復讐。 

人を呪わば穴二つ、などという言葉があります。
これは呪いなどを行う呪術師が、呪い返しで自らの命も落とすことを考慮し、対象者のものと自分のもの、二つの墓穴を用意させたことに由来します。 

人を憎み、安易に復讐などを企てる時はそれなりの覚悟が必要だということをほのかに伝え、わたしたちを戒めてくれるありがたい言葉なのです。
「復讐」「倍返し」「リベンジポルノ」そんな言葉が安易に氾濫する昨今、 ここでもう一度冷静に考えてみましょう。
「復讐」とは一体なんなのか。 

wikipediaによりますと「一般にひどい仕打ちを受けた者が相手に対して行うやり返す攻撃行動の総称である」とあります。
やられたらやりかえす、そんな精神に基づく行動であり、プラスマイナスゼロ、とても合理的な行動である印象を受けます。 

ストレスフルな現代社会。
様々な要素があなたに襲いかかり、その繊細な精神を苦しめることでしょう。
その時、もしかしたらあなたは決意してしまうかもしれません。
そう、復讐を決意する要因はあちらこちらに転がっているものです。 

例えば、仕事上のミスの責任をライバルになすりつけられたり。 

例えば、職場の派閥争いに敗れ、閑職に追いやられたり。 

例えば、職場の全員が参加する秋の行楽栗拾いツアーに自分だけ誘われなかったり。しょっく。 

例えば、爽やかな感じで優しく接してくれていて「そうだねぇ」とか返事も素直で穏やかな大学時代のゼミ友(まぁN氏なんだが)のツイッターアカウントを発見してしまい、読んでみると「あいつ、寺みたいな匂いがする」と日課のごとくわたしの悪口を書かれまくっていたり。
ひどい、なんだよ寺の匂いって。 

とにかく、復讐とは様々な場面で決意しうるものなのです。
人の心はそう強く頑強にはできていませんから、必ずどこかで吐き出さなければなりません。
そう、復讐もその一つの可能性なのです。
わたしも…アイツらに…復讐…したい…! 

と、本当に復讐を決行した場合、どのようなことが起こるのか考えてみましょう。
まずはじめに考えられるのが、復讐は新たな復讐を生むということです。 

他者に復讐を行った場合、自分もまた復讐の的になることを危惧しなければなりません。
復讐を受けた人はあなたに対して恨みを持つからです。
復讐するならば復讐される覚悟が必要なのです。 

◆復讐代行サイトという存在 

掃除、洗濯、料理、家事全般を代行してくれるサービスは数多く存在します。
基本的にはちょっと面倒だなあ、って思いがちな行為をお金を払うことで代わりにやってもらうサービスなのです。 

そんな様々な代行サービスに混じって、もちろん「復讐代行」なるサービスも存在します。
試しに「復讐」で検索してみると、まあ、出るわ出るわ、中には「今日はミキちゃんと一緒に国際コミュニケーションの講義受けました。難しくてわかんな~い、でもしっかり単位とるぞって決意しました。家に帰ったらきっちり今日やったとこ復讐するぞ~」って間違えている感じの女子大生のブログがヒットしたり、そのコメント欄に「マナミちゃん偉いね、頑張って単位とってください。外を見てごらん、月が綺麗だよ。一緒の月を見ているんだよ、ロマンティックだね」って気持ち悪いコメントをつけてるオッサンを発見したりと、この辺はビックリするくらい全然関係なかったですね。 

とにかく、まず驚くのは「復讐代行サイト」なる聞きなれない単語。
どうやら調べてみると読んで字の如く依頼をすれば復讐を代行してくれるサイトらしいです。 

あいつムカつくから復讐してやろう!でも、面倒だし自分の手を汚したくはない。
それにもし復讐したのが自分だってバレたらこっちも復讐を受けてしまうかもしれない。 

そんな気持ちの時に頼もしい味方、復讐代行サイト、あなたに成り代わって復讐します!こんなノリなのかもしれない。 

そう、時代はインターネット戦国時代。
便利さを追求した人類はついに「復讐」すらもアウトソーシングする時代になったのだ。
現代人は人を呪うのにも復讐するのにも穴を二つ掘らない。
マウスでポンッとクリックするだけなのだ。
そこに覚悟はあるのだろうか。
それは復讐と呼べるのだろうか。
興味が尽きない。 

もしかしたらここには、現代社会が抱える病理が潜んでいるかもしれない。

ということで、苦労して探しましたよ。
復讐代行サイトを探しましたよ。
検索したらポンッと出てくるお手軽なサイトでも良かったんですけど、どうせ探すならガチもんが良いですから、あらゆるリンクを辿り、ウィルスとかに感染しながら、時には「今日は渋谷でノブ子とランチ、みてみて、疲れてこっちの目だけ二重になってるの~」とか書いてるアッパーパーな女子大生のブログとか読み込んで隠しリンクとか探しましたよ。 

中には「携帯電話でしかアクセスできないサイトのほうが闇度が高い」なんていう「料理の出来る女はモテる!」くらいの情報を信じて携帯サイトにもアタックしました。
そしてついに、これはちょっと本物なんじゃないだろうか、そう思うしかない復讐代行サイトを発見するに至ったのです。 

今わたしが求めているのは、血湧き肉踊るような過激な復讐。
あまり大きな声で言えませんけど、高い金取って復讐を代行するなら、こう、犯罪的なことをして欲しい、そんな欲求があるのです。
今まさに闇の深淵に立っている、そんな気持ちにさせてくれる復讐代行サイトです。 

怪しげなサイトを巡り、動画⑤、動画④、動画①、動画②、動画③とクリックし、全部広告じゃんと叫んだり、意味のわからないウィルスに感染してホーム画面が外国の検索サイトに勝手に変わっていたり、様々なドラマを経て、ついに過激な復讐代行サイトにたどり着いたのです。 

そのサイトはなんと、一番基礎となるリーズナブルなコースが「大怪我させる」です。
あまりに過激すぎて心臓がバクバクいってしまいます。

さて大怪我をさせる、次いで「社会的抹殺」ときたらそれ以上のコースはもうこれしかありません。
これ以上の復讐メニューといったらあれしかないでしょう。
ワクワクしながらリンクをクリックしました。 

「殺害(要相談)」 

ドーン! 

これぞ闇サイト、これぞ復讐代行サイト。 

(要相談)ってなってるところが微妙に面白くて、そりゃそうデショ、殺害レベルのことを相談もなしに勝手にやられたら怖いわ、とか思いつつも、ついに目の前に現れた「殺害」の文字にワナワナと身震いしていました。 

しかし、ここで大きな問題に直面します。 

ここまで必死に復讐代行サイトを探してきて、お目当てのものを見つけるに至りましたが、そもそもわたしは誰に復讐をしたかったのでしょうか。 

栗拾いツアーに誘ってくれなかった職場の同僚? 

寺? 

特塩からあげ弁当をオーダーしたのにのり弁当を持ってきたほっともっとの店員? 

どれもこれも冷静に考えると復讐を企てるほどの恨みではないのです。
職場のみんなみんなだって余った大福とかわたしにくれることあるし、寝不足で目を真っ赤に充血させていると「どうしたの?病人みたい、死ぬの?」と心配してくれる良い一面もあるのです。
のり弁当だって食べてみたらすごい美味しかったし、寺の匂いがすると悪口を書いていたゼミ友も、でも京都行きたいなってその後にフォローしてくれていた。 

結局ね、わたしは人を恨めやしないんですよ。
人を恨むだけの度胸なんてない。
高校時代に後ろの席の子にテストの時カンニングされて「勉強しといて良かった~」とドヤ顔で言われた時もかなちゃん(友達)のこと恨めなかった。 

それはもしかしたら他人を傷つけるのが怖いというより、それによって生じる反撃や責任の発生が怖いだけのなのかもしれません。
そう、わたしは墓穴を二つ掘る勇気がない、とんだチキンなのかもしれません。 

それに前述したとおり、法律が自分なりの反撃や裁きを禁止している以上、復讐はかならず何らかの罪に問われます。
それを代行として依頼した場合でも「共犯」や「教唆」といった罪に問われるでしょう。
そう、人を恨むこともなければ、リスクも高い、依頼してまで復讐する理由は皆無と言っていいのです。 

でもね、あまりこういうこと書いちゃうと良くないかもしれませんが、ぶっちゃけ復讐の依頼はしてみたいじゃないですか。
歯医者でぼーっと他人の口に手を突っ込んでるだけの日常から離れたスリルを味わいたいじゃないですか。

人を傷つけるほど恨んじゃいない。
でも復讐代行は依頼してみたい。
相反する二つの思考がぶつかりあった時、一つの考えが浮かんだのです。 

そうだ、自分への復讐を依頼すればいいじゃん! 

自分で自分に自分への復讐を依頼する。
こうすればいたずらに人を傷つけることもない。
それでいて実際に復讐代行をしてみるという目的も達成できる。 

ついでにどっかで「本当に恨むべきは他人でも社会でもない、自分自身なんだ(キリッ)。」みたいなドラマのヒロインっぽい決め台詞を言うチャンスもあるかもしれない。
それ聞いたイケメンが素敵ブシャーとかなるんでしょ、よく知らんけど。 

とにかく、こうしてわたしは復讐代行サイトを通じて自分で自分への復讐を依頼することを決意したわけなのです。 

やられてないけどやり返す!倍返しだ!自分に! 

そうと決まれば早速復讐依頼です。 

この復讐代行サイトには「復讐依頼フォーム」なるものがありまして、復讐をしたい相手の名前、住所、主な出没地域、希望する殺害メニュー、復讐をしたい理由、を書く欄があります。 

ここでは復讐したい相手は他でもないわたし自身ですので、迷うことなく自分の本名と住所をぶち込みます。 

依頼主の情報としては名前とメールアドレスのみらしく、本名入れると依頼主とターゲットが同じだってバレちゃうので「坂本ゆりあ」とわたしが交際クラブ(副業)で使っている名前を微妙に変えて入力し、メールアドレスも捨てアドじゃないやつを入力します。 

当然のことですがターゲットと依頼主、ちゃんと分けて分かりやすいフォームになってますが、さすがにどちらも同一人物の情報だとは思うまい。
まいったか。 

さて、入力終了。 

えいやっ!くたばれ!坂本ゆりあ!と叫びながら送信ボタンを押します。 

さ、これで一安心。
あとは殺害を待つだけ、あ、でも(要相談)ってなってたから最初に相談のメールとかくるのかなとワクワクしながら待ちました。 

そしたらアンタ、待てど暮らせど返事が来ないじゃないですか。
一週間くらい待ってみたいんですけど殺し屋みたいなのが殺害しにくるわけでもないですし、レーザーサイトで眉間のあたりに照準を合わせられることもない。
それどころかメールの返事すらないんですよ。 

こりゃ一体全体どうしたことか。
まさかメールすら来ないとは思わなかった。
だって、復讐代行業者からみたらわたしは大切なお客なわけでしょ?そらもう「もう我慢できない!」ってケロッグみたいな勢いで業者から連絡があるものだと思ったのに。 

例えばさ、不動産会社に「ちょっとマンション買いたいんだけど」って送ってご覧なさい「何卒、我が○○に!」「我社が一番です!一度お電話だけでも!」「いえいえ、当社に!」って狂ったようにメールきますよ。
商売とはそうあるべきなんですよ。 

じゃあなぜこの復讐代行サイトは全くもって連絡をしてこないのか。
ここで一つの疑念が浮かび上がります。 

恨みの情念が足りないのではないか? 

普通に考えると、いくら商売とは言え復讐を代行するとなるとかなりのリスクが伴います。
それにやはり他者を傷つけるわけですから、真っ当な精神の持ち主なら心理的障壁が高すぎておいそれと手が出せるものじゃない。 

じゃあ、それらを乗り越えて復讐代行に突き動かす彼の心情とはなんなのか。
それは「誰かの復讐の手助けをしたい」そんな熱い想いじゃないだろうか。 

彼は何らかの悲しい過去を背負っているのかもしれない。
憎しみに身を任せ血塗られた復讐という華を咲かせる輪舞曲(ロンド)を舞い踊った。
復讐行為の悲哀や空虚さ、後に残されるやり切れない気持ち、それらを全て理解した上で悲しみを背負うべく復讐代行業を始めたのかもしれません。
こんな想いをするのは俺だけで十分だ。 

そんな彼に対して誰が軽はずみな気持ちで復讐を依頼できましょうか。
それも自分自身の復讐を依頼するなど明らかに恨みの情念が足りない。
彼はわたしの気持ちを見透かしているのです。
そんな軽い気持ちで依頼したって俺は動かないぜ、もっと俺を動かすだけの恨みのエネルギーを届けな、お前の恨みの声が聞きてえんだ、そう語りかけているのかもしれません。 

しっかりと恨みの気持ちを書きます。 

気持ちが伝わるようにいかに恨んでいるかを力説するのですが、これ、わたしのわたしに対する言葉ですからね。
自分で自分の悪口を書くのはなかなかエネルギーを要する作業です。 

それでもなんとか悪口を書き綴り、再度送信します。
今度こそ、きっと、彼からの返事が来るはず。
大学進学で春から上京してしまって、メールの返事が段々と遅くなり、夏を境にすっかり返事がなくなってしまった彼氏を思う雪国の女の子の気持ちで待ちました。 

それでも返事はこない。
まだ情念が足りぬと申すか。 

が、ここで一つの考えが浮かび上がります。
もしかしたら情念とかそういった類の話ではなく、これは復讐代行業を営む彼自身の心の問題ではないだろうか? 

彼自身、確固たる信念を持って復讐代行業を営んできた。
様々な復讐の手伝いをし、そこで彼は気づいたのだ。
この世は悪が笑い、正義が涙する不条理な社会であるということを。
同時に自分自身の行動がちっぽけなものに思えて虚しさを感じたのかしれません。
そう、彼は今迷っている。
もう復讐代行業から足を洗おうと決意している。
けれどもこの両の手についた数多くの血液は拭えない。
血なまぐさい臭がプンプンしやがる。
これは俺の罪だ、洗っても落ちやしない俺の罪(カルマ)。
ああ、この仕事を始めた時から覚悟していたさ、俺が行き着く先は地獄しかないってな。 

そんな風に迷っているのかもしれません。
ここは彼を奮い立たせるメッセージを送りました。 

今思うと「今こそ立ち上がるんだ。」よりも「今こそ立ち上がるんだ!」の方が勢いがあって良かったですかね。
結局、それでも返事はありませんでした。
単純にこのメールアドレスが死んでるんだわ。
ここ、もう営業してないんだろうね。 

◆復讐代行サイトの真実 

様々な復讐代行サイトを巡り、自分自身への復讐を本名と住所を添えて依頼する。
世の中には数多くの不毛な行為が存在するのだけど、これ以上に不毛なものってあるのだろうか。 

数多くのサイトを巡り依頼メールを送るものの、宛先不明で戻ってきたり返事が来なかったり「聡子です。今日、小さなアリが私の首を這い回ってました、アフン!」っていう意味も必要性も不明なスパムメールが来たりと成果が得られない状態に。 

けれども、そんな中にあって一つだけ返事が頂けたのです。
光明とはこのことでしょうか。 

「○○○○への復讐代行依頼承りました。殺害は1000万円、殺害に至らない実力行使は400万円で請負います。嫌がらせは30万円からです。半分を銀行振込、前金で頂きます。キャンセルはできません」 

なるほど、そういうことか。 

まず、このメールのポイントですが、殺害は1000万円それ以外は400万円という値段設定です。
非常に高額な値段設定と思われるかもしれませんが、逆の立場で考えてみてください。
あなたは1000万円貰って人を殺せますか? 

人によっては殺せると答えるかもしれませんし、いくらもらっても無理と答える人もいるでしょう。
しかし、業務として考えた場合、あまり有効な値段設定とは思えません。
効率が悪すぎます。 

では、この殺害は1000万円、それ以外は400万円という値段設定はなんなのか。
その答えは次の部分にあります。 

「半分を前金として頂きます」 

復讐を実行に移す前に半額は前金で頂く、つまり殺害なら500万円、それ以外なら200万円、最初に払えということです。
これは殺人に付けられた値段ではありません。
ある程度のお金がある人が泣き寝入りするギリギリの金額、ということです。 

つまり、これらの業者は初めから復讐を代行する気などサラサラないのです。
そりゃ誰だってリスクは嫌で、恨みもないのに殺害や暴行なんてしたくないもの、やらなくて済むならやらないでいたいはずです。 

そこで、前金として半分だけを頂いてあとはドローンというわけなのです。
普通は、そういった詐欺にあったら警察なりなんなりに駆け込むわけですが、ここでは復讐を依頼したという負い目があります。
殺害依頼ともなるとかなり深刻な事態になりますから、それらを考慮して払った金を諦められるか、そのラインが500万円と200万円なのでしょう。

「キャンセルはできません」 

何気ない一言ですが、ここにも脅しの意味合いが隠されています。
かなり強気ともとれるこの発言の裏には次のような真理が隠されています。 

あなたはターゲットの名前と住所を入力して復讐を依頼しました。
つまり私はそのターゲットにあなたから依頼があったということを教えることもできるのです。
さあ、どうする?
知られちゃったら大変なことになるね?
もう逃げられないよ? 
そんなところでしょうか。 

このような脅しになってくることは容易に想像できるのですが、誰もが500万円、200万円といった高額なお金を払えるわけではありません。 

そういった人向けにに「嫌がらせで30万円」というリーズナブルなコースもあるのです。
根こそぎ金を脅し取る、そんな気概が伝わってきます。 

どうしよう、憎きあいつへの復讐を依頼したら高額なお金を請求された。
それも半分は前払いって言われてる。
前金だけ持ち逃げされそう。
でも断れない。
だって、復讐相手に教えるって脅されてるもの、すぐに私からの依頼だってばれちゃう!どうしよう!軽い気持ちで復讐を依頼したらこんな事態になりかねません。
つくづく、穴は二つ掘っておかねばならないのです。 

わたしも一瞬、やばい、復讐相手に知られる!どうしよう!と焦ったのですが、よくよく考えたらわたしの場合、復讐相手も自分だった。
知られても何てことはない。
というかもう知ってる。 

とりあえず交渉してみましょう。 

「前金はお支払いできませんが、どうしても復讐したいのです。なんとかおねがいできませんか?」

何も恐れるものはありませんのでグイグイ攻めます。

「すべて後払いということですか?お受けできません。キャンセルもできません」

受けない、でもキャンセルもダメ、どうしたいんだよって思うのですがお金を払えないものは仕方ありません。

正直にそのことを伝えます。

「お金が払えないんですよ」

正直に伝えます。
何事も正直が一番。

「どのコースをご希望ですか?嫌がらせコースなら安いですよ。落とし穴掘ったりとか30万円でできます」

落とし穴掘るだけで30万円は高いだろ。

ここは強硬に主張しましょう。

「殺害で」

またもや、自分で自分に殺害依頼。
自殺志願者か。

まあ、これにはわたしも狙いがありまして、後払いで自分に殺害を依頼する、1000%殺害はされないでしょうけど、まかり間違って成功したとしても、もうわたしはこの世にはいなくて瞬く星空から笑顔で皆さんを眺めてますからね、成功報酬の1000万円を払う人はどこにもいない。

自分でもこんなに経済観念が発達していたなんて驚きです。
家計を節約して驚きの貯金術ですよ。
これには驚くくらいの素早さで返事が返ってきました。

「できません」

ホント、さっきから「できない、やれない」ばっかりじゃないか。
本当にやる気あんのか。
代行業者としての情念が足りないんじゃないか。
ここでちょっと引く素振りを見せてみましょう。

「じゃあキャンセルします」

「できません」

「キャンセル」

「できません」

良く分からない押し問答が何度か続きます。

「キャンセル」に対して「できません」の一点張り。
ちなみに、字面が似てるから

「キャンギャル」って紛れ込ませてみても

「できません」

て返ってきました。

たぶん「キャンユーセレブレイト?」って送っても「できません」って返ってくると思う。

そして、ついに相手が伝家の宝刀を抜きます。

「よろしいんですか?お相手に依頼があったことを伝えますよ?大変驚かれると思います」

キタキタキタ!ついに直球で脅してきやがった。

何度も言いますけど、伝えるべきお相手は他でもないわたし自身ですからね。
まさか、自分で自分の復讐を依頼しているとは思うまい。

「かまいませんよ」

自信の返事。
それに対して彼は

「えっ!?」

よほど意外だったのか、すごい素の返事がきた。

えっ!?じゃねえよ。

「伝えてもらって構いませんよ。むしろ伝えて欲しい」

ここは一気に攻め込む場面だと判断してわたしはグイグイと攻め入ります。

「冷静になってください。これは遊びではありません。復讐ですよ。復讐を依頼したなんて相手に伝えたらあなたの立場が悪くなりますよ」

別に教えてもらっても一向に構わない。
あ、そう、知ってたけど、依頼したのわたしだし、くらいのもんなのですけど、ここまでわたしの立場を案じてくれるとは、そんなに悪い人じゃないのかもしれません。
親身になってくれるいい人なんじゃ…?

しかしまあ、いくらいい人だと言っても先程まで脅迫しようとしていた人物です。
ここはちょっと切れた感じを演出してみましょう。

「いい加減にしてください。さっきから聞いてれば前金だとか相手に教えるだとか、本当に復讐を代行する気あるんですか!?やる気あるんですか!?」

ちょっとキレ気味に質問してみます。
さすがに復讐を代行する気がないとは言わせない。
きっと代行する気満々みたいな返事が帰ってくるはずです。

「いい加減にしてください。そもそも、復讐とは人に頼ってやってもらうものではありません。自分の手でやりなさい。そもそも、こんな依頼するってことはあなた相当陰湿な性格でしょ。だからこんな依頼をするところまで追い詰められるんですよ。あなたが周りと上手にコミュニケーションできないのが全ての原因じゃないんですか?それで復讐を依頼だなんて、そういうのを逆恨みっていうんですよ。恥じなさい」

説教されてる!すげえ説教されてる!しかも結構傷つくこと言われてる!
だいたいな、質問に対して説教で返すなんて、おまえはYahoo知恵袋か。
それに内容も凄まじく、自らが運営している復讐代行業を全否定。
間違ったことは言ってないと思いますけど、それを代行業者のお前が言っちゃおしめえだよ。

まあ、結局、こういった復讐依頼をネタにした脅迫で金をせしめる、もしくは前金だけ受け取って姿をくらませるのが主目的で、復讐行為を行うつもりはサラサラないのでしょう。

ちなみに業者の方は怒りが収まらなかったらしく

「大体あなた、真剣に依頼してないでしょ?全然深刻な恨みが伝わってこないもの。面白半分でやってるだろ?」

とか送ってこられました。

ふざけるんじゃない。
人がどんな気持ちで自分への殺害依頼を出したと思ってるんだ。
おもしろ半分どころの騒ぎじゃない。
全部だ!おもしろ全部だ!

「おもしろ全部ですよ。大体、復讐ターゲットもわたしのことですし。自分で自分に依頼してました。だから脅迫されてもへっちゃらなんです」

と、ここでネタばらし。

これにはサムも苦笑い。
仕掛け人も全員登場してきて大団円。

とはならず、なんかすげえ怒ってて

「そんなことしてなんの意味があるんだよ!」

って至極ごもっともなことを言っておられました。
最終的にはすげえお怒りになってて

「お前の名前も住所もわかってる、復讐しにいくからな」

ってなってました。

ねえ、前金は?前金はいらないの!?
得しちゃった!

◆まとめ 

・復讐、その行為の多くは何らかの犯罪行為となる可能性がある。
そしてそれらを依頼することも同様に犯罪行為となる可能性がある。 

・復讐代行サイトの中には、前金をせしめて逃げることを目的にした業者や、依頼自体をネタに脅迫することを目的とした悪質なサイトがある。 

・自分自身を殺害依頼するとすげえ業者が怒る。 

・コミュニケーション能力が低いから栗拾いツアーに誘われない 

ということが分かりました。 

ちなみに、復讐代行業者がわたしを殺しにやって来る!と病的な強迫観念みたいなのに襲われたわたしは、代行業者を迎え撃つために落とし穴を掘る!人を殺せるくらいの落とし穴を掘る!とちょっと異常な精神状態になってました。

こんな病的になるくらいなら人を恨むもんじゃないですね。
本当に恨むべきは他人でも社会でもない、自分自身なんだ(キリッ)。 

と、こんな29歳になるなんて、幼稚園時代のわたしが知ったら絶望のあまり自ら命を絶つかもしれません。