「えっ―…」
驚いて目を開いた森子の不意をつくように、軽く唇にキスを落とす桜井。
そして顔を離し、いつもの穏やかそうな、でも照れたような顔をしながら笑う。
「…ちゃんとしたのは、後日貰います」
「ごじつ…!?」
顔を赤くしたまま、わずかに感触が残る唇に触れる森子。
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時が流れて、ゲーム内
カンベ・ぽこたろう・ヒメラルダ・ライラック・リリィが並んでギルドチャットで会話している。
ヒメ「林くん、今日面接に行ってるんだっけ?」
ぽこ「緊張しいなイメージあるけど、いい子だからうまくいくと良いよね~」
カンベ「ま、ダメなら受かるまで頑張るしかないだろ」
ライ「ここはきっと上手くいく!って言う所でしょ!……駄目だったらどうしよ……」
ぽこ「そう言うこと言わない!大丈夫だよきっと……たぶん」
ニコ「仕事もガチャみたいなもんだから、どうかな~~」
リリィ「……絶対大丈夫です!!林さんは、立派な人なんですから!!!」
林のログインの通知
一同「!おかえり!!おつかれ!!どうだった!?」
林「自分なりに頑張ってきました!期待はしてます!けど…結果は後日らしいので、それまでは…もう何も考えないでいたいですね」
ライ「わかる~~~」
カンベ「…よし!みんな集まったし、新実装のギルドレイドに行くぞ!!!」
一同「お~~!!!!」
ギルドメンバーたちと目的地に向かって歩いていく。
リリィから個人チャットが飛んでくる
「森子さん、今日のご飯の予定はもう決まってますか?」
ドキッとする森子。(面接帰りの為、髪はまとめていて身綺麗、スーツを脱いだワイシャツにスカート姿)
「今日は頑張ったご褒美として、美味しいものを振る舞いますよ。いかがですか?」
「ぜひ!!」
「じゃあ、レイドが終わって解散したら、迎えに行きますね」
そう言ってぴょんぴょんと跳ねながら槍と盾を持ち先へ走っていくリリィ。
誘いの余韻に浸るように背もたれに背中を預けながら、キーボードに置いていた左手を持ち上げ、薬指に嵌っている婚約指輪を見る。
満足そうに眺めながら「へへ」とゆるい顔になり、笑い声が漏れる。
姿勢を正して手をキーボードへ戻し、「よし、…頑張るぞ!」と気合を入れる森子の後ろ姿
終わり。
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その後、
再就職できる
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結婚する。
本編の終わりを結婚にしたくなかった。ゲームをしながら手に入れた色々な物のお陰で前向きになって、前よりちょっと良い『ネト充生活』になったって終わりにしたかった。(でも婚約はさせたかった矛盾)
人によっては「えー!」となるかもしれません。
森子が折れてる状態でも立ち直った状態でも桜井は森子のことが好きで、森子もこの先は桜井が一緒にいるからきっと大丈夫で、それを描くと逆に収まりが悪いと思った次第です。
もし理想の『最終回のその先』があったら、是非皆様の心のなかで想像してください。
この作品を見て元気になったと言ってもらえてとても嬉しかった。
この作品を見てキュンキュンしていたと言ってもらえて嬉しかった。
物語やキャラクターについての裏設定を、質問が飛んできた分がほとんどですが別記事で掲載しております。内容が思っていたものの違う、知りたくない!と言う方は閲覧しないよう気をつけてください。
皆様の中でこの作品がずっと続いていきますように。