チェックの対象に恣意性と偏向はないか?
なぜ、東京電力福島第一原子力発電所事故のフェイクニュースに関するファクトチェックはここまで少ないのか。その理由には、政治的党派性が関係しているのではないか。
たとえば2019/11/19~2022/11/18の3年間を対象にツイッター上で「汚染水」をキーワードとして検索し、「汚染水が海洋放出される」かのようなフェイクニュースをツイートした認証アカウントの統計を見ると、日本共産党、社民党、立憲民主党、れいわ新選組、朝日新聞、東京新聞、中国共産党などが中心勢力であることが明らかになっている。
処理水に関するフェイクニュースの検証は、必然的にこれらの勢力にとって不利な結果をもたらす。
フェイクニュースを主題とした書籍も確認してみよう。
たとえば2021年に出版された『フェイクニュースの生態系』(藤代裕之・編著 青弓社)では、書中で『アノニマスポスト』『もえるあじあ』『政経ワロスまとめニュース♪』などの保守系匿名まとめサイトによる立憲民主党や同党所属の辻元清美議員、在日外国人に対するフェイクニュース、あるいは「保守系セクター」「右翼系セクター」「嫌韓アジェンダ」「反リベラル市民アジェンダ」「ビジネス保守クラスタ」などによるフェイクニュース、沖縄県知事選挙にまつわるフェイクニュースなどを積極的に取り上げていた。
その一方で、東電原発事故に関連したフェイクニュースの例示と言及は確認できなかった。
佐藤卓己『流言のメディア史』では、わずかに原発事故風評への言及が見られたが、その内容は巻末近くで「風評被害というフレーミング」というサブタイトルと共に、2014年に起こった「美味しんぼ鼻血騒動」に触れつつ、「放射線被曝に対する健康不安がもっぱら風評被害の枠組みで語られたことに問題はなかっただろうか」と問題提起しているのみだ。
しかも、〈放射能を恐れて農水産物の購入をためらう行為に『非合理的』かつ『加害的』に意味が付与されてしまう〉〈『風評』には、あらかじめ無根拠、有害という印象が与えられている。私たちはふつう『根拠のある風評』とは言わない〉と書く。
これでは、あたかも「福島県産品を避けるのは当然」であるかのような言い様ではないか。