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「しょせん週刊誌レベルの話だろって」事務所への忖度ではない…新聞が「ジャニーズ性加害」を報じなかった理由とは

文春オンライン / 2023年7月11日 6時0分

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ジャニー喜多川氏 ©Getty

 私の嫌いな言葉に「文春砲」がある。先日出演した番組でそんなコメントをしました。文春砲といちいち騒がれるのは他が報じていないという裏返しでもあると思うからです。

 あと文春は別に正義の味方でもなんでもない。私は週刊誌は「猟犬」だと考えている。猟犬は政治ネタだろうが芸能人の不倫ネタだろうが目の前にあれば獲ってくるのが性(さが)。スキャンダリズムが得意で刺激と下世話にあふれる。

 だから目の前に出されて問われるのは読み手側。そんなことを話しました。

新聞は「なぜ報じなかったのか」

 さて、文春独走案件と言えばジャニー喜多川氏の性暴力問題がある。文春が20年以上報じてきた問題だが今年イギリスのBBCが番組で報じたり、被害者が外国特派員協会で会見してからテレビや新聞も報じるようになった。

 となると新聞好きな私は「なぜ報道しなかったのか」という理由を読者として知りたくなった。ジャニーズ事務所に対する忖度があったのか、それとも別の理由があったのか?

 すると先週の毎日新聞夕刊に、

『これだけは言いたい 記者たちよタブーを作るな 読売新聞東京本社元社長・滝鼻卓雄さん 83歳』(7月7日)

 というコラムがあった。書いた毎日新聞の記者は定期的に滝鼻氏に会っているらしい。すると今回はジャニーズの性加害問題について「もっと早く大手メディアが取り上げるべきだったよな」と口にしたという。

 当時、読売の編集主幹だった滝鼻氏には記事化の可否の相談はなかったという。それは忖度ではなく、

「しょせん週刊誌レベルの話だろ、芸能ネタだろ、被害者は女性じゃないだろ、って軽くみる風潮が記者にあったと思う」

朝日新聞論説委員の見解は

 これに似た言葉を思い出した。5月の朝日新聞論説委員のコラムである。

『ジャニーズ性加害問題 新聞に欠けていたものは 田玉恵美』(5月27日)

《朝日新聞が本格的に報じたのは、被害を訴える男性が顔を出して実名で記者会見をした4月になってからだ。なぜ見過ごしてきたのか。自分なりに考えてみたい》

と始まるコラムは、

・この「セクハラ」が性暴力で、深刻な人権侵害にあたるとの認識が欠落していたことだ。女性への性暴力を精力的に取材していた記者でも「男性が被害者になりうるという感覚を持てていなかった」という。

・この疑惑は週刊誌が得意とする「芸能界のゴシップ」であり、新聞が扱う題材ではないと頭ごなしに考えてしまったのではないかと省みる人も多かった。

 などいくつか理由を挙げていた。

「たかだか週刊誌の記事だろ」という新聞社の意識を挙げていたのは、読売元社長の見解と同じで興味深かった。やはり新聞社の人は週刊誌を下に見ていたんだなぁ。答え合わせができた2つの記事だった。

「忖度はなかった」と主張

 あと朝日論説委員は《少なくとも私が知る限り、朝日新聞の取材現場がジャニーズに忖度しなければならない理由はないように思う。実際、真相を探ろうと取材した同僚もいた》とも書いていた。

 読売新聞の元社長も朝日新聞の論説委員も、忖度はなかったと主張してる点で同じ。しかしそれは「下世話な週刊誌」に新聞が取材力で負けたということでもある。

 ちゃんと言っておくとゴシップとか都市伝説扱いにしていたのは読者(私)もそうだった。だから一方的にやーい、やーいと糾弾するつもりはない。

 ただ、ここ数年で #MeToo運動が起き、ハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの過去の性的暴行が報道されたとき、日本の新聞記者はジャニーズ問題に「なぜ目を付けなかったのか」は単純に知りたいのである。

 さらに言えば「なぜ報道しなかったか」だけでなく「これからどう報道するのか」が現在の重要な点だと思う。

聞こえてこない「現場の記者の声」

 朝日新聞は6月29日に『長年報じず、新聞・テレビに批判 ジャニーズ性加害問題』という記事で、

「批判受け止め、報道を続けます」 (朝日新聞ゼネラルエディター兼東京本社編集局長・野村周)

 という文章を載せていた。

《性加害、とりわけ男性への性加害という問題に対する認識が不足していたことなどが根底にあったと思います》

 と書いていた。しかし読みたいのはエラい人の「思います」ではなく現場の記者たちの声や振り返りである。

 その代わりなのか、朝日新聞は6月10日のオピニオン欄に中村竜太郎氏を登場させていた。ジャニーズ問題をずっと追ってきたジャーナリストでBBCの番組にも出演した人だ。朝日新聞は5月22日にも『ジャニーズ性暴力疑惑とメディア 元文春記者に聞く、23年間の絶望』という中村氏のインタビュー記事をデジタル版で配信していた。

問題の検証は「外部発注」

 ここで疑問なのは、朝日新聞はジャニーズ問題の検証を「外部発注」にズラしているようにも見えることだ。重要なのはこの20年だけではない。この数カ月だけでもそう。朝日新聞は4月に被害者が記者会見で証言した際に社説で、

《メディアの取材や報道が十分だったのか。こちらも自戒し、今後の教訓としなければならない》(4月15日)

 と書いていたのだが、そのあと記者による検証企画は今もない。この数カ月間のことだけでも知りたいのに。それとも論説委員の個人コラムで「はい、一丁上がり」なのだろうか? するとその論説委員は最新のコラムでこう書いていた。

『ジャニーズ問題 テレビ局、今回も「放置」なのか 田玉恵美』(7月8日)

「私だって釈然としてませんよ。でもどうしようもなくて、嵐が過ぎ去るのを待っている」

「広告主も動いていないし、視聴者も今まで通りタレントを見たい人のほうが多い。事実関係もわからないし、行動に出る理由がない」

 というテレビ局幹部らの言葉を載せていた。ラストは、

《今は騒ぎになっているが、そのうち視聴者も気にしなくなるだろう――。そんなふうに見くびられたまま、ジャニーズ問題も「過去のこと」にされていくのだろうか。》

 読者を見くびらないで欲しい。朝日新聞だって記者による検証はまだ始まっちゃいない。そうやって「過去のこと」にされていくのだろうか。

(プチ鹿島)

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