誰がファクトチェックの妥当性を検証するのか
その一方で、「InFact」の他の記事には強い疑問もある。
たとえば、《「米兵のトモダチは高線量で被ばくしていた」フクシマ第一原発事故プロジェクト第2弾》などは最たるものだ。
記事は2018年10月にもなって震災当初に使われた片仮名表記の「フクシマ」表記を敢えて用いた上で、「(東日本大震災発生時に)トモダチ作戦として被災住民の救助にあたっていたアメリカ軍の空母が当時、極めて高い放射線を浴びていたことがわかった」と断言する。
「極めて高い放射線」とは具体的にどの程度か。同記事では被災者の救助活動に参加していたアメリカ海軍の原子力空母ロナルド・レーガンを取り上げ、次のように書く。
〈 事故発生翌日の3月12日に計測されている。その数値を見てみたい。
午後4時00分 3マイクロシーベルト/時
午後4時45分 9マイクロシーベルト/時
午後6時00分 6マイクロシーベルト/時
日本政府が被ばくの許容量としている0.23マイクロシーベルト/時を遥かに超える高い数値となっている。最初の値で10倍以上、次の値にいたっては約40倍という高い値だ。
最初から2時間後に計測した値は少し落ちるが、それでも許容量の20倍以上の値となっている。これはつまり、少なくとも数時間にわたって乗組員が高い値で被ばくしていたことをあらわしている 〉
0.23マイクロシーベルト/時というのは、一般人が1年間をその場で暮らすことを想定し年間追加被ばく線量1ミリシーベルト(=1000マイクロシーベルト)を超えないようにするため設けられた数値だ。
しかも、「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト(mSv)」は、健康に関する「安全」と「危険」の境界を示すものでは全くない。
国際放射線防護委員会(ICRP)では、大人も子供も含めた集団では100ミリシーベルト当たり0.5%がん死亡の確率が増加すると言われるが、それ以下の被曝線量ではリスクが低すぎて他の要素に埋もれてしまうため、放射線の影響を断定できない。
そうした中で、ICRPは2007年の勧告で職業人の被曝線量限度を50mSv/年かつ100mSv/5年に設定している。
仮にロナルド・レーガンで計測された最も高い数値9マイクロシーベルト/時で計算しても、職業人として平時から許容されている50mSvの被曝まで5555時間以上、実に231日以上を過ごす必要がある。
当然、健康リスクに繋がるためにはその倍以上の被曝が必要になる。これを「約40倍という高い値」「極めて高い放射線を浴びていた」と断言する記述は適切だろうか。