都市伝説は君のそばに

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元号と西暦問題、みんな過去と未来のこと考えすぎだから今年、来年、去年、だけでいいのではないかと思う。それ以外はずっと前かずっと後でいいよ、もう


さて、都市伝説というものに目がない。


古くは「口裂け女」などに代表される、口頭で伝えられる噂話や伝承の一種で、早い話が口コミだ。

人から人に伝えられる情報、そういった意味では食べログとあまり変わらないのかもしれない。


都市伝説という単語は・・・めんどくさいので省略しますね。


まぁとにかく、インターネットが存在しない時代、人々の情報はテレビか新聞、そして伝聞であった。

一方的に垂れ流されるメディアの情報と違い、伝聞は伝える側と伝えられる側、双方の意思が介在する。

何らかの意図があって情報が伝えられるわけだ。

そういった意図を持った情報の伝搬、その集大成が「都市伝説」なのである。

つまり、蔓延するこれらの情報は必ず何らかの意図があるわけだ。

そう考えるとなかなか興味深い。


例えば代表的な「口裂け女」なんてのは、遅くまで遊んでいるとそういった恐怖が襲来してくるという子供たちへの警告みたいな意図が容易に想像できるし、伝播の過程においても「怖がらせてやろう」という意図が確実に読み取れる。


「○○公園に恋人同士でいくと別れるから行ってはいけない」なんていうほのかな都市伝説も、その、あれですね、言いにくいですけど、けっこうモテない人のやっかみみたいな意図があったはずなんですよ。

もしくは浮気している男がいて、女の方は遊ばれてるってことに気付いてなくて、有名なデートスポットに行こう行こうと言ってて、でも男はそんなところ行ったらバレちまう、行けない理由を考えないと、そうだ、行ったら別れるって噂があることにしちまおう。


「なんかさ、○○に好きな人といくと別れるって都市伝説があるらしい。おれ、佐和子と別れたくないよ、行きたくない」

「ジュンクン・・・」


こんな意図があるのかもしれません。


こういった都市伝説の伝播は間違いなく意図が介在するのですが、その中でも最も大きいものが「おもしろいから」なわけなのです。

こういった嘘が出回ったら面白いだろう、これに右往左往する人を見て楽しもう、そんな愉快犯的意図が最も多いわけなのです。


もう随分と昔の話で、まだ職場に山本さんという後輩が勤務していた頃の話なのですが、意気揚々と職場へと出勤すると、職場のおバカ・・・いえ、ムードメーカーの山本さんがすごい発狂してました。


彼女は都市伝説マニアというかそういった噂話に敏感に反応するタイプの女性で、勝手に心の中で「都市伝説ホラ吹き魔」と呼んでいたのですが、志村けん死亡説みたいな都市伝説が流れた時は8時だよ全員集合の全集を見ながら勝手に追悼したタイプの女性でした。

そんな彼女が、またもや入手した都市伝説を手に大騒ぎしていたのです。


「いま、関西から当たり屋グループがこの地区に来ているみたい。気を付けて!」


車なんかがわざと当たってきて賠償しろと金品を要求してくる当たり屋、それを組織的にやっているグループがこの地方に攻めてきた、みたいな内容でした。


実はこれ、田舎町では定期的に流れる噂話で、完全に都市伝説の類なのですが、なぜかいつ流れてきてもこの噂は「関西の当たり屋グループ」なんですね。

関西人にはそういう気質がありそう、というイメージなのでしょうか。


「気を付けて!これが私が入手した当たり屋グループの車のナンバー。これを見かけたら注意だよ」


この都市伝説の怖いところは、いつも複数台の車のナンバーが当たり屋グループのナンバーとしてセットで回ってくることです。

これがあることでまるで本当のことのようなイメージが出てくるのです。


「今回の当たり屋グループは悪質で、土地とか全部取られてしまった人もいるみたい」


バ・・・山本さんがナンバーの一覧を解説してくれます。

一覧に並ぶ車のナンバーは「なにわ」ナンバーとかが列記されていて、こういっちゃなんですがいかにも本当っぽい。

なんやこらー!とか言いながら金品を要求してきそう。

なんだかなーって思いながらずらーっとナンバーを眺めていると、一覧の最後にとんでもないものが。


なんてことはない、普通のナンバーなんですけど、どこかで見覚えがあるような、どこかで見たような、つい最近も見たことあるようなナンバーがそこに記されているのです。


まさか、本物?


こういった噂話は眉唾物と決めてかかっていましたが、見覚えのあるナンバーがあることで急に信憑性が増してきました。

まさか、このリストは本物なのだろうか。

それにしても、このナンバー、見覚えがありすぎる。

どこかでみた、絶対見た。このナンバー。


って、これわたしのナンバーじゃねえか。


そういえば、数日前に、職場のみんなでバーベキューに行くとか何とかで、車を出せる人、みたいな募集があって、わたしも車を出すことになったのです。

で、集合場所で分かりやすいように車のナンバーを申告したのですが、どうやらその申告したナンバーを山本がメモし、色々やっているうちに当たり屋グループの噂を聞いて急いでナンバーをメモしたんでしょうね。

で、リストにわたしのナンバーが混じってしまった。


「あの、これ、わたしの」


と言いかけたんですけど、山本は発狂してて


「もう私怖くて怖くて、思いつく限りの知り合いにリストまわした!区役所にも言ったし、警察にも言ったよ!」


と大発奮。


「あの、このリスト」

「この中には事故した後に目が見えなくなったと言って法外な値段を請求してくるボス格の当たり屋がいるらしい。そいつは本当に要注意ね」


と完全にリミットブレイクした状態だったので言っても無駄だろうと思い、そのまま業務開始となりました。

仕事も終わり、さあて、帰ろうかなと駐車場に向かうと、件の山本さんの姿が見えました。


「あ、お疲れさま」

「あ、お疲れさま」


互いに労いの言葉を掛け合い、山本は軽自動車に乗り込みます。

わたしも自分の車に乗り込もうとすると、山本が思い出したかのように話しかけてきます。


「あの、当たり屋には本当に気を付けてね。なんならもう一度ナンバーのリストを見て」


と言いかけて、何かに気付いたのです。
 
そう、リストにあるナンバーとわたしのナンバーが同じということに。


「あ、ちょうどよかった、あのリストなんだけど・・・」


わたしがそう言いかけたところで彼女は叫びました。


「当たり屋ーーー!」


なんでやねん、このおバカ。


結局、何度か説明し、おそらくわたしのナンバーをメモした紙の上にさらに追加で当たり屋のナンバーをもメモしたらしい、ということで理解してもらえたのですが、もう山本がかなりナンバーリストを回した後だったので、しばらくはわたし、関西から来た大物の当たり屋グループってことになってました。


噂や伝聞、というものはそこに何かしらの意図が存在します。
 
むしろ、意図の存在しない情報は存在しません。

噂話を広めるときは、その裏にある意図を読み取り、これは誰かの悪意などの手助けをしてるのではないか、誰かを困らせないか、一度そう考える必要があるのです。

昔と違い、簡単に情報が伝わる現代だからこそ、そこに注意しなくてはならないのです。


ちなみに、いつの間にか関西の当たり屋グループの一員となっていたわたしの車のナンバーですが、いつの間にか尾ひれがついて、その地方のナンバーをつけて偽装する、ボス格ってことになってて、目がないと主張してくる最重要危険当たり屋、として何回か通報されたらしくパトカーに停められました。


都市伝説には目がないと冒頭で言いましたが、まさか都政伝説で目がないことにされるとは。
 
困ったものです。